ニック・ホーンビィ『ぼくのプレミア・ライフ』

 映画化された『ハイ・フィデリティ』、『アバウト・ア・ボーイ』の原作者である筆者のメジャーデビュー作。といっても小説ではなく、自伝的エッセイというのが正確でしょう。

 11歳の時にフットボールの観戦を始め、あっという間にアーセナルのサポーターとなった筆者が、その後の20年以上にわたってひたすらアーセナルの勝敗やらヘタレ具合に一喜一憂する様を淡々とつづった、とまあそれだけの話(笑)。しかし正直な話、やはりフットボールに入れ込んでいるふじもととしてはですね、ヒジョーーーーに身につまされる記述が連続するわけですよこれが。

 80年代のアーセナルは現在(あのアルセーヌ・ヴェンゲルを監督に据え、綺羅星のごときスター選手を揃えて常にリーグ上位にいる)とは比較にならないほど低迷していたわけで、「シーズン序盤はほのかに期待させるが、すぐに中位に落ち着いて優勝とも降格とも無縁になる」ことに筆者がすっかり慣れてゆく様は涙を誘います。わかるわかる。今の東京なんざまさにそんな感じ。で、何度もやめようやめようと思いながら(精神分析まで受ける!)、それでも結局スタジアムに帰ってきてしまうという展開。

 とにかく、本文の節立てがすべて「日時・対戦カード」の羅列で成り立っているなど、徹底してフットボールにこだわって文章を書いてます。イングランドのフットボール事情に詳しくない人が読むと若干わかりにくい記述があるとは思いますが、まあそういうところは自分がこだわりを持っている事柄に置き換えて読めばいいんじゃないかと思います。やはり身につまされること請け合いです。

 ちなみに、原題は "Fever Pitch" (Pitchはフットボールのグラウンド)。この本のカバーしている1968年から1991年までの間にはまだ「プレミア・リーグ」と呼ばれるトップリーグはなく、アーセナルの所属していたトップリーグは「ディビジョン・ワン」でしたから、『プレミア・ライフ』というタイトルは厳密には間違いです。とは言え、やはりPitchという言葉は日本ではまだ馴染みがないでしょうし、翻訳者も苦肉の策でこういうタイトルにしたのでしょうね。


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