ジャズアドリブ専科
以下は2017年5月から6回にわたりつづき地区センターで、つづきジャズ協会に所属する会員向けに
行われたジャズインプロビゼーションに関する、中野真弘氏による講義の要旨を記したものです。
中野真弘氏略歴
中野氏は1984年生まれ、北海道釧路市出身で高校生時代に山下洋輔氏の来市の際、同氏が魅せるジャ
ズの自由さに触発されジャズを目指して洗足学園音楽大学管楽器科ジャズコースに入学。現在は、ITエ
ンジニア。
1. スケール(音階)
ジャズインプロビゼーションで使用されるスケールの解説と用法を説明します。
ジャズにおいて使用されるスケールは以下のようなものがあり、基本的に西洋音楽で使用される音階と同
一のものである。
① Major scale(メジャースケール) 世界中で共通して使われる最も基本的なスケール。12 パターンある。
② Jazz minor scale = Melodic minor scale(旋律的短音階) Major scale と比べ 3 度がフラットとなる。
12 パターンある。下降時はNatural minor scaleの下降と同じだが、ジャズにおいてはそれについてあ
まり区別されない。
③ Natural minor scale(自然短音階) Major scale と比べ 3, 6, 7 度がフラットとなる。12 パターンある。
④ Harmonic minor scale(和声的短音階) Major scale と比べ 3, 6 度がフラットとなる。12 パターンあ
る。
⑤ Whole tone scale(全音階) C, D, E, F#, G#, A# を起点とするパターンと C#, D#, F, G, A, B を起点
とするパターン2パターンだけ。(6音構成)
⑥ Combination of diminished scale(減音音階) C, C#, D#, E ,F#, G, A, A# を起点とするパターン、C#,
D, E, F, G, G#, A#,B を起点とするパターンとD, D#, F, F#, G#, A, B, C を起点とするパターンの3パ
ターンだけ。 (8音構成)。半音、全音音程の繰り返し。
⑦ *Blue note (ジャズやロックから生まれた独特の雰囲気を出す音) ボトムから数えてフラットとなった 3,
5, 7 度の音。使い方により、ブルースの雰囲気を効果的に出すことができる。日本ではこれらの音を含
む音階をしばしば Blue note scale と呼ぶことがあるが、適当ではない。
⑧ *Minor pentatonic scale(5音短音階) 世界中に独自的にあると言われるオクターブ内 5 音で構成さ
れるスケール (ペンタトニックスケール) の中でも、よりジャズやブルースの雰囲気を出すことができる
スケール。
参照譜:* ⑦と⑧を除くスケール譜を以下に示します。起点は全て C です。
2. ジャズハーモニー
☆ いわゆる西洋音楽の要素が取り入れられた多くの楽曲は不安定から安定へ解決(Resolution)する流れ
を繰り返す。
☆ ドミナントあるいはサブドミナントコードからトニックコードへの解決。
☆ ドミナントコードに含まれる3全音(Tritone と呼ばれる不協和音性が大きい音程)により、トニック
コードへの解決が促される(不安定から安定へ)。
☆(3全音とはドミナントコードの機能を表すものであり、トニックコードの第1音、第3音へ半音程で
進行する第4音と第7音の音程を指す)
☆ サブドミナントコードからトニックコードへの解決をサブドミナント終止、またはアーメン終止と呼ぶ。
ダイアトニックコード
スケール上の各音をルートとして構成されるそれぞれの和音をダイアトニックコードと呼ぶ。その中でも
3音で構成されるコードを Triad、4音で構成されるコードを Seventh コードと呼ぶ。ジャズを学ぶ多くの
シーンでは
Seventh コードを前提とする場合がほとんどである。
それぞれのコードは Function (機能) を持つ。
● Tonic:安定。
● Subdominant:そのまま Tonic へ進む場合もあるが、強い不安定感や安定感を持つものではない。
Dominant へのステップとして置かれる傾向を持つ。
● Dominant:不安定。Tonic へ進む傾向を強く持つ。
● (Subdominant-Minor については後述)
また、コードは4つの基本的なコード構成音 (Basic notes) に固有の高次構成音 (Tension notes) を伴うこと
がある。後述3.テンション(Tension) の通り。
参照譜:ダイアトニックコードの構成音とコードタイプごとに使用されるテンションを示す。テンションは緊
張と豊かなサウンドを求めて使用され、ジャズにおいては重要な位置を占めより自由に拡大されて使用される。
ここではすべて C を起点としている。
チェック1: IIm7 ---à V7の動きでコードトーンやスケールに沿ったソロには張りが出る。
チェック2: 最初のうちは、ひとつのスケールだけとか、それぞれのコードトーンだけでとか、練習テーマを
決めてソロを練習する方法が有効。
演奏課題曲 Now’s the time
参照譜:
3. テンション(Tension)
テンションとは 4 つの基本的なコード構成音 (Basic notes) に対して、固有の高次構成音 (Tension notes)
である。基本的にはオクターブ上のルート(R)上に構成され、9th, 11th, 13thと呼ぶ。
コードタイプによって
使用されるテンションが変化しコードトーンに対して有効な音となる。
☆ 通常 IIm7で13thは使用しない。
☆ V7sus4はサブドミナントの機能を持つ。
☆ Altered tensionを使うと多彩になる。
☆ Bebopの楽曲の特徴として、コードトーンとそのアプローチノートで構成されている。
☆ 安定 -> 不安定 -> 安定の繰り返しを有効に演奏する。
参考譜: コードタイプごとに有効なテンションを示す。
チェック1: ドミナント機能を持ったコードにおける b9を除き、b9 の音程の扱い方に注意!不協和音性
が非常に大きいため。
チェック2: よくピアノの左手で演奏される、3rdと7thの音をguide tone(ガイドトーン)と呼ぶ。そのコー
ドの性格を示す音の組み合わせ。
4. Cadence(終止形)
Cadence(ケーデンス)とはコード進行の終結部における和声的解決(Resolution)の形である。
5. Substituted chord(代理コード)
Substituted
chord(サブスティチュート・コード)はある特定のコードの代理となるコードのこと。
表記上は subV7 。
下図譜例は代理コードを使用したケーデンスを表すもので、2段目のDb7は1段目のG7の代理コードであり、
3段目のAbm7はDm7の代理コードである。V7 の代理コードはしばしば “裏コード” と呼ばれる。例えば Key
が C の楽曲の場合、V7 は G7 である。その代理である subV7 は Db7 である。 G7 と Db7 の構成音には共
通して F と B が含まれる。つまり、これらのコードには共通して Tritone (=ドミナント機能) を持ち、 Tonic
への進行が促されるという傾向を持つ。
6. アドリブフレーズを構成する際に必要な要素
● スケール(Scales)
● コード(Chord)
● アーティキュレーション(Articulations)
● リズム(Rhythm)
● シンコペーション(Syncopation)
● アンティシペーション(Anticipation)
● アウフタクト(Auftact)
● モチーフの展開(Motive development)
Etc.
コードやスケールの理論だけてはなく、実際の音楽にはそれを豊かにするためのあらゆる要素が考慮されな
ければならない。
演奏課題曲: Now’s the time
Little suede shoes
How high the moon
7.Modulation(転調)
転調は、基調からほかの調性に変化することをいう。転調によりメロディに多様性が加えられる。
転調の手法としては主に以下の方法があります。
☆ ピボットコードを挟んで関係調への転調
☆ 転調先の IIm7 -.> V7あるいはV7を利用し転調する
☆ 直接別のTonicコードへの転調
参考譜:
演奏課題曲: Little suede shoes
Tangerin
以上、つづきジャズワークショップ第1回から第6回までの内容を記載しました。続編はまとまり次第
あらたにアップロード予定です。