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DUAL MIND  第13話

 

 

 

 

 

レイはシンジの温もりで安心したらしく、シンジに対して可愛らしい寝顔を見せている。

その寝顔に、シンジの心も温かくなる。

心の中に渦巻いていた殺意も、使徒を倒した今では跡形も無く消えていた。

 

<・・・まったく、大した娘だな。あれだけの局面で取り乱しもしないとは・・・>

 

リュウヤの称賛を聞き頷くと、ゆっくりと視線を月に戻すシンジ。

月は、作戦開始前にレイと共に見た月と何一つ変わらない。

淡い月明かりが、シンジとレイを幻想的に照らしだしている。

その美しい月を見上げながら、シンジは一言だけ呟いた。

 

「ありがとうレイ」

 

そう言って見つめたレイの寝顔は、とても幸せそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DUAL MIND

第13話「前夜」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドンドンドンドンドン!

第五使徒との戦いが終わり数日後、ネルフの射撃訓練場に銃声が響く。

そこで、先程から1人の少年が射撃訓練をしている。

彼の名は、碇シンジ。

エヴァンゲリオン初号機のパイロット、サードチルドレンである。

彼は構えていた銃をゆっくりと下ろし、自分の15mほど前方にあるターゲットをみて笑顔を浮かべた。

 

(どう、兄さん?)

 

<まあ、及第点といったところか>

 

「相変わらず厳しいね」

 

思わず声を出してしまい、シンジは少し恥ずかしそうに笑った。

そして彼は、自分が握っている銃をまじまじと見つめる。

 

<で、どうする?やはりそれにするか?>

 

(うん。これなら殺傷力も充分あるし・・・何より使い慣れた銃だからね)

 

シンジはリュウヤにそう答えながら、新たに銃弾を装填していく。

彼が手にしている銃は、コルト・パイソン357マグナムである。

銃身は短めの3インチとなっており、抜き撃ちで敵を殺すことに重点を置いている。

シンジはこのネルフに来たときも銃は所持していたが、更衣室でミサトに突き付けたのがばれて、リツコに没収されていた。

 

「次、距離20m」

 

シンジがそう口にすると、マンターゲットが自動的に設置される。

それを確認し、シンジは一瞬にして銃を構えた。

ドンドンドンドンドンドン!!

連続した銃声が辺りに木霊した後、室内は静寂に包まれる。

 

「決めた。これにしよう」

 

そう呟いたシンジの20m先にあるターゲットには、頭部に穴が1つしか空いていない。

それはシンジが、全弾を寸分違わず目標の頭に命中させたことを意味している。

 

(でも、結局学校には持っていけないんだよね)

 

<そうだな。さすがにあの服装じゃ難しいな。仕方ないから鞄にでも入れておくか?>

 

リュウヤの言葉に頷きながら、シンジは再び銃弾を装填していく。

そしてゆっくりと銃を構えターゲットを見据える。

その視線は冷たい色をたたえている。

 

「次は・・・負けないよ」

 

そして、再び辺りに銃声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

射撃訓練を終えネルフから出ようとするシンジを、待ち伏せしている人間達がいた。

シンジの両親にして、ネルフの司令と副司令をつとめる碇ゲンドウ・ユイ夫妻である。

シンジはその2人と10歩ほどの距離を開けて、足を止めた。

しばしの沈黙。

シンジはゲンドウを黙って見据え、ユイには視線すら向けない。

そして、最初に口を開いたのはゲンドウだった。

 

「シンジ、まだ私たちを恨んでるのか?」

 

そう言うゲンドウの顔には疲れが見える。

それもそのはず、シンジはこのネルフに来てから、ゲンドウとユイとはほとんど口をきいていない。

特にユイは、何かにつけてシンジの事を構うのだが、シンジ自身はそれをまったく相手にせず、ほとんど無視を決め込んでいる状態だった。

当然、ユイは日々心を痛めていたし、そんな妻を見ているのはゲンドウにとって辛かったのだろう。

だから、ゲンドウは自らシンジの前に出てきたのだ。

ほんの数秒の間をおいて、シンジは特に気にする様子もなく答えた。

 

「恨む?僕は初めから父さん達を恨んでなんかいませんよ」

 

「それじゃあ、どうして一緒に暮らしてくれないの?」

 

そう言ったのはユイ。

『愛する息子と一緒に暮らしたい』という想いが、彼女の言葉からはうかがえた。

だが、シンジにはユイの想いなど関係のない話だった。

 

「・・・もう、終わってるんだよ・・・」

 

誰にも聞こえないように、そっと呟くシンジ。

それがシンジの本心、もはや修復不可能なほど壊れて、跡形もなく無くなってしまった両親への愛情であった。

シンジはわずかに目を細め、ユイの方に視線を向けた。

ユイは、その視線に身震いしてしまった。

そこに憎悪があるのならまだマシだった。

だが、シンジはまるで道ばたに落ちているゴミでも見るかのような視線で、実の母のことを見ていたのだ。

そして、今度はゲンドウとユイに聞こえるように、言葉を紡ぎ出す。

 

「あなた達と暮らすことに必要性を感じないんです」

 

シンジの何の感情もこもっていない声。

 

「えっ?」

 

「あなた達と一緒に暮らす必要が全くないんです」

 

「そ、そんな・・・。だって私達は・・・」

 

「親子・・・ですか?でも、僕の両親はもう死にましたよ?」

 

シンジはそう言ったが、ゲンドウもユイもその意味がわからなかった。

何故ならゲンドウもユイも生きている。

シンジは2人の実の子供なのだ。

 

「シンジ、お前は何を言っている?」

 

「僕の好きだった両親はすでに死にました。僕がはじめてエヴァに乗せられたあの時にね・・・」

 

そのシンジの一言は、ゲンドウとユイにはかなり衝撃的だった。

なんて事はない。

シンジは両親を恨んでいるのではなく、今のゲンドウとユイを本当の意味で両親とは見ていなかったのだ。

 

「僕に、あなた達は必要ない」

 

その言葉は、ユイの『一緒に暮らしたい』という想いを完全にうち砕いた。

そして、2人の脇を抜けるように歩いていくシンジ。

そんなシンジを必死に呼びかけるユイ。

 

「ま、待ってシンジ!」

 

だが、シンジは足を止めずに歩いていく。

 

「待ちなさいシンジ!」

 

そう言って駆け出すユイ。

後数歩でシンジを捕まえられると思ったユイの眼前に、黒い物が突き付けられ、ユイは動けなくなったていた。

それは、銃。

一瞬にして振り返ったシンジは、それ以上ユイが近付くことを完全に否定していた。

彼の瞳に浮かぶのは憎悪ではなく、単純に邪魔なものを排除しようとする明確な殺意。

 

「碇ユイ副司令、それは命令ですか?・・・・・・・・・でも、その命令を僕に聞かせるのはあなたには不可能ですよ?」

 

シンジの言葉に泣き崩れるユイ。

だが、シンジはそんなユイに関心がないのか黙って銃をしまい、きびすを返すとその場を立ち去っていってしまった。

その後ろ姿を辛そうな顔をして見送るゲンドウは、すぐにユイに駆け寄ると彼女を抱きしめる。

ユイは、ひたすらシンジの名を呼びながら泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツ、某所。

 

「あ〜あ、いよいよ日本に出発か・・・」

 

そう呟いた少女の金色の髪を風がもてあそぶ。

少女はそっと髪を押さえながら、目を瞑り物思いにふける。

 

「あいつって確か日本に居るのよね・・・」

 

目を瞑れば必ず思い出す1人の少年の笑顔。

自分を虜にした天使の微笑み。

ほんの数日会っただけなのに、その天使の微笑みは少女を捕らえて離さなかった。

 

「・・・シンジ・・・逢いたいよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤木リツコ宅。

そのキッチンは、シェフ達の戦場と化していた。

 

「シンジ君、こっちは出来たわよ」

 

「うん、僕の方も終わった。レイ、マナ、この二つお願い」

 

およそ中学生とは思えない料理の達人碇シンジ、洞木ヒカリが所狭しと暴れている。

そこにやって来たレイとマナが、料理の盛られた皿を持っていく。

 

「ヒカリ、どうかな?」

 

「うん、おいしいよ。さすがシンジ君」

 

「あはは、ヒカリに誉められると自分の料理に自信が持てるよ」

 

そう言って最後に作っていた料理の味見を済ませ皿に盛ると、それを持ち2人揃ってリビングに行く。

そこではすでに宴会が始まっていた。

メンバーは世帯主の赤木リツコと娘のマナ。

シェフの碇シンジと洞木ヒカリ、そしてシンジの妹の綾波レイ。

そしてビールあるところ必ず出没するという謎の珍獣、葛城ミサト。

この面子で宴会が行われるが、男は当然の如くシンジしか居ない。

 

「ぷは〜・・・く〜。やっぱりこの一杯のために生きてるって感じね」

 

ビールを一気に飲み干しながら言うミサトを、マナが少し怯えたように見ている。

リツコと仲の良いミサトは、当然リツコの家にも遊びに来るし、マナのことも可愛がっている。

マナもそんなミサトに懐いていたが、ビールを飲んでいる時のミサトのことは怖がっていた。

余りの充実感に身震いしているミサトに、まるでゴミでも見るような視線を向けるシンジ。

 

「安っぽい人生ですね」

 

「うぐっ!」

 

早々と2本目のビールを開け飲んでいたミサトが、ビールを吹き出しそうになる。

だが彼女はなんとかその危険な状態を乗り切り、再びビールを飲み始める。

そんなミサトにやれやれと肩をすくめるシンジ。

 

「シンジ君」

 

そう声をかけられシンジがそちらに視線を向けると、そこには真面目な視線をシンジに向けるリツコが居た。

 

「何ですか?」

 

「あなた、友達居ないの?」

 

そう言って、リツコはこの宴会に集まった人達を見渡す。

 

「今日はお友達を呼んでも良いって言っておいたはずよ?」

 

「ええ、だからヒカリを呼んだんですよ。何か問題でも?」

 

「男の子の友達は居ないの?」

 

「話をするぐらいなら居るけど家に呼ぶ程じゃあ・・・。それに、僕に友人と遊ぶ暇があると思いますか?」

 

その言葉は恐らくリツコには皮肉に聞こえただろう。

だが、シンジはただ事実のみを言っただけで、皮肉を言ったつもりもないしシンジ自身は友人に関しては全く気にしていない様だった。

なぜならシンジは、いざというとき足枷になりかねない存在を、わざわざ作る気もなかったのだ。

特に、先日謎の男に襲われた際に自分の能力の無さを痛感しただけに、ますますその想いは強くなっていた。

護るべき者など、大部分の人間にとっては足枷にしかなりはしない。

護るべき者の存在で強くなれる人間など、所詮一握りでしかないのだ。

もっともシンジにとって幼なじみで大親友のヒカリは例外のようだった。

彼女と縁を切るなど、シンジに出来るはずがなかった。

そこでしばらく辺りに重苦しい空気が流れるのを、無理矢理破るミサト。

 

「ねえ、シンちゃん」

 

「・・・何ですか?そのシンちゃんって」

 

聞き慣れない愛称に少し驚くシンジに、にっこり微笑むミサト。

その笑顔だけ見ると、ミサトはとても美しくすばらしい女性のように見える。

 

「シンジ君だからシンちゃん、良いでしょ」

 

「少し馴れ馴れしいですが、まあ実害は無さそうだから良いか」

 

ミサトにそう答えたシンジは、コップに入っていたオレンジジュースを一気に飲み干す。

するとその隣に座っていたヒカリが、すぐにシンジのコップにジュースを注ぐ。

 

「ありがとうヒカリ」

 

「うん、シンちゃん」

 

そう言ってシンジにウィンクするヒカリ。

そして、時間が止まった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒ、ヒカリ?」

 

その時のシンジの驚きようと言ったら、言葉では表せないほどだったという。

シンジは内心ドキドキしながらヒカリの事を見ている。

 

「冗談よ。やっぱりシンジ君はシンジ君。私は昔からこう呼んでるしね」

 

そう言ってニッコリ笑うヒカリに、なぜかホッとしたシンジ。

それからしばらくは皆で談笑しながら料理をつまんだりしている。

そして宴もたけなわとなった頃、ミサトがシンジに対してビシッと指を突き付ける。

 

「ところでシンちゃん。来週チョッチ付き合って欲しいんだけど」

 

少し真面目な顔をしてそう言うミサト。

その雰囲気を察してシンジも少し真面目な顔をする。

ちなみにリツコの場合は、『何も今言わなくても』といったような視線をミサトに向けている。

だが、その辺りは親友同士、ミサトは軽く受け流している。

ちなみにマナとレイ、そしてヒカリの3人は、残った料理を摘みながら他愛のない話題で盛り上がっている。

 

「・・・・・・何処にですか?」

 

「豪華なお船。セカンドチルドレンがドイツから来るのよ。シンジ君はそれに付いてきて欲しいの。セカンドの護衛として」

 

護衛ときいて、シンジの視線が鋭さを増す。

チルドレンの護衛は保安諜報部の役目である。

 

「何で僕が?」

 

「下手な諜報部員に任せるよりマシだからよ」

 

ここで少し声のトーンを下げるミサト。

 

「知らないとでも思ってるの?昨日のこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは昨日のことである。

普段シンジはマナと、そして迎えに来たヒカリと共に中学校に行っている。

だが、その日は珍しく寝坊したので、ヒカリにはマナを連れて先に学校に行ってもらったのだ。

そして1人で学校に行くためにいつもの道を歩いているとき、黒塗りの車がシンジの前に滑り込んできた。

そしてその車から、3人ほどの黒服、サングラスの男達が降りてきた。

 

『碇シンジだな』

 

車から降りてきた男達が言う。

 

『いえ、僕の名前は山田太郎です』

 

そう言ってククッと笑うシンジ。

その態度は明らかに相手をおちょくっているもので、黒服の男達は気分を害したのか色めき立つ。

 

『貴様がサードチルドレンだということはわかっているんだ。黙って車に乗れ!』

 

『ふ〜ん・・・じゃあ僕がネルフの関係者だって知っているんだ』

 

全く緊張感のないシンジ。

もっとも、この程度のことでシンジに緊張しろと言うのが無理な話である。

なにしろ彼にとって、襲われることなど日常茶飯事だったのである。

 

『助けは来ないそ・・・黙って車に乗るんだ』

 

そう言って銃を抜くと、それを突き付けてくる男。

その言葉を聞いて、シンジがゆっくりと車に向かって歩いて行くが、しばらくしてぴたりと足を止める。

 

『・・・やるよ・・・』

 

表情を消したシンジがいきなり動いた。

男達は明らかにシンジを『子供』だと思い舐めていた。

たとえ噂でサードチルドレンが強いと聞いていたとしても、年齢を聞くとその情報が誤りだと思い込んでしまう。

大人とは、年齢で物事が判断できると本気で思っている珍しい生き物である。

ドン!

 

『ぐふっ!』

 

シンジの右腕が一閃して男の鳩尾にめり込み、男はそのわずか一撃で倒れる。

その男を冷たい目で見下ろすシンジ。

 

『弱いね。でも、普通はこんなものかな?』

 

『この、ガキが!!』

 

他の男がシンジを口汚くののしりながら、銃を引き抜く。

それを見たシンジは咄嗟に目の前に倒れている男を引きずり起こし、自らの盾にするようにして銃を抜いた男に接近した。

 

『こいつ!!人間を盾に!!』

 

黒服が持っている銃は強力で、それに対して人間の肉体は遮蔽物になりえない。

だが、シンジはそんなこと百も承知だった。

ただ、心理的動揺を誘っただけで、敵は見事にそれに引っかかった。

黒服の男が動揺している間に、シンジは人肉の盾をすて男の懐に飛び込んでいた。

ヒュッ!

シンジは鋭い吐息と共に、至近距離から強烈な肘打ちを放った。

 

『グアッ!』

 

身体を折り曲げながら車まで吹き飛ばされ、倒れ込む男。

シンジは黙って残った1人の男を睨み付けるとその男はすぐに車に乗り込み、そして倒れている男達を見捨てて逃げ出した。

そこにやっと諜報部が駆けつけてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤木宅。

 

「しっかしめちゃくちゃ強いのね。2人ともたったの一撃で重傷だなんて・・・少しは手加減しようとは思わないの?」

 

ミサトはシンジの余りの強さに半ば呆れている。

目の前にいるこの優しそうな少年がそれ程強いとはとても思えないのだが。

 

「手加減?してますよ?」

 

「あれで?」

 

「ええ。生きているじゃないですか」

 

そう言って鋭い視線を向けてくるシンジは、さらに言葉を続けた。

 

「争いごとは好きではありませんが、出来ない訳ではありませんよ。必要なら・・・殺しもします」

 

声のトーンをわざと落とすシンジは威嚇するようにミサトを睨み付ける。

だが、シンジの言葉を聞いていたヒカリが大声でシンジを諫める。

 

「シンジ君、そんな簡単に殺すなんて言わないの!」

 

真摯な視線がシンジの瞳を射抜く。

いきなりのことで驚いたシンジ、目をぱちくりさせながらヒカリのことを見る。

 

「お願いだから危ない事しないで・・・」

 

そう言って見る見るうちに涙を浮かべていく幼なじみに、さすがのシンジもいつものようには振る舞えない。

 

「わ、わかったよ。ごめんね、ヒカリ」

 

「・・・うん」

 

そう言ってヒカリが笑顔を見せてくれたので、シンジはホッと溜息を付く。

そんな彼の頭に、リュウヤの言葉が響く。

 

<無様だな>

 

(うっ、うるさいな!)

 

内心そう叫びつつ、シンジはミサトに視線を向ける。

先程とは違う、いつものシンジの優しい眼差し。

 

「・・・ミサトさん。さっきの話OKですからスケジュールを教えてください」

 

シンジがそう言ったときリツコが口を開く。

 

「はいはい、もういいでしょ。真面目な話は今度にしなさい。こんな時ぐらい仕事無しで行きましょう」

 

そんなリツコの言葉に、誰1人異論を唱える者は居なかった。

ミサトがその場に立ち上がり、ビールの缶を掲げながら一言宣言した。

 

「よーし、みんな・・・まだまだ飲むわよ!!」

 

「「「「「おー!!」」」」」

 

この日自宅に帰れた者は、誰1人として居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ネルフ施設にほど近い広場。

その広場で空を見上げながら立っている少年は碇シンジ。

彼が何か考え事をするときは、良くこの広場に来ることがある。

 

「平和だね・・・兄さん」

 

微かな呟き。

辺りに誰も居ないこと、そしてこの辺りには盗聴器が一切設置されていない事がわかっているのだ。

 

<ああ・・・そうだな>

 

シンジの頭の中に返事を返してくるのは、彼の叔父である碇リュウヤ。

その肉体は滅びても、魂はなおシンジの中で生き続けている。

 

「ねえ兄さん・・・使徒の事ってどこまで知ってる?」

 

<正体不明の怪物、人類の敵。そして、奴らの望みを叶えるもの>

 

「奴らって・・・ゼーレ?」

 

シンジの口にした名は、ある組織の名前だった。

その組織は、遥か昔から世界を裏で操ってきたといわれる、謎の権力者達の集団である。

大国から小国まで、あらゆる国家を操ることが出来る。

余談だが、ゼーレは特務機関ネルフに対しても資金を出している。

ネルフは本来完全にゼーレの傀儡になってもおかしくはない組織なのである。

そうならないのは、ひとえにゲンドウの才覚のおかげなのだが、彼の人格から誰も感謝しようとは思わない。

現在ネルフは、ゼーレに対して面従腹背の状態を保っていた。

 

<奴らは自らの望みを叶えるために、何十年も前からある計画を進めていた。そして、今から15年前、その計画を南極で実行しようとして失敗した。それがセカンドインパクトだ>

 

「そして再び計画を実行しようとしているのが今なんだよね?」

 

<そうだ。奴らの計画が実を結べば、サードインパクトが起こる。だから、お前はそれを邪魔してやるんだろ?>

 

リュウヤの言葉に軽く頷くシンジ。

シンジはサードインパクトを防ぐために戦っている。

一体どんなことが起こるのかは、シンジにもハッキリとはわかっていなかった。

だが、それでも彼の大切な人が死ぬかも知れない。

その可能性がある以上、シンジは戦わなくてはならなかった。

 

「ゼーレが、人工的に使徒を生成しているって話もあったよね」

 

<ああ、確かに>

 

「作った使徒はどうなったの?他の使徒と何か違いがあるの?」

 

<奴らが作ってモノになったのは、『No.17』と『No.18』の2体だ。もし戦うとなると、他の純正の使徒も含めて恐らく『No.17』が最も手強い敵となる。特にお前にとっては色んな意味で質が悪い・・・>

 

「兄さん・・・その使徒のこと知ってるの」

 

そう訊ねたシンジだが、リュウヤは何も答えてくれない。

何か嫌な思い出があるのか、彼はそれ以上第17使徒のことについて語ろうとはしない。

仕方がなくシンジは話題を変えた。

 

「それじゃあ・・・『No.18』は?」

 

そう質問したシンジだが、リュウヤはなかなか返事は返さない。

 

「兄さん?」

 

<失敗作だよ・・・人としても使徒としても中途半端だ>

 

リュウヤの声色が、いつもと違うことに気付くシンジ。

 

「それってどういう・・・」

 

<第18使徒はリリン、つまりは人類のことだ。だが当時それを勘違いしていたゼーレの馬鹿共は、1人の人間の子供をベースに使徒を作ろうとした。1人の子供を誘拐し、第一使徒の細胞を移植して、人間の遺伝子をいじり、ヒトという存在から使徒を作りだそうとした・・・>

 

そこまで聞いて、シンジにはわかってしまった。

1人の人間の子供とは誰のことを指しているかを。

 

<やめよう・・・今するような話じゃない>

 

シンジの思考を遮るように言うリュウヤの声は、心なしか沈んでいるように聞こえる。

 

「・・・そうだね・・・」

 

シンジもリュウヤの心情を推し量ってそれ以上は聞かなかった。

しばらく黙って星を見ているシンジ。

リュウヤも何も話さない。

 

「ねえ、兄さん」

 

唐突に口を開くシンジ。

 

<何だ?>

 

「セカンドってどんな子なんだろう」

 

<なんだいきなり?・・・・・・そう言えば他のチルドレンの事は一度も調べたことがなかったな>

 

さすがのリュウヤもセカンドチルドレンの事は全く知らないらしい。

 

「まあ、会えばわかるよね?」

 

そう言ってシンジはその場で一回伸びをすると、側にあったベンチに身体を横たえる。

星空が、広がっていた。

日頃の殺伐とした生活を忘れさせてくれる、そんな美しい星空。

 

「セカンドが来て、こちらの戦力はますます上がることになる。そうしたら、僕たちは生き延びる事が出来るのかな?それともやっぱり、滅びの道を歩むのかな?」

 

<さあな>

 

シンジはしばらく空を見上げていたが、やがてゆっくりと立ち上がる。

 

「明日はセカンドのお迎えか・・・。一緒にやっていく仲間だから、いい人だと良いな」

 

<・・・そうだな・・・>

 

そして、シンジはリツコとマナの待つマンションに向かって歩き出す。

運命の再会、その前夜のことである。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

みなさま、いつもご愛読ありがとうございます。

今回は使徒戦が終わったので少しのんびりした話になりました。

シンジ君も銃を入手して、いつ戦いになってもいい様に準備は万全です。

話の中に、少しだけ謎の少女が出てきました。

そう、あのわがままなお嬢さんです。

やっと、ちゃんとしたヒロインが登場するようです。

さて、今回のお話で何か感想等あればお送り下さい。

ちゃんと返事をさせていただきますので、よろしくお願い致します。

それでは、次回をお楽しみに。




艦長からのお礼


シンちゃんへ。
リボルバーは構造が単純でジャミングしにくいかわりに装弾数が少ないから気を付けてネ!

「リロード(再装填)3秒、怪我一生」

おあとがよろしいようで。


さあ、続きが見たけりゃここにメールを出すんだ!

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