DUAL MIND 第10話
赤木リツコ研究室。
ネルフ内にあるリツコの私室である。
そこで赤木リツコはじっと何かに聞き入っていた。
何度も何度も。
それは第四使徒、シャムシエルとの戦闘の記録。
何度も再生される少女の言葉。
『そうだ、リュウヤさん。リュウヤさん起きて!シンジ君が死んじゃう!シンジ君を助けて!』
黙って聞いていたリツコが口を開く。
「どういう事なの?この娘は一体何を言っているの?・・・・・・・・・・・・お兄ちゃん?」
DUAL MIND
第10話「死神の足音」
BY ささばり
赤木宅、シンジの私室。
窓から差し込む光が夜明けを告げようとしている時間帯。
ベッドの上で幸せそうに眠っているシンジ。
ただ寝ているというだけで、それがまるで1つの芸術であるかのような錯覚すら覚える。
彼の目を覚まさせるという行動自体が、まるで罪悪であるかの様に思えるだろう。
次の瞬間。
ドガッ!
「グッ!!」
いきなりの衝撃に呻くシンジ。
そして咄嗟に跳ね起きると辺りの様子をうかがう。
油断なく走らせるその視線は、見る者すべてを震え上がらせるほど鋭いものだった。
「・・・って、マナか・・・」
シンジは自分の隣りに寝ている少女を見る。
シンジの幸せな時間に終止符を打ったのは赤木リツコの娘、赤木マナの一蹴りだった。
「そう言えば昨日はマナと寝たんだっけ」
寝起きとは思えないほど爽やかな笑顔を浮かべてそう呟くシンジ。
彼が視線を部屋に掛けてある時計に目を向けると、時計の針は朝の4時半を少しまわっていた。
「・・・起きるには少し早いけど・・・まあ良いかな」
マナを起こさないようにそっとベッドから降りると、大きな欠伸をしながら部屋を出るシンジ。
そのままキッチンに移動し冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、残りが少なかったので直接口を付けて喉に流し込む。
冷たい液体が喉を流れる感覚が彼の頭を完全に目覚めさせる。
一気にミネラルウォーターを飲み干すと、シンジはペットボトルから口を離し一息つく。
静かな時間が流れる。
「今日からまた学校か・・・。でも、よく考えたら転校初日しか行ってないんだよね」
<まあ・・・転校2日目からいきなり学校をサボる奴は結構珍しいと思うぞ>
「でも、病院行ったりミサトさんの説教を聞いたりして大変だったんだよ?結局3日も学校休んだし」
<しかし、人のことを4時間も説教していてよく飽きないな。『命令違反の件は今回だけは許してあげます』とか言ってたっけ>
「兄さんが無能とか言うから怒っちゃったんだよ。しかも今回だけは・・・だってさ」
<まあ、特に問題はないだろう。命令違反で負ければ問題だが、勝ったんだからな。葛城君の命令通りに動いて勝てる保証はないからな。勝てば官軍だ>
そんなリュウヤの声に苦笑いしているシンジが、視線をスッと玄関のほうに向ける。
彼はこの部屋に向かって誰かが来ることを察したのだ。
「誰か来た・・・リツコ姉さんかな?」
そう言いつつも側にある包丁に目を走らせるシンジ。
ネルフの官舎として使われているこの建物に、こんな朝早く訪れる者はほとんど居ない。
可能性としては、徹夜で朝帰りになったリツコが考えられる。
だが、その他にもシンジの立場上、良からぬ事を考える輩が多いので油断は出来ない。
「ただいま・・・」
ドアがスライドし、そこから入ってきたのはリツコだった。
シンジは包丁にのばしかけていた手を止め、すぐにリツコを出迎える為に玄関へ急ぐ。
「お帰りなさいリツコ姉さん。」
「あら・・・シンジ君。随分早起きね」
「はい、何か目が覚めちゃって。・・・それよりリツコ姉さんこそ、お仕事お疲れさま。少し早いけど朝御飯にする?それともすぐ寝る?」
「そうね・・・悪いけどすぐ寝させてもらうわ。今日は昼過ぎにネルフに行けばいいから、それまで寝させてもらうわ・・・」
そう言ったリツコは、少し曇った表情でシンジのことを見つめている。
シンジの頭と左腕には包帯が巻かれており、それが何とも痛々しい。
シンジはリツコの視線の意味を悟り、いつもの優しい笑顔を浮かべてリツコを見つめる。
「リツコ姉さん・・・そんな顔しないでよ。これは誰のせいでもない。自分の油断が招いたことだから」
「でも・・・私達がもっとしっかり点検していれば・・・」
リツコのその言葉にシンジがゆっくりと首を振る。
第四使徒戦において、初号機のフィードバックシステムが異常だったためにシンジはそのシンクロ率では有り得ないほどの痛みを感じてしまったのだ。
ある人間にただの鉛筆を焼けた鉄の棒だと思い込ませ、それを皮膚に押しつけると、その人間は痛みを感じ火傷をするという。
それと同じように、現実の痛みに近い痛みがシンジの精神に作用し、本当に傷を受けたと肉体が勘違いしたのだ。
実はシンジは両掌にも軽い火傷を受けていたのだが、こちらはそれ程の傷ではなかったのですでに痛みも感じない程に癒えていた。
「リツコ姉さん。この世に完璧なんて有り得ない。いずれ起こり得る事象だったのなら、僕が乗っている初号機で起きて良かったよ。もしレイの零号機で起きていたらどうなっていたかわからないからね」
「でも、シンジ君・・・」
「それに僕は生きています。それで・・・十分です」
そう言ったシンジの視線は、それ以上リツコに反論を許さないほどの力強さを持っていた。
そしてリツコも、これ以上シンジに謝罪したりするのは止めようと考えた。
言葉では謝罪しない。
彼女の技術と知識でシンジをサポートする。
それこそが彼女がシンジに出来る最大の罪滅ぼしだと気付いたのだ。
「・・・ありがとう、シンジ君。そう言ってくれるとても助かるわ」
「うん。それよりリツコ姉さん・・・もう寝ないと起きられなくなるよ?」
「そうね、わかったわ。それじゃあお休みなさい」
そう言って自分の部屋のほうへ歩いていくリツコをジッと見つめているシンジ。
一児の母として一家の家事を取り仕切り、そしてネルフでは技術部のNo.2としてエヴァや、特にMAGIの整備や試験などを統括しなくてはならない。
使徒との戦いが始まってからは、彼女はかなり多忙な日々を送っている。
最近はシンジが多少家事を行っていることにより彼女の負担はいくらか減っているが、それでも最近目に見えて疲れが出てきている。
「そうだ、シンジ君」
そう言ってリツコが部屋から出てきたので、シンジはリツコのほうに向けて歩いていく。
「どうしたんですか?リツコ姉さん」
「今日も学校行かないでちょうだい。午後からネルフに顔を出して、その後あなたが倒した使徒を見に行くから」
「使徒を・・・見に行く?」
シンジが軽く首を捻る。
彼の仕事はあくまで使徒を倒すことであり、倒した後の使徒など彼の興味をそそるものではない。
「明日・・・というか今日ね、ミサトと行くことになっているの。司令達も来るそうよ」
「他の人はどうでも良いですけど・・・そうですね。学校も行きたいですけど今日は使徒見物でも行きましょうか」
「そう・・・じゃあ、とりあえずお昼までは寝させてもらうから、それまでは家でゆっくりしていてね」
そう言って再び部屋の中に戻っていくリツコ。
そしてシンジも同じように自分の部屋に戻っていく。
「学校は明日からに変更・・・ヒカリに後で電話しとこっと」
(やっぱり大きいね)
<ああ・・・無駄にでかいな>
シンジは今、使徒のサンプルを採取する現場に来ている。
彼の目の前には第四使徒の死骸が横たわっており、その死骸に多くの人々が取り付き何やら作業を行っている。
シンジはリツコとともに昼食を取った後ここに来て、仕事のあるリツコと別れて1人で使徒を見ていた。
(腐ってないね)
のほほんと使徒を見上げているシンジは、非常に現実的なことを考えていた。
そしてそのシンジに答えるリュウヤの言葉も現実的である。
<これだけ暑いからとんでもない事になってるかと思ったがな。使徒のコア・・・梅干しか?>
そんな下らない事を考えている彼らのもとに、リツコが近付いてくる。
そして、シンジの後ろに立ちその肩に手を置いて彼と同じように使徒を見上げる。
「これがあなたの倒した使徒。今回のは前回のと比べて損傷が酷いからすぐに廃棄処分されるけど・・・これでも凄く貴重なサンプルよ」
そんなリツコの言葉には特に何も答えずに、シンジはただひたすら使徒を見上げている。
第四使徒。
シンジを完膚無きまでに叩きのめした強敵であり、それ故に力を解放したリュウヤに葬り去られた使徒。
初号機の一撃によりコアは完全に破壊されていたので、リツコが本当に欲しいと思っているコアのサンプルは恐らく手に入らないだろう。
シンジとリツコ、2人で使徒を見上げていると、2人の背後からさらに近付いてくる者が居る。
葛城ミサトである。
「なに2人してぼんやり使徒を眺めてるのよ?」
そういいながら2人の横に並ぶミサトは、手に持っていたコーヒーの入ったコップをリツコに渡す。
シンジは軽く視線を動かしてミサトを一瞥するが、特に何も言わなかった。
ミサトとシンジは特に仲が悪いわけではない。
日頃ネルフで会えば世間話や談笑程度はするし、一緒にネルフの食堂で食事をすることもある。
だが、話が戦闘関係の事となると、どうしても2人の仲は極端に険悪になってしまう。
シンジはシンジでミサトの能力を信頼して居らず、ミサトはミサトでシンジの事を理解できずにいたからだ。
シンジはリュウヤの影響を受けやすいので、彼が言う通りミサトのことを無能だと思っていた。
そしてミサトはシンジの能力の高さに何か薄気味悪いものを感じていた。
そのせいで戦闘中はどうしても険悪な雰囲気になるのだが、今はそんな雰囲気は微塵もない。
「シンジ君ももう少し綺麗に使徒を倒してよ。こんなズタボロじゃ酒の肴にもならないわよ」
「あはは・・・こんな物食べたらいくらミサトさんでもお腹壊しますよ。まあ、綺麗に倒すというのは善処しますけど・・・」
ミサトの言葉に笑いながら答えるシンジと、同じように笑っているミサト。
今の2人を見たら、誰も2人がかつて銃を突き付けあったとは思わないだろう。
「それでリツコ。サンプルの解析結果はもう出ているんでしょ?」
「それがね・・・ちょっとこっちに来てくれる?」
ミサトの問いにそう答え、少し離れたところにあるコンピュータの所に行くリツコ。
シンジとミサトもリツコの後を追い同じリツコの背後に回る。
リツコはそこでキーボードを叩いている。
シンジもミサトもしばらくその様子を黙ってみている。
ややあって、キーボードから手を離したリツコが1つのディスプレイを示す。
そこには3桁の数字が表示されていた。
「何よこれ?」
ディスプレイをのぞき込んだミサトが首をかしげる。
彼女の隣で同じようにディスプレイをのぞき込んでいたシンジが、口元に少しだけ笑みを浮かべる。
「601・・・解析不能って事ですよ。まあ、当たり前でしょう。こんな得体の知れないものを今のテクノロジーで解析しようとするのがそもそも間違えかも知れませんし・・・」
そのシンジの言葉を聞いて、ミサトは腕を組んで何やら唸っている。
解析結果が少しでも作戦に反映されればと考えていただけに、彼女はかなり残念そうだった。
しばらく黙っていたリツコが、シンジとミサトの方に向き直り口を開く。
「でもね、1つだけわかったことがあるわ」
「なんなの?」
「使徒の固有波形パターンが、構成素材の違いはあっても人間の遺伝子とほとんど同じなのよ。・・・・・・99.89%ね」
ググッと身を乗り出すようにして自分を見るミサトに、苦笑いしながらそう答えたリツコ。
その言葉にはさすがのミサトも驚きの表情を隠せない。
「99.89%・・・それって、エヴァと同じじゃない」
ミサトの言葉にシンジもリツコも何も答えない。
リツコはともかく、シンジは先程からミサト達とは別の方を見ている。
彼の視線の先には、碇ゲンドウ・ユイ夫妻がいる。
2人はどうやらネルフの司令と副司令として、サンプルの視察に来たようだった。
「どうしたの、シンジ君。・・・あら?司令達ね」
リツコもミサトもシンジの視線の先、ゲンドウとユイを見る。
彼らは使徒の死骸を前に周りの職員達と何やら話していて、シンジ達が見ていることには気付かない。
「さて・・・僕はそろそろ帰りますね。マナもそろそろ学校が終わるでしょうし」
まるでゲンドウ達から逃げるかの様に、用があることを口にするシンジ。
シンジにとって、両親と同じ空間にいるのはあまり気持ちの良いものではないようである。
「あらシンジ君。もう帰っちゃうの?」
ミサトが名残惜しそうに言うと、シンジが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「すみません。今度ゆっくりお話ししましょう。・・・それじゃあリツコ姉さん、僕は先に失礼します」
「ええ。今日も遅くなるかも知れないから、マナのことよろしくお願いね」
「わかってますよ。リツコ姉さんもミサトさんもお仕事がんばってくださいね」
そう言ってきびすを返すシンジの背後から、ミサトのお気楽な声が聞こえてくる。
「じゃあね〜、シンジ君」
シンジは苦笑いしつつ、足早にその場を立ち去っていった。
まるで自分の両親から逃げ出すかのように・・・。
数日後、第壱中学校。
怪我が治り包帯もとれたシンジは、久しぶりに登校していた。
教室に入るなり彼のことを心配していた生徒達に囲まれ、シンジはもみくちゃにされたのだった。
シンジもそんな彼らに苦笑いしつつも、何となく心が暖かくなる気がした。
そして、その日は1時間目から体育だったので、皆で校庭にいる。
男子は持久走。
この炎天下の中、持久走を選ぶ教師も教師である。
ちなみに女子は水泳で、プールの方はとても華やかである。
シンジは教師の課した距離を息切れひとつせずに走り終わると、トラックから出て1人休憩をしている。
照りつける日差しが、シンジの肌を焼く。
しばらくボーとしていたシンジに、走り終えたクラスメイトが話しかけてきた。
「なんや碇・・・何熱心に見てんねん」
鈴原トウジがそう言ってシンジの視線の先に目をやると、そこにはレイとヒカリがプールサイドで談笑している姿がある。
それを見てニヤリとするトウジ。
「なんやセンセ、以外とスケベエやのう」
だがシンジはその言葉にはまったく反応せず、ただジッと少女達の水着姿を眺めている。
最初は冷やかしたトウジだったが、シンジの視線があまりにも真面目だったのでそれ以上軽口が叩けなくなっていた。
「この前油断してね。・・・危うくヒカリを死なせてしまうところだったんだ」
「死なせて・・・って、どういう意味や」
シンジの言ったセリフの意味を理解して顔色を変えるトウジ。
その他にも多くの生徒達が聞き耳を立てている。
シンジはそれらの生徒を気にする様子もなく、ただジッとヒカリとレイを見ている。
そこで、シンジの纏っていた雰囲気がふっと軽くなる。
「ま、いつまでも言ってるとまた怒られるからこの辺にしておいて・・・・・・、今の問題はこの待遇の差だよね?僕たちも女子と一緒に水泳にしてくれればいいのに」
シンジは単純に暑いのが嫌だったので、水泳にして欲しいと言っただけである。
たが、鈴原トウジ以下、全てのクラスメイトがそうは思わなかった。
「そや!その通りやセンセ!」
そう言ってシンジの背中をバンバンと叩くトウジ。
彼らクラスメイトは、シンジに畏敬の念を抱いている。
自分達と同じ歳の少年が、自分達のために命を賭して戦っている。
実際にシンジは彼らのために戦っている訳ではないのだが、そう思っている彼らはシンジの事を同じ中学生として見ることが出来なかった。
だが、そのシンジが自分達と同じ考えで居ることがわかり、一気に彼に対する親近感がわいてきたのだ。
「センセ、綾波と洞木・・・どっちがええ?」
「そうだよ碇、二股はまずいと思うぞ」
周りをクラスメイト達に囲まれて、そんな風なことを言われている。
そして、見る間にシンジの周囲がクラスメイト達に囲まれ、「シンジがヒカリとレイのどちらをとるか」などという話に発展してしまっていた。
「綾波の胸!洞木の胸!か〜、たまらんのう!!」
何故かテンションが上がっているクラスメイト一同を、少し呆れたような顔で見ているシンジ。
そんなシンジにタイミング悪く、プールにいたレイから声がかかる。
『お兄ちゃ〜ん!!』
そう言ってプールサイドでぶんぶん手を振っているレイ。
シンジがクスッと笑い手を振り返すと、辺りの生徒からどよめきが起こり他の生徒達もレイに対して手を振り出す。
「「「綾波さ〜ん!」」」
そんな声がシンジの周りから起こっている。
余談だが、この第壱中学校では本人非公認「綾波レイ親衛隊」なるものが存在しているという。
さらに現在、こちらも非公認「碇シンジファンクラブ」なるものが発足されようとしているらしい。
「センセ!この裏切りもんが!」
そう言ってトウジがシンジにヘッドロックを決める。
他の同級生達もここぞとばかりシンジにちょっかいを出している。
そんな中、シンジは少し痛そうにしながらも、同年代の少年達と同じように笑っていた。
サードチルドレン、碇シンジ。
学校は、そんな彼が心から笑える、数少ない場所なのかも知れない。
数日後、リツコの家の自室で端末をいじっているシンジ。
現在、彼は自宅からMAGIへ侵入して情報を仕入れている。
こんな事がばれたらただではすまなそうな気がするが、シンジはまったく気にしていないし、事実ばれた事がない。
シンジ自身完全に痕跡を消しているし、唯一気付きそうな人物もリツコかユイなので、もしばれてももみ消されているだろう。
「・・・レイが零号機の起動成功か・・・」
シンジが見ているのはレイの起動実験の詳細なデータだった。
そのデータによるとレイのシンクロ率は40%程で、もう少しすれば実戦に投入される程である。
シンジの際はいきなり実戦に投入されたが、レイの場合はゲンドウの希望か、すぐに実戦配備されることはなくしばらくはシミュレーションで訓練するようだ。
「使徒は待ってはくれない。レイもすぐに実戦に投入されそうだね」
シンジがそう言うと彼の頭の中にリュウヤの声が返ってくる。
<いくらゲンドウが親バカでも、その時が来たらレイを使わざるを得ないだろうな>
(でも、大丈夫かな?いくら訓練で銃器の扱いや格闘技を習っていたとしても実戦じゃあ何もかも違うから・・・)
さすがのシンジもレイのこととなると心配で仕方がないといった感じである。
ゲンドウは親バカ、シンジは兄バカ。
この辺りはまさに親子、とでも言ったところだろうか。
<まあ仕方があるまい。彼女はチルドレンだ>
(それはそうだけど・・・でも僕は納得できないんだ。レイが戦場に出るなんて・・・死んじゃうかも知れないんだよ?)
<お前は甘いよ。チルドレンに選ばれた時点で彼女の運命は決まっている。負ければ死。これはどう足掻いても否定できない事実だ。だからお前が考えることは1つだけ・・・・・・・・・彼女がエヴァに乗っている時にどう護ってやるかだと思うが>
(・・・僕は兄さんが羨ましいよ。そう言う風に考えられて・・・。でも、兄さんの言う通りだね)
シンジはそう思いながら後処理をしてMAGIとの接続を解除する。
碇リュウヤ。
彼はシンジにとってまさに理想的な人間だった。
一体どこまで知っているのか、と思うほどの知識と、彼より強い人間はいないのでは、と思うほどの戦闘能力。
そして天才と言っても良いほどの閃きと、頭の回転の速さ。
常に前向きに考えられる性格など、シンジですら羨ましいと思うほどリュウヤは何でも持っていた。
特に性格はシンジ自身が自分の性格をよく知っているので、リュウヤの前向きな性格は羨ましかった。
その前向きさはいい加減ととる事もできるが、シンジはリュウヤの過去を知っているだけにそれを強さと感じていたのだ。
<俺はよく姉さんに軽薄って言われたけどな。結構傷付いたけどな>
(あははは・・・軽薄ね。確かにそうかも知れないね)
<あっ、シンジ。お前までそういう事言うか?>
そう言ったリュウヤの言葉に笑いを堪えきれずにクスクスと笑うシンジ。
シンジもリュウヤもお互いのことをとても大切に思っている。
衝突もあるが、それはお互いがお互いのことを真剣に考えている証拠である。
ちょっとしたやりとりがシンジの精神的な疲れを癒してくれる。
「ん?・・・マナが来た」
ドアの外の気配を感じ、シンジがそう呟く。
すると、シンジの部屋のドアがノックされ、少しして1人の少女が入ってくる。
シンジの察した通り、リツコの娘マナである。
「どうしたの、マナ?」
「あのね、シンジ。明日何か予定ある?」
そう言ってモジモジしているマナに、シンジは優しい微笑みを浮かべる。
その微笑みでマナはどんどん顔を赤らめてしまう。
「明日は特に予定はないけど?」
「あのね、あのね・・・観たい映画があるんだけどね。でも、1人で行ってもつまらないし、ユキちゃんもサクラちゃんも・・・みんな明日は都合が悪いから駄目だって・・・。だから、あのね・・・・・・・・・・・・・・・」
そう言って顔を真っ赤にして俯いてしまうマナ。
肝心の最後の部分が小さな声でシンジには聞き取れなかったが、さすがに彼女が何を言おうとしたのかはわかった。
「マナ、明日お兄ちゃんとデートしようか?」
「でーと?」
しばらく頭の上に?マークが浮かんでいるマナ。
そして、突如ビクッとすると顔を真っ赤にして大きな声を出す。
「でっ・・・デート!?」
心底ビックリしているマナににっこり微笑んで、シンジは軽く頷いてみせる。
そのシンジの笑顔を見てますます赤くなると、ググッと拳を握りしめるマナ。
「する!シンジとデートする!!」
そう言ってすぐさま身を翻しシンジの部屋から出ていくマナ。
その余りの速さにしばし唖然としていたシンジだが、やがてクスッと笑う。
「明日はマナを借りるね、お父様」
<・・・手出したら殺すぞ・・・>
「ここでも親バカ発見・・・」
余りのリュウヤの迫力に苦笑いしつつも、シンジはしばし訪れた平和な時を楽しんでいた。
それから一週間ほど経ったある日、ネルフ発令所は騒然としていた。
未確認飛行物体、つまり使徒が接近してきたのだ。
第一種警戒態勢がひかれ、直ちに使徒に対する戦いの準備がなされていた。
「初号機パイロットは!?」
ミサトの怒鳴り声が発令所に響く。
その言葉に答えるのは彼女の部下の眼鏡をかけた青年。
「シンジ君はまだネルフに到着していません!予定時刻はとっくに過ぎているのに・・・どうします、このままじゃあ!」
その言葉に軽く舌打ちして、ミサトはすぐとなりにいたリツコに声を掛ける。
「リツコ、零号機はどう?」
「380秒で準備できるわ。でも本当にレイを使う気?これは彼女の初陣なのよ?」
「シンジ君は初陣で第3使徒を倒しているわ。それに、シンジ君が来るのを待っていられるほど使徒はのんびりしていないわ」
そういってミサトはゲンドウのほうを向き直り、きっと睨み付けて口を開く。
「よろしいですか、司令?」
「ああ、零号機の出撃を許可する」
ゲンドウは無表情でそう言ったが、その心中は穏やかではないだろう。
ただでさえ可愛がっているレイを、使徒の前にたった1人で出さなくて行けないのだから。
ゲンドウはレイを、シンジのサポートとして出して実戦に慣らせようと考えていたのだ。
だが、運命は彼の期待を裏切り、たまたまシンジが休暇の日、そしてレイがネルフに来ている日に使徒が来たのだ。
シンジもネルフに向かっているはずなのだが、未だ到着していない。
そして、使徒はもうすぐ芦ノ湖上空に達しようとしていた。
これ以上待つことは出来ない。
「零号機の発進準備急いで!!みんな良い?これはレイの初陣よ!!私達がしっかり彼女をサポートするのよ!!」
「「「「了解!!」」」」
ミサトの声に答える職員達の声は、非常にノリがいい。
レイはその明るさと健気な性格から、ネルフの皆から大切にされていたのだ。
だが、ある意味お気楽なこれらのネルフの職員達は、この時誰1人として予想していなかった。
これから起こる惨劇を・・・。
某所。
薄暗い部屋の中、円卓を囲み3人の男達が集まっている。
その内の1人、制服に身を包み数多くの勲章を着けている痩身の男がゆっくりと口を開く。
「どうやらネルフの奴ら、零号機を出撃させるつもりらしい」
痩身の男がそう口にすると、その正反対に座っていた小太りの男が立ち上がる。
この男も制服に身を包み、その貫禄と階級章からかなり高い地位にいる人間だと言うことがわかる。
「所詮玩具。役にはたたん!」
「その通りですね。何しろパイロットは14歳の小娘ですから」
そう言ってクスクスと笑う少し年若い男。
まだ40そこそのようだが、他の者達と渡り合えるだけの地位の持ち主のようだ。
「零号機などよい。だが・・・サードチルドレンの操る初号機はどうする?あれは驚異だぞ」
「大した問題ではないですよ。それに、サードには面白い男を差し向けてあります。奴がサードを足止めしている間、零号機は化け物に完膚無きまでに叩きつぶされます」
「ほう・・・面白い男とは・・・・・・奴のことか。サードチルドレンはどこまで持つかな?中学生にしては大層な腕前と聞くが・・・」
「どんなに腕が立っても所詮中学生。『1尉』には勝てん!」
そう言って振り上げた拳を円卓に叩き付ける小太りの男。
彼は、ネルフの活躍によほど腹を立てているようで、その不機嫌そうな顔からはネルフへの憎悪がみなぎっている。
「確かに・・・『1尉』のあの戦闘能力はまさに驚異。一体何が彼をあそこまで変えたのか・・・」
「2年前、某国で行った非合法破壊活動が原因とも言われていますが・・・」
そこで、部屋の中をしばし沈黙が支配する。
彼らの脳裏に『1尉』の圧倒的な戦闘能力が浮かんでいる。
人でありながら人を超えた、圧倒的な力。
「・・・まあいい。とにかく彼にはサードの足止めをしてもらう」
「ネルフは最近力を強めています。ここらで彼らのあの玩具が何の役にも立たないという事をわからせてやる必要があります」
「そのためのサードチルドレンの足止め。ファーストチルドレンだけではあの正体不明の化け物には勝てないだろう」
痩身の男はそう言うと、何が面白いのか大声で笑い出す。
そして、それに同調するように他の2人も笑い出す。
彼らには面白くないのだ。
ネルフの決戦兵器のみ敵に有効な攻撃手段で、他の現存する軍事力がまったく役に立たないと思われているのが。
昔から日本を護ってきたとの自負がある彼らには、それは耐え難い屈辱だった。
「ネルフめ・・・いい気になるなよ。貴様らの誇っているモノがいかに無力か、それを教えてやる」
つづく
<あとがき>
どうも、ささばりです。
今回のお話、いかがでしたでしょうか。
とりあえず、使徒が来るまでの間なので、少し戦闘から離れて日常的なところを書きました。
まあ、たまには息抜きをしないとシンジも疲れてしまうでしょうから。
あと、ついに零号機が起動成功しました。
これで、実戦に使われるようになるのですが、どうなるんでしょうか。
しかも、最後の方で何やら怪しげな方々が出てこられてますし・・・。
次回は、色々大変なことになりそうです。
さて、今回のお話で何かありましたら、是非とも感想をください。
お返事は必ず書きますので。
それでは、次回をお楽しみに。
艦長からのお礼
えー・・・・
のほほんとした雰囲気ですな。
こーゆーのもキライじゃないです。
ですが、一番好きなのは血飛沫が飛び肉片が舞い踊るようなシーンだから参ってしまいます(爆)
さあ、続きが見たけりゃここにメールを出すんだ!