DUAL MIND 第7話
そして顔を上げるシンジ。
そこにはいつもの微笑みが浮かんでいた。
「お願いします、リツコ姉さん」
「こちらこそよろしくね。シンジ君」
「そうだ・・・先に買い物に行きましょう」
「そうね・・・少し車で行けば24時間営業のショッピングモールがあるわ」
そうして二人は仲良く歩き出した。
誰が見ても仲の良い姉弟のよう見えただろう。
そして、そんな二人を見守っている想い。
<ありがとう、リツコちゃん>
DUAL MIND
第7話「幼なじみ」
BY ささばり
「う〜ん。ちょっと塩味が薄いかな?」
ここはとあるマンションの一室。
表札には「赤木」と記してある。
そのキッチンには、家主の代わりに1人の少年が立っている。
碇シンジ、14歳、主夫である。
鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌な彼の背後から声がかかる。
「おはよう・・・シンジ君・・・ふぁ・・・」
そのとても眠そうな声に振り返るシンジ。
「おはようご・・・」
固まる。
大きめのシャツを羽織っているリツコが立っていた。
ボタンは半ばまで開いていて胸の谷間が見えているし、ズボンは履いていないようだった。
14歳の少年にはいくら何でも刺激が強すぎるようだ。
「・・・あら、どうしたの?具合でも悪いの?」
からかっている訳ではなく大まじめで訊くリツコ。
その言葉にハッとして、あわてて口を開くシンジ。
「な、何でもないよ。それよりももうすぐ朝御飯出来るから」
「ごめんなさい、シンジ君。本当なら私がしなくてはいけないことなのに」
「リツコ姉さん。僕は嬉しかったよ。リツコ姉さんが一緒に住もうって言ってくれたとき・・・。だから、少しでもリツコ姉さんのために何かをしたいんだ・・・」
そういって笑顔を浮かべる少年に、感謝の気持ちでいっぱいになるリツコ。
シンジも、使徒との戦いで疲れたはずなのに、その疲れを微塵も見せない。
「ありがとう・・・シンジ君」
「いいえ。それよりリツコ姉さん、もう少し時間かかりそうですから・・・」
「わかったわ、シンジ君。先にシャワーを浴びてくるわ」
そう言って微笑むと、バスルームに向かうリツコ。
シャツからのびる両足が、とても艶めかしい。
シンジがしばしリツコの後ろ姿に見とれていると、彼の頭の中にからかうような声が響く。
碇リュウヤ。
常にシンジと共にある、特別な存在。
<シンジ、顔が赤いぞ・・・>
「う、うるさいな!そ、それより朝御飯の準備しないと」
そういって調理を再開するシンジ。
その時。
「シンジ〜!!」
そういってシンジの背後から少女が抱き付いてきた。
赤木マナ。
リツコの娘である。
栗色の髪をショートカットにした、とても愛らしい少女。
現在は地元の小学校に通っている。
「こら、マナ。お兄ちゃん包丁持ってて危ないから・・・」
「えへへ。ごめんなさ〜い」
そういってシンジから離れると、パタパタと小走りで食卓に向かう元気一杯の女の子。
「シンジィ、ずっとここに住むんでしょ?」
「・・・そうだね」
「やった〜!!」
そういってニコニコしながらシンジを見るマナ。
シンジもたまにマナを見て笑顔を浮かべる。
(どう、兄さん?)
<あ?>
(娘を見た感想は?)
<・・・きっといい女になるな・・・>
心底そう思っているようなリュウヤの言葉に、呆れるように溜息を付くシンジだった。
「それじゃ、行って来ます。リツコ姉さんも遅れないようにね。あっ、後お弁当はテーブルの上に置いてあるからね」
「わかったわ、ありがとう。転校初日だから、がんばるのよ」
「はい」
そういって笑顔を浮かべるシンジ。
シンジは中学校の制服を着ている。
すでにシンジが入る中学は手配済みだったので、彼は第三新東京市に来て二日目にして、早くも中学に通うことになった。
余談だが、西暦2015年現在は日本でもある一部の学校は、一定以上の学力が在れば14歳でも高校や大学に行くことが出来る。
碇シンジの学力を考えると、中学というのは余りにもレベルが低すぎる。
だからリツコはその事を言い、出来れば大学院か、ネルフ技術部に来て欲しいと言った。
だが、シンジはそれを拒否したのだ。
学問という点から行けば、彼は大学院に行っても無意味であろう。
それ程シンジは頭が良かったのだ。
そして、肩書きに興味のない彼が、現時点で大学院に行く必要はないのだ。
大学は良いとして、彼がネルフ技術部に入ろうとしない理由。
それは、エヴァの存在である。
一言で言って、エヴァが嫌い。
彼は、未だにエヴァに恐怖し、そして嫌悪していた。
そのため、リツコのシンジを技術部に引き込む作戦は失敗に終わった。
さて、シンジがリツコと話していると、玄関から元気な声が聞こえてくる。
『シンジ〜、遅刻しちゃうよ〜!!』
「あっ、ごめんねマナ!!」
そういって、マナに急かされて玄関に向かうシンジ。
玄関に着くと、ランドセルを背負ったマナがぷくっと膨れっ面をしていた。
「おそいよシンジ!」
「ごめんねマナ」
そういって謝ると急いで靴を履き、マナの手を取って玄関を出る。
「ママ〜、行ってきま〜す!」
「リツコ姉さん、行ってきます」
そして、2人はそれぞれお互いの学校に向かった。
部屋にはリツコ1人が残っていた。
やがて自室に戻ると、リツコは自分も用意をして出かけようとする。
そして飾ってある写真立てを手に持って言った。
「行って来ます、お兄ちゃん」
写真立てには頬を赤らめている学生服姿のリツコと、彼女の肩に手を回し、優しい笑顔を浮かべている銀髪の青年の姿があった。
第3新東京市立第壱中学校。
朝のホームルームまでの時間はどこの教室でも騒がしい。
それは、ここ2−Aも例外ではない。
「なんや、委員長今日も休みかいな」
「この前のことで怪我なんかしてなきゃ良いんだけどね」
ジャージを着てる男の子とカメラ片手の男の子が話している。
この前のこと・・・エヴァ初号機が使徒を撃破した時のことである。
ロボット対謎の化け物。
どこでもその話で持ちきりだった。
「それより今日転校生が来るらしいぜ」
そう言った少年の眼鏡が怪しく光る。
その腕にはカメラ。
クラスの人間達からはあまり好かれていない様で、彼の相手はもっぱら昔からの友人であるジャージの少年が引き受けている。
「男か?女か?どっちなんや」
関西弁の少年がそう言ったとき、教室の扉が開き担任の教師が入ってきた。
仕方がなく自分の席に戻っていくジャージの少年。
「え〜。今日は転校生を紹介します。碇君、入ってください」
教壇の前に立った担任の教師がそう言う。
そして入ってきた少年を見たときクラスは騒然となった。
その顔は美しいとしか言いようがなかった。
あちらこちらで女子の悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
その様子を見て照れたような、はにかんだ微笑みを浮かべる少年。
それを見てさらに騒ぎ出す少女たち。
「あ〜、静かに。それじゃあ自己紹介をお願いします」
一気にシーンと静まり返る教室。
シンジが口を開こうとしたその時。
ガラガラ!
教室の後ろのドアが開き、1人の少女が入って来る。
空色の髪をした、愛らしい少女。
「ぎりぎりセーフ!・・・って、あれ?」
綾波レイ。
遅刻である。
「あー!お兄ちゃん、今日転校だったの!?」
『ええー!』
教室のあちらこちらから叫び声があがる。
レイの「お兄ちゃん」というセリフに、皆が驚き、そして関心を示す。
だが、レイは周りの驚きの声などお構いなしにシンジの前まで駆け寄り、満面の笑みを浮かべてシンジに抱き付いた。
『ああー!!』
再び他の生徒達が叫び声をあげる。
綾波レイが転校生に抱き付いた。
この事実はクラスの男子生徒のほとんどに衝撃を与えた。
「一緒のクラスだね、お兄ちゃん!!」
「そうだね、レイ。・・・ところで遅刻だよ。もう少し早く起きなきゃだめだよ」
「あ、うん。ごめんなさい」
シンジとレイの間でそんな平和な会話がなされていたが、教室はそれ程平和ではなかった。
あるものは席から立ち上がった状態で固まっていたし、あるものはその拳を握りしめシンジを睨み付けていた。
「ごほん・・・綾波くん、今はとりあえず席に着きなさい」
さすがに年の功か、目の前の事態にも何ら動じることもなくそう言ってのける担任の教師。
「え?あ・・・はい!」
頬を赤く染めながら急いで自分の席に戻るレイを、シンジは優しい笑顔で見ている。
やがて、レイが席に着いたのを確認して、担任の教師はシンジを促す。
それに軽く頷き、自己紹介をするシンジ。
「初めまして、碇シンジです。昔はこの町に住んでいたのですが一度引っ越してしまい、最近またこの町に戻ってきました。みなさん仲良くしてくれると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします」
トドメとばかりに微笑むシンジ。
その効き目は絶大だった。
シンジの笑顔は、女性にとっては魅力的であり、男性にとってはとても友好的だった。
その笑顔に教室のほとんどの生徒がシンジとお近づきになろうと心に決めた。
「はい、じゃあ君の席は窓側の一番後ろだから」
「はい」
そう言うとシンジは自分の席に向かった。
1時間目が終わった休み時間、後ろのドアが開いて1人の生徒が入ってくる。
可愛いと言える顔立ちだがお下げ髪の地味な感じの生徒、洞木ヒカリ。
彼女は教室内の一角に出来ている人垣には目も向けずにまっすぐ自分の席に向かう。
ヒカリが自分の机に鞄をおくと、すぐに数人の友人達が近付いてくる。
「最近どうしてたのよ?みんな心配してたんだから」
そう声をかけてくる友人達に曖昧な笑みを向ける少女。
「ごめんね、実は妹が怪我して入院しちゃったの。それで色々忙しくて。・・・・・・・・・・・・でも、あれは何の騒ぎなの?」
そう言って視線を向けた先には人だかりが出来ている。
「それがねヒカリ!!転校生が来たんだけどそれがすっごく格好いいのよ!!」
「ふーん。そうなんだ」
ヒカリは大して興味なさそう言うと、自分の席に着く。
そんな彼女に友人達はニタリと笑う。
「な、なんなのその笑いは?」
「いいのかな〜ヒカリ?みんな彼のこと狙ってるのに・・・」
「そんなに格好いいの?」
「なによヒカリ。興味なかったんじゃないの?・・・・・・まあそれは良いとして、本当に格好いいのよ・・・碇シンジ君って言うんだけど!」
ガタ!!
「キャ!!」
急に立ち上がったヒカリに驚く友人達。
立ち上がるとすぐにヒカリは走り出し人垣の出来ている席まで行き、彼女にしては珍しく強引に人垣をかき分ける。
すると、目の前に1人の少年が現れた。
美しい黒髪、吸い込まれるような黒い瞳。
そして美しい顔立ち。
少年はいきなり現れた女生徒に驚いたが、次第に何かに気付いたのか目の前の女生徒を見つめる。
しばらくの沈黙。
最初に沈黙を破ったのは少年の方だった。
「・・・もしかしてヒカリ?」
「やっぱりシンジ君だ!」
そう言って満面の笑みを浮かべるヒカリ。
クラスの誰も見たことがないような、とても嬉しそうな笑顔。
そんなヒカリに対して、シンジも同じように笑顔を浮かべる。
「久しぶりだね、ヒカリ。あんまり綺麗になっていたから見違えたよ」
まるで口説いているかのようなシンジの言葉に微笑むヒカリ。
もしこれが他の女生徒だったら幸福感のあまり失神していただろう。
「でも本当に久しぶりね」
「そうだね・・・」
そう言ってにっこり笑ったシンジを見て、何故か顔を赤らめるクラスの女生徒達。
だが、ヒカリは特に何ともないようで、同じように笑顔を浮かべシンジを見つめている。
見つめ合う2人の雰囲気に先程から2人を取り巻く野次馬の1人、しびれを切らしたレイが怒鳴る。
「二人とも!どういう関係なの!」
そんなレイの言葉に皆頷いている。
皆知りたがっていたのだ。
お堅いと有名な委員長、洞木ヒカリが美形の転校生とただならぬ関係。
関心を持たぬ方がおかしいのだ。
だが肝心の2人はそんな皆の事などお構いなしと言う風に手を握りあって再会を喜んでいる。
「ちょっと、どういう関係なの!」
もう一度言うレイにシンジが答えた。
「ああ・・・レイは私立だったから知らなかったんだっけ。ヒカリとは幼稚園の時からの友達、幼なじみだよ」
そう言ったシンジの笑顔は、またもやクラスの女生徒たちを魅了した。
2時間目が終わった休み時間は先程よりも混乱していた。
なんと言っても「華麗なる転校生、2−A委員長と恋仲」などという情報が流れたからだ。
しかも二人は「幼なじみ」などと言い訳しているという。
「でも驚いた・・・まさかヒカリとお兄ちゃんが知り合いだなんて」
心底驚いたように言うレイ。
「わたしも・・・だってレイとシンジ君は名字が違うから・・・」
「・・・うん・・・私の本当のお父さんとお母さんは事故で死んじゃったんだって・・・」
そう言って悲しそうな顔をするレイを急いで慰めるヒカリ。
「ゴメンね、レイ。辛いこと思い出させちゃって」
その言葉にニッコリ笑うレイ。
「ううん、いいの。それに今はお父さんもお母さんも、それにお兄ちゃんもいるから!」
そんなことを言っている少女達をぼんやりと見ているシンジ。
何でもない日常、そして平和。
それらを護るために、シンジは第3新東京市に戻ってきた。
そして、先の戦いに勝ちシンジは大切なものを護ったのだ。
しばらくすると、ヒカリがシンジの方に近付いてくる。
すると、周りはひそひそと噂をしはじめる。
当然ヒカリとシンジの関係についてである。
「全く、困ったモノね。ね、シンジ君?」
噂に全く嫌がる様子のないヒカリ。
「うん・・・まあみんなお年頃だからね。こういう話が好きなんだろう」
噂など全く気にしていないシンジ。
「シンジ君変わらないね。そう言う風に大人ぶって」
そう言ってクスッと笑うヒカリに、声を立てて笑うシンジ。
「あははは、僕にそんなこと言えたのはヒカリだけだったからね」
シンジも懐かしそうにヒカリを見つめる。
シンジの言葉に少し不思議そうにするヒカリ。
「そう言えばそうね。私はシンジ君が怖いと思ったことはなかったし。どうしてみんな怖がっていたのかしら」
「さあね・・・でも僕にはそれが嬉しかったんだよ。ヒカリだけは僕に普通に接してくれたからね」
そう言ってヒカリを見つめる。
それに笑顔で答えるヒカリ。
「だって、お友達だもの。みんなはきっとシンジ君が頭が良くて、格好良くて・・・とにかくたくさん凄いところがあったからみんなコンプレックス感じちゃったんだと思う・・・」
「う〜ん、そうなのかなあ」
ヒカリの言葉に何故か否定も謙遜もしないシンジ。
実際彼は自分の存在については驚くほど正確に把握している。
ただそれが他人にどう影響を与えるかには驚くほど鈍い。
ヒカリはそんなシンジにどこか安心する。
昔と何処も変わっていない、ヒカリの知っているシンジ。
その彼が今、彼女の目の前にいる。
「でも元気そうで良かった・・・だって・・・だってシンジ君いきなり転校するって・・・」
じわっと涙が浮かんだと思うと、いきなり泣き出すヒカリ。
そんなヒカリを見てシンジが躊躇無く抱きしめる。
またしても辺りが騒然となる。
「ヒカリ、泣かないで。前に言ったでしょ。笑っていてほしいって」
「だって・・・だって・・・」
そんなヒカリの背中をぽんぽんと叩いてあげる。
何とか涙を拭うヒカリ。
「ね?」
そう言って微笑むシンジ。
それをのぞき見ていた女生徒達からため息が漏れる。
ヒカリと自分を置き換えて怪しい妄想にひたる生徒までいる。
「うん、ごめんね。シンジ君」
やっと笑顔になるヒカリ。
その2人のことを見ていた全員が「どこが親友だ!」と思った。
だが、この2人にとってこの行為は恋人の行為ではなかった。
お互い真に分かり合っているからこそ出来る、本当の親友だからこそ出来る行為。
<ヒカリちゃんか・・・やっぱり良い子だな〜>
シンジの頭の中にリュウヤの声が響く。
そののんびりとした声に内心苦笑いしてしまうシンジ。
(兄さんは昔からヒカリのことお気に入りだったからね)
<この娘の真面目で優しいところが好きなんだよな。なんか眩しくてな・・・俺みたいな人生を送ってくると・・・こういう子がとても眩しく見えるんだよ>
(へえ・・・それに結構レイの事も気に入っているでしょ)
<ああ・・・なんか他人のような気がしないんだ>
感慨深げに言うリュウヤ。
リュウヤは何故だか知らないがレイに親近感を持っていた。
外見的特徴が似ているからというわけではない。
とにかく説明は出来ないが、何故かとても身近に感じてしまう。
だが、シンジにそんなリュウヤの気持ちが分かるはずがない。
シンジは、呆れながら一言だけ言った。
(ロリコン?)
<アホかい!>
3時間目の授業中。
ぼんやりと窓の外を見ながら考え事をしているシンジ。
(ねえ兄さん、ヒカリがこのクラスに居るって事は・・・)
シンジの表情が自然と暗くなるが、幸い周りの人間は気付いて居ない。
そして、リュウヤはそれを気遣いながらも答えを返す。
<ああ・・・彼女もエヴァに乗れる可能性がある。マルドゥック機関か・・・>
(クッ・・・どうしてヒカリまで・・・)
マルドゥック機関。
エヴァ専属操縦者の適格者の選定を行う謎の機関である。
シンジの居るこの2−Aはマルドゥック機関で選抜されたエヴァ専属操縦者候補をまとめている。
つまり、2−Aに居る全ての生徒達がエヴァに乗る可能性があるということなのだ。
<仕方があるまい。まあ、お前が使徒を全て倒せばいいだけだ。そうすればヒカリちゃんがエヴァに乗せられることはない>
(うん、そうだね)
そこでスッと目を細めて窓の外を見据える。
その表情は、精悍な戦士としての顔。
視線の先には空。
特定の場所に視線を走らせるような真似はしない。
(・・・見られてるね・・・)
<ああ、レイちゃんやお前のガード達だろう。まあ、みんな大変だろうな。この暑い中、親バカゲンドウの命令で子供のおもりなんて・・・>
そんなリュウヤの言葉に苦笑いして教室内に視線を走らせる。
レイは・・・寝ている。
まあ、授業を行っている担任があまり生徒に関心を持っていないようなので問題ないようだが・・・。
しばらくレイに優しい視線を向けていたがシンジだが、再び表情を引き締め窓の外を見る。
(・・・他にも沢山いるみたいだね・・・)
<気になっているのさ。第3使徒を秒殺したお前の存在が・・・>
そのリュウヤの言葉は恐らく事実だろう。
シンジを調べるために様々な組織からスパイが送り込まれているようだ。
(仕掛けてくるかな?)
<いや、まだ来ないなだろう>
(・・・でも、油断は出来ないね)
シンジは経験上、ネルフのガードがあまり役に立たない事を知っている。
となれば自分で危機を回避するしかない。
シンジは自分で危機を回避できるだけの能力を有しているので、たとえ襲われても問題はない。
だが、レイの場合は違う。
彼女が襲われた場合、恐らく確実に敵の手に落ちるだろう。
<恐らく義兄さん・・・ゲンドウが何らかの手を打っているはずだ。あいつは親バカだからな。だが、あまり油断は出来ない・・・>
(僕が出来るだけ護るようにするよ)
<そうだな・・・。幸いレイちゃんはお前のことを好いている。お前が側に居ても嫌がらないだろうしな・・・>
余談だが、後にシンジはレイの警備計画をマギに侵入して手にいれている。
そして、その驚くべき内容にシンジはしばらく言葉を失ったという。
それ程レイのガードは大規模で抜け目無く、金も惜しみなく投入されていたのだ。
シンジのガードとは質、量、共に桁違いであった。
「どうしたのシンジ君?もう3時間目は終わったわよ?」
3時間目が終わった休み時間。
ヒカリの声でゆっくりと顔を動かすシンジ。
シンジの机の前に立ったヒカリが心配そうにシンジの顔をのぞき込む。
シンジは授業が終わったにも関わらず、ぼ〜っと窓から外を見ていたのだ。
「い、いや・・・なんでもないよ」
そう言ったシンジの顔をジーッと見つめるヒカリ。
「シンジ君・・・何か隠してる?」
シンジは一瞬ドキッとしたが、さすがにそれを顔に出すようなヘマはしない。
ただ優しい笑みだけを浮かべている。
ヒカリもシンジが喋る気がないのを感じ取り、それ以上追求しない。
「ところでヒカリ、今日はどうしたの?遅刻してくるなんて、あの真面目なヒカリからじゃ考えられないよ。・・・・・・あっ、もしかして寝坊した?」
そう言ってにやりと笑うシンジ。
シンジは何とか話を逸らそうとしてその話題を口にしたのだ。
それを必死になって否定するヒカリ。
「ちっ、違うわよ!」
ヒカリはそう言ってからとても悲しそうな、そしてなんだか悔しそうな顔をする。
当然シンジはその表情を見逃さない。
「ど、どうしたのヒカリ?」
心配そうなシンジの言葉にゆっくりと口を開くヒカリ。
「この前変なロボットが暴れた時、逃げ遅れたノゾミが怪我しちゃったの。それで色々ね・・・」
「「え!」」
シンジと、ちょうど2人の側に来ようとしていたレイが同時に声を上げる。
そんな2人を怪訝そうな顔で見るヒカリ。
「どうしたの?」
「ノゾミちゃんが?」
「ええ」
「そんな・・・まさか・・・・・・」
「どうしたの?シンジ君」
シンジの表情が暗く沈んでいることに気付いたヒカリがそう言って、シンジを気遣うような表情を見せる。
だが、シンジは何も答えられない。
それ程ヒカリの告白はシンジにとって衝撃だった。
その時シンジの携帯電話がけたたましく鳴ったのでシンジが出ると、何か2言3言話してから電話を切った。
そっと瞳を閉じると、ゆっくりと深呼吸をするシンジ。
そして、そんなシンジを怪訝そうに見ているヒカリとレイ。
やがてシンジはゆっくりと瞳を開くとヒカリとレイの方を見る。
「ごめん、ヒカリ・・・用が出来た。レイ、非常召集。いくよ」
「うん、お兄ちゃん」
そしてシンジたちはそのまま教室を出ていこうとするが、しかし途中で何を思ったか振り返ったシンジは言った
「ヒカリ・・・、後で話があるから。・・・・・・・・・・・・・・・大事な話だから・・・」
何か思い詰めたような表情で言うシンジにヒカリは声をかけることが出来なかった。
そして、シンジは教室を出ていった。
つづく
<あとがき>
どうも、ささばりです。
今回のお話はいかがでしたでしょうか。
シンジの幼なじみ、洞木ヒカリの登場です。
それと、リツコの娘のマナも登場です。
シンジは第3使徒との戦闘でヒカリの妹が怪我をしたことを知ってしまいました。
自らの行為が幼なじみの少女の妹を傷付けたとなれば、平静ではいられないでしょう。
動揺しているシンジは、次の使徒を倒すことが出来るのでしょうか。
ご意見、御感想等ありましたらお送りくださいませ。
それでは、次回をお楽しみに。
艦長からのお礼
なんか登場人物が急に増えて、多少混乱しております(笑)
ま、シンジは男の敵だということがわかっただけでも収穫でしょうか(爆)
さあ、続きが見たけりゃここにメールを出すんだ!