TOPへ/第2書庫へ/











流れよ我が涙、と少年は叫んだ。



ミサト
Presented By Mno




「あれから十五年になりますか。」 見るからに人の良さそうな、職人気質風の男が言った。

ながいね。

彼の隣を歩きながら、俺はそう思う。

セカンドインパクト、それは未だにこの星に、人々の心に傷を付け続けてる呪いの名前。

一般には、大質量隕石の落下による爆発、地軸の大異変と言われている。

だが実際には、すでに南極の分厚い氷の下に落っこちていた「あれ」を、

下手にいじくって自ら起こしてしまった愚行の産物。

「まだ当時十歳に成ったばかりだったからねえ。長く感じるよ。」

「ほんとですよ。孫が生まれて、社長が一代でこの会社築き上げて、・・・

(彼はその胸に詰め込んだ物を、吐き捨てるかのように一息つく)

奥様とともに突然お亡くなりに成られて。御曹司が後をお次になった。」

「そして俺は大学を辞め、会社をまとめ、ここまでにした。」

俺は彼の言葉尻をとらえて言う。

しかし、どうしてこうも彼と話すと昔のことに向かってしまうのだろうか、

なぜか空しくなってくる。

彼も、あまり昔話をする場でないことを思い出したのか、

軽く首を振ると俺に分厚いバインダーに挟まれた大小さまざまの書類を取り出してみせる。

「これが今期の出荷分です。」

あらかたは俺も知ってはいるが、それが書類として前にあるとやはり落ち着く。

受け取って大事に懐にしまう。

「Rー5の開発はどうなっているんかな?」

新規開発だけでもプロジェクトが五つもあるのだ。

今もっとも有望そうな物だけでも確認しておく方がいい。

  「まだまだです。何しろ、Rー4が良すぎましたから。」

  Rー4は我が社こと、トリドロイド社がいままで(最高の品質を)をモットーに

細々と積み重ねてきた技術を一度ばらして、コスト・性能・リスクのバランスを最重視した

最高の人型戦闘用ドロイドだ。
一体につき、¥250万、折り畳むと旅行用スーツケースより小さく、武器はサブマシンガンと

手榴弾のみながらその他の武器は与えるだけで使いこなすことが出来、自己の判断で任務を

遂行する事の出来る人工知能も搭載、追加バッテリーを装備すれば連続一週間の行動も可能。

至上まれにみる、大量運用型ベストセラー兵器だ。

Rー5はその後継機なのだがしょうがないか。会社経営も難しいもんだな。

兄が良すぎると、弟が苦労する。

俺の苦笑が出てしまったのか、彼は言った。

  「今日は、此処までにしておきましょう。御曹司も戦自の仕事でお疲れでしょうから。」

  俺は戦自の技術将校も片手間でやっている。

  「そうだねえ。此処までにしておこうかい。」

そう答えると、ラボの見学用通路から出てオフィスと駐車場を兼ねる本社ビルへと向かう。

彼は本社前のロータリーまで見送ってくれた。

  「坊ちゃんによろしく。また遊びに来るようにいっといて下さい、孫が待ってますからって。」

「ええ、後を頼みますよ。霧島工場長」

  俺は、専務と研究所所長の掛け持ちで俺より忙しいはずの彼に答える。

彼の孫はシンジと同い年だったか?、女の子だったはずだ。

また会えるとしても、いつのことに成るやら。

  幹線道路に車をのせると、ダッシュボードの中から今朝届いた碇シンジ宛の封筒を取り出した。

 




「どうするんだ? 行くんか?」 北方シロツグは、大量にあった夕食がきれいになくなった机の上で、極上の玉露で食後の一服を

楽しみながら尋ねた。

彼ののんびりとした様子と対象的に、シンジはうつむき気味に父からの手紙をにらみつける。

そして、その大きめの封筒の中に手をっつこんでかき回し、今度は逆さにして降ってみて、その中に

写真、手紙と身分証明カードしか入っていないのを確認すると、悲しそうに小父の顔を見る。

  「小父さん?これ見てよ。これだけでどうしろっていうのさ?」

  シロツグはいともあっさりと無視すると、写真を手に取る。

「ううむ?ゲンドウもついにこのべっぴんさんと再婚か?」

もう八年もの間放っておかれたことで、意固地になってしまっている少年におどけてみせる。

シンジもからかわれているのが判ったのか、口を尖らせてむくれてみせた。

「そうむくれんなや、シンジ。こいつは何か裏にあるやもしれん。」

シロツグが素にもどったことで、シンジも真剣な表情になる。そしてシロツグが言ったことに、

眉をしかめて見せ、やっぱりといった顔に変わる。

  「小父さん。やっぱり父さんが呼ぶくらいだから、僕に何かさせるつもりなのかな?」

「たぶんな。片足つっこんだら最後まで抜けられん様になるかもしれんぞ。」

唸り始めたシンジに短く警告すると、シロツグは妥協案を上げてみせる。

「シンジ。一日二日延びたところで、だれも文句は言うまい。

今日のところは鍛錬して、風呂に入ってとっとと寝ちまえ。」

「うん、そうする。」

   シンジ自身もこの手紙に不信感を抱いていたのか、さっさと行ってしまった。

いやただ自分で決められなかっただけなのかもしれないが。

一人残ったシロツグは、もう一度手紙を一別し、「やっぱり来たか。」とつぶやくと、

この家に一台だけ置いてある電話に向かって行った。




シンジが早朝ランニングを終えて戻ってくると、食卓にはもうすでにととのっていた。

120gステーキ、バターロール、ニラ玉、牛乳、てんこ盛りのサラダ、そして

フルーツの盛り合わせ、朝から結構ハードだ。

シンジはそれを気にする風でもなく、さっと軽くシャワーを浴びてくると席に着き食べ始めた。

  「シンジ決心ついたみたいやな。」

  すでに食べ終わったシロツグが一応の確認をとる。実は彼は昨日のうちに荷物を積めたり、

縛っていたのを知っていた。だからこれは、第三新東京市に行くことではなく、

ゲンドウと対決する事への確認と言った方がよいかもしれない。

  「いろいろ聞きたいことがあるし、もっと友達もほしいし。」

案外ゲンドウの事とは気にして無いみたいだ

シンジも朝食を詰め込みながら答える。

「今日の8:10の便で行くことにしたから。」

以外としっかりとしている

  「うむ、一昨日慌てて行かなくて良かったみたいだーなー」

因みに手紙が届いて五日目だ

「どうしたの小父さん?」

シンジはまだ口をはぐはぐさせながら、シロツグが見ているそばから新聞に頭を突っ込んで読む。

其処には、{第三新東京市でテロか??} と大見出しとともに、かなりの広範囲にわたって

破壊され尽くされた町の、様々な場所の写真が載っていた。

初めは記事に沿って読んでいたシンジだったが、ある小さな写真のところで目が止まってしまった。

  「小父さん、これって?」

  よくよく見ないと判らないが、よく研究所に遊びに行くシンジには、見慣れた物が写っていた。

「ああ、ロボットもしくはそれに批准した二足歩行兵器だな。

この足跡の大きさだと、信じられんが身長5〜60Mはありそうだな。」

もちろんこれがなにを意味するのかシロツグは知っていた。ただの関係者程度では

知る筈のないことまで。だが何度となくしかけられた盗聴機や、監視カメラを見つける度シンジに

どんな目的で用いられる物とか、どうやって見つけるとか事細かに、ばれないように教えた。

また、もしかの時のために、護身術、サバイバル技術、兵器学をみっちり仕込んでおいた。

だから、シロツグ自身シンジがゲンドウの所に行く事について、何の心配もしていなかった。

「これも父さんの仕事か、・・・」

少しの間ずっとのぞいていたため、結局シンジは電車の時間に遅れそうになり、

シロツグに車で駅まで送ってもらう羽目になった。

その間に、念のためにとホットライン付きの携帯電話と20万の餞別を貰い、シロツグから

  「いつまでたっても、俺はおまえの家族なんだから、やばくなったらすぐ逃げてこい。」

  との言葉に、幾ばくかの安心と年の離れた兄に感動を覚えていた。

今度逢うまでには、彼女の一人や二人は作っておくようにとの言葉には、少々辟易したが。




シンジは列車から降りてきたとき、なんて寂しい駅なのだろうかと考えていた。

彼の乗ってきた列車もそうだったからだ。<政府要人専用列車だから当たり前>

普通ならば、駅から少しの間商店街や、Am.Pm.くらい有っても言いものなのだが、それすらなく

突然のビル街が始まっており、小さなベンチが一脚有るのみである。

それに加えて、何度かけても繋がらない電話、すでに一時間以上待たされていることが、

珍しく、シンジの思考をネガティヴにしていた。

  「はあ〜来るべきじゃなかった・・・かな」

  ため息をつく度にどろどろした物が溢れ落ちてくる様な感覚にとらわれていたため、

まるでジェットエンジンそのものが、彼に誘導されたかの様に接近していたことに気づかなかった。

  その青い物体はギリギリで飛びすさったシンジを思いっきり跳ねかけ、豪快に2回転スピンして

停車した。そしてそのタイヤからもうもうと熱による化学変化の証が立ち上り、

ただでさえ狭いロータリーを塞ぎ、いったいどうやって発進するのか聞きたくなるほど、 見事に横向きに停車していた。

  シンジはこんなへたくそな、運転するのがどんな奴なのか見てやろうと思い、

車窓をのぞき込み絶句した。

其処にはあの封筒に入っていた写真の女性が座っていた。

「あなたが碇シンジ君ね。私が葛城ミサト、ミサトさんって呼んでねぇ〜ん」

  シンジはずっこけながら、どろどろした物だけでなくどす黒い物まで溢れ落ちてくる様な感覚にとらわれていた。

続く




はじめましてMn0です。

一応続けていきたいと思います。本編のあとを追っかけますが、

最後には・ゼーレ・ネルフ・そしてもう一つの三つどもえになる予定です。

まだハッピーエンドにするかどうかまでは決まってません。(多分なる出背負う)

そして前半は一人称で書いていきます。<因みに、今回はシロツグ小父さん25歳でした> 

次回はミサトでゴー

 


艦長からのお礼


新たな士官、MnoさんからSSを頂きました。
ありがとうございます。

再構成物ですね。
とりあえずプロローグ的なもんでしょうか。
先が楽しみっすね。

タイトルを読んだとき、フィリップ・K・ディックの作品を思い出しました。


さあ、続きが読みたきゃここにメールを出すんだ!(爆)

TOPへ/第2書庫へ/