今週の日曜日の日記に、「反省点」と題して自分の予想に対する自制心を投げかけた。しかし、その
舌の根も乾かぬ1週間も経たないうちに、こんな予想をしていてはどんなものかと思われるかもしれ
ない。それでも、今年のオークスにはさまざまな予想ファクターがあり、かつ、思い入れがある。そ
のため、久しぶりに長い予想となってしまった。お付き合いいただいても、あまりプラスになるよう
なことはないと思うが、お時間がある方は、お読みいただきたい。

思い入れが深い本命馬について長く語る前に、まずは冷静にテイエムオーシャンについて考えてみた
い。巷間、折り合い面を指摘して距離をうんぬんする声が出ているが、これについては取材の成果と
して、否定する。「引っかかって見えるだろうけど、あれはあれで折り合っている」というのは、陣
営全員の一致した見解。唯一、引っかかったのは阪神3歳牝馬Sの時だそうだが、それにしてもあの
勝ち方だ。能力という点で、図抜けた存在であることは間違いない。

能力が抜けているといっても、それはマイルまでの話。この2400mになって、果たしてどうなる
かが焦点である。「この時期の牝馬は能力で距離も克服できる」という説がある。ユキノビジンやフ
ァイトガリバー、3着とはいえ、プリモディーネやワンダーパヒュームも頑張ったクチだろう。これ
らの例を挙げれば、それも納得がいく。しかし、彼女たちに共通するのは差し脚質。あるいはテイエ
ムオーシャンは逃げないかもしれないが、少なくとも前での競馬にはなるだろう。その点が気になる
のだ。

折り合って差し脚に賭ければ、だいたいハイペースにはならないオークスのこと。スタミナがなくて
も上位に進出することはできる。しかし、先行脚質の場合、まして人気があるとなれば、ある程度は
目標にされるはず。となれば、必然的に差しに構える以上に流れは厳しくなり、スタミナが要求され
ることになる。自らペースを握ってしまったキョウエイマーチはともかく、テイエムオーシャンとて
ある程度前で競馬をすれば、そうなる危険性は少なくない。もしもテイエムオーシャンがラクに勝て
るようなことがあった場合、それは他馬の騎手もスタミナに不安を感じ、オーシャンをラクに行かせ
てしまう場合だろう。こうなると、こちらはお手上げだが…。よって今回、オーシャンは抑えまでの
評価としている。無印にしないのは、度胸がなくなったからではなく、そのたぐいまれな素質を評価
したものだ。「オペラオーを負かしたら、年度代表馬かな?」と担当の西浦助手が言うほどの素質。
多少、ビッグマウスと感じられなくはないが、自分も桜花賞までは確固たる自信を持って推奨した馬
だ。たとえ勝たれても何の不思議もない。

話は変わる。

「黒田さん、オークスって2勝馬で出られますか?」。栗東トレセンの厩舎地域を歩いている時に、
馬上から声がかかった。オークスの前哨戦がすべて終わったばかりの火曜日の朝である。声の主は、
モットヒカリヲを担当する棚江調教厩務員であった。その瞬間、正直に言って「コイツ、何を言っと
るんじゃ?」と思ってしまったのは隠せない事実だ。だが、彼の表情が真剣であることを告げている
以上、すぐに「3頭くらいの枠はある」と答えた。その週、決して手薄ではない牡馬を相手に福島の
こけもも賞に挑んだ彼女は、見事に快勝。抽せん待ちの登録だったが、タイムフェアレディの回避に
よって、無抽せんでの出走がかなう運びとなった。

棚江調教厩務員とは、ボクの短い記者歴の中では、かなり長い付き合いになる。弊誌のカメラマンの
紹介で「絶対、黒田さんと合いますから」と言われて会った日に、それが間違いでないことが分かっ
て以来、栗東に行くとよく食事に行った仲だ。厩務員にしておくにはもったいない、というと怒られ
そうだが、血統をはじめとする競馬の知識が非常に(異常に?)豊富で、他人が聞いたら何が何だか
分からないような馬の話題で盛り上がる。これまで、持ち馬に恵まれてきたとは言いがたい彼だが、
傍目にも仕事にはこだわりをもってこなしている若者と写っていた。その彼が、調教師に頭を下げて
芝を使ってもらうよう進言し、距離の延長とともに頭角を現してきたのがモットヒカリヲである。

「何ていうか、体もしっかりしてきたし、落ち着きも出てきたし、全体に良くなってきたんですよ」
と彼は言う。ダートの未勝利戦を勝った時は「今週の低レベルレース」とグリーンチャンネルの某番
組で言われたことを互いに笑いながら、大恵まれだと話していた。しかし、彼の中では早くから芝の
それも長い距離を使いたいという思いがあったそうだ。明らかに2着か、と思われながらゴール寸前
で止まってしまった2戦前も、内容はあった。前走で、その走りがフロックでないことを証明し、オ
ークスへの切符さえ手に入れている。2戦前に、距離を経験している強みは、他の17頭にはないア
ドバンテージだ(2200m経験馬が3頭いるだけ)。何より、追加登録料200万円を支払ってい
るという事実を忘れてはいけない。本当に出るだけの馬なら、いくら金銭的に余裕があるオーナーと
いえども、そんな大金は出せないはずだ。

さすがに、中1週の連続で、「決してベストの状態とは言えません」と棚江調教厩務員は言う。しか
し、「直前、あるいは当日まで気配を見ないと、分かりませんよ」というのも競馬の真実だ。そこま
で見届けることはできないが、ここにこぎつけるまでの、モットヒカリヲを取り巻く環境は、あまり
にもいい流れで来ている。この流れは、もしかすると大きなレースで大きなうねりになるのではない
か…と思えてきてしまうのだ。

肩入れ、思い入れ。そればかりで予想をしてしまっては、参考にしてくださる方に申し訳がないとい
うことは分かっている。それでも、人間として、取材記者として、そういうものがあるからこそ時に
感動、感激、あるいは悲しみも味わうことができる。シルシは当てるように、馬券は思い入れで、と
いうやり方もあるだろう。でも、それは裏切りである。自分の予想は、自分が買う馬券そのものだ。
ご祝儀馬券ではなく、信念を持ってモットヒカリヲの馬券を買いたい。

単複に馬連総流しは当たり前のオッズだろうが、シルシは全馬にはつけられない。いちおう自分なり
に考える。対抗はレディパステルを推した。あくまで本番を見据えた前走。中1週でもきっちりと権
利を獲得したあたりに強さが感じられるし、中3週のローテーションで「すごく順調にきている」と
金田助手が言うだけの過程を踏んできた。東京に強いトニービン産駒でもあり、これを対抗にとる。
余談になるが、パステルに勝ったオイワケヒカリはシルシを抜いた。こちらはむしろ、前走で目いっ
ぱいだった感が強い。距離が延びていいのは確かだし、前走でも高い評価を与えたが、どうもG1で
通用する感じがしないのだ。あくまで感触だが…。

3番手はサクセスストレインとする。もしもモットヒカリヲが除外にでもなっていたら、本命はこの
馬にするつもりだった。騎乗停止処分を受けている木幡Jが、この馬には毎日跨って調教をつけてい
る。その木幡Jが「前走も2着とは全然差がなかったし、いいところはあると思ってるんだ。休んで
いた分、頑張らなきゃいけないしね」と腕を撫していたことを考えても、狙い目は十分。以下、末脚
堅実なローズバド、ムーンライトタンゴを買い、「最高の仕上げだった桜花賞の後なのでどうかと思
いましたが、あの時と同じか、それ以上にまで持ってくることができました」と飯田助手が喜んでい
たダイワルージュももちろん捨てがたい。スタンド前の発走だけが気になる点で、こちらも前走で脚
質の幅があると見えてきた以上、距離の壁はあまり感じなくていいだろう。「もっと切れがほしい」
と長浜師が辛口のブライアンハニーも、距離重視のローテーションは好感が持てるだけに抑えの1頭
には加えておく。

いずれにしても、これは常に思っていることではあるけれど、できる限りいいレースを見せて欲しい
と思うばかりだ。自分の予想に対して「ナニを考えてるんじゃ?」という声も届いているが、結果が
伴うか伴わないかは、この際別である。とにかく、頑張ってほしい。頼むぞ、モットヒカリヲ!