「60セカンズ」

 原題は "Gone in Sixty Seconds"。「風とともに去りぬ」(Gone with the Wind)の洒落?ふじもとが久々に見に行った封切り映画です。最後に見に行った封切り映画って何だったっけかなあ、と思っていろいろ考えてみたら、学部4年の時に行った「ターミネーター2」の先行オールナイトでした。ってマジで10年ぶりじゃん!

 主演は「8mm」などで汚れ系もこなせるところを見せたニコラス・ケイジ。かつてその名を轟かせた伝説の車泥棒で、今は足を洗ってカート場の経営者。ところが同じく車泥棒になってしまった彼の弟がやばい仕事でヘマをして、元締めに捕まってしまう。弟の命を救うには、そのやばい仕事 --- 50台のスーパーマシンを盗んで元締めに納品しないといけない、という筋書き。導入が安直と言えば安直だし、兄弟愛みたいなものもどうも薄っぺらというか、取って付けたような感じがします。

 かくして主人公は弟のために、1度限りの職場復帰。そこへ現れる窃盗担当のベテラン黒人刑事と新米白人刑事。この辺も判で押したようなパターンなんですが、ギョロ目の黒人刑事はなかなかにいい味を出していて、前半のダレが救われています。主人公は刑事の疑惑の視線を巧みに避けながらかつての仲間に声をかけますが、多くは足を洗ったり死んだりで人手が集まらない。昔の女らしき人物にも断られて、仕方なく弟の集めた若造たち(ただしハイテクに詳しいのが何人かいてそれなりに役立つ)を加えます。で、そこに昔の女がなぜか前言を翻して仲間に戻る。どうもこの「昔の女」がまた薄っぺらなんですよねえ。過去のあれこれとか、女の葛藤とかいったものが全然無くて、何故か戻ってきちゃうんです。これじゃただの都合いい女じゃん。

 ま、それはともかく御一行様は盗む車に狙いを定める。これがまたフェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニ、メルセデスなどなど、かつてスーパーカーブームに心を躍らせた世代としては「うひょー」っていう感じのラインアップ。そんな中で、主人公は敢えて最後の目標としてフォード・ムスタングを狙います。ま、アメリカ映画ですからね(笑)個人的にはヨーロッパ系の古いスーパーカーをもっと出して欲しかったという気もしますが、まあそこは置いておいて、いよいよ盗みの始まり始まり。あ、その前に銃撃戦があるんですが、これまた取って付けた程度のもの。

 さて、盗みの方は技術志向のものからパワーにものを言わせたものまで千差万別。最近の米国ではキーレスエントリーやガレージのリモート制御が当たり前になってるようで、その辺を破るいろいろなテクが出てきます。一方で、ヴィンテージカーを動かすためにボンネットの中だの裏だのをチマチマいじるなど、古今東西の車窃盗技術のオンパレードといったところでしょうか。伊丹十三だったら、この部分だけで映画の半分くらい使ってじっくり描き込むんだろうなあ、などとちょっとノスタルジーに浸ってしまいました。

 そしていよいよクライマックス。主人公は最後の1台、ムスタングを奪って警察を振り切るべく迫力のカーチェイスを繰り広げます。リバースのまま他車と並走するなどのアクロバティックな走り、路地を突っ切るスピード感は、アメリカ映画の真骨頂と言えるでしょう。ラス前の大ジャンプはさすがにCG合成入ってるそうですが、それを感じさせない迫力。ただし、オーラスの元締めとの対決はまったくの肩透かしで、これまた「悪役の描き込みが浅すぎて弱すぎ」なんですよねえ。

 総評としては、ニコラス・ケイジはさすが。ベテラン刑事もいい味出してる。泥棒シーン、カーチェイスシーンは圧巻。映像だけでなく音まで素晴らしく、やっぱり映画館はいいなあという気分になります。で、ここまでで映画を全部作ってくれれば良かったんですが、メチャメチャ薄っぺらい「兄弟愛」「昔の女」「残忍な悪役」なんちゅーものを出してくれたおかげで、かなり減点。やっぱりハリウッドってのは、どうしても割り切ってネタを絞ることができないっていうか、最大公約数的なストーリーになっちゃうんですよねえ。ベッソンの「TAXi」だと、これが「くされ縁」「軽い付き合いの女」「ドイツ人の悪役」というフランス映画的定番に変わるんですが、これだとなぜかカーチェイスの邪魔をしない。この辺が監督の腕の差なんでしょうかねえ。

 いずれにせよ、スーパーカー世代の人々やカーチェイス好きの人は1,800円払っても悪くない映画だと思います。でもひょっとすると、「兄弟愛」「昔の女」「残忍な悪役」の分800円くらいは割り引いて欲しいかな?(笑)


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