セルトの石をつくろう
 

1.セルトの石ってなぁに?

 みなさんはこまを回したことがありますね。こまは右回り(時計回り)でも左回り(反時計回り)でも好きな向きに回転してくれます。ところが、回す向きによって不思議な動きを見せるものがあるのです。それが下図1のように船の底のような長いだ円形をした「セルトの石」とよばれているおもちゃです。たとえば、あるセルトの石を左回りの回転を与えたときに、すいすい回り続けたとしましょう。この同じセルトの石に今度は右回りの回転を与えます。すると、しばらく回転した後にガタガタ振動しはじめて回転の勢いが急激に弱くなり、回転をやめてしまいます。そのままガタガタと振動したままかと思うと、おどろくことに次の瞬間にはゆっくりと逆回り(つまり左回り)に回り始めるのです。セルトの石には「回転しやすい向き」と「回転しにくい向き」があるのです。


図1 セルトの石のプラスチックによる複製品の概形 市販されているもの

 では、セルトの石にはなぜこのような性質があるのでしょう。市販されているセルトの石の底面を見ると、船の底のようにもり上がった尾根の部分が、この底面をだ円と見たときの長軸とは重ならずに、ゆるやかに「S」の字を描くように走っています。つまり、セルトの石は線対称にできていないのです。そのために質量の分布のようすも線対称ではありません。そこで、「質量の分布が線対称ではない」という点に着目して、セルトの石を作ってみましょう。
 
 

2.セルトの石を作ろう

 
 セルトの石は1時間弱あればナイフやヤスリで木を削って作ることができます。私もいくつか作りました。けれども、もっと簡単にセルトの石を作ることができます。
 用意する材料は木製の卵(1つ200円程度のものが市販されています)と鉛筆とクラフトテープです。まず、ノコギリなどで木の卵を縦長に半分に切ります。木の卵がない場合には、長いだ円体を半分に切ったようなものを探して代用しましょう(材質はプラスチックなどがよい)。半分になった木の卵の平らな切断面に、下図2のようにだ円の長いほうの軸に対して10度ほどの角度をつけて斜めになるように鉛筆をクラフトテープでしっかりと貼り付けると完成です。鉛筆を貼り付けることで質量の分布を左右非対称にするわけです。

図2 木製の卵(回転楕円体)の半分と鉛筆でセルトの石をつくる

  完成したセルトの石を回してみましょう。ちゃんと逆転しましたか?うまく逆転しないときには鉛筆のかわりに他のもう少し質量の大きな金属の棒を付けるなどして改良を加えてみてください。また、鉛筆や棒を貼り付けるときの角度もいろいろと変えてみるとよいでしょう。
 
 

3.セルトの石について調べてみよう

(1) ガラスなどのなめらかで水平な面の上にセルトの石を置き、面図2中のxの部分を下に押して傾け、図3のようにゆらしてみましょう。どうなるでしょうか?ゆらすとすぐに「回転しやすい向き」に回りますね。

 
 
図3 セルトの石を揺らしてみる。図は長軸を横から眺めたもの
 

セルトの石を「回転しにくい向き」に回すと、床や机などの面とセルトの石の底面の間に生じるまさつ力のはたらきで回転のエネルギーが振動を引き起こし、今度はその振動が逆回りの回転を引き起こすのです。
(2) 今度はyの部分を下に押して同じようにゆらしてみましょう。変化が微妙でわかりにくいかもしれませんが、よく観察してみましょう。(1)の場合と逆に「回転しにくい向き」にほんの少しだけ回るのが分かりましたか?これがまたセルトの石のふしぎな性質の一つなのです。
(3) つぎに、図4のように鉛筆を逆方向に傾けて貼り付けてみましょう。図2のように作ったセルトの石と何が違うでしょうか?予想通りの結果になるでしょうか?これについてはみなさんが実際に作って調べてみましょう。

 

図4 鉛筆を逆向きに傾けて貼り付けてみる

 

 
4.参考になる図書

戸田盛和「おもちゃの科学E」(日本評論社, 1996)

戸田盛和「いまさら一般力学?」(丸善,1996)

J.Walker, Scientific American(Oct. 1979)p.144
(邦訳:「サイエンス」(日本経済新聞社)1979年12月号 p.118)