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あっちこっちへ流れるテールランプ。
夜、車どおりの少ない道を走っていたのであいにく事故にはならなかったが…

「あっ、アスカ!!危ないじゃないか。」

シンジは、そう声を上げる。
…ここで、「ごめんね、シンジ」なんて聞けるならいいんだけど、多分…

「あんたがハンドルしっかり握ってないからでしょ!もう、馬鹿シンジなんだから!」

やっぱり…
わかっていてもちょっと悔しい。
ぷんすかしながら、狭い車内を見回すアスカ。

「何でこんな狭い車なのよ。寝れないじゃない。」
「あのねぇ、アスカ。そんな車じゃないんだってば。」

MAZDA RX-7
スポーツカーでありながら、燃費の向上、完全燃焼によるクリーンな排ガスを目指して
作られたロータリーエンジン搭載の戦闘機。
もっとも、ロータリーのよさはシミュレーション上による最高であって、ロータリーの特色
として実際には少し狂うだけでその補正に多大な時間とお金を消費するとあって、
本当に好きな人が手塩にかけて走らせる車になっている。
理論ではリッターあたり15キロ近く行くはずが、リッター3キロと言う(しかもハイオクオンリー)
「高」燃費な車であるから仕方が無いと言うものである。
それでも、その小型さ、そのパワー、その軽さは通常のエンジンでは到底不可能な
領域であり賞賛の言葉以外には出ない。
が、そんなことはアスカにとっては知った事ではない。
とにかく狭い…と、言うほど狭いわけではないのだが、最近遠出をするときには加持の
ランクルやトウジのアコードワゴンなどがメインであったので当然狭いと感じる。

「こんなんだったら、加持さんの車を借りてこればよかったのに。」
「加持さんは今日は仕事だよ。それに、この車…自分の車で行きたかったんだ。」

急な昇りの山道に差し掛かる。
シンジのハンドルを持つ手が、適度な緊張感を帯びる。
ぎゅいんっ。
低い車高、がっちりとした足回りは急カーブの多い山道でもしっかりと路面に喰らいつく。

「シッ、シンジ、そんなに速度だし…あわわ、出したら危ないってば。」

シートベルトをしっかり握りながら、アスカはいつもと違う冷静さを持つシンジの横顔を見る。

ぎゅいぎゅいぎゅいぎゅい。

リアのグリップが無くなりそのまま外に流れ始める。

「きゃぁぁぁ。」

目の前のガードレールが横に動いていく。
…あっ、車って横にも走ることが出来るんだ。
アスカの頭は混乱の極みにいた。

がおんっ。

対向車の無い山道を、山肌すれすれに後輪を滑らしながら登る青いRX-7。
アスカの目はせまり来る山肌と、シンジの真剣な表情とを行ったり来たりしていた。

がぉん、がぉんぉん。

立て続けのマフラー音。
そして減速。
アスカの目の前にパーキングエリアが広がっていた。

「さてと、こいつも休憩だよ。…アスカ、どうしたの?」

しっかりとシートベルトを握り締めていたアスカは、そのシンジのとぼけたような声に、

「あっ、あんたが無茶するからでしょーがぁぁぁぁ!!」

ガツン!
と一発を食らわせていた。





「まぁぁったくぅもぉぉ。死ぬかと思ったじゃないの!」

アスカの髪が揺らいで見える。

「降りるときは安全運転!わかった!?」
「下りの方が楽しいのに…」
「なんか言った?」

ぎろっ、とにらまれてシンジは何もいえない。
手にはパーキングエリア備え付けの自販機の缶コーヒー。

「で、何でこんなところに来たのよ。」
「あれが楽しかったからじゃないか…いえ、ほら、上、上。」

見上げれば、満天の星空。
さっきまでの車のどきどきと怒りでアスカは気がつかなかったのだ。

「…たしかに綺麗ね。」
「お気に召しましたか、お嬢様。」

6年の歳月は、シンジにこれくらいの事を言わせるだけの時間を与えた。
シンジの右に寄り添うように立つアスカ。
そしてゆっくりと、シンジの手がアスカの肩に置かれる。

「何でそこで、そこに手を置くかしら?」
「ん?」

シンジの右手は、アスカの左肩の上に。
…抱き寄せたって、叩きゃしないわよ。
抱き寄せて欲しい、とは絶対にいえないアスカであった。
おかげでちょいとご機嫌が斜めになる。

「これだけのために誘った…ってわけじゃないでしょうね?」
「ん…まぁ、ね。」
「そういえば、どこに行くかもまだ教えてもらって無かったわね?」

アスカは詰め寄るようにして、シンジの腕の下あたりへ。
既に20にもなり、シンジの身長が頭半分以上アスカの上を行っている。
そしてその体が触れ合わんばかりの距離の近さは、傍から見れば「抱き寄せて欲しい」
という合図なのは明白だが…

「明日…もう、今日だね。何の日だったか覚えてる?」
「今日?なにがあったかしら?誰の誕生日でもないし…」

シンジの胸に頭を預けんばかりに近寄ったまま、アスカはあごに手を当てて悩む。
そんなアスカを抱き寄せる振りさえしない。
特有の包み込むような雰囲気のまま上から答える。

「…軽井沢へね?行こうと思って。あの近江屋って旅館の温泉に…」
「思い出したわ。マグマダイビングの日ね。」

第八使徒殲滅の日。
ちょうど6年前の今日がその日であったのだ。
そしてあの時はその旅館に一泊して…
あの時はミサトがいたけど、今日はシンジと二人っきり。
シンジがあたしの事を…
ぽんっ、とアスカの顔が赤くなる。

「ひょ…ひょっとして、その旅館で…」
「日帰りだよ、だから夜から出たんだから?」

アスカの期待がガラガラ、と音を立てて崩れていく。
…こ、この男はぁぁぁぁ!!

「ば、馬鹿シンジィィィィ!!」
「なっ、何だよいったい?」

ぷんっ、とそのまま助手席に向かうアスカ。
シンジは星空を見上げると、ふぅとため息をついて一言つぶやく。

「ごめん、アスカ。」

と。






下り坂は、シンジがうずうずしながらもそれでもアスカが怖がらない程度のスピードで下っていく。
ラジオはまた聞くともなしに点けられていた。


さて、夜1時半を回りました。
そういえば、この間部屋の中を掃除していたときに古いCDを見つけましてね。
セカンドインパクトより10年近く前の代物で…なんだか感動しましたね。
どうやら親父のコレクションだったみたいで…演歌歌手の中にポツン、とPOPSが入ってて…

軽快なイントロが流れ始める。

あっ、聞こえてきましたね。
その昔POPSから演歌歌手に転向した女性歌手。
長山洋子で、「瞳の中のファーラウェイ」


 




もしも 言葉の無い時代なら
もっとうまく みつめるのに
今は 風の向きが変わるたび
時の流れ もどかしいの

雨の朝には虹を渡って
夜更けは三日月の弓引いて
熱い想いを届けたいのに
あなたの瞳は

So Faraway
果てしない 夢を映すよ 瞬きもせず
So Faraway
さぁ越えよう あなたの後を ついてゆくから

すべて 分かり合う喜びより
みつからない 心が好き
そっと こぼれる涙の数で
優しさなら 倍になるね

たとえ暗い空ではぐれても
流星にまぎれ見失っても
私だけにはあなたの影が
光って見えるの

So Faraway
さざなみが 白い渚を 染めてくように
So Faraway
さぁ越えよう どんな場所でも 傍にいるから


So Faraway
果てしない 夢を映すよ 瞬きもせず
So Faraway
さぁ越えよう あなたの後を ついてゆくから

もう 一人でいる 自由なんて欲しくない
二人なら

 




アスカが黙りこくっちゃってる。
それにしても最後の一言、強烈な歌だなぁ…

「あたし…その…」

こういうときは、洞木さん真っ青になるくらい夢の中にトリップしてしまうんだよねぇ…アスカも綾波も。
でも、こういう姿もかわいらしいから。
それにしても、「すべてわかりあう喜びより、みつからない心が好き。」ねぇ?
父さん達に聞かせてあげたい歌だな。
って、その頃の人たちのはずなんだよねぇ…セカンドインパクト10年前の歌…って言ってたから。

「あのね、シンジ…あたしは…」

あ、お帰り、アスカ。
いや、まだ半分夢の中かな?
こういうちょっと頬を赤くして、幸せそうなアスカはかわいらしくて仕方が無い。

「!?」

ちょうど坂道が終わって、巡航運転に入ったからシフトノブから手を離してアスカの頭に手を置いてやる。
びくっ、としたように震えて…あれ、アスカうつむいちゃった。
喜んでくれてるんなら、うれしいな。

「あ…あ…シン…ジ…シンジィィィィ!!」

アスカが何か勘違いしたのか、感極まってシンジに抱きつく。














 

 

 

 









だから、ハンドル握ってるの僕だってばぁ!!


GoodNightDrivin' After

After No.2 〜Ver.ASUKA


こんばんわです、お久しぶりです皆様。
鮭でございます。
久しぶりに、久しぶりにGNDシリーズに手をつけました。
今回はAFTER物。
誰か続きを書いてくれるかなぁ?と、期待していたにもかかわらず誰も
続きを書いてくれないので、自分で書いてしまいました。
あれだけの場面があれば、誰か一人ぐらいは…って、思ってたんですけどねぇ。
続き書いてくれる人、募集中…というか、書きたいな?と思いましたら、遠慮なく
書いていただけますと幸いです。
こんな程度の文章で良いんです。
シリーズでもなんでもないので、今回はあれに続く短編集だと思ってください。
ひょっとすると、この続きは書くかも…知れませんし、書かないかも…(笑)

あっ、そういえば、作品中の「ごめん、アスカ。」は、シンジの心情でほんとは
「(はっきりさせられなくて)ごめん、アスカ。」という風でした。
書いちゃうと風情が無いので削除してあるだけですので、LASの方々、
決してシンジ君が「既に」他の人に走っているわけではありませんので(笑)

ということでして、こんなところまで読んでいただきありがとうございました。
また、お会いできますことを…

'99 / 9 / 27 15:50up
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艦長からの御礼。

コメントの必要がないほどのらぶらぶ。
「誰かこいつらを止めろ!」というくらいの(笑)

今回は前回からの続きらしいですね。
車のことはよくわかりませんが、らぶらぶ指数がUPしてるのはわかります(爆)

さて、こんならぶらぶ撃沈モノ(?)を書いてくれた鮭さんにメールをだしませう。
そして催促も(爆)

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