やっぱり中華

秋の味覚「上海蟹」
天高く馬肥ゆる秋、上海にも食欲の秋がやってきました。上海の秋の味覚といえば何と言っても「上海蟹」。今回は日本でも名の知られた上海の味覚「上海蟹」についてご紹介します。
 

「これは『上海蟹』ではない。正確に言えば『蘇州蟹』だ。」以前、蘇州生まれの中国人と蟹を食べていて彼が冗談交じりに言った言葉です。レストランに行って「上海蟹」を出してくれと注文しても10人中9人の服務員は何の事だ?といった顔をします。中国語では「大閘蟹(ダーザーシエ…上海語ではドゥ・ザ・ハと発音)」が正しい呼び名。殻の横幅10センチ前後、重さにして200〜250グラムのこの淡水蟹は上海と言うよりは蘇州に近い上海市中心部から西に60キロ程に位置する陽澄湖に棲みます。これが冒頭の台詞を招く所以です。タラバガニや毛蟹と言った日本でよく食される海水蟹に比べるとはるかに小さく肉のつき方は比べる余地もありませんが、鮮やかな橙色の俗に言う蟹味噌の部分の味はこってりとした舌触りと甘みのある独特の風味で食べる者を魅了します。10月中頃から2月初旬頃までが上海蟹の季節と言われ、中でも11月の初旬までに食べる産卵前のメス蟹は絶品です。
上海蟹は油で揚げたり生の蟹を酒漬けにしたりしても食べますが、醍醐味はやはり丸ごと蒸した物でしょう。20分程蒸したアツアツの蟹を、鎮江の黒酢に砂糖と刻み生姜を混ぜたたれで殻の裏までしゃぶり尽くします。蟹が食卓に載っている間は普段にぎやかな上海人も口数がめっきり少なくなります。

ここで、上海蟹の食べ方を説明します。はっきり言って、自分がおいしいように食べるのが一番正しい食べ方ではあるのですが、食べなれないと、一番おいしい部分を食べ残したり、「一番おいしいところを食べずにもったいない…」と服務員から馬鹿にされてしまうので、概要のみご説明します。
上海蟹のメインは前述したとおり「蟹味噌」です。蟹味噌が一番たくさんついているのは甲羅の裏側ですので、ここから責めるのが常套手段と言えます。まず茹でられて赤く染まった甲羅をお尻の方からはがします。甲羅の裏側にはむっちりと橙色の味噌がついていますのでここにたれを匙で流し込んで箸でかき回し口の中に流し込む。ちょっとお行儀は悪いですが、甲羅の裏側を思わず舌でなめ回してしまうほど豊かな香りが口の中に広がります。
次にお腹の殻の裏を責めます。メスはお腹の裏側の殻が全体からはがせますが、オスの場合は真ん中についたちょうどおちんちんの様な形をした殻しかはがせません(真ん中の写真のお腹に注目)。はがすと、ちょうどお尻のあたりに穴がありそこにも蟹味噌が詰まっているのでここにすぼめた口をあててちゅうちゅうと吸います。おしりを吸うと言うのはちょっと抵抗がありますが、中に入っているのは貴重な蟹味噌ですので、これも逃す手はありません。殻をはがすと蟹の内臓器官が所狭しとぎっしり詰まっているのが見えます。ここで気をつけるのが白いぴらぴらの部分(ここは蟹のエラらしい)を取り除くことです。タラバガニや毛がにでもこの部分は食べられませんが、ここは蟹が水を吸い込み濾過する器官なので結構汚いものが詰まっているそうです。この部分さえ取り除けば後はひたすら黙って蟹肉を取り外す作業に専念します。僕はこの時点で蟹を左右対称に割ってしまい、それぞれの足ごとにバラバラにして肉をこそぎ落とし、匙の中にためてから一気に口に入れる様にしています。足の中の肉は蟹の爪を使ってほじくりだすと比較的食べやすいですが、第2関節から下は小さすぎる為に努力に見あたっただけの見返りがないので、諦めるようにしています。ハサミの中の肉は奥歯で殻を割って取り出せます。上海蟹はハサミに毛が生えているのがその特徴でもあり、ちょっと汚いような気がしますがこれも貴重な蟹肉の為、思い切って「がりっ」とやることです。ハサミには小さな刺が沢山出ておりこれで口の中や指を怪我しないように気をつけます。以前、宴会の席で両手を血だらけにしながら上海蟹を食べているおじさんを見かけました。上手な人になると、食べ終わった蟹の殻を使って原形の形に復元できてしまうと言います。
 

家に買って帰って料理するなら、蟹が動かない様蒸す前にきつく凧糸で縛る、蒸す前に半瓶のビールをかける、必要以上に蒸さない等に注意するとより美味しく食べられます。蟹は「体を冷やす食べ物(陰性)」と言われ美味しいからと言って食べ過ぎるとおなかを下す事があるので要注意です。バランスを重んじる中国人は陽性である「紹興酒」を飲んだり、食後に生姜酒を飲んでお腹の中を中和させるという工夫を怠りません。
 

香港や海外での人気の高騰で一時期は庶民の食卓から姿を消した上海蟹も最近は養殖物が出回る様になり一頃に比べると値段も下がっているようです。併せて折りからのドル安で我々日本人にとってもお手軽感の強まった今年は、年間蟹摂取量の新記録樹立に挑戦です。(1998年10月15日)

   
《1998年11月9日朝日新聞より》

上海ガニ、真っ盛り、東北産や雑種の「偽物」出回る
 秋から冬にかけての中国の味覚として、日本でも人気のある上海ガニがシーズン真っ盛りだ。最近は養殖技術が進み、庶民にも手が届く値段になった。あちらこちらで「今年の味は……」との会話が交わされる中、話題に上るのは「偽物ガニ」が増えているという話。上海各紙によると、上海ブランドにあやかろうとした東北産のカニが出回っているほか、雑種も姿を見せ始めたという。

 上海ガニは深緑の甲羅に、はさみの部分にある藻のような黒い毛が特徴。10月から12月までが季節とされ、最もおいしいとされるのは上海郊外の陽澄湖でとれるものだ。市内の水産市場には周辺の淡水湖から連夜、続々と入荷中。値段はオスが80元(1元は約14円)ほどから、メスだとさらに高くなる。

 そんな中、遼寧省で採れる安価なものが上海ガニと称して出回っているほか、近郊の湖で採れる種のはっきりしないカニが約15元といった値段で市場に出ている。当局はこうした雑種は「汚水の中で育ち、毒性をもっている可能性もある」として、市民に買わないようにとしているが、いったん料理されれば、区別は極めて難しいという。

(上記記事の値段はちょっと違っていると思います。今はオスの方がメスより高くなっているし、陽澄湖でとれる本物も80元はちょっと今の時期では高すぎます。今日もレストランで食べましたが、メスのそこそこので68元のを60元に値切って食べました。ちなみに大き目のオスで96元してました。)

三輪社長上海で蟹を食するの図(1998年11月19日黄河路の歩歩酒家にて)