日本馬&騎手のようす
4月15日(土)
自分としての大一番が終わった。馬券も当たった。2頭が落馬してしまったこ
とは残念だが、人馬とも無事ということで、何よりである。大竹柵、大土塁と
も全馬がクリアした。大土塁の後には、期せずして場内から拍手が上がる。雨
が降り、入場人員もまばらだったが、熱いレースがファンに伝わったんだと思
うと自分も目頭が熱くなった。いま思い返しても、うれしく思える瞬間だ。
ゴーカイは、自分が思った以上に強かった。前半は馬群のど真ん中に位置して
いたため、身動きが取れないように見えたが、横山義Jによれば「いつもはハ
ミを取らない馬が、きょうは行く気になっていた」とのこと。それにしても、
諸外国の馬が競って最終4コーナーを回るその大外からねじ伏せたゴーカイは
強いとしか言いようがない。20kの馬体減も「やることはやった」という陣
営の渾身の仕上げの結果だった。大きな拍手で迎えられ、誇らしげに立ってい
たゴーカイ。すばらしいレースをありがとうと言いたい。
横山義Jは、多くの仲間(障害ジョッキー)の祝福を受けていた。ビクトリー
アップで大障害を勝っており、2度目の大障害コースVとなる。これからは、
ジャンプ界を引っ張っていく若手として、ますますその立場を高めていくもの
と思う。平地でも技術を高く評価されているだけに、西の熊沢Jに負けない実
力派として、活躍してほしいものだ。「もっと手ごわい外国馬もいると思いま
すけど、もっと来てほしいですね。それで面白いレースを見せたいし、ファン
にもっと障害レースをアピールしたいと思います」。この言葉が勝利ジョッキ
ーの口から聞けて、本当にうれしい。ジョッキーの確かな思いだろうが、この
思いは恐らく、すべての障害ジョッキーの思いでもある。自分にできることな
ど、タカが知れているが、機会がある限り、障害レースの魅力に触れていきた
いと思う。
自分が対抗に期待したポレールは落馬に終わった。三浦Jは無傷だったが、岩
元師の元に駆けつけて「すみませんでした」と頭を下げていた。飛越の際に、
前の馬と接触し、前の馬の後肢がポレールの前肢を払う形になってしまったの
だ。自分の記憶では、三浦Jの落馬はここ2年ほどないように思う。それだけ
に、ジョッキー自身も残念なことだろう。馬も無傷のようなので、人馬の今後
のレースに期待したい。
先週、インタビューさせていただいた出津Jは「まだ馬が弱いね」と悔しそう
な表情。実力の話ではなく、芯の強さが感じられないという。「斤量と、この
馬場が応えた感じやけど、また重賞を勝てる馬ですから」と言い残して、中山
を後にして行った。だが、日本流のレースを作り出したファンドリロバリーの
スピードは、外国の関係者たちにも強く印象づけられたことだろう。出津Jの
言葉どおり、また活躍の機会があることを心待ちにしたい。
2着に入ったボカボカの関係者は、ゼッケンとともに記念撮影をしていた。ゴ
ーカイに敗れたとはいえ、招待馬での最先着。立派な結果だ。前日に休みを返
上して気配を見に行き、外国馬の中で最もこの馬の気配がよかったことを信じ
てよかったと思う。まだ外国馬の中では年齢も若い。来年も来日してくれれば
うれしいことだ。
4月14日(金)〜最終調整in中山競馬場〜
仕事的には休日のきょうだが、ここまで乗りかかった船ということで、前夜か
ら意欲の中山入りを果たした。やはり、外国馬を1度は見ておきたかったし、
関西馬の最終調整(といっても6頭中3頭だが)を見ることができるからであ
る。日本馬の馬場開門は6時30分だったが、関西馬3頭が揃って登場したの
は7時15分過ぎ。メイショウワカシオ&嘉堂、ポレール&三浦、ファンドリ
ロバリー&出津という3頭が、障害コースのスクーリングを行った。かれこれ
30分ほど、入念に障害を見せて、引き上げてくる。
スクーリングを終えて引き上げてきた三浦Jとポレール
運動を終えたファンドリロバリーを洗い場で見守る出津J(左)
出津Jは三浦Jに対して「バンケット上手でしょ?」と聞いていた。自分が手
綱を取って大障害を制しているポレールのことを「やっぱり怖い相手」と評価
する。初騎乗だった三浦Jは、飛越をしなかっただけに「うん、感じいいです
よ」という印象にとどまったが、出津Jは「ボクのや嘉堂さんのはバンケット
で慌てて下りていく感じやけど、ポレールはちゃうもんなぁ」と感嘆。もっと
も、自分が騎乗するファンドリロバリーについても「ヘルメットに『神風』の
ハチマキでもつけたろかな」とハイスピードの逃げを宣言していた。「とにか
く元気ですよ」とのことだ。大ベテランの嘉堂Jも「元気やな」とポツリ。初
の中山コースとなるメイショウワカシオをどう操るか、注目したい。
それから、3名のジョッキーとともに、スタンドに戻る。外国馬のようすを見
るためだ。最初に入ったのはニュージーランドのメイビーラフ。落ち着き払っ
た姿を見た出津Jが「オレのとエライ違いやで」と苦笑していたが、なるほど
全くイレ込むそぶりも見せない。
メイビーラフの厩務員は、NZで騎手を目指す日本人の若者!
平地を2回使っただけで、障害レースに出るのは久々というメイビーラフ。正
直言って、苦しいと思っていたが、よくよく考えてみれば日本のポレールと条
件は同じである。日本のペースに最も近いと言われるオセアニアの障害馬だけ
に、マークしなければならなくなったと感じた。
厩舎地域に戻ると、昨年のフランス出張でお世話になった、JRAパリ事務所
のKさんに出会う。立ち話をしていると、米国馬ナインピンズのキングズJが
「日本馬について教えてくれ」とやってきた。脚質を知りたいとのことで、フ
ァンドリロバリー、ノーザンレインボーが前に行き、人気のゴーカイは中団だ
ろうと教える。来たついでなので、前日の飛越が危なっかしかったことを聞く
と「当日はブリンカーをつけるからノープロブレムだ」とのこと。レベル的に
疑問が残る米国馬だが、その木曜日の危なそうな飛越だけで人気を落とすのな
らば、逆に買ってみるのも手かもしれない。
ナインピンズの陣営はお揃いの「ナインピンズ・ジャンパー」を着用!
さて、その後、再び欧米馬6頭を見るためにスタンドに戻る。もちろん3名の
日本人騎手もその6頭を待ち構えていた。次々と関係者を伴って出てくる欧米
馬を見た出津Jは「なんか、武者震いしてきたなぁ。コースは今までと同じや
のに、やっぱり国際レースやねえ」と高まる胸のうちを笑顔で話してくれた。
「やっぱりこの大障害コースに乗るのが夢でやってるからね。乗せてもらえて
うれしいですよ」と人気馬で挑戦することに誇らしげ。うれしい気持ちが伝わ
ってくる。三浦J、嘉堂Jは逆に静かに外国馬を見ているだけだが、こちらは
こちらで、静かな闘志を燃やしているという感じである。
欧米馬6頭は、思い思いのコースに入っていく。シドニーオペラがややイレ込
み加減に見えるが、他は比較的落ち着いている印象だ。特にどの馬が良さそう
に見える、というのはなかったが、ボカボカは精力的にダートで乗られていた
のが目立つくらい。飛越シーンがなかっただけに、三浦Jも「やはり、飛んで
いるところを見ないと、何とも言えない」と冷静に話していた。
再び厩舎に戻り、通訳の方々に各馬のコメントを取ってもらう。国際厩舎は検
疫の関係上、マスコミは立ち入り禁止。質問を用意して、それを聞いてもらう
という形になる。これによれば、すべての馬が「状態はいい」とのこと。どこ
まで真に受けていいのか分かりかねるところはあるが、印象に残ったコメント
が2つあった。シドニーオペラのデラポルト師の「イレ込みは競馬が近づくと
いつものこと。パドックでもイレ込むだろうが、いつもそうなので関係ない」
というものと、ヒルソサエティーのミード師の「今回も本気で来ている。しか
し、テストケースというか、この経験を今後の役に立てて、もっと勝負できる
馬を作ってチャレンジしたい」というものだ。特にミード師の今後をにらんだ
言葉は、グランドジャンプが国際的なナンバーワンレースとして認知されるか
もしれないという未来の姿を感じさせるもので、うれしく思えてならない。
あとは雨がどうなるか。フランス馬や、ジアウトバックウェイなどは雨を歓迎
している。さて、どこまで馬場が悪くなるのか、そしてどこまで日本馬に影響
するのか。あとは神のみぞ知るところだろう。決断を下したいと思う。
4月13日(木)
朝、北馬場のスタンドで、ちょうどグリーンチャンネルが中山競馬場からの生
中継を行っていた。多くの関係者が思い思いに見た感想を口にしていたが、2
階の調教師席では、あまり状況を把握していない調教師もチラホラ。レースが
今週に行われることを知らない人もいた。マスコミとしてPRが足りないのか
と思ってしまう。1階の助手、騎手控え室では、大江原Jが「小足を使ってい
るところが、やっぱり違う」とつぶやいていた。障害の手前に来たところで、
きちんと小足を使ってタイミングを計ることができる点を、さすが本場の馬だ
と警戒しているようだ。外に出ると、ゴーカイの横山義Jがテレビインタビュ
ーを受けている。非常にさわやかな笑顔で、自信のほどがうかがえた。
しかし、調教が終わった時間に二ノ宮厩舎に顔を出すと、おもむろに「三浦さ
んが怒っていますよ」と言われた。このHPの内容にまずい部分があったのか
と不安になったが「サンスポ、グランドジャンプの記事がひとつも出ていない
ぞ、って」。なるほど、読んでみると確かにゴーカイのゴの字も出ていない。
せっかくのJ・G1を前に、これでは怒りたくなるのも無理はない。マスコミ
が報道しなければ、ファンにしてもあまり目に付く機会がなくなるだろう。自
分にできることは限られているが、少しずつジャンプの魅力を伝えていかねば
ならないと思うばかりだ。
先週、出津Jと話した時も、はじめのうちは、なかなか障害レースを取り上げ
ないマスコミに対する苦情めいたことも言われた。無理もない。今週の競馬B
誌を見れば、ウチがやり玉に挙げられて当然だ。それぞれの雑誌に編集方針が
あるわけだから、自分の一存では決められないけれど、努力はしたいもの。話
していくうちに、こちらの真意が伝わったのか、出津Jもいろいろと話してく
れて、かれこれ30分は取材させていただいた。原稿に書き切れなかったが、
「昔、ジョーバガボンドという馬がいて、とんでもないところから障害を飛び
に行く馬だったんですよ。あの馬を乗りこなせたことで、多少のことではビビ
らなくなり、今のボクがあるんだと思います。根性がすわるようになった感じ
ですね」という話があった。根性。出津Jはしきりにこの言葉を用いていた。
骨折してすぐ、2週後に騎乗したマジョルクリックJのことも「すごい根性だ
と思った。グランドジャンプに乗れないのは残念です」と話していた。思うに
障害レースに乗る乗り役さんたちは、人柄は穏やかな人が多いが、内に秘めた
闘志のようなものを感じさせられることが多い。人馬一体の飛越は、こうした
ところから生まれるのかな、という気がしている。
話がそれてしまったが、明日は、自分の仕事は休みである。しかし、朝イチで
中山競馬場に行って、前日の日本(関西)馬、外国馬の気配を見てくるつもり
だ。その上で、予想の最終決断も下したいと思う。
4月12日(水)
追い切り取材がメーンのため、自分のHPのネタなど、片手間にしか集められ
ない。南スタンド前で見つけたのは、宗像J。コバノスコッチの障害2戦に騎
乗している。ただ、現時点では、唯一の収得賞金400万円ということで、出
否は未定ということだ。「練習より、実戦の方が飛越が上手でしたね。もし、
出走するとしても、きちんと障害を見て飛ぶタイプですから、飛んでこれると
思いますよ」と出走できた場合にも十分対応できるという姿勢だ。もっとも、
「まだオープンでも実績はないので…」と勝ち負けについては控えめ。出走で
きない場合は、当初の予定通り、次週の京都のオープンに向かうようだ。障害
デビューを迎える数週前に、北馬場で放馬していたことを思い出す。「ああ、
ありましたね。でも、ホントにレースが一番上手な飛越でしたよ」と宗像J。
昨年暮れの大障害では、エーピーランドとのコンビで4着に健闘している。2
度目の大障害コース経験が可能になるだろうか。
北馬場に向かうと、横山義Jが報道陣に囲まれていた。ハッキリ言って、今週
初めて見る、グランドジャンプの取材風景だ。その輪に加わってみたが、正直
に言うと、取材するマスコミの側もあまり不勉強ではいけないと思った。昨年
フランスに行ったばかりの横山義Jに対して遠征の経験を聞いたり、障害の種
類を基礎から説明させたり…。まあ、自分もひと昔前までは何の知識もなかっ
た人間だから偉そうなことは言えないが、報道陣には資料が配布されている。
横山義Jは好青年だけにきちんと説明をしていたが、マスコミとして、やや身
が引き締まる思いだった。そんな中で自分も質問をする。「やっぱり、フラン
スのペースは遅かったです」「外国馬でも意識することなく、自分のペースで
行きたいです」。自分が一番気になっていたのは、実は斤量の問題だった。過
去にとりこぼした時は、64kでの3着など、斤量が増えた時に多い。しかし
「それは、他馬との差もありますから。斤量そのものは関係ないと思います」
とのこと。肝心の状態も「いいです」とキッパリ。誰もが認める日本代表格の
ゴーカイは、やはり中心にふさわしいようだ。
4月11日(火)
北馬場でまず出会ったのはケイティタイガーに騎乗予定の山本J。大障害コー
スは、昨年暮れにヨイドレテンシで5着したのが初騎乗で、今回が2度目にな
るとのこと。ヨイドレテンシもお手馬的な存在だったのだが「次も乗れる、っ
て時にケガ(落馬)しちゃって…。でも、元はと言えば、酒井(浩)さんがケ
ガしてボクに回ってきた馬ですから」と巡り合わせを教えてくれた。ケイティ
タイガーは、実戦では初騎乗になるが「去年暮れにヨイドレが来た時に、金曜
に中山でケイティも飛ばしているんです」とのこと。大障害で、実戦が初騎乗
ということはまずない。昨秋の騎乗経験があればこそ、吉岡師も依頼したので
あろう。「まず無事に飛んでくることですね」。頑張ってほしいと思う。
北馬場には、障害練習コースがあるだけに、ほとんどの障害騎乗騎手が集まっ
てくる。三浦Jと出会い、チアズニューパワーについて聞いた。しかし「今回
はポレールに乗りますよ」とのこと。先週、栗東で岩元師、出津Jがポレール
の乗り役を探していたが、三浦Jに白羽の矢が立ったのだろう。「乗るのは初
めてですから、金曜日に中山に乗りに行きます」。天性の飛越センスを持つ大
障害コース3勝馬。どんな手綱さばきを見せてくれるだろうか。
ちなみに三浦Jとともに我が雑誌を読んでいたところに現れたのが大江原J。
ピンときた三浦Jが「隆さん、シャンパンファイト?」と聞くと「うん」。残
っていた1頭の騎乗者も決まった。昨年秋の東京でもコンビを組んでいるだけ
に、何の問題もあるまい。
さて、ポレール。大障害コース3勝中2勝を挙げているのが、星野師である。
印象について聞くと「確かにすばらしいセンスがある馬ですよ。ただ、やはり
2度の骨折でしょう。いくらひと叩きして予定通りといっても、常識的には苦
しいでしょうね」とシビアな見立て。自分としては、非常に期待していた存在
だけに、ちょっと残念な思いもあるが、そのあたりは金曜日に騎乗する三浦J
に印象を聞いてみたいと思う。