函館novel
2月28日、1ヶ月にわたる長い試験の青函トンネルを、「函館」というニンジンを目の前にぶら下げてひたすら走り続けた。
そして3月1日未明、「明るくなったら函館だぁ」と思うとなかなか寝付けず、久方ぶりに幼い頃の遠足気分を味わっていたのだが、なぜか妙に冷え込む。狭い部屋ゆえいつもなら設定温度を越えて上昇していくファンヒーターの室温表示も、さっきから相変わらず17度を示している。
秀憲は布団の中で「石川啄木」の資料に目を通していた。・・・・・ウト・ウト・ウト・・・・・。
大抵そんなもんである。眠れないときは羊を数えて寝ようと努力するより、小難しい本でも読んで起きる努力をした方が眠れるのだ。
カーテンの隙間からの光が、ニワトリよりも、目覚まし時計よりも明確に朝の訪れを知らせていた。6時50分だった。
「ふ・ふ・ふ函館だ。」
秀憲は確かにそう思いながら自分の狂った体内時計をリセットするべく、カーテンレールにかかった洗濯物をよけてカーテンをザーッと開けた。一思いに。しかし窓一面露で向こうが見えない。「やっぱり寒かったんだなー」ぼんやりと思った。そして右手の示指・中指・環指でその露を撫でた。小さな水の粒たちが集まり手を取り合うとその自らの重さに耐えきれなくなって落ちてゆく。
そんなことどうでも良かった。
明るい・・・。今度こそ本物の光がその隙間へ入ってきた。しかし光は上から降り注いだものと下からの反射とで倍増していた。雪だった。やはりトンネルを抜けると雪なのだ。
その現実に秀憲の視交叉上核への刺激はピークに達していた。