「スリーピー・ホロウ」

 奇才ティム・バートン監督作品。例によってオドロオドロしい雲やグニャグニャした樹木、首チョンパ(古いなあこのフレーズ)やらが満載のバートン節が炸裂する映像が堪能できます(笑)。この人、「いかにもわざとらしいホラーっぽさ」が好きなんでしょうね。

 ストーリーは、「スリーピー・ホロウの首無し騎士」の話を下敷きにしているらしいです。らしい、というのは、ふじもとはその話を全然知らないんですけど、Internet Movie Databaseで検索するとたくさんスリーピー・ホロウ関連の映画が出てくるんですよね。日本で言うなら四谷怪談や番町皿屋敷をベースにしたようなもんでしょうか。舞台は18世紀末の独立間もないニューヨーク。前近代的な捜査に反発する主人公のイカポッド・クレーンは、ふんじゃあ科学的捜査って奴をやってみさらせやコラと市長に言われ、3件の連続首切り殺人が起きたニューヨーク近郊のスリーピー・ホロウ村へと赴く。彼は犯人は絶対に人間だと言うが、村人たちは伝説の首無し騎士のしわざだと恐れる。なんちゅーか、「X-ファイル」18世紀版ってなところですな。

 でもって、(直接の)殺人犯は本当に首無し騎士なんですよこれが。最初は抑え気味のバートン節も、モルダー、じゃないくてクレーン捜査官の目の前で首無し騎士が犯行に及ぶシーンから先は、もう全開バリバリ。首切りシーンの不気味さも、首無し騎士の剣さばきや身のこなしがあまりにカッコイイので、あまり後を引かない「ホラーなおとぎ話」のラインをギリギリで守ってる感じになってます。それから、「ノイズ」でも好演だったジョニー・デップ演じるクレーン君がなかなか面白い。科学捜査を信奉しながらそんなに精通しているわけではないし(司法解剖をするときにも医学書首っ引き)、すぐ気絶するなど気の弱さというか頼りなさが満載です。途中で彼の幼年期のエピソード的な映像がちょくちょく入りますが、実は彼の実の母は実の父によって宗教的制裁(魔女狩りみたいなもの)を受けて死んだらしいんですね。つまり、彼の科学への傾倒はどちらかというと「宗教への反発」という後ろ向きのものだったわけです。

 この映画のもうひとつ面白いところは、「首無し騎士の仕業」で話を終わらせないところです。実は何者か=生身の人間が、裏で首無し騎士を操っているということに、クレーン君が気づきます。単におとぎ話で終わらせずに推理的な要素を入れるのはなかなか面白いところ。で、殺されそうな人があらかた殺された後で、結局科学ではどうにもならない事もあるんだよなーみたいな感じで彼は村を去っていく……おいおい、それじゃただのX-ファイルだろ、と思っていたらやっぱりそんなオチでは済ませないのがバートンのいい所。彼の「科学的視点」が初めて(?)役立ち、最後の対決へと向かっていくのです。本当のオチはバラさずにおくとして、並のホラーやファンタジー映画なら「すべての原因は首無し騎士」にしてしまいがちなところですが、バートンは首無し騎士をストーリーに必要な「小道具」として扱い、実際の原因はそこにいる人間たちに帰着させています。それでいて、そういう説教臭さをあまり感じさせないのもさすが。

 いやー、正直これTSUTAYAの半額セールでついでに借りてきたビデオだったんですけど、こんなに面白いとは思いませんでした。通常価格で借りても決して損した気にはならないお勧め映画です。


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