DUAL MIND 第3話
<しかし辺りに誰も居ないというのはどういうことだ?>
「たぶんこのサイレンが原因じゃない?」
そう言ってから空を見上げる。
雲1つない青空が広がっていた。
空色。
(あの子、元気かな?)
相変わらずサイレンが鳴っている中、シンジは歩き出した。
彼は、辺りに流れているアナウンスを全く聞いていなかった。
『・・・ただいま、政府による非常事態宣言が発令されました・・・・・』
DUAL MIND
第3話「赤い瞳」
BY ささばり
「う~ん、なんかヤバそうだね」
そう言って辺りを見回す少年。
碇シンジ。
街には人っ子1人いない。
それは当然。
避難警報が出ているのである。
<いい天気だな・・・もう少し色々見て回らないか?久しぶりだし>
シンジの頭の中に声が響く。
「そうだね、それにしてもホントにいい天気だね」
陽の光を浴びながら、しみじみというシンジ。
第3新東京市は、いい天気だった。
<そう言えば・・・何か忘れてないか?>
「・・・えっ?そうだっけ?」
そう言いながら歩くシンジ。
彼は確かに忘れていた。
駅に、誰かが自分を迎えに来てくれるはずだったのだ。
シンジが何故その存在を忘れているかというと、父親の部下だからである。
シンジの父ゲンドウは、ネルフという怪しげな組織に属している。
少なくともシンジはそう考えていた。
「・・・あれ・・・なんだろう・・・」
そう言ったシンジの側をミサイルが跳んでいく。
物凄い風圧がシンジを襲う。
<うーん、良い風だな>
「ちょっと僕には強すぎるよ」
のんびりというシンジ。
その時、ビルの向こうから戦闘機が何機か出てくる。
そしてそれを追う様に巨人が姿を現す。
造形的に美しいとは言えないその姿。
だが、能力が圧倒的なのは見て取れた。
戦闘機の攻撃が、全く効いていないのである。
「おっきいね、兄さん」
<ああ、でかいな>
のんびりとしているシンジ。
その時、戦闘機が撃破された。
その戦闘機が、シンジのすぐ側に落ちる。
「あ、やられた」
<昔あった特撮ものを思い出すな>
シンジの目の前に落ちた戦闘機を、巨大な足が踏み潰す。
次の瞬間、荒れ狂う爆風がシンジに襲いかかる。
吹き飛ばされるシンジ。
まるで木の葉の様に。
だが、シンジは空中で体勢を立て直すと、何事も無かったかの様に着地する。
その瞳は燃えるような赤。
「ありがとう、兄さん。」
シンジはそう呟く。
<かまわん。好きでやってることだ>
「うん、ありがとう」
そう答えるシンジの瞳はすでに漆黒に戻っていた。
そのとき、猛スピードで走ってきた車がシンジの前に滑り込んできた。
運転していた女性が大声を上げる。
「碇シンジ君ね!早く乗って!」
「どうしてあんな所にいたの」
ここは車の中。
運転している美女、葛城ミサトがシンジに言った。
「空が綺麗だったから・・・。」
「え?」
「空が綺麗だったから、つい散歩したくなったんですよ。葛城さん」
「(変な子ね)そう・・・。あと私の事はミサトで良いわよ」
そう言ってミサトはニコリ、と笑った。
見る者全てに爽快感を与える、そんな笑顔だった。
その時、突如シンジの頭に声が響く。
<シンジ、まずいぞ>
「えっ」
思わず口に出してしまうシンジ。
だがミサトは気付かない。
<奴ら、何かやらかす様だな>
(え?)
車の窓から外を見てみるシンジ。
そこには巨大な化け物から一斉に離れていく戦闘機の姿があった。
「ミサトさん」
「なに?」
「戦闘機、みんな引き上げちゃったみたいですよ。勝てないことに気付いたんですかね」
それを聞いたミサトの顔色が一気に青白くなる。
文字通り、本当に血の気が引いて青くなっていた。
「それとも、何かするんでしょうか?」
のほほんとシンジが聞く。
だが、ミサトはその言葉を聞いていなかった。
「まさか!N2地雷を使うの!?」
すぐさま車を止める。
刹那、閃光が辺りを包み込む。
「伏せて!」
そう言ってミサトがシンジに覆い被さった。
そして、物凄い衝撃が車を襲った。
「む、胸が・・・」
爆風で吹き飛ばされる車の中、シンジの呟きはミサトには聞こえなかった。
<美人だな>
そんな言葉が頭の中に響く。
ここは車の中。
ステアリングを握っているのはシンジ。
その瞳は淡い光を放っている。
赤く。
「まだ目が覚めないのかな?」
<ああ、当分はな。しかし良かったなシンジ>
葛城ミサト1尉。
N2地雷の爆風で車が吹き飛ばされたとき、車内で頭を打って気絶していた。
「なんで?」
<こんな美人のお姉さんと知り合えて。それに初めての時は年上の方がいいだろう>
「?」
<大丈夫、優しくしてもらえると思うぞ>
次の瞬間シンジの顔が赤く染まる。
何のことを言っているのか理解したのだ。
「な、何言ってるんだよ!」
<わかっているんだろ。スケベシンジ君>
「そ、そんなことないよ!」
<隠すな隠すな。シンジの考えていることは俺に全部筒抜けなんだぞ。ネルフにいく前に休憩するんだろ?>
「そ、そんな事考えてないよ」
必死に弁解するシンジ。
彼とて健全なる14歳の男の子。
そう言うことにも興味津々なのだろう。
<そんな事ってなんだ?いったい何を考えていたんだ?ん~、シ・ン・ジ>
「・・・」
<安心しろ、シンジ。俺が14の時と言えばそれはもう・・・>
「おじさん」
<・・・は?>
シンジの顔が無表情になっている。
その声色は、冷たい。
「リュウヤ叔父さん」
その声色から危険なモノを感じる。
<シ、シンジ?>
「何?お・じ・さ・ん」
もし、この時のシンジの声を聞いていた者が居たら、恐らく震え上がっていただろう。
それ程の恐怖を相手に与える声。
それは、シンジの中の存在、リュウヤとて例外ではなかった。
<すまん、俺が悪かった。だから叔父さんはやめてくれ。な?頼むから兄さんにしてくれよ>
「・・・」
<頼むから許してくれよ~。もうからかったりしないからさ。ね?シンジ様>
ややあってから、仕方が無いというような表情をするシンジ。
「わかりましたよ、兄さん」
<ありがとう、シンジ>
「でも・・・」
<でも?>
「大きかった・・・胸」
そう言って少し赤くなるシンジ。
この辺り、年相応の少年のようだ。
<アハハハ、そうだシンジ。それでこそ漢だ!>
「それよりミサトさんまだ目を覚まさないね」
<起こしてやればどうだ?>
「そうするね」
そう言うとシンジは、シフトノブに置いていた手を離すとミサトの体を揺する。
「ミサトさん、起きてください。ミサトさん」
「・・・う~ん。あ、あれ、シンジ君。ここは・・・あれ、どうしてシンジ君が私の車運転してるの?それよりシンジ君14歳でしょ。何で運転できるのよ。あれ?赤い目?」
シンジの瞳をまじまじと見ているミサト。
だが、そんなミサトからすぐに目をそらすシンジ。
脇見運転はしない。
「ミサトさん、しっかりしてくださいよ」
そう言うと、シンジは車を路肩に止めた。
その時すでにシンジの瞳は漆黒に戻っていた。
「あれ?黒いわね。おっかしいわね、見間違いかしら?」
そう言いながらもシンジと席を替わるミサト。
彼女は運転席に座ると、とたんに目つきが変わる。
「さーてと。じゃあ改めてよろしくね、シンジ君」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。ミサトさん」
特務機関ネルフ、司令室。
「そうか、わかった」
冬月が受話器を置く。
そしてゲンドウとユイの方を見ると言った。
「もうすぐシンジ君が来るようだ」
「そうか」
「いいのか」
冬月にそう問われ、しばし沈黙するゲンドウ。
ややあって、口を開く。
「レイにはまだ無理だ。ほかに手段はない」
「それはそうだが・・・」
「あなた、私はEVAの発進準備を急ぎます」
そう言うとユイは司令室を出ていった。
そして残された二人の男たち。
「辛いな」
「ああ」
(戻って来ちゃったね)
<良かったのか?>
(うん・・・事情はわかってるから)
ゲートを通過した車はカートレインに乗る。
その時ミサトが話しかけてきた。
「ねえシンジ君、お父さんから来た手紙持ってる?」
「いえ、捨てました」
そう言って会話が終わってしまった。
沈黙。
ミサトの額に青筋が浮いている。
<おお~、怒ってる怒ってる>
「ミサトさん、手紙がどうかしましたか?」
「な、何でもないのよ」
顔を引きつらせながら微笑むミサト。
内心どう思っているのやら・・・。
「あ、でも何かカードもあってそっちはとっときましたよ」
「そう、じゃあそれ貸して・・・」
シンジはズボンのポケットを漁ってカードを取り出そうとする。
そして、シンジの動きが止まる。
「あ・・・」
<あらら・・・>
ポケットから二枚の板を取り出す。
それを見てミサトの顔が引きつる。
「折れちゃいました」
そう言ってミサトに渡す。
何とか怒りを抑えるミサト。
「まったく・・・後これ読んどいて」
そう言ってミサトは冊子をシンジに放った。
そのタイトルを見て苦笑いするシンジ。
<センスってもんが無いな>
その中身をぱらぱらと見る。
全て知っている内容。
そして重要な事は何一つ書かれていない。
シンジはネルフについて、驚くほどの知識を持っている。
ネルフのかなりの地位の者でなくては教えられない真実も、シンジは知っている。
ミサトより、シンジの方が遙かにネルフに詳しかった。
そしてその冊子を後部座席に放り投げるシンジ。
「どうしたの・・・読まないの」
「必要ありません」
そんなシンジを不思議そうに見ているミサト。
(な~んかやりにくいわね。この子、ホントに中学生?)
確かに中学生である。
ただ少し特殊なのだ。
そう、ほんの少しだけ・・・。
(ここもう三回目だね)
ため息混じりのシンジ。
それもその筈である。
現在ジオフロントの中にいるのだが、案内してくれるはずのミサトが迷っている。
「ミサトさん」
「おっかしいわね~。ちょっち待っててね、すぐ着くから」
<そのセリフはもう6回目だ。無能な奴>
苦笑いするしかないシンジ。
<どうするシンジ。こいつは置いて俺達だけで行くか?>
こいつ・・・ミサトはキョロキョロしている。
(何か詐欺にあったみたい・・・案内するって言って迷わされた)
<葛城ミサト・・・外見は良いんだがな>
(中身が・・・ね)
結局ミサトはどこかに電話しようとした。
その時。
シンジは懐かしい声を聞いた。
もう別れて何年になるか。
愛しい妹。
「お兄ちゃん!」
その懐かしい声に、シンジは自然と笑みを浮かべた。
つづく
<あとがき>
どうも、ささばりです。
今回のお話はいかがでしたでしょうか。
第3話なのにまだエヴァに乗っていません。
まだまだ先は長そうです・・・。
頑張って書かないといけませんね。
ご意見ご感想も是非お願いします。
それでは、次回をお楽しみに。
艦長からのお礼
ツボですねぇ(笑)
まさしくツボですよ、ハイ(笑)
ちょっとだけ歩みが遅々としてますが、それもまあ焦らされてると思えば・・・(爆)
さあ、スーパーな予感がするシンジが見たければここにメールを出すんだ!(爆)