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DUAL MIND  第17話

 

 

 

 

 

「あー、今日は転校生を紹介します。さあ、入ってきて」

 

そう言って入ってきた少女を見て男子がどよめく。

皆、その少女の美しさに驚いているからだ。

男子のほぼ全員が、お近づきになろうと心に決めた。

だが、彼らは知らなかった。

その少女が、すでにシンジのものであったということを。

 

「ドイツから来た惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく」

 

アスカは挨拶もそこそこに、シンジに向けて駆け出していく。

皆が唖然としている中、シンジに抱きつくアスカ。

 

「よろしく!シンジ」

 

シンジは男子からの殺気のこもった視線を、冷や汗をかきながら受け止めていた。

先程とは違い、男子のほぼ全員からの視線。

教室全体に、張りつめた空気が漂う。

 

(兄さん、どうしよう。まさか、アスカがここまでするなんて・・・・・・)

 

<諦めろ、お前はそういう星の下に生まれたんだ>

 

(そ、そんな〜)

 

シンジの魂の叫びは誰にも聞こえない。

誰もシンジに同情しない。

あるのはシンジの親衛隊のアスカに対しての嫉妬に狂った目。

そして男子の殺気のこもった視線だけだった。

 

「は〜。ほんまに難儀なこっちゃ」

 

そんなトウジの呟きが、シンジの耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DUAL MIND

第17話「敗北」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝。

多くの学生達が、中学校への道を歩いている。

1人で歩いている者も居れば、友人達と談笑しながら歩いている者もいる。

その集団の中で、ひときわ周囲の目を引いている者が居る。

アスカである。

その容姿から、一日にして中学で知らぬ者が居ないほど有名になってしまった少女。

今朝も、登校途中の男子学生達の視線を一身に集めている。

また、本人もそう言った類の視線を受ける事には慣れているようで、さも当然という風に通学路を歩いている。

そんな彼女が、前方を歩いている男女の存在に気付く。

その男女のことを知らなければ、仲の良い恋人同士に見えるだろう。

アスカは、少し歩調を速めると、そこで2人に声をかけた。

 

「シンジ、ヒカリ、クーテンモルゲン!」

 

「あっ、アスカ・・・・・・ぐーてんもるげん」

 

少し驚いたように振り返ったヒカリが、少し恥ずかしげに挨拶を返す。

そして、ワンテンポ遅れて、ヒカリの隣を歩いていたシンジも振り返る。

 

「ん、おはようアスカ」

 

「・・・・・・どうしたの、辛気くさい顔して。せっかくこの私が声かけてるのよ?少しは嬉しそうな顔をしたらどうなの?」

 

心なしか笑顔が冴えないシンジに、アスカが少し拗ねた表情をする。

自分が声を掛けたのに、あまり嬉しそうにしないシンジに対して、少し怒っているようにも見える。

 

「いや、ちょっと風邪気味で」

 

「大丈夫なの?」

 

「う〜ん・・・・・・たぶんね」

 

シンジが、まるで他人事かのように口にする。

ちなみに、今の状況を解説すると、シンジを挟むようにしてヒカリとアスカが歩いている。

同じように登校している男子生徒たちから、やや殺気を含む視線が向けられているのもうなずける。。

そしてしばらくして、アスカがまるで思い出したかのように口を開く。

 

「・・・・・・ところでさ、居るんでしょ?」

 

「えっ、誰が?」

 

「ファーストチルドレン。アンタの妹なんでしょ?」

 

そこまで言われて、シンジはやっとアスカの質問を理解することが出来た。

 

「ああ、レイのことか。僕たちと同じクラスだから、教室に行けば会えるんじゃないかな」

 

「同じクラス?」

 

「ここ数日、風邪を引いて休んでたからね。でも、昨日様子を見に行ったらだいぶ良くなってたから」

 

アスカは、本来ならすでにレイと会っていても良いのだが、あいにくレイはここ数日、風邪で学校を休んでいた。

その為、アスカとレイは未だ会ったことはなかった。

 

「あれ、あそこ歩いているのレイじゃないかな」

 

ヒカリが、前方を歩いている、水色の髪をした少女に気付く。

 

「あっ、本当だ。お〜い、レイ!!」

 

「ほえっ・・・・・・あっ、お兄ちゃん!」

 

眠そうな目を向けたレイが、シンジの顔を見てハッとする。

そして、すぐに華が咲くような可愛らしい笑顔を浮かべる。

 

「おはよう、お兄ちゃん、ヒカリ!」

 

「うん、おはよう。今日はちゃんと遅刻しないで来られたみたいね」

 

「あっ、ひどいよヒカリ!それじゃあ私がいつも遅刻しているみたいじゃない!」

 

そう言って拗ねたような表情をするレイに、クスッと笑うヒカリ。

さらに何か言おうとしたレイに、シンジが声を掛けた。

 

「おはよう、レイ。風邪治ったの?」

 

「うん、心配かけてごめんね。・・・・・・で、あの、この人は?お兄ちゃんの友達?」

 

レイは、シンジの横に立っている、金色の髪の少女をまじまじと見つめている。

同じくアスカは、レイに対して、まるで値踏みをするかのような視線を向ける。

さしずめ、シンジと親しい女性は全て値踏みしているのだろう。

ややあって、アスカの方から口を開く。

 

「私は惣流・アスカ・ラングレー。エヴァ弐号機の専属パイロットよ」

 

「あ、私は綾波レイです。えっと、一応エヴァ零号機のパイロットです。よろしくお願いします」

 

そう言って、ぺこりと頭を下げるレイ。

そこで、アスカが訝しげに顔をしかめた。

 

「綾波?・・・・・・シンジとは兄妹じゃないの?私はシンジの妹だって聞いてたけど」

 

「う、うん」

 

レイの返事を聞いて、アスカのレイに対する視線が厳しくなる。

余りにもキツイアスカの視線に、レイは一歩下がってしまう。

 

「じゃあ、どうしてシンジのことをお兄ちゃんって呼んでるの?確かに、血は繋がってなくても慕っている人を兄と呼ぶのはよくある事だけど」

 

「昔からそう呼んでたし、それに私・・・・・・」

 

そこまで言って口ごもってしまったレイ。

その沈んだ表情を見て、さすがのアスカもレイに対して悪いと思ってしまう。

はじめて見たレイの笑顔が印象的すぎて、暗く沈んだ彼女の表情は、アスカから見ても耐えられるものではなかった。

 

(なんでかしら。この子にこんな表情をされると、とても胸が苦しくなる)

 

アスカは内心そう思いながら、焦ったように言葉を探す。

とりあえず、自身の為にもレイをいじめるのはやめた方が良いと、彼女の本能は訴えていた。

 

「まっ、まあいいわ。言いたくない事の一つや二つ、誰にでもあるでしょうから。とりあえず、よろしくね。私あなたのことレイって呼ぶわ。だからあなたも私のことはアスカって呼び捨てにして構わないわよ」

 

「あっ、うん。よろしくねアスカ」

 

にっこり笑うレイに、アスカも笑顔で答える。

同性のレイから見ても、アスカの笑顔は惹き付けられるものを感じる。

何となく赤くなったレイを、訝しげに見るアスカ。

そこに、側で2人のやりとりを聞いていたヒカリが口を挟む。

 

「ねえ2人とも、どうでも良いけどこのままだと遅刻するんですけど〜」

 

「「ええっ!」」

 

辺りをきょろきょろと見回すアスカとレイ。

先ほどは多くの生徒達が歩いていた道も、かなり人通りが少なくなっていた。

 

「あっ、ちなみにシンジ君なら先に行ったわ。すごく調子が悪そうだけど、本当に大丈夫かな?」

 

ヒカリが、心配そうに言うと、レイの表情が曇る。

 

「もしかして、カゼ移しちゃったのかな?」

 

「さあ?でも、ただのカゼでしょ。そんなの寝ればすぐに治るわよ。アンタがそんなに気にすることじゃないわ」

 

アスカはそう言って、学校に向けて歩き出す。

そして、その後を追うようにして、レイとヒカリも歩き始める。

3人の少女たちの視線のかなり先を、シンジが1人で歩いている。

その足取りは、体調不良のせいか、とても重かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「だるい」

 

朝日の射し込む部屋の中で、ベッドから出られないシンジがそう呟く。

普段は早起きな彼も、今日ばかりは布団から出られないでいた。

 

<熱はどうだ?ほれ、さっさと体温計を出せ>

 

頭の中に響くリュウヤの声に導かれるままに、シンジは体温計を取り出して見る。

 

「38度9分か・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

<学校、今日は休んだ方がいいんじゃないか?薬飲んでさっさと寝ろ>

 

「そうするよ。でも、その前にマナを起こさないと、遅刻しちゃうよ」

 

そう言って体を起こすと、ひとまず台所に向かうシンジ。

まずは水でも飲んでから、マナを起こそうと思っていたのだ。

するとその時、呼び鈴が誰かの訪問を告げる。

 

「誰か来た。はぁ・・・・・・この時間だと、ヒカリかな」

 

そう言って、のろのろと玄関に行くシンジ。

プシュ!

そんな音と共にドアがスライドし、笑顔のヒカリが姿を現す。

 

「おはようシンジ君・・・・・・って、どうしたの?凄く辛そうよ」

 

「風邪。熱があるから今日は学校休むよ」

 

「大変!大丈夫なの?薬飲んだ?」

 

「薬?・・・・・・ああ。ご飯食べたら飲むよ」

 

「私がお粥作ってあげるから、シンジ君は大人しく寝てて!」

 

ヒカリはそう言って、シンジを部屋に引っ張って行く。

シンジも、そんなヒカリに特には逆らおうとせずに、されるがままになっている。

そしてヒカリは、すぐにシンジをベッドに寝かしつけると、おでこに手を当てて熱を計る。

 

「凄い熱!」

 

「うん」

 

そう言ってにこっと笑うシンジ。

だが、その笑顔はとても辛そうでヒカリは見ていられない。

 

「すぐお粥を作るから・・・・・・それと、氷で頭を冷やさないと」

 

「助かるよ、ヒカリ。あっ、あと、マナを起こしてあげてくれない?このままじゃ遅刻しちゃうからさ」

 

「うん、わかった」

 

シンジの言葉を聞いて、ぱたぱたと部屋を出ていくヒカリ。

そこでやっと一心地ついたのか、大きな溜息をつくシンジ。

 

「ねえ、兄さん」

 

<なんだ?>

 

「僕は、ここに戻ってきて良かったよ」

 

すでに見慣れてしまった、自分の部屋の天井を見ながらシンジが呟く。

今までは、1人だった。

第3新東京市を出てから、ずっと1人で生きてきた。

旅先でも、その容姿と人柄で多くの女性達を惹き付けてきたシンジ。

明らかに過剰とも言える接し方をしてくる女性達も、多く存在していた。

そしてその中には、悪意を持っている者達も当然いた。

だからこそ、普段ならまだしも、体調の悪いときには、決して誰も近寄らせなかった。

それが、体調の悪いシンジのとれる、唯一の自衛の手段だった。

世界は、日本ほど平和ではない。

日本人旅行者が1人行方不明になったとしても、大した事件にもならない。

シンジは、他人を信用せずに生きてきた。

まだ少年の彼が世界で生き残るためには、それは必要な事だった。

 

「シンジー!」

 

赤木リツコの一人娘、マナが泣きそうな顔をしながら部屋に駆け込んでくる。

その後には、やはり何処か心配そうなヒカリがつづく。

 

「シンジ、お熱あるの?辛いの?ねえ、大丈夫?ママに電話しようか?」

 

よほど慌てているのか、涙ぐみながら矢継ぎ早にシンジに話しかけるマナ。

起き抜けで寝癖もあるし、着ている服もパジャマである。

そんな彼女に、シンジは優しく微笑む。

 

「大丈夫だよマナ。それより、早く支度しないと学校遅れちゃうよ?」

 

「いいの!今日は学校なんて行かない!今日はシンジの側に居てあげるの!」

 

「だっ、駄目だよ。マナはちゃんと学校に行かないと。僕のことは良いから」

 

さすがのシンジも、マナが学校を休むと言いだしたので慌ててしまう。

そして、救いを求めるためにヒカリの方に視線を向ける。

ヒカリは、ゆっくりと頷くとマナに近付いていく。

 

「マナちゃん。今はシンジ君を休ませてあげましょう?マナちゃんが学校から帰ってくる頃には熱も下がっていると思うから、ね?」

 

そう促すヒカリに、不承不承で頷くマナ。

さすがにマナも、学校を休むと言うことには罪悪感を覚えていたらしい。

 

「いい、シンジ?私が帰ってくるまでは、ちゃんと寝てなきゃだめだよ?」

 

「うん、わかったよ」

 

シンジはそう言うと、マナの後ろに立っているヒカリに軽く視線をあわせて、ゆっくりと目を瞑る。

マナとヒカリが、ゆっくりと部屋から出ていくのがわかる。

そして訪れる、静寂。

静寂は、孤独ではない。

今まで孤独だと思ったことはあったが、今はもう違う。

信頼出来る人達が、シンジの側にいる。

心を許せる大切な人達が、シンジの側に居る。

部屋を支配する静寂さえも、シンジを癒してくれる温かい時間だった。

 

「こういう時に、誰かが側に居てくれるって・・・・・・良いものだね」

 

<そうだな>

 

そう答えたリュウヤの声も、心なしか温かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(全く、少しはこっちの都合も考えて欲しいよ)

 

エントリープラグの中、シンジは心底疲れたような表情をしている。

学校を休んで自宅で眠っていた彼は、けたたましくなる携帯電話の音に無理矢理起こされてしまった。

使徒が接近しているというのだ。

 

「めんどくさいからパス」

 

そんな一言で電話を切ってしまったのは、彼らしいと言えばその通りだ。

ネルフ側としては、そんなわがままを許せるはずもなく、赤城家まで出向き、シンジを拉致してきたのだ。

シンジも面倒なので、特に抵抗することなく、さらには自分で起きあがろうともせず、まさに『荷物』状態で運ばれていった。

ちなみに、シンジの体調が悪いことは、搭乗前のチェックにおいてネルフ側は確認していた。

だが、たかが風邪くらいで休ませられるほどネルフに余裕はなかったのだ。

薬物を投与し、それで終わりである。

後は、非常に辛そうにしているシンジが残されていた。

 

(なんか、朝より悪くなってるんだけど?)

 

<まあ、今回はレイちゃんとアスカちゃんに任せとけよ。わざわざお前が出る必要はないだろ>

 

リュウヤの言葉を聞きながら、シンジはゆっくりと目を瞑る。

 

『シンジ、レイ。準備は良い?』

 

ポップアップウィンドウにアスカの顔が映る。

その言葉で目を開けるシンジ。

初号機の両脇には、零号機と、日本では初陣となる弐号機がいる。

今回の作戦は、使徒が上陸する前に水際で一気に叩く、というものだ。

 

『私は大丈夫だけど、お兄ちゃんは?』

 

レイがシンジに対して声をかけるが、彼はやや虚ろな目で明後日の方を見ている。

 

『ねえ、お兄ちゃん!』

 

「えっ!」

 

大声を出され、やっとレイの映るウィンドウに目を向けるシンジ。

 

「何とか戦闘は出来る・・・・・・と思うんだけど」

 

シンジの顔色がかなり悪い。

アスカもレイも心配そうにシンジを見る。

そんな彼女たちの表情にも気づけないほど、シンジは集中力を欠いていた。

 

『とにかく、シンジはそこで休んでなさいよ。あいつはあたしとレイだけで片付けるから!』

 

『うん。いつもお兄ちゃんに迷惑かけてるから、今日は私とアスカががんばるね』

 

「わかった。お願い」

 

自分の体調を考えると、さすがのシンジも今回ばかりはアスカ達にまかせるしかない。

彼は、他の人間達に比べてアスカとレイの能力を高く評価していたので、今回の使徒は2人が倒してくれる事を疑ってもいなかった。

そして、そんなシンジの期待に答えるかのように、アスカは自信に満ちた笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネルフ本部、発令所。

ミサトとリツコが、並んで立っている。

ミサトは、鋭い視線を一つのディスプレイに向けている。

そこには、チルドレン達の状態が克明に表示されている。

 

「シンジ君のシンクロ率、いつにもまして低いわね。アスカは92.8%・・・・・・。次にレイが65.1%で、これも悪くない数字ね。でも、シンジ君は・・・・・・・・・」

 

「仕方ないわよ。シンジ君は39度をこえる熱があるのよ。これでいつも通りのシンクロ率を出せというのが無理な話よ。恐らく立っているのもやっとという状態でしょうね」

 

そう言って、シンジの映っているサブウィンドウを心配そうに見つめるリツコ。

シンジは高熱を発しており、使徒戦の様な極限の戦闘に耐えられる状況ではない。

 

「それはそうだけど、シンクロ率44.1%ってのはちょっち低すぎない?」

 

「シンジ君の普段のシンクロ試験・・・・・・あの結果と現在の体調から考えると、今の結果はそれ程低いとは言えないわ。いえ、むしろ大したものだわ」

 

メインモニタには、初号機がのろのろと作戦開始位置に歩いていくのが映る。

そんな初号機の脇を固めるように、零号機と弐号機が歩いている。

 

「ねえリツコ、どうしてシンジ君ってシンクロ率の伸びが悪いの?シンクロ試験でも未だ50%半ばから伸びない。アスカはともかく、今ではレイにも抜かれてるわよ?」

 

そう言って、リツコに鋭い視線を向けるミサト。

シンジのシンクロ率が伸びない理由、それはエヴァに対する嫌悪感である。

シンジは自身が生きるために、そして大切な人達を護るためにエヴァに乗っている。

その想いが、初号機とのシンクロを可能としていると言っても過言ではない。

だが、彼には心の傷がある。

幼い頃、実の父に無理矢理エヴァに乗せられてから、シンジはエヴァに対して無意識のうちに嫌悪感を抱くようになっていた。

嫌悪感。

つまりは初号機に対する拒絶が、シンクロ率の伸びを妨げているのだ。

リツコはミサトの質問に何か言おうとしたが、結局はミサトから視線を逸らしただけだった。

それを見て、ミサトがつまらなそうに鼻を鳴らす。

 

「ふん、まあ良いわ。とりあえず今回シンジ君は後方支援に徹してもらいましょう。どのみち今はアスカが居るし、あのシンクロ率と体調じゃあ戦闘の役には立たない。まあ、最悪の場合は二人を逃がす為の囮になってもらおうかしら」

 

ミサトはそう言って、チルドレン達が映るモニタをみる。

 

「みんな、聞こえる?・・・・・・零号機は遠距離からパレットライフルで使徒を牽制。弐号機はその隙に近接戦闘にて使徒を殲滅して。あと、初号機はそのまま待機して。様子を見て戦線に投入します」

 

『弐号機了解、先行します。レイ、援護頼むわよ!』

 

『了解!』

 

レイの声が司令室に木霊した瞬間、モニターの中の海面が巨大な水柱を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水柱と共に現れたのは、第7使徒イスラフェル。

その瞬間、作戦が開始された。

使徒に向かって走り出す弐号機。

それを援護するように、零号機がパレットライフルで使徒を足止めする。

パレットライフルの着弾面が、赤色の輝きを放つ。

ダメージは与えていないが、牽制としては十分過ぎるほどだった。

使徒に猛烈な勢いで接近した弐号機が、ほんの一瞬でそのATフィールドを中和する。

そして、舞った。

 

『てやあぁぁぁぁぁ!』

 

気合いと共に敵まで一気に飛ぶと、振り上げたソニックグレイブを一息に振り下ろす。

ザシュ!

まさに一刀両断。

 

『すっご〜い!!』

 

零号機がその場でぴょんぴょん跳ねる。

一撃で使徒を真っ二つにしたその技量に、発令所にいた誰もが言葉を忘れていた。

二枚に下ろされた使徒が、アスカの前に無様な姿をさらしていた。

さすがのミサトも、非の打ち所のない完璧な勝利に唖然としていた。

 

『きゃ〜!凄い、アスカ、かっこいい!』

 

ポップアップウィンドウの中のレイが、興奮したように顔を赤らめている。

シンジのために強くなりたいと思っている彼女にとって、驚異の戦闘力を持つアスカは早くも憧れの対象になったようである。

 

『ありがとうレイ。戦いは常に無駄なく華麗によ』

 

そう言って、レイに対してウィンクをするアスカ。

そして、アスカは使徒に視線を向ける。

特に異常が見あたらない。

 

『ねえねえシンジ、見てくれた?あたしの華麗な活躍』

 

嬉しそうにそう言うと、シンジ達のもとに戻ろうとするアスカ。

 

<馬鹿が>

 

「えっ?」

 

リュウヤの呟きに、シンジが思わず言葉を漏らす。

刹那、使徒が動いた。

弐号機がシンジ達の元に戻ろうと使徒に背を向けた、その瞬間だった。

 

「アスカ、後ろ!」

 

普段のシンジなら、使徒がまだ活動を停止していないことなど、とうに気付いていただろう。

だが、今の彼は著しく集中力と判断力を欠いていた。

シンジが叫んだのと、弐号機が背後からの一撃ではじき飛ばされたのはほぼ同時だった。

 

『キャアアアア!』

 

「アスカ!」

 

弐号機はレイの側まで吹き飛ばされて、大きな水柱をたてるとそのまま動かなくなる。

その弐号機に、あわてて駆け寄る零号機。

 

『アスカ!ねえアスカ!』

 

『駄目よ、アスカは気絶してるわ!』

 

レイの言葉に、そうミサトからの通信が入る。

 

「レイ、下がれ!」

 

ドンドン!

使徒に対して、持っていたハンドガンで攻撃する初号機。

だが、放った銃弾はすべてATフィールドによって防がれてしまった。

唇をかみしめるシンジ。

 

<たったの一撃で弐号機を沈めたか。大した攻撃力だな>

 

「レイは弐号機を回収して戻って。ここは僕が時間を稼ぐから!」

 

初号機は右手のハンドガンに加え、左手にプログナイフを装備する。

そのエントリープラグ内で、霞む目で何とか敵を見据えるシンジ。

 

(どうでもいいけど、なんで2体いるの?)

 

<知らん。アスカちゃんが変なとこぶった切ったからじゃないか?>

 

(そんな、いい加減な)

 

リュウヤとそんな言葉を交わしながら、シンジはゆっくりと初号機を移動させる。

そして、それが見えているのだろう。

初号機と同じように移動する使徒。

使徒甲と使徒乙。

当初は一体だけだった使徒が、いつの間にか2体に増えていた。

 

「レイ、アスカを連れて早く退くんだ・・・・・・このままじゃ、負ける」

 

それはシンジの直感ではなかった。

戦力分析に基づく、正当な理由によるものだった。

弐号機が戦闘不能になった今、2対2になってしまう。

その使徒は、不意打ちとはいえ弐号機を一撃で戦闘不能にするほどの攻撃力を持っている。

さらには、現在シンジは絶不調であり、いつ倒れてもおかしくないほど朦朧としていた。

これではどんなに零号機が善戦しても、勝てる確率は殆ど無い。

 

『お兄ちゃん、私も戦う!そうすれば2対2だから!』

 

「だめだ、いいから下がれ!!」

 

『・・・・・・はい』

 

シンジの叱咤を聞いて、しぶしぶと返事をするレイ。

そして、零号機は弐号機を抱えて後方へ、つまりは初号機の居る方へ下がろうとする。

だが、それを許すほど使徒も甘くない。

2体の内の一体が、ふわりと宙を飛んだ。

 

「チッ!」

 

ドンドンドン!!

初号機はハンドガンを撃つが、赤い光りが弾け、使徒のATフィールドが火花を散らしただけだった。

今のシンジのシンクロ率では、使徒のATフィールドを中和できないのだ。

 

『効いてない!?レイ、早くシンジ君の所まで下がりなさい!!』

 

発令所のミサトの声が、スピーカーを通してシンジの耳にも届いてくる。

だが、その時にはすでに、零号機と使徒は肉薄していたのだ。

それは、近接戦闘の間合い。

レイの不得意な、である。

 

「まずい!」

 

初号機は全力で走り出すが、距離がありすぎる。

 

『きゃああああああ!こないで〜!』

 

スピーカーを通して、そんな悲鳴が聞こえてくる。

だが、その可愛らしい悲鳴とは裏腹に、彼女の体は正確に動いていた。

零号機はとっさに弐号機を放り出して、見事なまでの中段蹴りを放つ。

ドォン!

その蹴りはクリーンヒットするが、使徒は一歩も下がらない。

それどころか、腕を上げ攻撃しようとする。

 

「させるか!」

 

零号機に襲い掛かろうとしていた使徒へ、初号機が全力で体当たりを仕掛ける。

激しくはじき飛ばされる使徒。

 

「早く下がって!」

 

再度レイを促すシンジ。

その一瞬の隙をつき、使徒が初号機に攻撃を仕掛けようとする。

 

『シンジ君、右よ!!』

 

「わかってるよ!」

 

ミサトに言われるまでもない。

初号機は使徒の攻撃をかろうじてかわす。

そして、すぐさまその懐に飛び込むと、全力でプログナイフを使徒のコアに突き刺した。

 

『ナッ、ナイス!』

 

発令所でミサトが思わず叫んだ。

使徒にとってコアは急所であり、そこにナイフが刺されば使徒は無事では済まないはずだった。

一瞬にして懐に入り込み急所を貫く、洗練された一撃。

 

『やった?』

 

「ちっ、駄目だ!」

 

シンジの舌打ちと同時に、使徒は何事もなかったように腕を振り上げた。

 

「クッ!」

 

初号機は咄嗟にナイフから手を離し、後ろに身体を投げ出すようにして跳ぶ。

次の瞬間、先程まで初号機がいた場所を、使徒の一撃が薙ぎ払った。

使徒の一撃をかわした初号機は、何とか距離をとって立ち上がっていた。

そのエントリープラグ内で、シンジは驚くべき光景を眼にしていた。

使徒のコアに突き刺さったナイフがゆっくりと抜け落ちたのだ。

 

『そんな、確かにコアに刺さったはずなのに』

 

呆然と呟くレイに、シンジが強い調子で叱咤する。

 

「レイ、まだそんなところに!いいから早く逃げろ!」

 

そうシンジに言われ、再び弐号機を担ぎ後退していく零号機。

初号機は油断なく使徒の動きを見ている。

 

『お兄ちゃん、なんだか変だよ、あれ。コアにプログナイフが刺さったのに・・・』

 

「うん、どうやら簡単には・・・・・・」

 

とても苦しそうにしゃべるシンジ。

高熱のため、いつものように迅速な判断ができない。

 

(兄さん、どうすればいいの?)

 

<わからん。情報が少なすぎる・・・・・・・・・・・・来るぞ!!>

 

リュウヤの声と共に、使徒が2体同時に襲いかかってきた。

ドンドン!

正面にいた使徒甲を狙い撃つが、全てATフィールドに阻まれる。

そして、ついに使徒甲が初号機に肉薄する。

バキン!

使徒甲の一撃が、初号機の右腕を激しく打つ。

宙を飛ぶハンドガン。

 

「グッ、・・・・・・なっ、右!?」

 

咄嗟に身体を捻り、右方向から襲いかかってきた使徒乙の一撃をかわす初号機。

だが、さらに使徒の攻撃はつづく。

使徒甲は大きく腕を振り上げ、そして振り下ろした。

その大振りの一撃は、何の苦もなく避けることが出来た。

だが、空振りした使徒の一撃で大きな水柱が上がり、シンジの視界が遮られた。

そこに、隙が出来た。

 

『シンジ君、正面!!』

 

正面の瀑布から、使徒甲が飛び出してきた。

さすがのシンジも、これは避けられなかった。

ズドン!

辺りに鈍い音が響き、使徒の重たい一撃が初号機の頭部に炸裂する。

 

「グッ・・・・・・」

 

初号機が膝をつく。

さらに、いつの間にか接近していた使徒乙も、同じように初号機の頭部を狙ってきた。

そして、それも避けられない。

ドン!

その一撃で、地面に叩き付けられる初号機。

 

『シンジ君、逃げなさい!』

 

『駄目です!初号機パイロット、意識がありません!』

 

『そんな、お兄ちゃん!!』

 

レイの声も、すでにシンジには届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お説教の時間。

シンジ、アスカ、レイの3名が、作戦失敗の説教を頂いていた。

アスカとレイは、先程から繰り返される報告に悔しそうにしていた。

シンジは、目元を隠すサングラスをかけ、腕を組んでただジッとしている。

 

「君たちの仕事は何だね?」

 

呆れながら言う冬月。

エヴァが3機も出撃して、ここまで醜態をさらすとは思わなかったのだろう。

最後の初号機など、言い訳も出来ないほど完膚無きまでに叩きのめされ、ネルフの副司令としては面白くないのだろう。

 

「そうよ、レイもアスカちゃんもいい加減慣れてもらわないと。まだ使徒は殲滅できてはいないのよ?N2爆雷で攻撃したけど、時間を稼げただけで、使徒はまだ生きてるわ」

 

碇ユイ。

冬月もユイも共にネルフの副司令である。

その2人に小言を言われて下を向いているレイ。

 

「だって、強かったんだもん」

 

拗ねたような表情をしながら、小声でそう言っている。

だが、アスカはレイほど大人しくない。

ただでさえ油断して気絶してしまったのだ。

その怒りがこみ上げてくる。

 

「何よ、あたし達が悪いって言うの?発令所の方でちゃんと情報よこさないからいけないんじゃない!あんた達がしっかりやっていれば、油断だってしなかったのに」

 

「こっちだって必死にやったわよ!」

 

ミサトが反論する。

だが、それがアスカをさらに怒らせる。

 

「必死でやってもわからないの?あんた達なんていなくてもいいんじゃないの?」

 

さすがにそこまで言われては、ミサトも平静ではいられない。

普段からシンジに戦闘中にないがしろにされているのに、その上アスカにまで馬鹿にされては敵わない。

 

「あんたねえ!」

 

ミサトがアスカに掴みかかろうとしたとき、今まで黙っていた少年が口を開く。

 

「うるさい」

 

冷たく、そして何処までも澄んだ声が部屋中に響きわたる。

ミサトもアスカも、その声を発した少年を見ていた。

その少年は、碇シンジ。

だが、いつものシンジとは何処か雰囲気が違う。

 

「少しは落ち着いて、2人とも。今回の事はどちらのせいでもないよ。使徒は未知なる存在。その情報が殆ど無いのは当たり前。発令所にミスはないよ」

 

「何よ、じゃあ私が悪いって言うの!」

 

そうシンジを怒鳴りつけるアスカ。

だが、シンジはそんな彼女に気分を害することもなく、穏やかな調子で言葉を紡ぎ出す。

 

「アスカちゃんのせいじゃない」

 

「えっ?・・・アスカちゃん?」

 

自分の名前をちゃん付けで呼ばれ、一瞬動きを止めるアスカ。

その呼び方が、自分の母親のことを思い出させる。

 

「ゴホン。とにかく今回の使徒は特殊だよ。ただでさえ未知の存在の使徒が、あんなイカサマみたいな真似したんだ。それを考えればアスカもレイもよくやったと思うよ」

 

「でもシンジ!あいつらは・・・・・・」

 

「アスカのがんばりは俺が一番よく知っているから」

 

そう言うシンジに、ほんのり頬を染めるアスカ。

 

「ま、まあシンジがわかってくれてるんなら良いけど・・・・・・」

 

そう言ったアスカの頭をなでなでするシンジ。

 

「ちょっとシンジ、なにするのよ!」

 

「ふふっ、良いから良いから」

 

恥ずかしいのか、怒った素振りを見せるアスカの頭を、ニコニコしながらなで回すシンジ。

普段のシンジとは、何かが違った。

だが、そんなことには気づかないアスカは、やはりまんざらではなかったようで、溜息を付くとされるがままになる。

一頻りアスカの頭を撫でて飽きると、シンジは今度は冬月とユイの2人を指差す。

 

「あそこでやられたのは僕の責任です。それは、誰が見ても明らかでしょう。でも、あなた達は文句しか言うことがないの?それじゃあ、ただのお飾りじゃない?ねえ、副司令殿」

 

「シンジ、サングラスなんか取りなさい」

 

母親の威厳か、シンジを諫めるユイ。

だが、シンジはそんな言葉を聞きもしない。

 

「何か関係あるの?母さん」

 

ユイは、先程から何となくではあるが、普段のシンジとは違うのではと感じていた。

 

「サングラスなんて関係ないだろ。それに何時までも過ぎたことを言うな。そんな暇があったら、あの使徒を倒す方法をさっさと考えてほしいよ」

 

そう言ってシンジは立ち上がると、皆に背を向けて歩き出す。

 

「何処に行くの、シンジ!まだ終わってないわ」

 

ユイがシンジを叱る。

だが彼は、そんなことは全く気にもとめない。

 

「熱があるんだ、休ませてよ」

 

そう言って、ひらひら手を振るとさっさと退出してしまった彼を、黙って見送るレイとアスカ。

2人とも、シンジの体調を心配していたから。

 

「なんだか凄く機嫌が悪かったけど、熱ってどれくらいなの?」

 

そう言ってリツコの方を向くユイ。

リツコはいきなり出て行ったシンジを気にしていたが、ユイの方に向き直り答える。

 

「39度6分。本来ならこの場に居ることすら出来ない程でしょう」

 

そんなリツコの言葉に、すまなそうな顔をするアスカとレイ。

結局、自分達は役に立たずに、病気のシンジに働かせてしまった。

 

「でも厄介ね。今度の使徒」

 

「ええ、お互いが補い合っている使徒。すぐに再生してしまう使徒」

 

「お互い補完しているなら、同時か、または再生する前に同じ箇所を破壊する」

 

「再侵攻はいつくらいになりそうだ?」

 

そう訊ねたのは冬月。

 

「使徒は現在、自己修復中です。再侵攻は、恐らく10日後だと予想されます」

 

「10日か。これは神が与えたチャンスか。それとも・・・・・・」

 

10日以内に勝つ方法を考えないと、人類は滅びる。

そのプレッシャーが、皆の肩にズッシリとのしかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネルフ内の廊下を一人歩いているシンジ。

サングラスで表情は隠しているが、その全身からは不機嫌さをにじみ出している。

普段は軽く挨拶の言葉を掛ける女性職員達も、今日は誰一人として声を掛けない。

それほどまでに、シンジは怒気をまき散らしていた。

そんな、危険な気配を漂わせながら歩くシンジに、一人の男が近寄っていく。

加持リョウジである。

 

「おいおい、シンジ君。いったいどうしたんだい?そんな殺気をまき散らすなんて、君らしくもない」

 

そう言って、少年の元に気安く近寄る加持。

だが、次の瞬間、彼は少年に声をかけた事を後悔した。

ドン!

 

「・・・・・・っ!」

 

加持は、シンジに胸ぐらをつかまれ、そのまま壁にたたきつけられていた。

シンジは、容赦なく加持を壁に押しつける。

そして、サングラスをゆっくりとはずすと、その凶悪なまでに赤い双眸で加持を見つめる。

 

「ばっ、馬鹿な!その瞳は・・・・・・」

 

「今の俺は非常に機嫌が悪い。悪いが話しかけないでくれ」

 

冷たい。

まるですべてを凍り付かせるかのようなその声色に、さすがの加持も冷や汗を流す。

今の少年は、彼のよく知っている「碇シンジ」ではなかった。

その肉の器に内包せし狂気。

人にして人の道から外れた、いや、人と敵対してもおかしくない存在。

赤い魔眼をもつもの。

碇リュウヤ。

その彼が、加持の目の前にいた。

外見は、どこから見ても碇シンジのもの。

だが、その魂は、確かに碇リュウヤ。

 

「くっ、どうしてあなたが!」

 

「さあな。それよりも、あの使徒を倒す方法は考えたんだろうな?」

 

「なぜあなたがそんなことを?」

 

「決まってるだろ。シンジは奴に負けた。たとえ体調が悪かろうが何だろうが、あいつは負けた。この借りは、あいつ自身の手で返すのが普通だろ?」

 

そう言って、にやりと顔を歪めた少年に、加持は恐怖していた。

少年という肉の器に存在する、その圧倒的な存在感に、彼は自分が震えていることにも気づけない。

 

「俺が出ていけば事は簡単だ。奴を壊してしまえばいいんだからな」

 

ゴク。

加持が生唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえる。

 

「あなたが?あの使徒を?」

 

「おい。もしかしてあの程度の敵に、この俺が後れをとるとでも思ったか?」

 

ギリ。

加持の胸元を締め付ける力が、ほんの少しだけ強まる。

加持は、苦しそうに顔を歪め、それでも黙ってリュウヤの言葉を待つ。

 

「これはおまえら人類の問題だから、おまえら人類で片を付けろ。シンジにも今回の件の落とし前はつけさせる。あんな無様な戦いをして、そのままにするなど俺が許さん」

 

そこまで言い切ると、やっと加持のことを解放するリュウヤ。

加持は、乱れた服を直そうともせずに、じっとリュウヤのことを見つめる。

外見、つまり魂の器は碇シンジのもの。

 

「しかし、初号機の破損状態は・・・・・・次回の使徒の進行までに修理が完了するとは思えませんが」

 

「かまわんよ。誰も万全の状態で戦えるとは思ってない。それに、チルドレンはまだ二人もいるだろ。今回の使徒は、シンジ達だと1人で倒すのはつらいだろ。俺ならともかく、今のシンジにそこまでの能力はないしな。だから、せっかくだからアスカちゃんとレイちゃんにがんばってもおう」

 

「アスカとレイ?あの2人はシンジ君とは明らかに違う、ただの一般人ですよ。その2人をどうやって?」

 

「あのな。それを考えるのがおまえらネルフの仕事だろ?給料もらってるんだから、その分は働け」

 

そういって、彼は加持に背を向ける。

そんな彼に、加持は声をかけようとするが、その背中から発せられる怒気に押され、話しかけることができない。

 

「今回、俺は静観する。おまえら人類が使徒にやられようが、俺には関係ない。シンジが死ぬのは気にいらんが、もし負ければシンジもそれまでだったということだ」

 

そこまで話すと、ゆっくりと振り返るリュウヤ。

リュウヤを宿しているシンジの顔が、醜くゆがむ。

笑み、とは表現できないだろう。

ただ、禍々しいだけの存在。

 

「リョウジ、惨めに足掻いて見せろよ。それだけが、おまえら人類に残された道なんだから」

 

そう言って、加持から視線をそらすと、サングラスをかけ直して再び歩き始めるリュウヤ。

加持にとって、普段は親近感を覚えるその後ろ姿も、今は恐怖しか感じなかった。

 

「どちらに?」

 

かろうじて、絞り出すような声で問いかける加持。

その問いに、少年は一言「家で寝る」とだけ答えた。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

皆様、お久しぶりでございます。

さて、今回のお話、いかがでしたでしょうか。

皆さん誰でも経験があると思いますが、今回はシンジが風邪を引いてしまうお話です。

体調管理ってのも、シンジ達にとっては重要なお仕事だと思います。

彼がそれを疎かにしていたと言うことではないですが、まあ人間ですから。

さて、今回のお話はいかがでしたでしょうか?

よろしければ、感想などお送りくださいませ。

それでは、次回をお楽しみに。

 




艦長からのお礼


つらつら読んでいて。


ミサトの顔面中央にギャラクティカマグナムをブチ込みたくなったのは私だけデスか?

ついでに北斗百烈拳も叩き込みたくなったのは私だけデスか?

おまけに昇竜拳もセットにしましょう。


最近仕事が忙しすぎるせいか、思考回路が剣呑になっていると感じる今日この頃。

いかがお過ごしデスか?(笑)


さあ、続きが見たけりゃここにメールを出すデス!

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