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妖精の守護者  第12話

 

 

 

 

 

「アキト!イヤー、死んじゃやだよー!アキト、アキトー!」

 

泣きながらアキトに呼びかけるラピス。

だがアキトには聞こえていないようだった。

 

「アキト、アキト!駄目、アキト!」

 

必死に呼び続けるラピス。

 

「ルリ!アキトこのままじゃ死んじゃうよ!助けて、アキトを助けてよ!」

 

ルリにすがりつきながら泣き叫ぶラピス。

そんなラピスに何もできないルリ。

皆何もできない。

ただアキトの苦しむ様を黙って見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の守護者

第12話「別れ、再び」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫に収容されるブラックサレナ。

さすがのウリバタケも息をのむ。

それ程酷い状態だった。

特に機体に深々と突き刺さっている錫杖。

串刺しという言葉が一番合う状況だ。

すぐさまコックピットが開放され、アキトの救出が行われた。

 

「ガアァァァァ!」

 

まるで獣の様な叫び声を上げるアキト。

何とかゴート達によってコックピットからは引きずり出された。

だが頭を押さえての苦しんでいる。

その口からは唾液が垂れ、顔には緑の奔流が浮かぶ。

 

「アァァァァァァ!」

 

痛みに耐えかねて暴れ出すアキト。

それを何とか押さえつけるゴート、プロス、ガイの3人。

 

「アキトさん!!」

 

「アキト!!」

 

そう言って駆け寄ろうとするルリとラピス。

だがそんな2人を止めるミナト。

 

「どいてください、ミナトさん」

 

「駄目よ、ルリルリ。プロスさんたち3人がかりでやっと押さえているのよ」

 

「でも!」

 

「アキトー!誰かアキトを助けてよ、このままじゃ死んじゃうよー!」

 

ラピスが泣き叫んでいる。

その時医療班のメンバーが格納庫に入ってきた。

先頭はイネス・フレサンジュ。

 

「どきなさい、邪魔よ!」

 

そう言ってルリ達を退かすとアキトの側まで行く。

そこでアキトの首筋に何かを注射する。

一瞬跳ねるアキトの身体。

だが次の瞬間力を失ったかのようにグッタリとする。

 

「早く医務室に運んで、一刻を争うわ!」

 

他のメンバーに怒鳴るイネス。

さすがの彼女もいつもの余裕がない。

すぐに担架に乗せられ、身体を固定されたアキト。

すぐさま医務室に向けて駆け出す医療班。

それを追って多くのクルー達も移動する。

 

「イネスさん、アキトさんは!」

 

走りながらイネスに話しかけるルリ。

だがイネスはアキトの容態を調べているのか返事をしない。

 

「イネスさん!」

 

「黙ってなさい、ルリちゃん!気が散るわ!」

 

ほんの一言でルリを黙らせる。

ラピスなどは担架に縋り付いている。

しばらくして医務室が見えてきた。

そのまま医務室の中に入っていく医療班。

それを追おうとするルリ達クルー。

だが。

 

「ここから先は駄目よ。あなた達はここで待っていなさい」

 

「そんな!」

 

「邪魔なのよ!仮に中に入ったとして、あなたに何が出来るの?ホシノルリ」

 

そう言うとさっさと中に入っていくイネス。

確かに医学の心得のないルリが居ても邪魔なだけなのだろう。

 

「アキトさん・・・」

 

ドアの前に佇むルリの肩にそっと手を乗せるミナト。

優しく声をかける。

 

「ルリルリ、ここからはイネスさんに任せよう。大人しくラピスちゃんと一緒に待ってようよ」

 

「ルリ・・・アキト死なないよね・・・・きっと元気になるよね」

 

ポロポロと涙をこぼしながらルリの服の裾を握るラピス。

 

「アキト・・・置いてったりしないよね」

 

そう言ったラピスを抱きしめるルリ。

まるで自分の不安を紛らわすかのように。

 

「大丈夫・・・きっと大丈夫だから・・・アキトさんが私たちの事を置いて行くはず無いもの」

 

「うん・・・」

 

そんな2人の姿を見守っている他のクルー達。

ルリとラピスにとって、アキトがいかに大切な存在なのかを改めて感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の5分ほどは医務室の前でじっとしていたルリ。

だが、段々我慢できなくなってきた。

それだけアキトが心配だったのだ。

 

「オモイカネ、医務室内の映像を出して」

 

医務室前に置いてあるベンチに座りながら言うルリ。

 

『イネス・フレサンジュから映像のプロテクトがかけられています』

 

そう表示されるウィンドウ。

 

「ルリちゃんそれナイス!オモイカネ、艦長命令よ。やっちゃって」

 

「そうよオモイカネ、アキトさんの一大事なのよ」

 

調子良くユリカとメグミがルリの意見に賛同する。

 

『プロテクトがかけられています』

 

ユリカ達にも冷静に答えを返すオモイカネ。

いかに艦長の命令でも無法は通らない。

 

「・・・オモイカネ・・・お願い・・・」

 

今にも消えてしまいそうな、そんな儚げな声で呟いたのはラピスだった。

ポロポロと涙をこぼしながらオモイカネウィンドウを見つめている。

 

『・・・了解』

 

ラピスの哀願に、ついに医務室内の映像を映し出すオモイカネ。

そこからは。

 

『ガアァァァァァァ、殺してやる!殺してやるー、北辰!』

 

天井を睨み付けながら暴れるアキト。

その顔に緑の奔流が浮かぶ。

ブチブチ!!

身体を固定している拘束具がアキトの力によって引きちぎられていく。

 

『早く注射して!』

 

そう叫ぶイネス。

だがとまどいを見せるメンバー。

 

『しかし先程あれだけの量を投与しました。それでまたこの量を投与しますとどんな傷害が残るか・・・』

 

『今はアキト君の命を助けることが先よ!このままでは死んでしまうのよ!全ての責任は私が取ります。だから早くしなさい!』

 

『グアアァァァァ、北辰ー!どこだ!どこに行った!』

 

顔を緑に光らせながらアキトが吼える。

いつものバイザーも今は付けていない。

真っ青な左目。

焦点のあっていない右目。

両手首には拘束具が食い込んで血が流れている。

 

『貸しなさい!』

 

アキトのあまりにも凄い様子に尻込みしたメンバーから注射器をひったくると、薬品を注射する。

即効性なのか、すぐにアキトは力が抜けたように大人しくなる。

だが。

薬が効いていたのもほんの一瞬だけ。

すぐに苦痛に叫び声を上げるアキト。

 

『グワアアアアアァァァァァ!』

 

『そんな・・・どうして効かないのよ!このままじゃホントに・・・』

 

イネスの悲鳴ともとれる声。

その様子を見ていたルリ達は後悔していた。

医務室の中を覗く。

アキトを心配しての事だった。

だがアキトの容態はあまりにも悪かった。

 

「アキトさん・・・」

 

余りの悲惨さに皆言葉がなかった。

いや、言葉を軽々しく口に出来るような状況ではなかった。

そうしている間にも苦痛の叫びを上げるアキト。

苦痛と憎悪が交錯するアキトの顔。

何とかしてその苦痛を取り除こうとするイネス達。

 

『先生・・・こうなったら・・・』

 

男がイネスに何を言ったのか良く聞こえなかった。

だがその言葉を聞いたイネスは激怒した。

 

『ふざけないで、安楽死なんてさせられるわけないでしょ!』

 

『しかし・・・このままでは』

 

ルリは地獄にたたき込まれたような気分だった。

安楽死。

イネスは確かにそう言った。

それが何を意味するのか。

それはアキトの容態がそれ程酷いと言うことだった。

 

『駄目よ・・・アキト君を死なせるわけにはいかないのよ・・・そうだ!』

 

そう言ってイネスがディスプレイ越しにルリ達を見る。

 

『ルリちゃん、見ているんでしょ』

 

「は、はい!」

 

急に立ち上がり背筋を伸ばすルリ。

まさか覗きがばれているとは思わなかった。

 

『いい、良く聞いて・・・アキト君のこの症状は今日が初めてじゃないはずよ。だから・・・彼がいつも使っていた薬か何かが必ずあるはずなのよ。それを探してきてほしいの』

 

「くすり・・・ですか?」

 

『そうよ、注射みたいな物だと思うけど・・・探してきてほしいの』

 

その言葉を聞いたラピスが思い出す。

アキトが苦痛から逃れるために注射を常用していたことを。

 

「知ってる・・・アキト注射を打ってた」

 

「ホント!?」

 

『ラピスちゃん、早くそれを持ってきて・・・このままじゃあアキト君、本当に死んでしまうわ!』

 

死ぬ。

その言葉にビクッとなるラピス。

 

「わかった、取りに行く」

 

そう言って走り出すラピス。

その後を追っていくルリ。

すぐに2人が見えなくなっていく。

 

『後は・・・ゴートさん、山田君。入ってきてアキト君を押さえてほしいの』

 

「わかった」

 

「俺はダイゴウジ・ガイだって〜の」

 

そう言いながら医務室に入っていく2人。

 

『プロスさん・・・』

 

「何ですかな」

 

『・・・今は1つでも多くの情報が必要なの。持ってるんでしょ、アキト君の・・・』

 

「・・・わかりました・・・」

 

プロスがそう言うとウィンドウが閉じる。

後は、ラピス達が戻ってくるのを待つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「8ヶ月というのはわかりました。それで、会長自ら出向いたのは何か訳がお有りですかな?」

 

部屋で2人の男が対峙していた。

1人はナデシコの誇るダンディー、プロスペクター。

もう1人はネルガル重工会長、アカツキナガレ。

ちなみに大関スケコマシの二つ名は、アキトに譲ったとか譲らないとか。

 

「君たちが火星から消えて8ヶ月、こちらも色々動きがあってね」

              

「ほう、動きですか」

 

「ああ、クリムゾンの奴らがどうやら木連と・・・さらには火星の後継者達とつるんでいるらしい」

 

クリムゾングループ。

兵器産業、特にバリア関係ではトップを行く、ネルガルのライバル企業である。

 

「クリムゾンですか・・・まあ有り得ない話ではないですが、まさか火星の後継者とまで手を結んでいるとは」

 

そう言って考え込むプロス。

 

「今回彼らが秘密裏に開発している機動兵器が完成したと聞いてね・・・その機動テストがこの戦いだったらしい。まさかそこにナデシコが来るとは思わなかったけど」

 

「あの機体ですか」

 

「ああ・・・北辰とその手の者達が乗っていた『夜天光』『六連』と言ったか。で、こちらも新たに開発したエステバリス・カスタムを出したのだが・・・まさかこんな事になっているとはね」

 

少し辛そうに言うアカツキ。

何も言えないプロス。

 

「自分で機体テストをしたかったから出たが、まさかあんな場面に出くわすとは」

 

「会長・・・」

 

「僕は今回間に合ったのかな?それとも4年前みたいにまた間に合わなかったのかな?」

 

アカツキには、4年前アキトを救えなかったことが重くのしかかっていた。

そのせいで笑顔を失った親友。

復讐に身を焦がす親友。

アカツキは、アキトと一緒にナンパをしていたあの日々が懐かしく思えた。

 

「間に合った・・・と思いたいですね」

 

アカツキの心情を察しながらも口を開くプロス。

それにゆっくり肯くアカツキ。

 

「ところで会長、エリナさんはどうしました?彼女がテンカワさんのいるところに来ないはずがありませんからね」

 

「エリナ君は本社で留守番だよ・・・まあ今回に限ってはそれで良かったのかも知れないな。もし今のアキト君を見れば失神してしまうかも知れないからね」

 

「しかもルリさんとは睨み合う・・・ですか?」

 

そこで笑うプロス。

それに答えるようにニヤリと笑うアカツキ

 

「たまには困ったテンカワ君も見てみたいが・・・今はな」

 

そう言ってすぐに表情が暗くなるアカツキ。

それにつられて酷く真面目な顔をするプロス。

 

「辛いですね・・・」

 

「ああ・・・」

 

そう言うとドアまで歩いていくアカツキ。

 

「おや、どちらに?」

 

アカツキはその問いに振り返らずに答えた。

 

「コスモスに戻る・・・テンカワ君のために病院を手配しておくよ。最高のスタッフを付けてね」

 

「・・・ありがとうございます・・・」

 

「・・・いや、僕はこんな事くらいしか出来ないしね・・・」

 

2人の会話は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後。

ナデシコ2番艦コスモスと合流し、修理中の戦艦ナデシコ。

その医務室。

主だったクルーがそろっていた。

奥のベッドに寝かされているのはテンカワ・アキト。

その身体からは無数の管が伸び、様々な機械が取り付けられている。

居並ぶクルー達を一通り見回すイネス・フレサンジュ。

 

「・・・酷い・・・アキトさん」

 

そう言ったのはホシノ・ルリ。

その瞳から涙がこぼれ落ちる。

イネスから聞いたアキトの身体のこと。

皆が耳をふさぎたくなる様な状態。

アキトの受けている様々な感覚障害について。

ラピスとのリンク。

ラピスから明かされた人体実験のこと。

そして左腕の義手のこと。

わかる限りの事が皆に説明された。

ラピスなどはアキトのそばを離れようとしない。

ずっとその手を握っている。

 

「生きているのが奇跡ね」

 

そう言ったイネスの瞳も潤んでいる。

 

「そんな・・・そんなのってあるかよ。何だよそりゃ・・・アキトが可哀想じゃねえかよ」

 

悔しそうに言うリョーコ。

アキトは1人で戦ってきたのだ。

自らの心と身体をボロボロにしながら、たった1人で。

復讐という名の生き甲斐。

 

「アキト・・・みんなを巻き込みたくないって」

 

ラピスが呟く。

 

「アキトいつも自分の中で悩んでた。復讐にみんなを巻き込めないって・・・だからみんなにも冷たく接して、距離を取ろうとしてた」

 

アキトのあの氷のような雰囲気。

他人を拒絶するかのような言動。

その裏に隠れた思いやり。

それに気付けなかったことが恥ずかしい。

 

「水くせえじゃねーかよ・・・俺達は仲間じゃなかったのかよ!」

 

そう言うと顔を背けるリョーコ。

ますますアキトの力になれなかった自分が惨めになる。

 

「アキト・・・」

 

「・・・アキトさん・・・」

 

呆然と呟くユリカとメグミ。

感覚麻痺など想像もつかない。

 

「アキト君・・・」

 

アキトの部屋での出来事を思い出しているミナト。

 

(怖いのか、この顔が!好きでこうなった訳じゃないのに!)

 

そう言ったアキト。

自分は何もわからずにアキトのことを責めていた。

そしてそれはアキトの心を追い込んでいた。

自分が情けない。

何よりルリに申し訳なかった。

その彼女は先ほどから全く泣き止まない。

特に味覚消失はルリにとって衝撃だった。

 

「味覚がないだなんて・・・だってアキトさんはコックなんですよ!そんなの酷すぎるじゃないですか!」

 

ルリの叫び。

アキトがどれだけコックの自分に誇りを持っていたか。

それを知っているルリ。

アキトは言っていた。

 

(俺の料理を食べて、美味いって言ってくれる人がいる。そう言って笑ってくれる人がいる。たとえどんな事でも、人に笑顔を与えられるのは良いことだと思うから・・・だから俺は自分に誇りを持っているんだ)

 

そう言ってニッコリ笑ったアキト。

昨日のことのように思い出す。

だが今は・・・。

 

「それを私は・・・無神経な事ばかりして、アキトさんを傷つけて」

 

そう言って涙を流すルリ。

その肩に手を置くホウメイ。

だが声をかけられない。

ホウメイはアキトがこの艦に乗ってから知り合った中で、唯一友人と呼べる存在だったのかも知れない。

ましてや同じコック。

もし自分の味覚が無くなったどうなるのか。

とても考えられなかった。

 

「どのみちアキト君をナデシコに乗せておくことはできない。ちょうどナデシコは連合軍に組み込まれて地球に降りるから、その時アキト君をナデシコから降ろすわ」

 

イネスの言葉は皆の心に突き刺さった。

一緒に戦った仲間が脱落する。

最初は嫌われていたアキト。

それでも少しは皆と打ち解けてきた。

エステバリス隊では、その卓越した戦闘能力で信頼されていた。

ナデシコ食堂を統括しているホウメイと仲が良かったことも幸いしていた。

ホウメイはナデシコのクルーから絶大な信用がある。

その彼女が親しく付き合っているのだ。

悪い評判が立つはずがない。

そして今回のこと。

だから皆寂しさを感じていた。

特に普段接することの多かったブリッジ要員やエステバリス隊は。

だが納得のいかないルリ。

 

「そんな、アキトさんと別れるなんて・・・」

 

呆然と呟く。

 

「いいホシノルリ。アキト君はもっと設備の良い所に行けば命だけは助かるわ」

 

「命だけ?」

 

そうたずねたのはメグミ。

皆同じ気持ちだった。

命だけは。

どういう意味なのか。

 

「ええ、このままナデシコにいれば間違いなく死ぬ。ナデシコを降りてもっと設備の良い病院に入れれば命だけは助かるわ。・・・もっとも、もし助かっても廃人になってしまっているでしょうけどね」

 

「そんな、どうして・・・」

 

ルリの呟き。

 

「アキト君の常用していた薬はね・・・物凄く強力なのよ。そして使用者の精神を徐々に食い潰していく麻薬のような物。当然認可なんてされてないわ、完全に非合法の物よ」

 

「そんな、そんな危ない物を使っていたんですか!?」

 

「そうよ・・・でもね、認可されている様な薬じゃ効かないのよ。アキト君の苦痛を取り除くことは出来ないのよ」

 

「・・・」

 

「アキト君の机には2種類の薬品が入っていたわ。2種類ともアキト君の苦痛を取り除いてくれる物よ・・・1つは今言った薬」

 

「もう1つは?」

 

「永遠に苦痛から逃れられる薬」

 

「!!!」

 

ルリは言葉がない。

 

「アキト君は知っていたのよ・・・いつかはこんな時が来ることを」

 

そう言ったイネスの瞳から涙がこぼれ落ちる。

 

「どの道選択の余地はないわ。このままではアキト君は死ぬ・・・」

 

もはやだれも言葉を返せない。

運命と言うにはあまりにも悲惨な事。

テンカワアキトという青年を絡め取っている運命の糸。

その運命の糸がアキトの首を締め付けていた。

そう、引きちぎるほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室。

アキトの寝ているベッドの横に少女が立っている。

ホシノルリ。

アキトの寝顔を眺めている。

次第にその瞳に涙が浮かぶ。

 

「・・・アキトさん・・・」

 

アキトの悲鳴が頭から離れないルリ。

アキトはあの後何度も苦痛で暴れている。

だからベッドに縛り付けられている。

 

「また、お別れなんですね」

 

ルリの頬を涙が伝う。

 

「アキトさんの嘘つき・・・無事に帰って来るって言ったのに・・・」

 

そのままアキトを見つめる。

その寝顔は穏やかに見える。

今は薬物投与によって眠っているから。

だが薬が切れれば再び激痛に襲われるのだろう。

 

「二度と離れたくないのに・・・ずっと一緒に居たいのに・・・」

 

無情にも別れは訪れる。

愛おしそうにアキトの顔をそっと撫でる。

 

「アキトさん・・・」

 

アキトの顔にゆっくり顔を近づけるルリ。

唇が触れ合う。

優しく。

想いを込めて。

 

「愛してます・・・アキトさん」

 

そう言って部屋を出ていくルリ。

部屋に沈黙が訪れる。

ピ・・・ピ・・・ピ・・・。

医療器具の無機質な音だけがあたりに響く。

その時・・・。

アキトの右目から涙が一筋こぼれた。

まるで愛する者との別れを悲しむかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後、アキトはナデシコを去った。

ルリとアキト、2度目の別れだった。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

アキトがナデシコをおりました。

これから少しナデシコをおりたアキトの事を書きます。

どうなる事やら・・・。

感想お待ちしております。

返事は必ず書きますので・・・。

それでは次回でお会いしましょう。

 



艦長兼司令からのあれこれ(笑)

えーと、艦長です。

前回、「死んでないのね、一安心」って書いたら、こんなんが来ました(笑)

まだ死んではいないようですが(不吉なこと言うな!(笑))

ここからはアキトの事みたいですね。

よかった、アキトはいったん退場かと思ったから(爆)



さあ、アキトのその後が知りたければここにメールを出すんだ!(笑)


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