注:この話は前作「休みのはじまり」の設定を引き継いでおります。
  前作を読んでなくても大丈夫だと思いますが、出来ればそちらからお読み下さい。  





それからの日常

Written By NAOKI




AM5:55



いつものように目覚まし時計が鳴り始める五分前に目が覚める。

性格のためなのか、習慣になってしまっているのか分らないけど、

最近は目覚まし時計の鳴る音を聞いた覚えがない。

ベットから抜け出すと、目覚ましのスイッチを切って簡単に身支度をする。

用意してあった真っ白なカッターシャツに、黒いズボンを履き、軽く髪型を整える。

部屋を出る前にエプロンをとって身につけながら洗面所に行き顔を洗う。


それからお風呂の用意だ。

アスカもミサトさんも朝からお風呂に入るから毎日2回も用意しなきゃならない。

その後はキッチンでお弁当の用意から始める。


冷蔵庫から材料を取り出して調理にかかる。

ちょっとすると、予約で炊いておいたご飯が出来上がったみたいだ。

ジャーの中でご飯を切るようにまぜ、お弁当箱に詰めていく。

出来上がったおかずも同様に詰めてから、蓋をせずにそのまま放置する。

前に直ぐ蓋をして学校で食べるときにご飯はべちゃべちゃになってるし、

おかずもなんだか水っぽくなってたことがあって心底落ち込んだことがあった。

今でこそ、主夫の鑑だとか、鉄人なんて呼ばれるけど、初めの頃はよく失敗してた。

けど、まだアスカが来る前で良かったよな、あんなお弁当渡してたらどんな目にあったことか。



次は朝食の準備。

その前にアスカを起こさないと、どうせ1度じゃ起きてこないんだよなぁ。


「アスカ、そろそろ起きてよ」


部屋の前まで来るとそう声を掛けるが返事は当然ない。



「お風呂準備出来てるよ。アスカ起きてる?」


少し声を大きくして呼ぶと、


「・・・・うう・・・わかった」


と返事があった。

時間もまだ六時三十分を過ぎたところだ。


キッチンに戻る前にリビングに行き、テレビをつけて朝のニュースを聞く。

見るのではなく音だけを聞いている。

まあ、さして重要でもないけど他に声がしないと何だか寂しく感じるからだ。


朝食はお弁当用にご飯を炊くので、最近はほとんど和食だ。


「おはよう」


振り向くとアスカが眠たそうに目をこすりながら出てきたところだ。


「あっ、アスカ、おはよう」


アスカはそのままお風呂場に向かい、


「・・・のぞかないでよ」


と言って入っていく。


「わかってるよ」


全く毎日毎日同じ事言うんだから。

それでも、前のように


「のぞいたら殺すわよ」


って言われてた頃よりましなのかもしれないけど。


朝食をテーブルに並べ出す頃に、ミサトさんを起こしに行く。

ミサトさんの場合、部屋に入って直接起こさないと起きてくれない。

一言断ってから中に入る。


き、きたない。

どうやったらここまで汚せるんだろう?

今日帰ってきたら掃除しなきゃ。


「ミサトさん起きて下さい。朝食出来てますよ」


「後五分、後五分だけ寝かせて〜」


珍しく一回で反応してくれたけど、もうちょっと保護者らしくして下さいよ。


「ミサト、早く起きなさいよ、ご飯冷めちゃうでしょ」


どうやらアスカが上がってきたみたいだ、早く残りの用意しないと。


「ミサトさん早く起きて来て下さいよ。用意すましておきますからね」


それだけ言うとキッチンに戻ってご飯と味噌汁をついでテーブルに並べる。

アスカは早々と席に着いて待っていた。

僕も席に着くと手を合わせる。


「いただきます」


「いただきます」


そろって挨拶する、ミサトさんはどうせ待ってても無駄だから先に食べ始める。



「ぷは〜、く〜〜。やっぱ人生この時の為に生きてるようなもんね」


ミサトさん起きて来たみたいだ、しかもまた朝からエビチュ飲んでるな。


「ミサトさん、朝から飲まないで下さいっていつも言ってるじゃないですか」


缶ビール片手にタンクトップと短パンで現れたミサトさんに向かって言う。

しかし、ミサトさんその格好はどうにかして下さい。

全く、がさつというか、ずぼらというか。


「ごめんね、でも朝はやっぱりこれよ〜」


席に座りながらミサトさんが言う。

しかも反省してくれないし・・・。


「ねえシンジ、今日品数少なくない?」


うっ、相変わらず鋭いねアスカは。


「ごめん、今月結構家計が厳しくて・・・」


適当に言い訳をしておく。

本当は夕食の高すぎるカロリーを押さえるために少なくしてるんだ。

アスカの場合太ると無理にダイエットしようとするんだよね。

アスカのためだから我慢してね。


「ふ〜ん、そうなんだ」


そう言ってアスカはミサトさんを睨んだ。

あ、気持ちは分かるよアスカ、実際に食費の半分以上はミサトさんのエビチュ代だからね。

ミサトさんはアスカの視線をさらっと受け流してご飯を食べている。

こういう所は天才的にうまいよなミサトさんは。





ゆったりとした朝食も終わって僕は後かたづけ、アスカは着替えに部屋に戻って行った。

ミサトさんはテレビを見ている。

時計を見ると七時五十分、そろそろ出ないと。


「アスカ、時間だよ、学校行こう」


「ちょっと待ちなさい、直ぐ行くから」


僕が鞄を取って部屋から出て待っているとアスカも直ぐに出てきた。


「「いってきま〜す」」


「いってらっしゃ〜い」


ひらひらと手を振るミサトさんを後にして僕らは家を出る。






学校の授業はあまり面白くない。

分からないって訳じゃないんだけど、アスカに教えて貰った方がずっとわかりやすい。

アスカ先生・・・結構似合うかもね。



昼休みはアスカにお弁当を渡してトウジ達と一緒に食べる。

ケンスケがアスカの写真の売り上げが落ちてるって嘆いてた。


「なんで?」


と聞いたら、


「「シンジ(センセ)のせいだろ(せえや)」」


って揃ってつっこまれた。

トウジ達には言ったけどまだ他の人達には話してないんだけどなぁ。

やっぱりわかるのかな、僕達が付き合い始めたのって・・・。






「お弁当おいしかったわよ」


午後の授業も終わって帰宅途中にアスカがこっそり言ってくれた。

嬉しかったので、


「・・・ありがとう」


って言ったらアスカは俯いて黙ってしまった。

こんな時のアスカはいつも以上に可愛く見える。





家に着いたらミサトさんから留守電が入ってて、今日はネルフに泊まりになったそうだ。

夕御飯はアスカの希望でハンバーグになった。

ホント好きだよね、アスカはハンバーグが。

今日は和風おろしソースにした。

前に作ったときに、おいしいって言ってくれたからね。

今日も、


「おいしかった」


って言ってくれた。

ミサトさんが居ないときはよく言ってくれるんだ。

ミサトさんが居ると大概が、


「まあまあね」


になるんだけど、全部綺麗に食べてくれるし、これもアスカの褒め言葉だからやっぱり嬉しいんだよね。




食べ終わったら僕は片づけを始めて、アスカはお風呂に入る。

この片づけが一番家事の中では大変だよ。

でもやらない訳にはいかないんだからさっさとやってしまおう。

ついでに明日の朝とお昼の用意を簡単に済ませて・・・・終わりっと。


「シンジ、上がったわよ」


「じゃあ、僕入ってくるよ」


アスカと入れ替わりに僕は着替えを持ってお風呂に行く。

ゆっくりと浸かって出てくるとアスカは毎週楽しみにしているテレビドラマを見ていた。

紅茶を煎れてアスカに手渡した後、隣に座ると、


「まったく、この主役の男、はっきりしなさいよね。ホントどうしようもないんだから・・・」


ってテレビに向かってぶつぶつと文句を言ってる。

何だか全部僕のことを言われてる気がして肩身が狭い思いだ。




その後、十一時過ぎた頃に寝ることになる。


「「おやすみ、アスカ(シンジ)」」


二人揃ってお互いの部屋に戻ってベットにはいる。

こうして僕の一日は終わりを告げる




・・・・・・・はずなんだけど。








「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー」




声とともに目が覚める。


もうこれで何度目だろう。

近頃アスカは悪夢に魘されている。

どんな夢か一度聞いてみたら僕が消えていなくなる夢だって言ってた。



ベットから抜け出し、ライトをつけると時計の針が午前2時を指していた。

アスカの部屋の前まで行くと、一呼吸おいてから何も言わずに襖を開ける。

どうせ、声を掛けても返事がないのは過去の経験で分かっている。


アスカはベットの上で膝を抱えて小さくなり、何か呟いている。

近付いて軽く頭を撫でてあげるとやっと気付いたように僕を見る。


「シンジぃ」


うっすらと涙を浮かべて僕を見上げる弱々しい女の子としてのアスカの姿は、

普段以上に愛しく感じて、守ってあげたくなる。


「アスカ」


僕はここで初めてアスカに向かって優しく声を掛ける。

ここまではいつもと同じだ。

後はアスカが寝入るまで手を握って側に居るんだけど、

今日は考えていた行動を実行に移す。



震えているアスカを正面に向かせて、両手をそっとアスカの頬に当てる。


「アスカ、もう悪い夢を見ないようにお呪いをしてあげる」


アスカは何が始まるのか判らなかったようで、

目だけを僕に向けてジッと顔を見続けている。


「目を閉じて、一回深呼吸をして・・・」


アスカは抱えていた膝を解放して手のひらを胸に当て、目を閉じながらゆっくりと深呼吸をする。

目を閉じた時に涙がこぼれたので、人差し指を折り曲げてその軌跡を拭ってから僕は顔を近付けた。

気配を感じ取ったのかアスカはピクッと身を竦ませたけど、

僕は構わずにアスカの額に自分の額を付けた。

アスカの緊張が伝わってくる。

僕も心臓がドキドキしているんだけど、ここまで来て止める訳にはいかない。


そう逃げちゃ駄目だ・・・今は絶対。


「僕はここにいるよ、アスカの側にずっと居る。

どこにも行かないし、離れないよ。アスカをずっと見てるから」


呪文となるべき、誓いの言葉。


そして右手でアスカの前髪を掻き上げて、額にキスをした。


儀式を飾る、誓いの証。


「さぁ、もう大丈夫だと思うよ。まだ早いからもう一度寝直した方がいいよ」


ゆっくりと離れてからアスカに促す。


「ねぇ、シンジぃ、こっちには?」


アスカが右手の人差し指を立てて自分の唇に当てる。

うわぁ、狡いよアスカ、そんな子供がおねだりするようなポーズだなんて。

でもこんなセリフが出るくらいなら大丈夫かなと思ったので、

必死の思いで断ってみる。


「お呪いはあれで終わりだよ、そっちはなし」


「え〜、初めてじゃあるまいし、シンジのケチ。」


完全に調子を取り戻してきたのか間髪入れずにアスカは不満顔で言う。


「ケチ、ケチ、ケチ、ケチ、ケチ、ケチ、ケチ・・・・・・・・」


何時までも終わりそうにないアスカの『ケチ』コールに一つだけ溜息をついて

僕は再びゆっくりと顔を近付けていく。

アスカが微笑っている。

僕もたぶん微笑ってるんだろうな。

アスカの声が少しずつ小さくなっていって・・・・





唇は一つになる。





こうして僕の日課がまた一つ増えることになった。




Fin

   


 


<素直にあとがき>

ここまで読んで下さってありがとうございます。

ただひたすらに甘いLASを書きたくなったと欲望の果てに書き上げた割に

あんまし甘くなってない気がしますが・・・。

その上前作のその後的な話になってしまったのは何分にも私の力不足だと感じております。

こんな稚拙なものを許可下さった艦長様本当にありがとうございます。

意味無し、ヤマ無し、オチ無しと三拍子揃ってますが、ご意見等お待ちしております。

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