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The blank of 2years

 

 

 

 

 

トウヤは鞄から携帯電話を取り出すと、自宅から着信があったことが表示されていた。

全力で走りながら、自宅に発信してみる。

展開されるウィンドウには、砂嵐以外は何も映らない。

音声も、話し中を報せる音がただ流れるばかり。

 

「もう手が回っているか。となると、護衛は殺られたな」

 

僅かに顔を歪めながら、携帯を切るトウヤ。

現在位置から自宅まで、全力で走っておよそ15分。

いや、今は能力を解放している関係で、およそ7分もあれば家に着ける。

だが、その7分ですら、致命的だ。

 

「7分もあれば、普通にカオリを手に入れて撤収するには十分だな」

 

そう吐き捨てながらも、彼は冷静だった。

追い込まれれば追い込まれるほど、彼は冷静さを取り戻していく。

だからこそ、今まで生き抜いて来られた。

 

(しかし、まるでギャンブルだな)

 

荒野を駆ける狼の如く、ただひたすら走り続けるトウヤ。

絶対的な危機に瀕している彼の手の内には、まだ切り札が残っている。

その切り札に期待する事自体、ギャンブル以外の何ものでもないのだが、期待せずにはいられない。

確率は五分と五分。

賭けに勝てば、本来は致命的とも言える7分の遅れを、簡単に取り戻すことの出来る。

強力な力を持つ、最高の切り札。

それは、眠れる死神。

 

「アキト・・・・・・カオリを護ってくれ」

 

そう呟いた孤高の狼は、1人街を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The blank of 2years

〜妖精の守護者 外伝〜

 

第4話「解き放たれた狂気」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはカシワギ家。

普段の夕食の時間はとうに過ぎている。

それでも、カオリもアキトも食卓の料理に手をつけようとはしない。

二人は、トウヤの帰りを待っていた。

 

「お父様・・・・・・遅すぎます」

 

そう言って、ぷくっと頬を膨らませているのはカオリ。

せっかくトウヤの帰宅時間にあわせて夕食を作ったのに、その彼が帰ってこなくてはどうにもならない。

作りたての時は美味しそうに、それこそ湯気を立てていた料理も、今は冷え切ってしまっていて、その魅力を失っていた。

 

「もしかして、何かあったのかしら?」

 

とたんに心配そうな表情をするカオリ。

なんだかんだ言っても、やはりトウヤの事が心配なのである。

 

「ただ単に、着信に気づいてないだけだと思うけど?」

 

「そうなんでしょうか」

 

そう言って、小首をかしげるカオリ。

普段ならその仕草に目を奪われてしまうアキトだが、今の彼の意識は別の方に向かっていた。

 

(なにか、変だな)

 

何がどうおかしいか、という事はアキト自身にもわかっていない。

だが、何かがおかしかった。

何か、違和感を覚えた。

 

「ねえカオリ、すこし寒くない?」

 

「えっ、そうですか?特に設定を変えた覚えは無いですけど・・・・・・確かに肌寒いですね」

 

そう言って、空調の設定を確認するカオリ。

だが、特に普段と変わりはなく、本来なら快適な室温と湿度を提供するはずである。

だが、アキトが、そしてカオリがそろいもそろって寒いと感じていた。

2人には、なぜ自分たちが寒いと感じているか、まったく見当もつかなかった。

それは、第六感。

 

「確かに設定は今までと同じみたいだね。でも、どうしてだろう」

 

腕を組んで考えこむアキト。

いくら何でも、おかしすぎた。

フッ。

 

「えっ?」

 

カオリの唖然とした声。

おかしいと感じていた矢先、いきなり、本当に何の前触れもなく、部屋の照明が消えた。

 

「・・・・・・」

 

「停電?でも、すぐに予備電源に切り替わりますから。兄様、危ないですからそのまま動かないでくださいね」

 

カオリは特にあわてた様子もなく、予備電源に切り替わるのを待っている。

部屋の中を照らすのは、窓から差し込む月明かりだけ。

カオリには、月明かりにより照らし出されたアキトの顔をまじまじと見つめる余裕すらある。

だが、アキトはそれどころではなかった。

照明が消えた瞬間、アキトは恐ろしいほどの悪寒におそわれていた。

予感。

自分に襲いかかる死の予感に、アキトは身震いした。

 

「なんか、おかしいぞ。カオリ、予備電源ってのは、いつもこんなに時間かかるの?」

 

「いいえ、以前はすぐに・・・・・・どうして予備電源に切り替わらないのかしら」

 

この時、アキトは周囲の空気の変化を敏感に感じとっていた。

何かが迫ってくる。

自分の喉元にナイフを突きつけられる、そんな感覚。

 

「・・・・・・逃げろ・・・・・・」

 

「えっ?」

 

「いいから、早く逃げろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャン!

けたたましい音と同時に窓ガラスが割れ、何者かが部屋に飛び込んできた。

全身、黒の戦闘服を着た侵入者。

 

「カオリ、逃げろ!」

 

ガン!

叫ぶと同時に、侵入者の持っていた自動小銃で殴られるアキト。

カオリの目の前で、アキトは無様に床に倒れた。

 

「兄様!」

 

「動くな」

 

「ひっ!」

 

いつの間に存在していたのか。

アキトを殴った侵入者とは別の人物が、アキトに駆け寄ろうとしたカオリの肩に手をかけた。

カオリは、恐怖で凍り付いた。

次の瞬間、玄関のドアが開き、さらに二人の男達が部屋になだれ込んでくる。

部屋の中に4人、漆黒の戦闘服を着た男達がいた。

 

「これが『死の妖精』か?こんな小娘が、あらゆる兵器を超越する死の象徴だとは・・・・・・お偉いさん達の考えている事はよくわかんねぇな」

 

「・・・・・・無駄口を叩くな。それより、必要なのは『妖精』のみ。『同居人』は殺せ」

 

「そうだな。今頃あっちも終わってるだろうし、こっちも長居は無用か」

 

そう言いながら、男達は倒れたアキトを見下ろす。

まるで虫けらでも見るような、何の色も持たない冷たい視線。

 

「やめて!」

 

「大人しくしろ!!」

 

「キャッ!」

 

荒々しくカオリの髪をつかむ男。

どうやら隊長格らしいその男は、カオリの顔をのぞき込んで、ゆっくりと、脅すように口を開く。

 

「殺すなとは言われているが、それ以外の命令は受けていない。少しは大人しくするんだな」

 

その男の心に、カオリは恐怖した。

人の心を読める彼女は、その男達からあふれ出る負の気配に怯えていたのだ。

殺すなと言われているから殺さないだけ。

男が自らの脳内で、カオリの肉体をナイフで切り刻んでいるビジョンが見えた。

そう、命令さえなければ、カオリの事を虐殺したに違いなかった。

恐怖に震えているカオリを見かねて、アキトが声を掛けた。

 

「・・・・・・大丈夫だよ、カオリ。すぐにトウヤさんが助けが来るから」

 

「それは不可能だ。『狼』はもう死んでいる」

 

アキトの言葉を、簡単に否定する隊長格の男。

 

「狼?それにさっきは妖精って。お前達、いったい何の事を言っているんだ?」

 

アキトのその言葉を聞いたとき、侵入者の男達は急に笑い出した。

当然アキトは、自分がなぜこんなに笑われるのかが理解できなかった。

隊長格の男だけが、笑う事もなくアキトの事を見据えている。

 

「ハッハッハッ、お前知らないのか?一緒に住んでるのに?・・・・・・お前がこれから死ななきゃいけないのも、全部あいつと、そしてそこにいる化け物のせいなんだぞ」

 

「おい、無駄口をたたくな。任務を忘れたか」

 

「忘れちゃいねえよ。けど、別に良いじゃねぇか。こいつも、死ぬ前に真実くらい知りたいだろうしな。自分がどんなヤバい奴らと一緒にいたかってな」

 

初めにアキトの事を殴りつけた男が、カオリの事を指さし、蔑むような視線を向ける。

その視線の先には、今にも泣きそうなカオリ。

 

「お前の事、ちゃんとこの兄ちゃんにも知ってもらおうな」

 

「!!・・・・・・やめて、兄様には言わないで!」

 

男は、恍惚とした笑みを浮かべた。

少女が哀願してくる様が、とても気に入ったようである。

 

「いいか、良く聞けよ。・・・・・・まず初めに、カシワギ・トウヤってのが、通称『狼』。闇の世界では知らぬ物は居ない殺人機械だ。とある研究機関が生み出した最強の暗殺者。女子供も平然と、なんの感情も見せずに殺す、殺しのエキスパートだ」

 

ごくり。

アキトが唾を飲み込む音が、部屋中に響き渡る。

彼は、驚きを隠せなかった。

ただ者ではない、とは感じていたが、男の話している事はもっと深刻な事だ。

アキトを殺し、カオリを拐かそうとしている男をして、殺人機械と言わしめるトウヤ。

アキトは、恥も外聞もなく震えた。

初めて知ったその事実に、恐怖した。

そして、自分の恩人に対して恐怖心を抱いている自分にもまた、恐怖した。

男は、アキトが恐怖している事に満足し、さらに話を続ける。

 

「この女は、『狼』なんかよりタチがわるい。カシワギ・カオリ、通称『死の妖精』。こんな可愛い顔はしているが、このガキのおかげで、いったい何人が死んだかわかるか?」

 

「やめて!・・・・・・やめてください、お願いですから・・・・・・」

 

必死に哀願するカオリに、男は嫌らしい笑みを浮かべるだけ。

 

「このガキはな、まだ三歳だったにも関わらず、100を超える命を一瞬にして奪った事がある!スゲえよな、さすが『死の妖精』だぜ!」

 

パリンパリンパリン!

男の声にあわせて、部屋にあったコップがすべて粉々に砕けた。

だが男は、砕けたコップには目もくれない。

そう、まるで男はコップが砕ける事を予見していたかのごとく。

 

「へっ、今のを見ただろ?このガキは手も触れずに物を破壊できるのさ」

 

男はにやにや笑いながら、言葉を続ける。

 

「おい、お前はその力で一体何人の無力な人間達を殺してきた!」

 

「いや!言わないで・・・・・・お願いですから」

 

ぽろぽろと涙をこぼすカオリ。

侵入者の言っていた事は、すべて事実だった。

ドールプロジェクト。

過去に行われた、忌まわしき実験の末に生み出された、人外の力を持つ存在。

それがトウヤであり、カオリだった。

その両の手ですべてを破壊する、『狼』ことトウヤ。

そして、手も触れずにすべてを破壊する、『死の妖精』ことカオリ。

二人は、ドールプロジェクトから解放されるまで、強力なマインドコントロールをかけられていた。

抗えず、疑問にも思わず、ただ命じられるままに殺戮を繰り返す日々。

彼女は当時、起こった事のほとんどを覚えていないほど幼かった。

それでも、一つだけ覚えている事がある。

本当に大切な存在を、自らの能力で殺めてしまった事。

 

「そうそう。本当は『妖精』なんて呼び名じゃなくて、『親殺し』って言った方が良いか?」

 

「っ!!」

 

体を強ばらせるカオリ。

そんな彼女に向けられる、無意識のうちの恐怖。

 

「兄様・・・・・・お願いですから、そんな目で見ないで下さい」

 

涙を流しながら哀願するカオリ。

恐怖に彩られたアキトの瞳は、カオリの心を深々と切り裂く。

 

「これでわかっただろ。この兄ちゃんもお前が怖いってよ」

 

そう言って、アキトのことを蹴り上げる男。

ドガッ!

ドガッ!

ドガッ!

 

「・・・・・・ぐっ・・・・・・」

 

「兄様!!」

 

アキトに駆け寄ろうとするカオリを、もう1人の男が羽交い締めにする。

だが、カオリは何とか戒めを解こうともがく。

そんな彼女をよそに、男達はアキトに冷たい視線を向けた。

 

「茶番は終わりにして、そろそろその男を殺せ。何時までもここにとどまっている訳にはいかないぞ」

 

「ああ、そうだな」

 

そう言って、侵入者の一人が銃を構える。

その先には、身動きのとれないアキト。

 

「やめて!!」

 

必死に、なんとか戒めをふりほどいたカオリが、アキトと男の間に割り込む。

両手を広げ、アキトの事を全身で護る。

 

「へっ、何のまねだ?」

 

「兄様は私が守ります」

 

「っ、このガキが!足でも撃ち抜けば大人しくなるか?」

 

男がカオリの太股に銃口を向けたその刹那、カオリの双眸が強い光を放つ。

ギン!

 

「っ・・・・・・ぎゃああああ!!」

 

一瞬の沈黙の後、男の絶叫が部屋の中に木霊した。

男の持っていた銃がはじけ飛んでいた。

そして、はじけ飛んだのは銃だけではなかった。

銃をつかんでいた男の腕も、手首から先が無くなっていた。

 

「馬鹿な、シールドが効いてないだと!」

 

「きゃっ!」

 

別の男が、持っていた小銃でカオリの事を殴打する。

カオリは地面に叩き付けられると、苦しげな声を上げる。

 

「この・・・・・・化け物が!」

 

男達が、能力者であるカオリを前にして落ち着いていたのは、ある特殊装備を持っていたからである。

だが、その装備も、カオリの能力を防ぐには至らなかったようである。

 

「くそっ、俺様の腕を、よくも・・・・・・よくも!」

 

手首を押さえながら、激痛で錯乱している男がカオリに歩み寄る。

そして、彼女の頭を踏みつけた。

 

「ふざけやがって。なにが『死の妖精』だ。あいつらもあいつらだ。何がこの装置さえつけていれば安全だ!」

 

ドカッ!

忌々しげに、床に何かを叩き付ける男。

男の呼ぶ、装置と言うものだろう。

 

「殺してやる、化け物め!!」

 

「や、やめろー!!」

 

いきなり起きあがったアキトが、男に体当たりをいれる。

そして、その隙にカオリに覆い被さるようにして、彼女を護ろうとする。

そのとき、息も絶え絶えのカオリが、アキトに話しかけた。

 

「兄様・・・・・・ここは私が・・・・・・だから、逃げて下さい」

 

ドン!

刹那、アキト達を取り巻いてた男達が、いきなりはじき飛ばされた。

間違いなく、カオリの能力。

もはや疑いようもない、破壊の力。

侵入者達は、すぐさま体勢を立て直すと、小銃を構え直す。

 

「ちっ、まだそんな力があるのか。おい、あいつを呼べ。『死の妖精』の能力は俺たちの手に余る。このままじゃ皆殺しになるぞ!」

 

「わかった。No23を起動しよう」

 

隊長格の男が、なにやら基盤を操作している。

ほかの三人は、油断無く銃を構えている。

 

「よし、起動した」

 

隊長格の男の言葉が、部屋中に響き渡る。

ややあって、何者かが部屋の中に入って来る。

ほかの男達とは異質な服装をしたその男。

No23は、ゆっくりとアキト達に近づいていく。

刹那、アキトの体が浮かび上がったかと思うと、彼は天井に叩き付けられていた。

 

「がはっ」

 

そして、重力に引かれて落ちてきたとこに、No23の拳が待っていた。

ドン!

激しく壁に背中と頭を打ち付けるアキト。

 

「あがっ」

 

彼は、背中を壁に預けるようにして、崩れ落ちる。

 

「に、兄様・・・・・・」

 

倒れていたカオリが、よろよろと立ち上がる。

男達は、緊張した面持ちで銃を構える。

 

「よくも兄様を!」

 

ガキン!

何かがぶつかり合うような硬質な音が、部屋中に響き渡る。

だが、それだけ。

男達には、なんの変化もない。

 

「そっ、そんな、どうして・・・・・・」

 

悔しそうに、かすむ目で相手を睨み付けるカオリ。

彼女の力は、効果を発揮しなかった。

いや、本来発揮すべき効果は、No23の力により相殺されていた。

 

「ホカクタイショウカクニン。ホカクカイシ」

 

No23が、一瞬にしてカオリとの間合いを詰める。

そして、その拳がカオリの腹部にめり込む。

力を封じられたカオリに、もはや抵抗する事は出来なかった。

 

「よし、もう良いぞ。お前はその女だ」

 

「リョウカイ、マスター」

 

隊長格の男の言葉に、ゆっくりとした動作でカオリを担ぎ上げるNo23。

 

「兄様・・・・・・にげ・・・・・・」

 

そんな弱々しい声を聞きながら、1人の男がアキトの目の前に立つ。

その腰から、ゆっくりとナイフを抜く。

 

「さて、『妖精』は手に入れたし、後はお前だけだ」

 

アキトは、男に視線を向けるのがやっとだった。

男の肩越しに、No23に担がれたカオリが見える。

 

「やめ・・・・・・カオリを、はなせ・・・・・・」

 

隊長格の男が、アキトに近づこうとする。

だが、それを手で制したのは、先ほどカオリに手を吹き飛ばされた男。

危険なほど血走った目で、呼吸を荒げながらアキトの事を見ている。

 

「待て、そいつは俺にやらせろよ。憂さ晴らしだ。楽には殺さねえよ」

 

手首を包帯で縛った男が、腰からゆっくりとナイフを引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、アキトは夢を見ていた。

1人の少女が男達に押さえつけられている光景。

フラッシュバック。

まるで研究施設かのような、様々な機器がある部屋の中で、数人の男達が黒髪の少女を押さえつけている。

アキトは、この光景を確かに知っていた。

ドックン!

アキトの心臓が跳ねる。

アキトは、今と同じように、動くことも出来ずにただ見ているだけ。

 

「お願いです!やめてください!・・・いや・・・・・・・・・・・・・・・助けてアキト!!」

 

黒髪の少女の悲鳴が、アキトの胸に突き刺さる。

アキトの胸が、締め付けられた。

 

(なんだ、これ?)

 

アキトは、自分の頭に浮かぶビジョンが何なのか、すぐに理解することが出来なかった。

だが、一つだけ理解できる事。

それは、今と同じように、自分が無力だったという事。

 

(そうだ、俺は覚えていたはずだ)

 

アキトの中で、何かが変わり始めていた。

今の今まで、彼の心の中に完全に封印されていた野獣が、ゆっくりとその封印を解こうとしていた。

彼の心に秘められていた狂気が、ゆっくりとその姿を現す。

 

(俺は、助けられなかった)

 

ドックン!

アキトを見て笑っている男がいる。

夢なのか現実なのか、その区別すら付かない。

漆黒の戦闘服を着た男が、アキトの事をのぞき込んでいる。

 

「なんだその目は?金色の目?」

 

そんな男に、アキトは白衣を着ていた男の姿を思い出した。

それは、アキトが忘れていたはずの、いや、目を逸らしていたはずの記憶の断片だった。

 

『みんなで楽しませてもらうから、君もそこで楽しむといいよ』

 

白衣の男がそう言って、ニヤリと笑った。

アキトの心に、ジワリと何かが広がってくる。

決して不快なモノではなく、とても身近に感じるものが、アキトの心を支配しようとしていた。

それは、大切なものを失ったアキトが生きていくために縋った、狂気という名の希望。

 

(許さない・・・・・・絶対に許さない)

 

ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン。

アキトの心臓が、うるさいほどに脈打っている。

その時、アキトを殺そうとしている男の手で、一瞬ナイフが光る。

それを見た瞬間、アキトの顔が憎悪に歪む。

 

(北辰!!)

 

アキトの憎悪と共に、世界が暗転した。

何もない闇の世界に、一人の男が姿を現した。

編み笠をかぶった男が、薄笑いを浮かべながらその手に小太刀を握る。

闇の世界の中、確かにその男は存在した。

そして、その危険な男の視線の先には、少女が居た。

闇の世界を彩る、可憐な少女達。

一人、薄桃色の髪をした幼女が、アキトに助けを求めている。

一人、瑠璃色の髪をした少女が、気丈にも両手を広げて、幼女を護るようにしてを編み笠の男と対峙している。

 

(ルリちゃん!ラピス!)

 

無意識に出た言葉。

それは、未来の暗示か。

逃れられない運命なのか。

アキトは、目の前で展開される殺戮の宴を、腕の一振りで振り払った。

 

(これが運命だと?・・・・・・これが、あの娘達の未来だというのか!!)

 

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

 

(ふざけるな)

 

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

ドックン、ドックン、ドックン、ドックン。

 

(俺は・・・・・・!)

 

(お兄ちゃん、もう起きなきゃ)

 

優しい声。

突如として、覚醒する意識。

世界が、広がる。

そして、眼前に迫るのは、狂おしいほど愛しい、光。

 

「気に入らねえ!まずはその目からえぐってやるよ!!」

 

「いやぁ、兄様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知らず知らずのうちに、笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ばっ・・・・・・馬鹿な」

 

男は、信じられないといった顔でアキトの事を見ている。

そして、自分の首筋に手を当てる。

止まらない。

血が、止まらないのだ。

 

「お、お前は!!」

 

「・・・・・・黙って死ね・・・・・・」

 

男から奪ったナイフを、アキトは再度振るう。

皆が言葉を忘れた。

誰が、コンバットナイフで人間の首が両断できると思うだろうか。

だが、その信じられない光景が、彼らの眼前で展開されていた。

激しく吹き上げる男の血が、アキトの白かった髪を深紅に染め上げる。

その、禍々しいまでの美しさに、その場にいた誰もが言葉を忘れた。

 

「随分と、なめたマネをしてくれる」

 

アキトが、ゆっくりと立ち上がる。

全身を男の返り血で真っ赤に染め、その深い闇をたたえた瞳で、男達を射抜く。

 

「なんなんだ・・・・・・お前は?」

 

やっとの事でそう口にした男を、アキトは完全に無視した。

未だ血の滴る髪を片手でかき上げる。

芸術。

全身を血に染めたアキトの仕草は、その一つ一つが芸術的だった。

 

「こんな奴らに、好き勝手されるとは」

 

アキトのその冷たい視線が、カオリを担ぎ上げている男を見る。

アキトとNo23。

強烈な意志を持つ視線と、意志のない視線。

その二つがぶつかりあう。

 

「カオリを放せ」

 

その言葉に、今まで大人しかった男の1人が、ズカズカとアキトに近寄る。

だが、アキトは視線すら動かさず、完全に男を無視している。

 

「てめえ、調子に乗るんじゃねえ!」

 

ヒュン!

男がナイフを突き出すが、アキトには当たらない。

視線は、カオリを担いでいるNo23からはずさない。

それでもナイフをいとも簡単にかわすと、アキトはなんの躊躇いもなく男の喉を切り裂く。

 

「皮肉なモノだな」

 

喉を切り裂かれ、ヒューヒューという音をさせながら倒れる男には目もくれず、つぶやくアキト。

彼の心に、ゆっくりと闇が広がっていく。

全てを飲み込む闇。

彼の良心、道徳心、その他全ての心を黒く塗りつぶしていくそれは、まさしく闇であった。

アキトの心に残るのは、ただ殺意のみ。

 

「あの男の存在が・・・・・・あの忌まわしい過去が、俺に力を与えてくれる」

 

少しずつ意識がハッキリしてきたカオリは、1人つぶやくアキトを見ながら恐怖で震えていた。

彼女には見えていたのだ。

アキトを中心に広がっていく、今まで感じたことの無いほどの死の気配が。

男達に銃を向けられた時ですら感じなかった確かな死の存在を、彼女は全身で感じ取っていた。

 

「おい、抵抗するな!抵抗するとこの女を殺すぞ!」

 

金切り声をあげる男。

禁忌。

男は言ってはならない台詞を口にした。

 

「カオリを・・・・・・殺すだと!?」

 

突然、アキトの顔に緑の奔流が浮かび上がった。

 

「っ!!」

 

男達が息をのんだ瞬間、アキトが跳んだ。

No23も反応するが、アキトの方が早い。

ヒュン!

一瞬だった。

アキトのナイフが一閃し、カオリを抱えていたNo23腕を、肘の辺りから両断した。

そして、カオリの服をつかむと、中段蹴りでNo23をはじき飛ばした。

 

「ッ・・・・・・グワアアアアアアアア!!」

 

No23の絶叫が聞こえる中、アキトはカオリを床に寝かせた。

 

「平気か、カオリ?」

 

「ヒッ!!」

 

アキトの問いかけに、可哀想なくらい怯えているカオリ。

アキトは、一つため息をつくと、ゆっくりと立ち上がる。

 

「・・・・・・お前はそこで目を瞑っていろ。ここから先は、俺の領域だ」

 

再び部屋中に、濃密な死の気配が広がった。

先ほどアキトに腕を切られたNo23は、戦闘意欲を失ったのか、今ではアキトに背を向け震えている。

それをつまらなそうに一瞥したアキトが、ナイフを手にゆっくりと近づいてゆく。

一瞬、アキトの顔に浮かび上がった緑の奔流が、光を強める。

 

「だっ、駄目です兄様!!」

 

シュッ!

カオリの必死の叫びもむなしく、アキトはNo23の喉を平然と切り裂く。

No23は、一瞬痙攣したと思うと、無惨な姿をさらしたまま死んだ。

 

「「っ!!」」

 

残った二人が息をのむ。

 

「雑魚共が」

 

そう口走りながら、残りの男たちの方に向かうアキト。

彼らは唖然としていた。

一歩ずつ、死が近付いてくる。

徐々に、男達の心を恐怖が犯していく。

 

「こっ、この野郎!!」

 

今頃になって、やっと銃を構える男。

刹那、アキトの姿が男の視界から消えた。

ゴキ!

そんな音がしたと思うと、男の右腕が不自然な方に折れ曲がっていた。

 

「え?」

 

男は何が起こったのかわからなかった。

ただ、銃を握っていたはずの腕が、本来ならあり得ない方向に折れ曲がっていたのだ。

そして、彼の横には氷の気配を纏う男。

死神。

アキトが男の顔を鷲掴みにし、そして足を刈る。

そのまま全身の体重をかけるようにして、倒れる男の後頭部を床に叩き付ける。

何とも形容しがたい音が辺りに響いたかと思うと、男は後頭部から大量の血を流し、やがて絶命した。

 

「弱すぎる」

 

つまらなそうに呟くアキトを、残った隊長格の男は呆然と見ている。

仲間が殺された怒りなど感じる余裕すらない。

彼らは、絶対的な闇に触れしまったのだ。

そして、その代償として支払わなくてはならないモノは、自らの命。

男の視線の先で、アキトがゆっくりと立ち上がる。

 

「・・・・・・馬鹿な。貴様はカシワギトウヤではない。なのに、なぜ我らがこうまで一方的にやられる!『同居人』は、何の特徴もない一般人だったはずだ!」

 

そう言って後ずさる男を、ゆっくりと追うアキト。

その金色の瞳には、冷たい色が宿っている。

彼にとって、人間の命など、大した重みなど無い。

 

「くっ・・・・・・来るな!」

 

悲鳴を上げる男が、何か通信機のようなものを取り出し、そのボタンを押した。

アキトが足を止めた。

 

「ふふふっ、これで、お前は終わりだ」

 

「・・・・・・なんだ?この気配は」

 

そう口走ったアキトは、急な悪寒に辺りを見回す。

何かが、近づいてきている。

アキトは目の前の隊長格の男には見向きもせずに、辺りの気配を探っている。

 

(なんだ、この強烈なプレッシャーは?)

 

刹那。

ガラスの割れた窓から、新たに何かが踊り出してきた。

先ほどの侵入者達と同じ、全身黒の戦闘服を着た男。

だが、瞳の色が違う。

あれは、死人の目。

 

「おお、No5!来てくれたのか!!」

 

隊長格の男が、歓喜の声を上げる。

No5と呼ばれた男は、身動ぎ一つせずにアキトの事を見ている。

アキトもアキトで、No5と呼ばれた男から目が離せない。

 

「こいつはさっきの奴とは格が違うぞ。よし、No5よ。奴を殺せ!」

 

刹那、No5が動いた。

自分のそばに立っていた隊長格の男の顔を、鷲掴みにして持ち上げた。

 

「なっ、何をする!!」

 

「無能者には死を」

 

グシャ!

一瞬だった。

男の頭が、まるで卵のように潰れた。

たったその一瞬で、男の命は無惨にも散った。

No5は死体を放り投げると、まるで何事もなかったかのようにアキトに向き直る。

そして、一言つぶやいた。

 

「お前、『狼』か?」

 

「さあ、どうだろうな」

 

薄笑いを浮かべるアキト。

No5は、アキトのその笑みに何を思うか。

 

「・・・・・・絶望の中で死ね。『狼』よ」

 

「よけて、兄様!!」

 

カオリの声に反応して、アキトはとっさに跳ぶ。

刹那、アキトが先ほどまで立っていた場所の床が、大きな音を立てて陥没した。

すぐさま体制を立て直すアキト。

No5は、不思議そうにアキトの事を見ている。

 

「はずした?かわした?・・・・・・なぜ?」

 

「ちっ!」

 

刹那、アキトが仕掛ける。

瞬時に男に接近し、ナイフを振るう。

ギン!

男は全く表情を変えずに、無造作に左腕でナイフを弾いた。

続いて第二撃を放つアキト。

だが、それすらも男の左腕に阻まれてしまった。

アキトはそのままの勢いで体当たりを入れ、とりあえずNo5との距離をとった。

 

「ちっ、超能力だけの能なしではないか」

 

「・・・・・・」

 

アキトの問いかけにも、男は表情一つ変えない。

ただ、ひどくゆっくりと左手を動かすだけ。

刹那、その腕に白銀の輝きが宿る。

 

(大型ナイフ!)

 

ヒュン!

男は一瞬にしてアキトとの間合いを詰めると、鋭い斬撃を繰り出してきた。

アキトはとっさにかわすと、相手の腕をとり、関節を極めて折る。

だが、No5はナイフを取り落とす事もなく、平然としている。

 

「・・・・・・『狼』、殺す・・・・・・」

 

「ふん」

 

一瞬にして相手の体勢を崩すアキト。

そして、アキトの背負い投げ。

あまりに素早い投げ技に、男は反応すら出来ずに壁に叩き付けられた。

だが、効いていない。

 

「頑丈だな」

 

本来なら昏倒してもおかしくないのだが、男は何事もなかったように立ち上がる。

 

「兄様!」

 

「来るな、邪魔だ」

 

自らに駆け寄ろうとするカオリを、その冷たい視線で制すアキト。

いかにアキトといえども、ブランクがあまりにも長すぎた。

咄嗟の判断速度、肉体の反応速度、ともに全盛期のそれに遠く及ばない。

体に染みついた木連式柔は問題なく発揮できるのだが、それでもアキトは明らかに弱くなっていた。

その状態で、足手まといが居るのは命に関わる。

 

「どうした。俺を殺るんじゃないのか?」

 

アキトのその台詞と同時に、再び男が襲いかかってきた。

男は腕が折れているのもお構いなしに、次々と攻撃を繰り出してくる。

アキトはその攻撃をかろうじて防いでいたが、さすがに長い間鍛えていなかった事が災いした。

次第に、相手の攻撃を捌ききれなくなる。

 

(強い。いくら俺の体が衰えているとはいえ、この強さは。それにこいつ、痛みを感じないどころか、感情さえもっていない)

 

ザン!

ついに男の斬撃がアキトの肩口をとらえる。

飛び散る鮮血。

 

「兄様!」

 

「大丈夫だ。痛みは感じない」

 

そう、敵と同じく、アキトの方も痛みは感じない。

肩口から流れる血も、ある程度は意志の力で止血をする。

 

「さて、そろそろ終わりにするか」

 

アキトはそう言って、一気に攻勢に出る。

間合いを詰め、相手に肉薄する。

アキトのその動きに、冷静にナイフを繰り出してくる男。

 

「遅い!」

 

男のナイフが自分の体に触れる前、ほんの一瞬早くアキトのナイフが相手の喉を切る。

だが、浅い。

さらなる一撃を繰り出そうとする男に、アキトはさらに一撃を加える。

キン!

そんな音がして、アキトは相手の左腕を切り落とした。

そこで初めて、驚愕の事実が判明した。

 

「義手か?いや、強化パーツか」

 

アキトが切り落とした左腕は、機械でできていた。

はじめにアキトのナイフを弾いていたのは、この機械でできていた左腕だった。

それを両断できたのは、アキトの技量の高さ故だろう。

 

「兄様!」

 

カオリの声に反応したアキトは、とっさに両腕でガードする。

刹那、激しい衝撃がアキトのガードした腕を襲った。

ミシミシ。

アキトの全身の骨格が、悲鳴を上げる。

 

「くっ・・・・・・まずい」

 

相手の不可思議な力に、一瞬棒立ちになるアキト。

一瞬の隙が、勝敗を左右する。

それなのに、No5は襲ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かを探るように、辺りを見回しているNo5。

アキトはゆっくりと呼吸を整えつつ、油断無く相手の出方を探っている。

全身がひしゃげそうな圧力は、すでに感じなくなっていた。

全身の隅々まで、気が行き届いている。

 

(よし、問題ないな。それより、あいつは何を気にしている?)

 

明らかに挙動不審の相手に、さすがのアキトもうかつには手を出さない。

黙って、様子をうかがっている。

次の瞬間。

 

『ウォーーーーーーーーン!』

 

何かが聞こえた。

そう、まるで狼の遠吠えのような。

すると突然、No5が身を翻した。

アキトですら唖然とするほどの速度で、窓から外に飛び出した。

 

「ちっ!」

 

アキトは舌打ちして、すぐさま後を追う。

窓から飛び出し、庭に出たアキトは、そこで信じられない光景を目の当たりにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、No5の体を素手で引き裂き、その首を手にしている獣がいた。

そして、後を追ってきたアキトの目の前で、その首を握りつぶして見せた。

その落ち着いた雰囲気が、行っている行動とは正反対だった。

ただの作業。

ただ、それだけ。

アキトは獣を黙って睨みながら、ゆっくりと口を開く。

 

「お前・・・・・・トウヤか?」

 

「へえ、よくわかったな。結構、変化してると思ったんだが」

 

そう言って面白そうに笑うトウヤに、アキトは戦慄を覚えていた。

なぜなら、トウヤの気配が尋常ではなかった。

全身血まみれでありながら、余りにも自然体。

血にまみれている事が、至って自然かのような印象を受ける。

 

「それにしても、見事な手際だ」

 

「なに?」

 

「何の躊躇もない。人を殺し慣れている、そんな感じだな」

 

「・・・・・・何が言いたい?」

 

アキトが殺気を強める。

だが、トウヤはアキトの強烈な殺意に晒されても、顔色1つ変えずにいる。

全てが自然で、それ故にアキトはトウヤに言い知れぬ恐怖を感じていた。

アキトがゆっくりと構える。

 

「勘違いするな。俺は感心してるんだよ。テンカワ・アキト」

 

「・・・・・・」

 

アキトが構えを解かないのを見て、軽く肩をすくめる。

 

「見た事ない構えだが、その辺でやめておけ。お前を殺すつもりはない」

 

にやりと笑うトウヤの口から、鋭い犬歯が覗く。

カタカタカタ。

何かが、鳴っている。

アキトは最初は、その音が何なのかわからなかった。

震えていたのだ。

アキト自身が、トウヤを目の前にして、震えていた。

相手は獣。

人が、獣に勝てるはずがなかった。

 

「殺る気か?」

 

「・・・・・・くっ、クソッ!」

 

恐怖に負けたアキトは、目にも止まらぬ速さでトウヤに向かって飛び込む。

掌底。

だが、それをいとも簡単に捌くトウヤ。

まるで空気を相手にしているかのような、手応えのなさに驚くアキト。

刹那、トウヤの姿がアキトの視界から消えた。

もはや人では反応できない速度。

そもそも、トウヤとアキトでは、住んでいるスピードの領域が違いすぎるのだ。

 

「な!!」

 

アキトが驚きの声を上げた瞬間、トウヤはその背後に居た。

 

「身の程知らずが」

 

「やめて、お父様!!」

 

カオリの悲鳴と、その衝撃は同時だった。

突然、背後から形容しがたいほどの衝撃がアキトを襲う。

全身がバラバラになるかと思うほどの衝撃。

 

「なんだ・・・・・と」

 

全身から力が抜け、アキトはゆっくりと崩れ落ちる。

かすかに、カオリが自分にしがみついてきているのがわかる。

彼女は、No5を追ったアキトが心配で家から飛び出して来たのだ。

アキトが倒れる光景を見てしまったカオリが、涙声でアキトに必死に呼びかける。

だが、アキトは完全に意識を失っていた。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

妖精の守護者外伝『The blank of 2years』の第4話、いかがでしたでしょうか。

皆様お待たせいたしました。

ついに、テンカワアキトが記憶を取り戻しました。

圧倒的な力。

圧倒的な闇。

その力は、衰えも知らず、邪魔者全てを殺し尽くします。

彼は居る世界に関係なく、ただ目障りな敵に対して死を与えています。

そしてアキトは、彼の師となる人間との出会いました。

能力を解放したカシワギトウヤと、記憶を取り戻した闇の王子。

この出会いが、悲劇で幕を閉じるはずだった妖精達の未来を変える事になります。

さて、今回も主要キャラクターを整理しておきますので、読む際の参考にしてください。

 

テンカワ・アキト・・・・・・・・・主人公。記憶を取り戻した闇の王子。その圧倒的な力で、襲いかかってきた敵をカオリの見ている前で惨殺していく。

カシワギ・トウヤ・・・・・・・・・カオリの父。『狼』と呼ばれる兵士。その力は、記憶を取り戻したアキトを一撃で倒すほど。

カシワギ・カオリ・・・・・・・・・トウヤの義理の娘。その能力は、人の深層心理まで見通す読心術から、物体を破壊するほどの威力を持つ念動力まで多種多彩。

ラピス・ラズリ・・・・・・・・・・・後にアキトの娘となる少女。その小さな体でアキトの生命を支える、ホシノ・ルリの遺伝子をベースとして作られた少女。

ホシノ・ルリ・・・・・・・・・・・・・アキトにとって掛け替えのない存在。電子の妖精とよばれ、電子戦においての彼女は向かうところ敵なし。

アヤカ・・・・・・・・・・・・・・・・・アキトが火星の後継者の研究所で出会った少女。アキトと心を通わせ恋人となるが、現在は行方不明。

ミズハラ・アヤカ・・・・・・・・・故人。アキトが地球の病院で出逢った少女。アキトの人生に絶大な影響を与えた少女。

 

さて皆様、今回のお話はいかがでしたでしょうか。

是非ともご意見、ご感想等をお送りください。

必ず返事を書かせて頂きますので、よろしくお願いいたします。

それでは、この辺りで。

 




艦長からのお礼


はい、どーも。

『社団法人 壊れテンカワアキト推進協議会』筆頭幹事のP−31です(笑)

これや。

やっぱコレなんや!(爆)

この人はやっぱこうでなくちゃ!

アットホームなんて言葉は似合いませんぜ!(笑)

さあ、バリバリ逝かせましょうか!


さあ、続きが見たけりゃここにメールを出すんだ!

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