『心もよう 〜115人のイラストレーターが描く 井上陽水の115曲』

 タイトルそのまんまです。東京イラストレーターズ・ソサエティという団体があるそうで、そこが毎年共通のテーマに基づいて展覧会を開くそうなんです。で、1997年のテーマが「井上陽水の詞に挿絵を付ける」というものだったというわけ。なにぶん(いくら怠惰を自認するとはいえ)陽水の曲は多いし有名なものも多いということですが、それに加えて歌詞の変さ加減もイラスト向けではないかということだったようです。確かにユーミンあたりだと詞にあまり解釈の余地がないってのはありますしね。

 ということで、115人による115枚のイラストはさすがに壮観。丸っこい独特の人物デフォルメの桑原伸之、トロピカルなタッチの絵で有名な鈴木英人、「ぴあ」の表紙で知られる及川正通、最近メチャメチャ売れっ子の上田三根子など、なかなかのビッグネームが揃っています。詞の解釈はまったく人それぞれで、字面をそのまま徹底的に絵に叩き込む人(佐藤直行「チャイニーズ フード」など)、詞の語句よりも雰囲気を絵にした人(井筒啓之「もうじき夏がくる」など)もいますが、一番多いのは詞の中からキーワードを1つ2つ抜き出して絵にしてみる、というものみたいですね。

 個人的に一番好きだったのは、駒田寿郎の描く「エミリー」。50年代風美人を柑橘系で統一された色合いで描いたイラストは、ページを開いたとたんに目を惹きますし、歌詞にあるエミリーという女性名をモチーフとしながらも、歌詞の微妙な暗さ・重さとは対照的な明るさを持っていて、なかなか面白いなと思います。

 ところでこのイラスト集、ひょっとするとイラストレーターのカタログとしても利用可能ではないか?なんて思ってしまいました。何せ115人分も載っていて、それぞれがどういう絵を描くかが端的にわかるので、パンフレットなどを作成する企業の担当者にとっては結構重宝するかも知れません。そういえば昔『じょうずなワニのつかまえ方』という本があったのですが、これは普段の生活であんまり役に立たなさそうな事柄をいろいろ解説しながら、同時に活字書体の見本としても使えるというなかなかアヤシゲな内容でした。このイラスト集もそういう変な活用法があるかも?

メディアファクトリー刊、3,400円。一般書店ではなかなか置いてないと思いますが、アマゾン・コムで注文できました。


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