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DUAL MIND  第4話

 

 

 

 

 

<どうするシンジ。こいつは置いて俺達だけで行くか?>

 

こいつ・・・ミサトはキョロキョロしている。

 

(何か詐欺にあったみたい・・・案内するって言って迷わされた)

 

<葛城ミサト・・・外見は良いんだがな>

 

(中身が・・・ね)

 

結局ミサトはどこかに電話しようとした。

その時。

シンジは懐かしい声を聞いた。

もう別れて何年になるか。

愛しい妹。

 

「お兄ちゃん!」

 

その懐かしい声に、シンジは自然と笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DUAL MIND

第4話「兄妹」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通路を三人が歩いている。

黒髪に黒い瞳の少年。

碇シンジ。

ロングヘアーの大人の女性。

葛城ミサト。

そして水色の髪、赤い瞳を持つ少女

綾波レイ。

 

「いつまでたっても来ないから迎えに来ちゃった」

 

そう言った少女の笑顔は、シンジにとってとても懐かしいモノだった。

 

「久しぶりだね、レイ。何年ぶりかな」

 

「3年ぶりだよ、お兄ちゃん。だってお兄ちゃん全然会いに来てくれないんだもん」

 

そう言ってレイは頬を膨らませて拗ねてみせる。

とても可愛らしい少女。

 

「そうか・・・もう3年も経ったんだね」

 

少し感慨深げに言うシンジ。

 

「うん・・・何にも言わないで出て行っちゃうんだもん」

 

少し涙ぐんでいるレイ。

シンジが家を出ることを伝えたのは、両親、実の姉のように慕っている女性、そして幼なじみの親友だけだった。

 

「ごめんね・・・でもあの時は仕方がなかったんだ」

 

「うん・・・いいの」

 

「そっか・・・」

 

そう言って、レイの頭に手をのせて撫でるシンジ。

 

「えへへ、お兄ちゃん」

 

そう言って今度はニコニコしているレイ。

本当に嬉しそうなレイの笑顔。

そんな笑顔を見せるレイを見てシンジは安心した。

 

<昔より明るくなったみたいで良かったな>

 

(うん、そうだね。昔はどうしようかと思ったけどね)

 

<シンジが親身になって接してあげたからだ。いじめられてても守ってやってたし>

 

(でも、兄さんが言ってくれなかったら僕は逃げ出してたよ)

 

<そんな事はない。お前が自分で考えて、自分で決めた。・・・大したものだよ>

 

(でも・・・)

 

<お前は自分を過小評価しすぎる>

 

(兄さんこそ僕を過大評価しすぎだよ)

 

<う〜ん・・・まあいいか、評価で実力が変わる訳じゃないしな>

 

(そうだね)

 

シンジにとって大切な妹。

綾波レイ。

今こそ元気で可愛い少女だが、昔はいつもオドオドしていた。

子供の頃、その髪と瞳の色が原因でよくいじめられていた。

それを助けてあげたのがシンジだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう昔の話だ。

 

『やーい、このウサギ目!!』

 

『え〜ん、え〜ん』

 

公園の中から男の子のからかうような声と、女の子の泣き声が聞こえてくる。

シンジが何事かと公園の中を覗いてみる。

そこにいたのはシンジの知っている少女。

両親がシンジの知らないうちに連れてきた妹。

いつも自分に怯えたような目を向ける少女。

綾波レイ。

シンジから両親を奪った存在。

シンジの両親に愛されている存在。

だが恨んでいるわけではない。

憎むべきは両親。

エヴァにのめり込む両親。

両親のことを考えて嫌な気分になるシンジ。

本当は愛情に飢えているのに・・・。

それを素直に表せない悲しい少年。

ハッとして再び意識をレイに戻す。

レイは4人の男の子に囲まれていじめられている様だった。

助けなきゃ、そう思いながら体が動かなかった。

レイをいじめている男の子たちのリーダーは暴れん坊で有名な小学6年生。

体は大きいし空手も習っているらしい。

どう考えても小学2年生のシンジに勝てるはず無かった。

 

(このままじゃレイちゃんが・・・、でも・・・でも・・・)

 

ついにいじめっ子の1人がレイの髪の毛を引っ張り始めた。

それを見たシンジは決心した。

たとえ自分はどうなってもレイを守ってみせると。

たとえ両親の愛情をシンジから奪った相手であっても。

それがシンジの本質。

限りない優しさ。

たった小学2年生の男の子がこう決意するのにどれほどの勇気が必要だったか。

そしてその勇気があるモノを動かした。

 

<力を貸してやろうか?>

 

『なに、おにいちゃん?』

 

シンジの頭に誰かの言葉が響く。

 

<レイちゃんを助けられるだけの力を貸してやろうか?>

 

『そのちからがあればレイちゃんをたすけられるの?』

 

<ああ、レイちゃんを守ってあげられる>

 

その時レイの泣き声がいっそう大きくなった。

いじめっ子がレイの頭を小突いたのだ。

そして、シンジが口を開く。

 

『・・・かして。ちからをかして・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だいじょうぶ?』

 

泣きながら逃げて行くいじめっ子たち。

しゃがみ込んで泣いているレイに手を差し伸べながら言った。

その手を怖々と握ると立たせてもらうレイ。

恐る恐るシンジを見る。

いかに知っている相手といえどもまたいじめられると思ってしまう。

そんなレイにシンジは言った。

とても優しい笑顔と共に。

 

『だいじょうぶだよ、レイちゃんはぼくがまもってあげるから』

 

そう言ったシンジの瞳は赤く輝いていた。

レイと同じように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからレイは変わった。

いつもはシンジに対しても怯えたような目を向けていたレイ。

そのレイがシンジにベッタリなのである。

小学校はシンジは公立でレイは私立だったが、シンジが家に帰ってくるとその側から離れようとしなかった。

シンジもそんな少女を可愛がっていた。

血が繋がっているかなど関係ない。

戸籍など関係ない。

どんな存在であろうと、シンジにとってレイは愛すべき妹だった。

相変わらずレイをいじめようとする者達が後を絶たなかっが、シンジはそんな連中に対して容赦しなかった。

当然そんなシンジに友達が出来るはずもない。

唯一幼なじみの親友だけがシンジの側にいてくれた。

もっとも、シンジにはそれだけで十分だったのかも知れないが。

結果、半年もするとレイをいじめようとする者は1人もいなくなった。

そしてそのころからはレイも笑顔を見せるようになった。

特にシンジには「お兄ちゃん」と言って懐いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さんに聞いたから待ってたのに、全然来ないんだもん。心配だから迎えに来ちゃった。」

 

「ごめんね、レイ。どうやらミサトさんが迷っていたみたいなんだ。」

 

決して自分一人でも行けたとは言わないシンジ。

 

「ごみ〜ん。もうちょいで着いたんだけどね。」

 

葛城ミサト、29歳。

ネルフの迷子回数ナンバーワンである。

 

<もうちょいって・・・どこからそんなセリフが出て来るんだ?・・・不思議な生き物だな>

 

ミサトの事をまるで珍獣かのように言うリュウヤ。

内心苦笑いしているシンジ。

 

「ねえ、お兄ちゃん?」

 

レイがシンジの腕に自分の腕を絡ませながら聞く。

 

「なんだい?」

 

「今まで何処で何してたの?」

 

真摯な眼差し。

大好きな兄の事を少しでも知りたい。

そんな想いを感じる。

 

「・・・旅をしていたんだ・・・いろいろな国を」

 

ゆっくりと語り出すシンジ。

大切な思い出を話すかのように。

 

「いろいろな国?」

 

「ああ・・・アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、・・・その他色々」

 

(そして・・・ドイツ)

 

シンジの脳裏に浮かぶ少女。

とても明るい・・・だがとても傷付いていた少女。

たった数日会っただけの少女。

それだけなのに、シンジの心に強烈な印象として残っている。

太陽のような少女。

 

(・・・アスカ・・・)

 

「凄いんだ・・・お兄ちゃん」

 

レイの声に意識を戻すシンジ。

目の前の少女は尊敬の眼差しでシンジを見つめている。

 

「でもシンジ君、言葉とかどうしたの。それにお金は?」

 

2人の後ろを歩きながら聞いてくるミサト。

それは、きわめて常識的かつ現実的な質問である。

 

「・・・そこら辺は秘密ですよ、ミサトさん」

 

「どうして?」

 

ミサトの問いにちらりと後ろを見るシンジ。

 

「知らなくて良いこともありますよ」

 

ゾク!

ミサトは一瞬身震いした。

シンジの視線。

なぜかわからないが、恐怖を感じた。

ミサトの本能が、シンジを恐れたのだ。

 

(な・・・何なの今のは・・・)

 

そのミサトから視線を外し横にいるレイを見る。

ミサトを見た時とは別の、優しい視線。

 

「でも良かったよ。いろんな人に出会えたから」

 

そう言って微笑む。

とても爽やかな笑み。

 

「そうなんだ」

 

「うん」

 

「いいな〜」

 

そう言ってとても羨ましそうな顔をするレイ。

本当に表情豊かになったレイ。

シンジは嬉しかった。

 

「レイも行けば良いよ。旅は良いよ・・・日頃見えないものが、色々見えてくるからね」

 

「でも・・・1人じゃ心細いし・・・」

 

そう言って、上目づかいにシンジを見るレイ。

ほんの少しだけ、瞳が潤んでいる。

 

「それじゃあ、今度どこかに連れていってあげるよ・・・」

 

「ホント!?やったー!!ありがとうお兄ちゃん!!」

 

そのままレイとしばし談笑するシンジ。

ゆっくりと歩いていく。

だがその時、いきなりシンジが足を止める。

 

「・・・どうしたの、お兄ちゃん・・・」

 

レイがシンジを見る。

険しい表情のシンジ。

 

(お兄ちゃん・・・震えてる・・・どうして?)

 

組んでいる腕からシンジが微かに震えている事がわかる。

心配そうにシンジを見つめるレイ。

だがシンジはそれには気付かない。

身体に悪寒が走る。

子供の頃いつも感じていた悪寒。

嫌な予感がした。

頭に浮かぶ忌まわしき過去。

心の傷。

奴。

何とか平静を装いながらシンジが口を開く。

 

「・・・ところで、レイ・・・どこに行くの?」

 

「ケイジだよ」

 

「え?」

 

レイの答えにビクッとなるシンジ。

ケイジ。

忌まわしき獣がいる檻。

心の奥底からわいてくる言い知れぬ恐怖。

冷や汗が浮かんでくる。

 

「どうしたの?お兄ちゃん。具合でも悪いの」

 

笑顔の無くなったシンジに心配そうな顔を向けるレイ。

その視線に気付き、レイの頭に手を乗せ軽く撫でる。

 

「大丈夫・・・何でもないよ」

 

そう言って笑顔をレイに向けるシンジ。

頭を撫でられて嬉しそうにするレイ。

 

「えへへ」

 

その時ほんの一瞬真剣な顔をするシンジ。

 

「ところでレイ。ケイジに来いってのはあいつらが・・・父さんたちが言っていたのかい?」

 

「うん、そうだよ」

 

「・・・そう。じゃあ急ごうか」

 

そう言って再び歩き出すシンジ。

シンジが帰ってきて嬉しくてたまらないのか、レイがシンジにしきりに話しかけている。

そしてケイジが近くなってきた頃レイがこう質問した。

 

「ねえ、お兄ちゃん。どうして会いに来てくれなかったの?旅に行っててもたまには来てくれればいいのに」

 

レイにとっては当然の質問だった。

大好きな兄。

その兄が全然自分に会いに来てくれなかったから。

もしかして自分は嫌われているのではないかとさえ思った。

だから聞いてみた。

返ってきたシンジの答えはレイにとっては喜ばしいモノであった。

だが、そこにあるシンジの苦しみに気付けるほどレイは大人ではなかった。

 

「レイには逢いたかったよ。僕の大切な妹だからね」

 

「ホント!?」

 

「ああ、本当だよ。でも・・・」

 

「でも?」

 

「ここには奴が・・・、EVAがいるから・・・」

 

ケイジへの扉は目の前まで迫っていた。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

ちなみにレイは戸籍上はシンジとは兄妹ではありません。

引き取られただけで、碇家の養子にはなっていませんので。

そう言えばまだ初号機に乗れてませんね。

まあとにかく続きをお楽しみに。

感想もお待ちしてます。

それでは。





艦長からのお礼


兄妹。
いい響きだ(笑)
しかも義兄妹ってことでさらにグゥ(なにが!?)

それはさておき。
まだEVAに乗ってなぁ〜い!
スローテンポだ。
が、しかし。
ささばりさんの場合は更新速度が半端じゃないからちょうどいいのかも。

さあ、次はいよいよ親子対面?見たけりゃここにメールを出すんだ!(爆)

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