障害レースにとって、落馬は切っても切り離せないものだ。それは理解している。わかっていても、
実際にそれが起きてみると、悲しみに打ちひしがれるしかない。障害馬として、たぐいまれな飛越の
センスを誇っていたマキハタコンコルドが、「あんな飛越をしたことがない」(出津J)という飛越
ミス。着地時に左前腕骨を骨折し、予後不良の診断が下された。双眼鏡で眺めた瞬間に、だいたいの
症状は分かったけれど、正式な診断が出るまで信じたくない気持ちがあったのは確かだ。今はただ、
安らかに眠ってほしい。それだけしかない。たまたま自分が追いかけた馬だからこれだけの悲しみを
味わっているけれど、落馬や予後不良があればその数だけ、もっと悲しんでいる人々がいる。それを
みんなが乗り越えて、また新しい競馬が行われていくのだ。無事に飛越してゴールをすることが、ま
ず第一。障害レースの厳しさは、4頭もの落馬によってまざまざと見せつけられた。願わくば、次の
大障害(もちろん、春のグランドジャンプも)では、鍛え上げられた馬たちによる全馬完走のシーン
を見せてもらいたいと思う。
敗者がいれば、勝者がいる。ユウフヨウホウの勝利には、別段驚くところもなかった。むしろ、しん
がり人気という数字を知らず、後からその数字の方に驚いたほどだ。「ゴールの瞬間ですか? 勝っ
ちゃった…って」。これが重賞初Vという今村Jがはにかむ。決して実績のあるジョッキーではない
が、飛越巧者である馬を信じて騎乗したのだろう。「最後の障害を飛んだ後は、とにかく外に出すこ
とだけ考えていました。前から乗せてもらって、外に出せば伸びることは分かっていたんです」と最
後まで冷静だったことをうかがわせる。外に出した時はかなり強引に映ったが、それも「手ごたえが
残っていたから」にほかならない。母ユウミロクはオークスであのメジロラモーヌの2着した馬だが
繁殖牝馬としても、4歳年上の兄ゴーカイを送り出す異能を発揮した。世代交代が間違いないものか
どうかは別にして、29年ぶりの兄弟ワンツー(弟が勝ったのは初)という血のドラマは、ジャンプ
界にも確たる血統の裏付けが必要なことを印象付けた形だ。今度はマークされる立場になるユウフヨ
ウホウ。偶然にも、この馬がデビュー戦を迎える週に、松元茂師に話を聞いたことを思い出す。師は
「この馬だけは、間違いなく走らないと断言できる」と苦笑いしながらコメントしていた。芝2400m
でのデビュー戦は7頭立ての5着だったと記憶しているが、それでもレース後の師は「走ったなあ」
と目を丸くしていたものだ。今にして思うと、スピードが足りないことを懸念したセリフだったのだ
ろうが、競走馬にはこういう才能がある。障害レースがあればこそ、サラブレッドはかくも劇的な変
身を遂げるのだ。そのことを痛感した。
負けはしたが、ゴーカイも強かった。春の東京で差し届かなかったことを省みて、前哨戦から積極的
な競馬をするタイプに変身。きょうもその策がハマッたかに見えたが、マークしていなかったであろ
う伏兵にしてやられた。負けてなお強し、ではあるが、これで3年連続の2着。グランドジャンプも
うれしくないはずはないが、古くからの伝統である中山大障害というレースへの思い入れは陣営も少
なからずあっただろう。力を出し切っての敗北だけに、サバサバしてはいたが、来年は弟との骨肉の
争いがジャンプ界の争点。障害馬としてはまだやれる年齢だけに、巻き返しが期待される。
本命馬の死亡という最もつらい結末だったが、冷静に見れば上位2頭は称賛されるべき競馬をしてい
た。にもかかわらず、売り上げは前年比約3割減という大幅な下落となっている。頭数が16頭から
10頭に減ったのは確かに痛いが、JRAのPR不足もあるのではないだろうか。一時よりも明らか
にジャンプレースをPRする意欲が感じられない。この減少も、マキハタコンコルドの死亡とともに
大きなショックを受けた。ただ、中には「落馬が怖いから障害は買わない」という人もいる。まずは
全馬無事の完走を目標に、各陣営がまたすばらしい障害馬を送り込むことを期待して、今回の締めく
くりとさせていただきたい。マキハタコンコルド、安らかに眠ってください。そして、天国から障害
レースの発展を祈ってください。