9.当たりはずれ武勇伝(3)
(99.04.27)

これまでにも、さまざまなハズレ馬券の話を日記などにも書いてきたが、
この話も情けないハナシである。結論としては、競馬は生き物が走るから
面白いのであって、数字のお遊びではない、という教訓になるのだ。しか
し、これはあくまで自分の結論であって、読み終わって皆さんが抱く結論
は「本当に忍耐力のないヤツめ」ということになるだろう。

あれは我が雑誌に異動になってから間もない正月開催のことだ。中山での
開催だが、大きいレースがない日で、しかも正月の変速開催だから美浦に
も人員を派遣しなければならない。それでも誰かが競馬場にいて成績を会
社に送らなければならず(不測の事態に対応するためにも)、それが加入
して間もない自分になったわけだ。つまるところ、仕事としての戦力には
見られないため、誰にでもできる雑用仕事を任されたわけである。これは
お分かりいただけると思うが、毎レースの成績を送っておけば、不測の事
態がない限り、馬券を買ってレースを見ているだけでいいというお墨付き
をもらったようなものなのだ。

このお墨付きで、思い付いた。前々から1度試してみたいと思っていた、
「絶対に負けない必勝法」を試そう、と。よく読んでもらわないとわかり
にくいかもしれないが、以下の必勝法はヒマな方には有効なので、ご理解
いただきたい。だいぶ前に読んだ本に書いてあったものである。

買うのは単勝馬券。ただし、条件がつく。3倍を超える中で、最も人気の
ある馬の単勝
だ。これを買い続ける。ただし、いわゆる倍々ゲームでは、
金がいくらあっても足りない。ここで計算され尽くされたのが、この必勝
法の信頼できるゆえんだ。まず、基本となるのは1単位。仮に100円と
しよう。
1レース目は100円だ。これが外れたら2レース目も100円
を投入する。3レース目からは、前の2レースを足した金額を買う
。3レ
ース目は200円。4レース目は、2と3レースを足した300円。5レ
ース目は3と4レース目を足して500円で、以下800、1300、2
100、3400円…と買い続けていく。お分かりだろうか。つまり、こ
の資金配分方法で上記の赤色表記の馬を買い続ければ、いつか必ずプラス
になるというあんばいだ。ちなみに、統計によると5・5レースに1度、
この赤色表記の馬は勝つらしい。オッズとギリギリまで相談して、3倍を
超える中で最も人気のある馬を買うだけで、金が無限に増えるという必勝
法。実際に雑誌の成績欄をご覧いただければ分かる。4月24、25日の
東京開催ならば、24R中5Rが、これに該当するのだ。ちなみに、オッ
ズの信頼性が下がるローカル開催では買わない方がいい。

で、話を戻す。その日、自分は思った。ついにこの日がきた、と。締切り
ギリギリまでオッズ板をにらみ、馬券を買い続けることが可能なのだ。幸
運なことに(この時点ではそう思っていた)資金も潤沢。1単位は500
円でいっても、11Rまで持つ計算だった。5・5レースに1度は出る。
そう思えば、気楽なものだ。午前中は、1度も来なかった。しかし損害も
小さい。たった6000円。楽観的なものだった。

しかし、これまでの段階で、既に自分は大きな間違いを犯していたのだ。
それは、馬連も合わせて買い続けていたことである。これが当たっていれ
ば問題はないのだが、ゲームの単勝だけでなく、この馬連も全くヒットし
なかった。これが大きな不幸につながっていくのだ。

午後に入る。5Rまでで6000円のヤラレだったのに、午後イチから、
いきなり投資額は4000円。続く7Rは1万円だ。このあたりで、自分
は鏡を見ていないが、恐らく焦りの色が顔中に出ていたものと思う。8R
は1万4000円。この段階で、自分の犯した過ちに気づき始めた。「こ
のままいくと、10Rでパンクしちまう…」。確率を信用して、9Rへの
2万4000円を投入したが、神様はそんなに優しくない。これまた沈没
してしまった。さて、運命の分岐点。10Rでの予定投入金額は3万80
00円である。手元にあったのは、2万4000円。そこまでに使用した
馬連の金額が、思いのほか大きかったのだ。思いのほか、などというあた
りに、意志の弱さが感じられる。

決断は2つに1つ。その残額を単勝にぶち込むか、残る3Rを細々と楽し
むかである。当然、後者を選択するのが自分のやり方だ。ゲームはゲーム
であり、馬券が買えなくなったら元も子もない。だいたい、9Rまで1度
も来なかったのだから、次が来なくても不思議はないし、2万4000円
あれば、十分に楽しめる。そう考えた。普通、誰でもそう考える…と自分
は思う。違うかな…。

結果は賢明な皆さんならお分かりだろう。確か単勝は420円くらいだっ
たと思う。2番人気のオンワードアイガーが、先行策から抜け出して快勝
した。この馬さえ来なければ、という馬が見事に来たのである。激しい脱
力感が襲ってくる中、皆さんの予想通り、最終レースまでひとつも当たら
ないまま、中山競馬場を後にした。自分の意志の弱さを嘆きながら…

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