6.当たりはずれ武勇伝(1)
(99.03.01)

ネタに困った時は、自分を犠牲にするのが一番である。タイトルは当たり
はずれ武勇伝にしたが、正確には当たりはずれはずれはずれはずれ…
くらいの武勇伝になりそうだ。いずれにしろ、高橋○一郎さんとか、藤代
○郎さんとか、そういう方々にも比肩できるくらい、面白いあたりはずれは
経験してきたつもりである。しかし、よく考えると、名前に〜郎ってつくと、
こういう運命になったりするのだろうか。我が社の穴党S藤さんもだな…。

今まで、ずいぶんと落ち込まされたことはあったが、この日を上回る衝撃
を受けたことはない。平成7年の東京新聞杯の日である。この日は、前日
まで雪が降り続いたこともあって、芝レースはダート変更。寒さも格別という
こともあって、場内には客がポツリポツリとしかいない、まるでさびれた地方
競馬みたいな日であった。しかし、確たる自信があればこそ、そんな寒さを
ものともせずに競馬場に向かったわけである。これが一人であったら、今も
「お前、それ作り話だろ」と言われそうなくらいだが、当時、東京競馬場の
すぐそばに住んでいた先輩がきていたので、彼が歴史の証人となったわけ
だ。かなり大げさだが、その先輩も絶対にこの日のことは忘れないだろう。

かなりの自信があったのは、メーンの東京新聞杯だった。人気薄だったが
ゴールデンアイこそ、このダート変更にふさわしい馬だと思ったのである。
競馬四季報をひっくり返して過去の戦績を見ても、血統を見ても、ダートで
走れるのは、メンバーの中でこれしかいない!とまで思っていた。そして、
もう1つ。ある1頭だけは、デビュー戦を記憶していたことで、自信の無印に
していた。そのデビュー戦とは、その馬にとって、そこまでで唯一のダート戦
なのだが、まさにクシャクシャ。ド惨敗だったのである。母が芝の重賞勝ち馬
ということもあり、文句無しに「要らない」馬だったのである。まあ、賢明な方
ならここまで書けば分かるだろう。直線、こちらの読み通りに力強く抜け出す
田中剛とゴールデンアイ。1頭を除いて馬連総流しをしている当方としては、
この言葉以外に口をつくものはなかった。「よし、何でもいい!」。後悔先に
立たず。外から2番手に上がってきたのは、絶対要らないはずのエアリアル
であった。ガクリと膝をつく。「いいもの見せてもらったよ」とは先輩の弁だ。

ここまでなら普通の話と言っていいだろう(そうか?)。しかしこれに続きが
あるから忘れられない1日なのだ。もちろん、メーンが終われば、残るのは
最終。ここには、何度となく追いかけては泣かされてきたアミサイクロンが
出ていた。のちには逃げ切ってマーチSを勝つ馬だが、当時は900万下の
名物追い込み馬だったのである。当日の人気も、それほどではなかった。
横でまだ同情と侮蔑の笑いを浮かべる先輩に、独り言のようにつぶやく。
「今度は教訓を生かしますから。絶対に。こんなホクトフラッグの子供でも
大丈夫。総流ししますよ。1点残らず」。マークシートにきっちりと塗り込み、
総流しにする。ホクトフラッグの子供、というのは、地方から転入して何戦か
してはボロ負けの連続だった馬で、単勝が130倍くらいついていた。でも
1点でも切ってしまえば、メーンの二の舞もある。何かに取り憑かれたように
アミサイクロン流しの馬券を握り締めてレースを見つめていた。

レースは、逃げ馬がハイペースで飛ばし、まさにアミサイクロン向きの展開
になった。鞍上の平目孝志(現調教助手)はたまらんとばかりに坂上で先頭
に躍り出る。「平目!平目!」。あらん限りの声で声援を送った。声が届くと
信じて。そのアミサイクロンに、大外から1頭の馬が凄い勢いで襲い掛かり
交わしていった。さらにもう1頭がやってくる。並んだところがゴールだった。
アミサイクロンから目を離し、勝ち馬を見て驚愕。あろうことか、勝ち馬は
1頭だけの2枠の帽子。あのホクトフラッグの子供だったのである。という
ことは、馬連で確か450倍。小躍りしながら、オーロラビジョンのスローの
ゴール前再生画面を見詰めることになった。

ご記憶の方もいるだろうが、当時はゴール前再生カメラの位置が今と若干
違う。本当の真横からではなかったのだ。微妙に、内の方が有利に見える。
しかし、それを差し引いても、アミサイクロンがアタマくらいは出ているように
見えた。先輩も「さすがにあれなら、2着だろ」とつまらなそうにしていた。寒さ
が和らいだわけではなかったので、「なにかおいしい鍋でも食べましょうよ」
などと払い戻し窓口に並びながら皮算用をしていたのである。まあ賢明な方
ならここまで書けば分かるだろう。着順掲示板に点灯したアミサイクロンの馬
番は、3着のところであった。

その後、どんなグチをどれだけ言ったか覚えていない。メーンでは笑っていた
先輩が、さすがに気の毒に思ってくれて、家で鍋を振る舞ってくれた。いわく
「めったに見れないものを立て続けに見せてもらったからな」。そりゃどうも。
たぶん、競馬を続ける限り、忘れることのない1日の話でした。

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