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DUAL MIND  第1話

 

 

 

 

 

西暦2004年。

ここはとある研究施設。

けたたましく警報音が鳴っている。

 

「ユイ!」

 

「だ、駄目です!シンクロ率上昇止まりません!」

 

職員が悲鳴を上げている。

全ての計器が異常を示している。

 

「こ、こんな事が起こるはずないわ!準備は完璧だったはずなのに」

 

それは有り得ないはずだった。

世界でもトップクラスの頭脳を持つ者達が、何年もかけて周到に準備してきた実験。

研究所の中核をなす女性が、自ら被験者となったのである。

当然、誰もが実験は成功するものと考えていた。

だが、現実は余りにも冷酷だった。

 

「駄目です!自我境界線を保てません・・・・・・・・このままでは!」

 

喰われてしまう。

職員はそう口にすることが出来なかった。

そこには、被験者の女性の夫と弟がいたのだ。

彼らは、呆然と状況報告を聞いていた。

その2人もまさか実験が失敗するとは思っていなかった。

 

「被、被験者・・・プラグ内で消失しました・・・」

 

職員がそう報告した次の瞬間、辺りに二つの絶叫がこだました。

 

「ユイー!」

 

「姉さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サルベージだ」

 

沈黙を破るかのように、1人の男が口を開く。

痩身、サングラスをかけている。

口振りからして、かなりの地位にある人物のようだ。

 

「えっ?」

 

「ユイのサルベージを行う」

 

「し、しかし・・・それにはユイ博士の身代わりとなる者が必要です」

 

サルベージは不可能ではない。

この研究施設と人材なら可能であろう。

だが、その身代わりとなるものが必要であった。

交換・・・というわけである。

 

「問題無い。生け贄にはシンジを差し出す」

 

男は狂っていたのかも知れない。

シンジという、自分の息子を生け贄に捧げようとするのだから。

だが、彼はそれでも良かったのかも知れない。

息子より、妻の命の方が大事なのである。

 

「待てよ、義兄さん」

 

それまで男の言葉を黙って聞いていた青年が、決心したかのような声で発言する。

スラリとした長身。

しかし鍛え抜かれているであろう肉体。

銀色の髪。

燃える様な赤き瞳。

やや目つきは悪いが、姉と同じ血を引いている事を示すかの様な美しい顔立ち。

全てが、その青年を魅力的に見せる要素となっていた。

 

「俺がシンジの変わりに生け贄になる。生け贄が俺なら、奴も文句は言うまい。それに、自分の息子を生け贄にしたとなれば、姉さんは義兄さんを許さないんじゃないか?」

 

青年の鋭い眼光が男を射抜く。

魂をも貫くかのような眼光。

そして、そのままぐるりと周囲にいた人たちを見回す。

皆その眼光に恐怖した。

気の弱い者は「殺される!」とまで思った。

 

「しかしリュウヤ。おまえの能力はまだ必要だ。」

 

「それは殺しの業のことか?それとも頭脳か?そんなモノは俺にはどうでも良いし、愛する姉さんと甥の命には代えられない。俺は二人のためなら命を捨ててもかまわない・・・・・・少なくともその覚悟はある」

 

その言葉を聞いて、しばらく考え込んでいた男は静かに言った。

 

「良いだろう・・・サルベージの準備だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、失敗・・・」

 

女性職員の中には泣き出したり気を失ったりする者まで出ていた。

 

「なんということだ・・・」

 

壮年の男のつぶやき。

それは絶望で彩られた言葉。

その言葉を聞いたサングラスの男は静かに言った。

彼の表情からは、わずかな苦悩も伺えない。

彼は、表情を殺すことに慣れていたのだ。

それが、組織の上に立つ者としては必要なことだった。

 

「シンジを使って再サルベージだ」

 

「良いのか?碇」

 

「・・・かまわん。私にはユイがすべてだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、男の子は帰ってきた。

女も帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが青年は帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DUAL MIND

第1話「共存」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦2015年。

ここは墓地。

西暦2000年に起こったセカンドインパクトによって、地球では多くの人たちが死んだ。

ここ日本も例外ではなく、その死者の数は計り知れない。

人間というのは、どんな時でも墓を建てることは忘れないらしい。

復興で忙しい時期に、わざわざ人員を割いて墓を作らせたのだから。

その、多くの墓石が並ぶ内の一角。

 

「またここに来ていたのか、ユイ」

 

サングラスの男の口は言葉を紡ぐ。

溢れんばかりの労りを込めて。

男が背後に立っても微動だにしなかった女、ユイが初めて顔を上げると言った。

 

「私は生きていても良かったのかしら。」

 

それはユイが今まで何千回も心で呟いていた想い。

そして今まで何千回もユイの心を傷つけてきた小さなナイフ。

ユイには愛する夫、ゲンドウがいる。

何年も会ってないが息子、シンジもいる。

だが血を分けた、愛すべき弟はもう居ない。

 

「あの子は・・・まだエヴァの中にいる。私が・・・あの時あんな事になったから」

 

西暦2004年以降、サルベージの技術は飛躍的に伸びていると言っても良い。

すでに、生け贄が無くてもサルベージ出来る理論が確立されている。

それなのに、リュウヤのサルベージは成功しない。

ユイが先頭に立ち、すでに十回以上も実施されているリュウヤのサルベージ。

理論は完璧なはずなのに、成功しない。

 

「私のために・・・あの子は」

 

ユイは、弟のことを考えると酷く自虐的になる。

その姿が、とても痛々しい。

 

「ユイ」

 

「はい?」

 

「シンジの言ったことを忘れたのか?」

 

ゲンドウは静かに言った。

妻の心の傷を癒すために。

 

「・・・覚えています。あの言葉が無ければ私は耐えられなかったでしょう」

 

そのときの言葉は、今でもはっきりと覚えている。

その言葉を思い出すたびに、少しだが彼女の心は癒されていく。

 

「行こう。我々は立ち止まる訳には行かない。それが彼に対しての償いにもなる」

 

「えぇ」

 

「もうすぐシンジがこちらに来る。久しぶりだし、積もる話もあるだろう。そんな顔をしていたらシンジも悲しむぞ」

 

「シンジも?」

 

「わ、私もだ。それに・・・シンジが来ると言うことは彼も来るということだ。そんな暗い顔をして彼に会えるのか?」

 

ユイの体がピクリと揺れる。

それを見ながらゲンドウはもう一度言う。

 

「会えるのか?」

 

「いいえ」

 

「ならば笑ってやることだ。それが彼の・・・リュウヤの想いに答えることにもなる」

 

しばらくしてユイは顔を上げた。

そこにはここしばらく見られなかった笑顔があった。

 

「ありがとう、あなた」

 

「ああ」

 

そして二人は墓石を背に歩き出した。

ユイの顔にはもう暗い影は浮かんでいない。

二人で並んで歩きながら、ユイは思い出していた。

弟の死を知った時、絶望の中泣き崩れた時、確かに聞いた言葉。

確かに聞いたシンジの言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいじょうぶ。りゅうやおにいちゃんはここにいるよ。ぼくといっしょにいるよ」

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

皆様はじめまして、ささばりです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

このお話は一応、テレビ第1話からの再構成ということになります。

ですが、かなりオリジナルの設定が混じっています。

再構成と言えるかどうか・・・。

とにかく、これからも読んでいただけたら嬉しいです。

感想メール等、お待ちしております。

是非お送りください。

それでは、この辺りで。

 


艦長からのお礼


さて、久しぶりの投稿です。
しかも、空母常連の方々にはなじみ深いささばりさんのEVASSです。

今は何も言いません。

刮目せよ!ってトコです(笑)


さあ、どうやら親バカっぽいゲンドウが見たければここにメールを出すんだ!(爆)

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