楽しむ世界 Faile 1 「ひとくち古代史考」(お守り)

超自然のさまざまな威力に対して、あまりにも無力な人間は、とにかく何らかの力に寄りかかって、苦難から逃れようとします。勢いを得ようともします。

超科学時代である現代においても、なぜか襲いかかる不安から逃れようとして、さまざまな形のお守りを、密かに持っていたりしますね。別にその威力を目の当たりにした訳でもないのに、それを持っているから心強くもあり、勇気を持って生きていけたり、何かに挑戦していけたりするものです。

神社、寺院へ行けば、これでもかこれでもかと言わんばかりにお守りを販売していますが、21世紀の現代ですらこんな有様なのですから、まだまだ知識も進化していない時代である古代では、所謂迷信といえるものがかなりあって、それこそ身を守るために、いろいろな種類のお守りを持っていたのではないかと思います。古代では、魔性のものから身を守るには、女性の魔力を秘めた領巾(ひれ)などを腹に巻いて、旅に出るような男性もかなりいました。姉の忠告を聞かずに旅立ったヤマトタケルなどは、そのために妖魔に襲われて死んでしまったくらいです。

それでは危険から逃れるために、普通の人はどんなお呪いを唱えたのでしょうか。修験者から教わった、「臨兵闘者皆陣列在前」という呪文を唱えて護身をしたりしたが、ちょっとびっくりしたのは、「急急如律令」という呪文です。

この律令というのは、古代の法律のようなもので、これを侵すということは、死に値することだったわけで、その厳しさは民にとっては実に恐ろしい存在であった訳です。そんな威力があったくらいですから、魔も寄りつかないに違いないと考えたに違いないのです。民が如何に律令というものを恐れていたかという証拠です。そんな畏怖する思いが、とうとう護符にまでしてしまったというわけでしょう。

こんなことを書いたお札を家の前に貼ったりして、魔が襲って来るのを撃退していたわけです。三島由紀夫の「潮騒」の舞台となった神島の民家は、全戸「急急如律令」の呪符を玄関に掲げているということで知られていますが、左の写真は、この注連縄(しめなわ)につけられた木札の後ろに、「急急如律令」と書かれるようです。しかもこの注連縄は一年中玄関前につけられているようです。奈良県田原本町では、「急急如律令」という呪文を彫った瓦を、屋根に載せるという風習があると聞いていましたが、最近はほとんどそういった家は見当たらなくなってしまったようです。こういった風習で言えば、沖縄の宮古島などには、「石敢当」などという文字が彫られた石が、家の角などに立てられているのを見ました。これは危険なものがぶつからないようにという、お呪いだそうです。これも中国の故事に因んだものだそうで、つい最近東京でも、自由が丘というファッションの町の一角のバス通りの片隅に、この石のお守りが建てられている家を発見いたしてびっくりしました。ひょっとするとこの家の主は、沖縄出身の方かもしれませんね。

しかし同じお守りでも、現代人が・・・特に若い女性が持ち歩いているようなものは、まだまだ夢があっていいかもしれません。一種のアクセサリーのようなものなのですから・・・。しかし古代のそれは、生活に直結する切実なものだったのです。決してないがしろには出来ない大事なものだったわけです。災いを払う方法がこれしかなかった時代なのですから、仕方がありません。果たして現代人は、本当にそれらの・・・護符(おまもり)の存在を、まったく無視することができるのでしょうか。

ふとそんなことを考えることがあります。☆

神島の注連縄の写真