井上陽水『カシス』

ずばり、1曲目を聴いた瞬間「来た!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

いや、ふじもとはかれこれ20年くらい陽水の音楽を追いつづけているわけですが、ここ暫くは

といったことがあって、もう新しい陽水ってのはあんまり聴けないのかなあ〜などとちょっと諦めムードではあったわけです。ところが、いきなり1曲目の「イミテーション・コンプレックス」はシンセ系の音からベース、ドラムとアップテンポな感じからエレクトリックピアノですか?エフェクトがかなりブワーッと掛かっている中で、陽水のボーカルはさすがに強烈に浮き上がってきます。凡百の歌手なら間違いなく音に負けてしまうというか、歌の下手さを音で隠すところなんでしょう。しかし、陽水は音を踏み台にしているという感じがします。ここ数作に感じていた物足りなさは、陽水の声に重きを置き過ぎたがゆえの「1つの楽曲としての伸びの足りなさ」だったのかも知れません。出だしで拍子を1つ抜いてみるなどのヒネリもあり、最初の「来た!!」に繋がったわけです。

 2曲目「この世の定め」3曲目「Final Love Song」は、ともにキリンの聞茶のCMソング。「この世の…」は1曲目同様アップテンポな感じで、うまく流れを引き継いでる感じです。

 4曲目「テレビジョン」は……つまりその何というか、陽水初のラップ?以前から陽水は歌詞の中にテレビを織り込むことが多かったのですが、ついに1曲まるまるテレビですな。無垢な礼賛にも聴こえ、しかしその無機質な曲調が何かを意味しているようでもあり。

 5曲目「恋のエクスプレス」はミドルテンポ、6曲目「森花処女林」はスローな感じで、ともにここ10年の陽水風といったところでしょう。7曲目「パンキー・ロカビリー」はタイトル通りロカビリー調の曲です。前作『United Cover』でカヴァーした「嵐を呼ぶ男」へのオマージュという感じもあります。

 8曲目「結局 雨が降る」はアコギとハンドクラップという、ゆずやコブクロあたりへの対抗(っていうか元祖の意地?)と取れなくもありません。とてもシンプルなリズムと歌で、歌声喫茶向けと言うか、みんなでワイワイやりながら歌える雰囲気。

 9曲目「You Are The Top」は何と三谷幸喜とのコラボレーション。これを聴いてからWebで調べるまで知らなかったのですが、陽水は三谷幸喜の同名舞台劇で劇中曲を提供してるんですね。まあ、こう、何と言うか、実に三谷節って感じです。でもこの人の言葉の使い方は、秋元康あたりのあざとさと違ってて好きですね。

 10曲目の「都会の雨」は、やはり『United Cover』からの流れというか、ムード歌謡風の仕上がりになっています。ラストの「決められたリズム」はほぼピアノ伴奏のみで、「少年時代」に通じるような曲調でもありますが、どちらかと言えば『永遠のシュール』のラスト「目が覚めたら」や『九段』のラスト「長い坂のフレーム」との繋がりがあるのかも知れません。もっと遡ると、このアルバムの流れが『ネガティブ』(ミリオンセラー『9.5カラット』の次に出た、ふじもと的には特に好きなアルバム)の1曲目からラストまでの流れに何となく似てるんですよね。何やら、また新たな展開を感じさせる1枚です。

 ちなみに、初回プレス盤ということで?ケースの内側はカシスオレンジになってます(笑)


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