DUAL MIND 第18話
加持は、乱れた服を直そうともせずに、じっとリュウヤのことを見つめる。
外見、つまり魂の器は碇シンジのもの。
「しかし、初号機の破損状態は・・・・・・次回の使徒の進行までに修理が完了するとは思えませんが」
「かまわんよ。誰も万全の状態で戦えるとは思ってない。それに、チルドレンはまだ二人もいるだろ。今回の使徒は、シンジ達だと1人で倒すのはつらいだろ。俺ならともかく、今のシンジにそこまでの能力はないしな。だから、せっかくだからアスカちゃんとレイちゃんにがんばってもおう」
「アスカとレイ?あの2人はシンジ君とは明らかに違う、ただの一般人ですよ。その2人をどうやって?」
「あのな。それを考えるのがおまえらネルフの仕事だろ?給料もらってるんだから、その分は働け」
そういって、彼は加持に背を向ける。
そんな彼に、加持は声をかけようとするが、その背中から発せられる怒気に押され、話しかけることができない。
「今回、俺は静観する。おまえら人類が使徒にやられようが、俺には関係ない。シンジが死ぬのは気にいらんが、もし負ければシンジもそれまでだったということだ」
そこまで話すと、ゆっくりと振り返るリュウヤ。
リュウヤを宿しているシンジの顔が、醜くゆがむ。
笑み、とは表現できないだろう。
ただ、禍々しいだけの存在。
「リョウジ、惨めに足掻いて見せろよ。それだけが、おまえら人類に残された道なんだから」
そう言って、加持から視線をそらすと、サングラスをかけ直して再び歩き始めるリュウヤ。
加持にとって、普段は親近感を覚えるその後ろ姿も、今は恐怖しか感じなかった。
「どちらに?」
かろうじて、絞り出すような声で問いかける加持。
その問いに、少年は一言「家で寝る」とだけ答えた。
DUAL MIND
第18話「弱点」
BY ささばり
第7使徒戦があった翌日。
ネルフ内の食堂で、コーヒーを片手に書類と睨めっこしている男がいる。
口にくわえた煙草から、絶え間なく紫煙が立ち上っている。
「ふ〜」
彼はゆっくりと煙を吐くと、彼は煙草を灰皿でもみ消す。
(しかし厄介だな・・・・・・お互いを補完し合うか。葛城にはあの作戦を教えはしたが・・・・・・)
その時、テーブルの上に影がさす。
加持がビクッと顔を上げると、そこには優しい笑顔をたたえたシンジが、片手に缶コーヒーをもって立っていた。
「こんにちは加持さん、ここよろしいですか?」
加持が頷くのを確認して、シンジはその向かいに座る。
そして彼は、手に持っていた缶コーヒーを加持に対して差し出した。
「これ、差し入れです」
「おっ、ありがとうシンジ君」
そう言って缶コーヒーを受け取ると、すぐにプルタブを開けて飲む加持。
そしてホッと一息つくと、シンジに視線を向ける。
「もう、風邪はいいのかい?」
「ええ。一晩寝たら治っちゃいましたよ」
そう言った少年の表情からは、体調の悪さは伺えない。
どうやら、彼の言うとおり体調は万全なようだ。
「シンジ君。病み上がりの君にいきなりで悪いんだが、一つ答えてほしい。君は今回の使徒をどう見る?」
「本当にいきなりですね。・・・・・・・・・・・・・・・そうですね、容易に勝てる相手ではないと思いますよ。奴らはお互いを補っています。いかにエヴァといえども、一体一体バラバラな動きをしていては勝てないでしょう」
「つまり、たとえ君の体調が万全であっても、1人では勝てないと言うことかい?」
その加持の言葉に、ゆっくりと頷くシンジ。
「負けないように戦うことは容易だと思います。ただし、時間を限定すればですが」
「なるほど。倒しても倒しても再生されていたら、いくら君でも体力の限界がきて、いずれはやられてしまうか」
「ええ。可能な限り短期決戦でカタを付けるのが望ましいでしょう。でも、いまの僕たちじゃ、短期決戦でも使徒をしとめられるかどうか・・・・・・」
そう言って、自分用に買ってきていた缶紅茶を飲むシンジ。
加持は、何か悩むような顔をしながら煙草に火をつける。
シンジは、黙って加持のことを見つめていたが、ややあって口を開いた。
「作戦は考えたんですか?あなたか、もしくはあのミサトさんなら、何らかの有効な手段を見つけていると思いますが」
「ああ。使徒のコアに対する2点同時攻撃。コアを同時に破壊すれば、今回の使徒を倒す事は可能だと思う。これは、俺と葛城の2人とも同じ意見だ」
「エヴァ2体による同時攻撃ですか?あなた達2人がそう考えたのなら、やる価値はありますね」
「ただし、その為には2人のパイロットによる協調が必要なんだが・・・・・・初号機の修理は間に合わないな」
そう言った加持の表情は苦々しい。
現在、チルドレンの中で最大の戦闘力を持つ初号機が、作戦の核とならない。
それは、作戦を立案する側にとっては、痛いところである。
もっとも、逆に戦力が突出していないだけに、結果を導き出しやすいかもしれないが。
「どのみち、今回ばかりは僕が作戦の要になる事をミサトさんは是としないでしょう。昨日あれだけ見事に負けましたから。それに、ミサトさんのアスカに対する信頼は異常にも見えますし」
「確かに、ミサトの奴はシンクロ率だけに目がいっているからな。それに、あいつは君を警戒しているんだよ」
「僕・・・・・・ああ、兄さんですか?まあ、気持ちはわかりますが」
シンジは紅茶を啜りながら、しばらく加持から視線を逸らしている。
加持もゆっくりとたばこの煙と戯れつつも、シンジの言葉を待つ。
「・・・・・・結局、残った戦力は零号機と弐号機ですか。これは、ちょっとキツいかな?いい加減、何とかしないと不味いですね。言いたくはないですけど・・・・・・・」
「ああ。だから今、アスカとレイちゃんは葛城の家で特訓中だ。戦いまで日がないからな。彼女たちにはかなりキツいだろうけど、やってもらわないことにはな」
加持は、手にしていた書類をテーブルの上に投げ出し、ゆっくりと伸びをする。
その顔には、心なしか疲れが見える。
灰皿に置かれた煙草から、紫煙が立ち上る。
「加持さん、少し休んだ方が良いですよ?徹夜してもいいですけど、多少は睡眠をとらないと、今後に響きますよ」
「ああ、そうしたいのは山々なんだが。さて、一応立案した手前、アスカたちの様子もちゃんと見に行かないとな」
灰皿の煙草をもみ消し、ゆっくりと立ち上がる加持。
そして、大きなあくびをする。
「ふわ〜・・・・・・そうだ。シンジ君も見に行くかい?」
「そうですね。一応、見ておいた方が良いかも知れませんね」
そう言ってシンジも席を立つ。
そして、2人で並んで食堂からでていく。
通路を歩く2人に、すれ違う女性職員達が会釈をしてくる。
このネルフ内で、加持とシンジの評判はすこぶる良いようである。
加持は軽く手を上げ、シンジも頭を下げて女性職員達に答える。
そして2人は、そのまま何事もなかったように歩いていく。
「ところでシンジ君。最近、身の回りで何か不審なことはないかい?」
「さあ、いつも通りですけど。強いて言うなら、保安部のガードがいくらかマシになったということでしょうか?前はザルでしたからね」
「問題ないなら良いんだが、最近どうも老人達の動きがおかしいようだ。もしかしたら、君にもちょっかいをかけてくるかも知れないから、用心しておいた方が良い」
2人とも自然な笑顔で喋っているので、すれ違う人達には彼らが談笑しているようにしか見えないだろう。
だが、その会話の内容は、かなり危険なレベルに達しようとしてる。
「老人達直属の軍が動いている気配がある」
「へえ・・・・・・でも、そうなったら戦自や、他の陸海空の自衛隊も黙ってはいないでしょう。特に戦自は一応国連軍ですからその戦力も圧倒的です。そんな彼らが、自分達の勢力圏で余所の軍隊が好き勝手するのを黙って見ているはずがないですよ」
「まあ、戦自にはあいつがいるから大丈夫だとは思うが」
加持のその言葉に、シンジがスゥッと眼を細める。
突き刺さるような視線が、加持のことを見据えている。
「戦自の広瀬三佐ですか?・・・・・・あの人は」
そこまで口にして、シンジはいったん言葉を切る。
加持も、ただ黙って歩いている。
「あの人は、敵です。加持さんには悪いですが、次に会った時、あの人を殺します」
シンジのその言葉に、加持は少しだけ悲しそうな顔をする。
だが、すぐに表情を変えて何事もなかったように口を開く。
「あいつの誤解は俺が必ず解く」
そう言って真っ直ぐにシンジを見つめる加持。
しばしの沈黙の後、シンジが優しく微笑んだ。
「友達・・・・・・良いですね」
「ああ」
そう言ってお互い笑顔をかわした後、加持もシンジも表情を引き締める。
すれ違う女性職員が2人の精悍な表情を見て、何故だか頬を赤らめている。
共に並んで通路を歩きながら、お互いの視線は外さない。
「とにかく、用心して置いてくれ。老人達の手駒が動けば、生半可な護衛なんて役に立たない」
「わかりました。とりあえず、僕の方でも注意しておきます。アスカやレイは、僕が護ります」
そして、2人はエレベーターに乗り込んだ。
ブブーッ!!
葛城家のリビングに、耳障りな電子音が鳴り響く。
ミサトは、「またか」とでも言いたそうな表情をして、シンジと加持に視線を走らせる。
「・・・・・・見た通りよ」
大きな溜息を付き、そう言ったミサト。
確かに、ミサトが溜息を付くのもわかる気がする。
訓練を始めてからすでに2日目なのだが、その成果はあまり現れていないようである。
<これは、負けるかな>
そうつぶやくリュウヤ。
彼の感想が、すべてを物語っている。
(あの2人のことだから、あまり言いたくないけど・・・・・・本当に負けるかも)
<協調性まるでなし。個々の戦闘能力も高い訳じゃない。なんか、負ける要素がてんこ盛りって感じだな>
(そうかな?兄さんが言うほど二人とも弱くないと思うけど)
<一般人に比べたらそうだろうよ。だが、それじゃあ不足だろ。同級生を捕まえてケンカするのとは訳が違うぞ>
そんなリュウヤの台詞に、苦笑いをしてしまうシンジ。
それを見たミサトが、シンジに声をかける。
「やっぱりシンちゃんも不安?私もこんなので大丈夫なのか、本気で心配になって来ちゃった」
そのミサトの言葉に、アスカが鋭い視線を投げる。
「ちょっとミサト!聞こえてるわよ!」
「そうは言ってもねぇ。私たちの仕事は結果がすべて。がんばりましたなんて話は通じないのよ。私としては、チャッチャと使徒を倒して欲しいんだけど」
「何よ、私達はちゃんとやってるわよ!!そんな外野からぐちぐち文句言われる筋合いはないわよ!だいたい、まだ訓練始めたばっかじゃないのよ!なんでそこまで言われなきゃならないのよ!!」
アスカはそう言って、つけていたヘッドフォンを床にたたきつける。
その行為に、さすがのミサトも冷淡な視線をアスカに向けた。
「でもね、決戦までもう幾日もないのよ?それなのに、未だにちゃんとユニゾン出来てないじゃないの。口を動かす前に、結果を出したらどうなの?」
「あんたねぇ!」
激昂したアスカがミサトに飛びかかろうとしたとき、アスカに飛びついた少女がいた。
先ほどから黙っていたレイである。
「やめて!私が悪いの。アスカについていけない私が悪いの!」
「あんたが頑張ってる事は私が一番知ってるわよ!あんたも、私もがんばってる。でも、それを何も知らない奴にけなされるのが許せないのよ!」
自分たちの努力が認められない事に、アスカはことのほか腹を立てていた。
だが、シンジにはアスカの言い分より、ミサトの言い分のほうが正しいように思えた。
事態は切迫している。
この状況下では、「頑張りました」などということは無用だった。
必要なのは、ユニゾンに成功している事実のみ。
それゆえ、シンジも口を開く。
「ミサトさん。やはりこの作戦には無理があるんじゃないですか?加持さんとあなたが考えた作戦にケチは付けたくないですが、さすがにこの有様を見てしまうと・・・・・・」
そんなシンジの冷たい言葉に、レイも悲しそうな顔をする。
「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
「あっ・・・いや、確かに2人とも頑張ってるのはわかっているけど」
「じゃあ何が気に入らないのよ、シンジ!」
そうシンジにかみつくアスカ。
普段は味方のシンジが、今回は敵にまわっているので、その苛立ちは半端ではない。
だが、シンジはアスカの苛立ちなどお構いなしなのか、いつものゆったりとした口調で話しかける。
「2人がお互いの動きを意識していないでしょ。アスカは1人で飛ばしすぎだし、レイはアスカに着いていこうと躍起になっている。でも、この訓練は2人が呼吸のあった動きをするための訓練じゃなかったっけ?どうすれば同じ動きができるか、お互いをフォローできるか、そのあたりを考えないと意味がないと思うけど」
「そうよ。2人の動きが違ったら違ったなりに動いてくれないと、何の為にもならないわ。実際の戦闘で、2体のエヴァが同じ動きが出来るわけないじゃない。それに、使徒が同じ動きをする保証もない」
シンジとミサトにそう言われ、さすがのアスカも二の句が継げなくなる。
そして、助けを求めるように加持の方を見る。
「アスカ・・・・・・残念だが、今回必要なのは努力じゃない。結果なんだ」
加持にもそう言われて、ついにアスカが切れた。
だが、彼女が切れたのは、ある意味よかったのかもしれない。
「ああそう!みんな見てるだけで好き勝手言って。いいわよ、やってやるわよ!!た・だ・し、見てなさい。特にシンジ!あんだけあたしたちを馬鹿にしたんだから、後で覚えてらっしゃい!あんたの財布、空っぽにしてあげるから!」
「はぁ?なんで」
「あんた、私たちをこんだけ馬鹿にしたのよ?ただで済むと思ってないわよね」
「は、はは・・・・・・お手柔らかに」
さすがのシンジも、それ以外に返す言葉がない。
なぜ自分だけ、と釈然としないものを感じてしまう。
「却下!私とレイの洋服代、全部シンジが払うのよ。ね、レイ?」
「うん!」
そういって、すぐに特訓を再開するアスカとレイ。
そんな2人を見ながら、青い顔をしているシンジ。
アスカとレイの買い物のすごさを、身をもって知っているのだ。
あの体力を戦闘時に発揮できれば、おそらく怖いものなしだろう。
いかに高給取りとはいえ、中学生としての通常の金銭感覚を持っているシンジには、アスカとレイに服を買ってあげるという事がどういう事か、考えただけで寒気がした。
悲壮感漂う表情をしているシンジ、加持が話しかけた。
「悪かったな、シンジ君。俺が君を誘ったからかな?」
「う〜ん。まあ、あれであの2人のやる気がでるんならいいんですが・・・・・・あの2人の買う服、高いからな〜。しかも、アスカなんかは遠慮せずにここぞとばかりに買い込みそうだし」
「まあいいじゃないか。あんな美少女2人と買い物に行けるだけでも、儲けものだと思っておけば。それに、俺に比べたら君の方が遙かに高給取りだからな」
「そんなものですかね?」
<洋服程度で煽てられるんなら安いものだろう。女はこれだから楽でいい>
そんな彼の言葉に、さすがのシンジも苦笑いしただけだった。
ここは第3新東京市内、とある住宅街。
そこの家々の一つ、表札に「広瀬」とある家では、1人の男が台所に立っている。
大きなひよこの描かれたエプロンをして、鼻歌交じりで鍋をかき回す男。
広瀬タケユキ。
「おはようございます、あなた」
タケユキにそう声を掛けたのは、一目見て可愛いという印象を持つ女性。
広瀬サユリ。
タケユキの妻で、彼女とタケユキ、そして加持リョウジは、幼い頃をともに過ごした親友同士である。
「おはよう。今日のみそ汁は絶妙だぞ?」
そう言ったタケユキに対して、ニッコリと微笑むサユリ。
その暖かい笑みに、タケユキも知らず知らずのうちに表情を崩す。
「ほんと。どおりでいい香りがしてくると思ったわ」
サユリはまっすぐにテーブルまで歩いてくると、手探りで椅子を探し、そして腰掛けた。
実は彼女、目が見えない。
セカンドインパクトの際に怪我をして、それ以来、彼女の目は光を失ったままだ。
本来なら命を失ってもおかしくない状況を生きて切り抜けられたのは、ひとえにタケユキと加持のおかげだった。
彼らが瓦礫の山からサユリを助け出したため、何とか一命を取り留めたのだ。
余談だが、セカンドインパクト時に身内と死別してしまった三人は、皆で身を寄せ共同生活を送っていた。
混乱を極めたその時代に、何の力のない少年少女達が健全に生活して生き残るのは難しく、加持とタケユキは、犯罪行為に手を染めていた。
生き残るために。
そして、サユリを生かすために。
「まあ、俺にかかればみそ汁ごとき、大したことはない。鮭もいい具合に焼けてるし、完璧だな」
タケユキは、自信たっぷりに胸を反らしながら言う。
その様はサユリには見えないが、今の彼がとても機嫌が良い事は伺い知る事ができた。
ちなみに、基本的にタケユキが居る朝は、彼が朝食を作る事にしている。
やはり目の不自由な妻に料理をやらせる訳にはいかないのだろう。
自分が居るときは、すべて自分でやるというのがタケユキの考えのようだ。
「ふふっ、どうしたんですか?今日はずいぶんと上機嫌ですね。何かいい事でもありましたか?」
「良い事?・・・・・・ああ、あったぞ。ほら、この前言ったろ。リョウジの奴が戻って来てるって」
「ええ。それなのにあなた、リョウちゃんの事いつまで経っても連れてきて下さらないんですもの。ラッキーの事も、ちゃんとお礼を言わないといけないのに、リョウちゃんったらすぐに海外に行っちゃうから・・・・・・」
サユリは、少し寂しそうな顔をしながら、自ら傍らに常に控える犬をなでる。
この犬の名はラッキーといい、盲導犬である。
2015年現在においても、盲導犬は需要と供給のバランスが成り立っていない。
とくに、セカンドインパクトの影響で体に様々な障害を負った人も多く、盲導犬や介助犬への期待も高まっている。
だが、実際は圧倒的な需要に対して、肝心の供給が全く追いつかなくなっている。
そんな時代に、サユリが盲導犬というパートナーを得られたのは、ただの運や偶然ではない。
その背景には、裏の顔を持つ加持リョウジの影響力があったと推測される。
「すまん。あいつも今なにやら取り込んでるみたいだから、なかなか誘いづらくてな」
「いいんですよ。リョウちゃんにはリョウちゃんのお仕事があるんですから。でも、今日あなたが上機嫌なのは、もしかしたらリョウちゃんのお仕事に関係があるの?」
そんな妻の言葉に、タケユキはにやりとする。
待ってましたと言わんばかりに、ぐぐっと身を乗り出す。
「ここ数日で、あいつの仕事っぷりをイヤと言うほど見せてもらった。俺たちの幼なじみがあれだけ頑張ってるんだ。俺も頑張らないとな」
本当に楽しそうなタケユキ。
実際のところ、彼と加持は殺し合いをしているに等しい。
だが、タケユキも、そして加持もお互いにそう言った意識は持っていない。
あくまで、双方とも自分の仕事を、プライドを持ってこなしているだけ。
仕事柄、衝突してしまう事はあるかもしれないが、そこに恨み辛みはない。
「リョウちゃんは今、国連のお仕事をしてるんですよね?あのリョウちゃんがそんな仕事するなんて、誰も想像しなかったでしょうね」
2人の脳裏に、幼い頃の加持が浮かぶ。
特にガキ大将というわけではなく、だからといって大人しいわけでもない。
どこにでもいる普通の少年。
とても、国連などという組織で仕事をするようなタイプではなかった。
「違いない。あいつはどちらかというと、定職についてきっちり働くタイプじゃなかったしな。定職に就いてなくても、結局はほかの連中より良い生活をする。そんな要領の良いタイプだったからな」
「それはリョウちゃんに失礼よ」
食堂に、明るい笑いが響く。
この夫婦は、常に笑いを絶やさない。
セカンドインパクトを乗り越えてきた2人には、お互いの笑顔がどれほど大切だかわかっていた。
近所でも評判の、仲の良い夫婦。
それが、広瀬夫妻。
「・・・・・・さて、そろそろ食うか。そうしたら、久しぶりに一緒に散歩でも行くか?今日は休日だし」
「まあ、よろしいのですか?」
サユリの笑顔に、タケユキもついつい頬がゆるむ。
何時までの新婚気分、と言ったところだろうか。
「避難警報はまだ数日は出ないから、散歩くらいは大丈夫だぞ」
「ふふっ、あなたとお散歩するのも久しぶりですね。いっぱいおめかししていかないと。ラッキーも一緒にお散歩に行けて、嬉しいわよね」
そう言って自分のパートナーに微笑むサユリ。
そんな彼女の笑顔を見ながらも、タケユキは意識を別の方に向ける。
(今回のあの化け物、ネルフはどう捌くかな?)
タケユキですら一目置いていた初号機が破れたのだ。
おそらく、零号機と弐号機では手も足も出ないだろう。
(情報によると初号機は大破、次の戦闘には間に合わない。なら、残りは零と弐・・・・・・か。あの2体は明らかに初号機に劣っている。ネルフの奴らがそれに気づかないとは思えない。なら、何か作戦があるのか)
そこまで考えたタケユキの脳裏に、一人の男の顔が浮かぶ。
誰よりも知っている、男。
そう、あの男が居た。
「ああ、そうか」
「えっ、どうかしましたか?」
突然のつぶやきに、サユリはタケユキの方に顔を向けた。
そんな彼女に「なんでもない」といって、みそ汁を啜るタケユキ。
その口元には笑み。
(お手並み拝見と行こうか、リョウジ。失望させるなよ)
つづく
<あとがき>
どうも、ささばりです。
皆様、大変お待たせいたしました。
DUAL MIND 第18話をお届けいたしました。
いかがでしたでしょうか?
ユニゾンの練習には、アスカとレイが参加していて、シンジは参加していません。
初号機の損傷具合もそうですが、先の敗北で必然的にはずされたようです。
また、今回は広瀬の奥さんが登場しました。
広瀬が戦い続ける理由は彼女にあるわけですが、それは追々明らかになるでしょう。
さて、今回のお話はいかがでしたでしょうか?
よろしければ、感想などいただけたらと思います。
それでは、アスカとレイのユニゾンがどうなるか、次回をお待ちください。
艦長からのお礼
印象を述べるとするならば。
男くさい。
別に野郎しか出ていないというのではなく、どいつもこいつも男どもがいい味を出していると。
私は俳優さんなんかでもおっさん好みな所がありますので(笑)
トミー・リージョーンズとか。
女性の方には臭いのは臭いけど
”胡散臭い”
とか言われそうですが(笑)
さあ、続きが見たけりゃここにメールを出すんや!