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Close to me
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その日、惣流・アスカ・ラングレーは、熱を出して寝込んでいた。
普段は気にならない部屋の静けさが、今日はとても気になる。
ほう。
アスカは、熱のために重い吐息をつく。
身体がだるい。
頭の芯がじんわりと痛む。
四肢が冷たい。
「・・・・・・寂しいな」
思わず、呟きが漏れる。
それでなくとも気が滅入る病床。
ましてや、病気で寝込んだことなどほとんどないアスカにとって、今の状態は、とても心細いものだった。
(寂しい、か・・・・・・)
(私・・・・・・何時の間にこんなに弱くなったんだろう?)
私は独りでも生きていける。
母を失った時に、そう誓ったはずなのに。
そうして生きてきたはずなのに。
ふと、視界が滲んだ。
「・・・・・・寝よ。早く治さなきゃ」
起きていると、どんどん嫌な考えばかり浮かんできそうだった。
アスカは毛布を被り、目を閉じる。
だが、そう考えれば考えるほど、目が冴えてしまう。
アスカは、自分自身を抱きしめるように、身体を丸めた。
それからどれくらい経ったのだろうか、アスカの耳が、玄関のドアが開閉する音を捉える。
(・・・・・・え?)
この部屋のスペアのカードキーを持っているのは、二人だけ。
一人は、加持リョウジと結婚し、この部屋を出て行った保護者の葛城ミサト。
もう一人は・・・・・・
「・・・・・・アスカ、起きてる? 入るよ?」
遠慮がちなノックの音とともに、聞き慣れた少年の声が問うた。
「シンジ?」
静かにドアを開けた制服姿の碇シンジを見て、アスカは思わず起きあがってしまう。
「ダメだよ、ちゃんと寝てなきゃ」
苦笑を浮かべたシンジは、ベッドの傍らへ歩み寄り、彼女を寝かしつける。
熱の所為か、元々白い肌が青ざめ、生気が欠けた瞳は、潤みがちだった。
「何で此処に居るのよ? 学校は?」
口調こそきついが、驚きと喜びがない交ぜになった表情で、アスカは訊く。
「休みの連絡、学校にしたでしょ? そこから人づてに連絡をもらってね。今日は、自主休校」
枕元に跪き、アスカに目線をあわせたシンジは、柔らかく微笑むと、彼女の顔にかかる髪を、そっと手で梳く。
「熱は?」
「37.6度」
額に触れるシンジの手の冷たさが、心地よい。
「薬は飲んだ?」
アスカは頷く。
「何か欲しいもの、ある?」
間近にある、端正なシンジの顔。
惚れた弱みか、熱の所為か、普段は明晰さを誇るアスカの頭は、ぼうっとなっていた。
思わず、大胆なことを口にする。
「・・・・・・添い寝して」
一瞬の沈黙。
突然の言葉に、シンジは首筋まで真っ赤になっていた。
「だめ?」
迷子になった子供のように、心細いアスカの表情。
あらゆる感情に、愛おしさが勝った。
シンジは一つ、大きく息を吐くと、言葉ではなく、行動で答える。
「・・・・・・ありがと」
自分の隣に身を横たえた少年の胸に、アスカは縋り付いた。
少女のこころに、例えようもない安心感が広がる。
それは、シンジがそばに居るから。
彼が笑いかけてくれるだけで、触れてくれるだけで、心が満たされるから。
「どうしたの? 今日は」
少女の蜂蜜色の髪を撫でながら、シンジは訊く。
「・・・・・・・独りで居ると、嫌なことばかり考えちゃうの」
呟くように言うアスカの瞳から、涙が溢れる。
「シンジの所為だからね」
「え?」
アスカは、涙で濡れた顔を上げる。
「泣き虫になっちゃったのも、独りで居られないくらい弱くなっちゃったのも、みんなシンジの所為なんだから・・・・・・」
ひとを愛すること。
ひとに愛されること。
それを知ったから、独りではいられない。
「責任、とってよね・・・・・・」
シンジは、少女を抱き寄せると、微笑んだ。
「うん・・・・・・ずっと、そばにいるよ」
「本当に?」
甘えるような声。
「うん」
シンジはそっと、アスカの瞼にくちづける。
涙を拭うように。
「好きだよ、アスカ」
アスカは、少年の黒い瞳を見つめ返し、くすぐったそうな笑みを浮かべる。
「・・・・・・もう一度言って」
「好きだよ」
「もう一度」
「愛してる」
シンジは、アスカの頬に手を添えると、ゆっくりと深く、くちづける。
うつ
「・・・・・・風邪、感染っちゃうよ?」
唇が離れると、アスカは頬に触れる大きな手に、自分のそれを重ねた。
「風邪は他人に感染すと、早く治るんだよ」
シンジは、悪戯っぽく笑う。
「それに、アスカの風邪なら感染されても構わないし」
「・・・・・・ばか・・・・・・ん」
もう一度、二人の唇が重なる。
たっぷり数分後、大人のキスを終えると、アスカはシンジの胸へ顔を埋める。
「・・・・・・ずっと、ずっと、そばにいてね」
「うん」
アスカは目を閉じる。
今度は、あっという間に眠りに落ちた。
そして、その3日後。
アスカは全快し、シンジは望み通り風邪をひいた。
彼の看病のために、ひと騒動起きるのは、また別のお話。
<fin>
艦長からの砲撃命令(爆)
はい、艦長でございます。
この作品、ぢつは玲さんのホームページ”猫柳<裏>通り”で、私が15000HITを踏んでしまった記念なのです。
玲さん、ありがとうございました。
しかも・・・・ゲロ甘だし(笑)
風邪で看病し合う二人・・・・うーん、萌えるシチュエーションやあ(爆)
さあ、これを読んだアナタ!今すぐぶらざー玲さんにメールを送るのだ!
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