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妖精の守護者  第14話

 

 

 

 

 

『・・・北辰に負け・・・復讐も果たせず・・・俺に何が残ってるって言うんだ・・・』

 

自嘲的に笑う。

 

『未熟者・・・か・・・』

 

思い出す。

ルリの笑顔。

ラピスの笑顔。

そして・・・アヤカの笑顔。

だがそれすらもアキトを助けることは出来ない。

次第にアキトの意識は闇に飲まれていく。

薄れゆく意識の中・・・アキトは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・もう・・・疲れたよ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の守護者

第14話「ある少女との出会い」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらアキト君、今日は機嫌が良いのね」

 

そう言ったのはエリナ・キンジョウ・ウォン。

ここはネルガルの病院。

その中の一室。

ナデシコがチューリップから通常空間に脱出してからすでに3ヶ月が経っていた。

1人の青年がベッドにいる。

テンカワ・アキト。

窓から外を見ている。

その顔に感情はない。

だがエリナには何となくアキトが穏やかな顔をしているように思えた。

 

「ねえアキト君」

 

そう声をかけるエリナ。

その声が聞こえないのか、ただ窓の外を見ているアキト。

 

「何か良い事でもあったの?」

 

そう言ってアキトに微笑むエリナ。

だがアキトはゆっくりと視線をエリナに向けただけ。

何かを言うわけでもなく、ただ無表情な顔をエリナに向けている。

 

「アキト君・・・」

 

そんなアキトの頭を抱える様にして抱きしめるエリナ。

アキトの髪を撫でる。

苦痛と薬物投与で真っ白になってしまった髪。

アキトはナデシコから降りてからこの病院で治療を受けていた。

だが度重なる激痛とそれを押さえるための強力な薬がアキトの心を壊していた。

 

「・・・」

 

何も言わないアキト。

 

「私、嫌な女よね。あなたがこんなになってしまったのに嬉しいの。だってあなたは私の側にいてくれるんだもの。私はあなたの側にいられるんですもの」

 

そう言ってから少し沈んだ顔をするエリナ。

廃人。

そんなアキトをけなげに世話するのはエリナ。

涙ぐみそうになるのを何とか堪えるエリナ。

エリナの胸に抱きしめられ、少し苦しそうに顔を動かすアキト。

 

「今だけはあの子のものじゃなくて、私のアキト君でいてくれる・・・」

 

本当に愛おしそうにアキトを抱きしめるエリナ。

自分を抱いてはくれても、見てはくれなかったアキト。

自分の隣に寝てはいても、いつも距離を感じていたアキト。

そのアキトが、どういう形であれ自分の側にいる。

その事が嬉しいエリナ。

同時にそんな自分に嫌気がさす。

自分はなんて恥知らずな女なのかと・・・。

モソモソ。

苦しそうに顔を動かすアキト。

 

「あ、ごめんなさいアキト君!」

 

そう言ってアキトを放すエリナ。

少し苦しそうに息を吸うアキト。

ゆっくりと呼吸が整っていく。

 

「・・・アキト君・・・」

 

アキトを見つめるエリナ。

段々その瞳に涙が浮かんでくる。

そんなエリナをキョトンとしてみているアキト。

ゆっくりと手を伸ばしてエリナの頭を撫でる。

なでなで。

無表情のままエリナの頭を撫でるアキト。

一瞬呆然とするエリナ。

だが次第にアキトへの愛おしさがこみ上げてくる。

 

「・・・ア・・・アキト君・・・」

 

堪えていたものがあふれ出す。

こんな状態になってまで自分を慰めてくれるアキト。

エリナの瞳から止めどもなく涙がこぼれる。

 

「・・・う、うう・・・ごめんなさい・・・ごめんなさいアキト君・・・うう・・・」

 

そのままアキトに抱きつく。

アキトの胸に顔を埋めながら、力一杯アキトに抱き付く。

 

「・・・アキト君・・・アキト君・・・・」

 

アキトの名前を呼びながら涙を流すエリナ。

そんな彼女の頭をアキトは撫で続けていた。

無表情な顔のままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM6:00。

病院の廊下を1人の青年が歩いている。

真っ白な髪。

ひよこのプリントされたパジャマ。

黒いバイザー。

ゆっくりと歩いている。

 

「あら、テンカワさん。おはよう」

 

すれ違う看護婦が声をかけるが返事は帰ってこない。

まるで無視するかの様に歩いていく。

看護婦の見守る中、廊下の角を曲がりアキトは姿を消す。

 

「テンカワさん、最近調子良さそうね」

 

同僚の看護婦が声をかけてくる。

アキトの入院当初の状態を知っている看護婦達。

最近のアキトを見ると少し気持ちが楽になる。

だが、それでも少し寂しそうな顔をする看護婦。

 

「・・・でも、いまだに返事をしてくれないのよ。無理だって事はわかっているんだけど・・・ね」

 

「そう・・・」

 

「でも・・・いつかは必ず!」

 

「あれ〜、ミキちゃん。もしかして患者さん好きになっちゃったのかなあ?」

 

そう言ってニヤニヤする同僚に顔を赤くするミキ。

が、すぐに何かを思いだしたかの様に悲しそうな顔をする。

 

「あの会長秘書が居なかったらいいのにな・・・私じゃ勝てないもん」

 

「・・・そっか・・・あの人きれいだもんね」

 

「うん・・・」

 

少し落ち込んだミキを慰めるようにその肩をポンと叩く。

そろそろ患者の起床時間だ。

 

「さてと、今日も忙しくなりそうね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン。

アキトの身体で翼を休めている小鳥達。

その手の上にあるエサを皆でつついている。

アキトの日課。

朝起きたら屋上のベンチで小鳥達に餌をあげること。

小鳥達もそれを待っていたかのようにアキトに群がる。

 

「・・・」

 

そんな小鳥達を見ながらアキトは何を思うのか。

ただ何も言わずにじっとしている。

その時。

ギイ!

そう言ってドアが開き屋上に誰かが出てくる。

それと同時に一斉に飛び立つ小鳥達。

呆然とそれを見つめるアキト。

そうしていると看護婦が近付いてくる。

 

「テンカワさん、食事の時間ですよ」

 

そう言った看護婦には関心を示さず、小鳥達の飛び去った後を眺めているアキト。

黙ってそれを見ている看護婦。

朝日を浴びて幻想的に輝くアキトの白髪。

その美しさに思わず見惚れる看護婦。

しばらくしてゆっくりと立ち上がると、看護婦を無視してドアに向かって歩き出すアキト。

看護婦は無視されても別に怒った様子もなかった。

アキトがわざとやっているのでは無いと知っているから。

アキトの事を知っているから。

看護婦はゆっくりとアキトの後をついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベンチに座り休んでいるアキト。

もうすぐ冬だというのに今日の日差しはずいぶん暖かい。

自分の膝の上で丸くなっている子猫を優しく撫でている。

真っ白な髪が日の光を浴びてキラキラ光っている。

 

「アキト〜!」

 

遠くから少女は走ってくる。

薄桃色の髪をした愛らしい少女。

ラピス・ラズリ。

ナデシコでの生活で、今まで以上に感情を表すようになった彼女。

愛くるしい笑顔を浮かべている。

アキトの前まで来ると立ち止まり、乱れた呼吸を整える。

そしてアキトの目の前にニュッと缶ジュースを差し出す。

 

「つぶつぶオレンジ買ってきた」

 

そう言った少女をじっと見つめるアキト。

そしてゆっくりとそれを受け取る。

それを確認してアキトの隣に座るラピス。

手に持っているのはつぶつぶブドウ。

 

「飲まないの?おいしいよ」

 

そう言ってプルタブを空けて美味しそうに飲むラピス。

それを見てアキトもプルタブを空けて飲む。

 

「ニャア」

 

膝の上から子猫の鳴き声が聞こえてくる。

アキトの膝の上でゆっくりとのびをするとラピスの膝の上に飛び移る。

 

「あ、お菓子も持ってきたんだ」

 

そう言ってポケットをごそごそと漁るラピス。

袋に入った小さなケーキを数個取り出す。

 

「はい、あげる」

 

そう言って子猫を自分の足下に降ろすとそこにケーキを置く。

それを嬉しそうに食べる子猫。

 

「アキトも、はい!」

 

そう言ってアキトにもケーキを差し出す。

それを黙って受け取るとしばらく眺めている。

 

「美味しいよ」

 

そう言ってにっこり笑うと、自分もケーキを食べるラピス。

それを見て一口大のケーキを口の中に放り込むアキト。

そしてジュースを一口飲む。

横を見ると、もくもくと口を動かしているラピスがいた。

そんなラピスを見つめる。

 

「もぐもぐ・・・ん!・・・」

 

トントン自分の胸を叩くと急いでジュースを飲むラピス。

そして落ち着いたのかホッと一息つく。

だがしばらくして缶を覗くと少し考える。

 

「・・・う〜ん・・・」

 

どうやって残ったブドウの粒を出そうか考えているようだ。

しばらくしてラピスから視線をはずすアキト。

正面を見たままポーッとするアキト。

 

「ニャア」

 

そう鳴いて再びアキトの膝の上に戻る子猫。

その猫をちらりと見たアキトは、横に座るラピスを再び見つめる。

缶をくわえて上を向きながら、残ったブドウの粒を出すのに悪戦苦闘しているラピス。

すぐにアキトの視線に気付くと少し恥ずかしそうにする。

缶から口を離し、アキトを見つめるラピス。

 

「・・・ねえ、アキト」

 

「・・・」

 

ラピスの問いにも答えないアキト。

だがラピスは気にしない。

いつもの事だから。

 

「今日暖かいね」

 

「・・・」

 

「この前ルリからメールが来たよ」

 

「・・・」

 

「後2ヶ月くらいしたら帰ってくるって。そうしたらお見舞いに来るって」

 

「・・・」

 

「会いたいね・・・ルリに」

 

ラピスをしばらく見つめているアキト。

しばらくして頷いた。

そのままゆっくりと空を見上げるアキト。

ラピスはどうしても気になるのか、残りのブドウを食べるために再び戦いに赴く。

子猫はアキトの膝の上で丸くなっている。

心洗われるような澄み切った青空。

その青空をしばらく見上げていたアキトがゆっくりと口を開く。

声は出さない。

未だにブドウに悪戦苦闘しているラピスは気付かなかった。

アキトの口は確かにこう言っていた。

 

『ルリ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

病院の庭を1人で歩いているアキト。

左手には病院の建物が、右手には森が見える。

生憎の曇り空でかなり寒い。

だがアキトはそんなことは気にならないのか、犬のプリントされたパジャマだけを着ている。

何かに関心を示すわけでもなく、ただ歩く。

すでにアキトはこの病院の名物患者になっていた。

特にその幻想的な白髪と整った顔立ちで、女性患者や看護婦から絶大な人気があった。

ふと足を止める。

するとしばらくして小鳥達がアキトの肩や頭にとまる。

そのまま何もせずにポーッとしているアキト。

さらに茂みから出てきた猫がアキトの足に頬ずりをする。

それでも何を考えているのかわからないアキト。

ポーッとしている。

その時、アキトの背後から声がかかる。

 

「アキト君!」

 

その声に一斉に飛び立つ小鳥達。

急いで茂みに隠れる猫。

 

「な、何よ・・・そんなに私が怖いわけ?みんなして逃げなくてもいいじゃない!」

 

しばらく唖然としていたが、いきなり怒り出すエリナ。

ゆっくりとアキトに近付いていく。

アキトもゆっくり振り向く。

 

「やっと見つけたわ、全くすぐフラッと居なくなるんだから!」

 

そう言ってアキトの腕で自らの腕を絡める。

エリナはアキトが看護婦などに人気があることを知っている。

だからあえてアキトの所有権を主張するように接しているのだ。

 

「これから検査があるのよ。早く病室に戻らないと」

 

そう言ってアキトを連れていこうとする。

だがアキトはピクリとも動かない。

 

「ちょっと、歩きなさい!」

 

そう言ってさらに引っ張る。

だが動かない。

 

「全く・・・どうしたっていうの?」

 

そう言ってアキトの顔を見るエリナ。

アキトは、どこかあさっての方を見ている。

 

「ほらアキト君、ボーとしてないで!」

 

そう言ってもアキトは全く視線をはずさない。

森の奥を見つめている。

仕方なくエリナもそちらを見る。

木々が鬱そうと茂っている森。

特に変わったところはない。

アキトが何を見ているのか、エリナにはわからなかった。

するといきなり興味をなくしたかのように森から視線を外すアキト。

突然歩き出す。

アキトに腕を絡めていたエリナはそれに引っ張られた形になる。

 

「ちょ、ちょっと、いきなり歩かないでよ!」

 

そんなエリナを無視して黙々と歩くアキト。

 

「もう・・・いつも勝手なんだから・・・」

 

そう言いながらも少し嬉しそうに、アキトと腕を組んで歩いていくエリナ。

そのまま病院の中に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の庭に隣接している森。

多くの小動物や野鳥類が生息している。

その森を少し奥に入った所。

木に寄り掛かるようにして、1人の男が立っていた。

編み笠を被っている。

かなり肌寒いにも関わらず、その額には汗が浮かんでいた。

冷や汗。

 

「・・・体が動かなかった・・・」

 

忌々しそうに呟く男。

男とアキトの距離は恐ろしく離れている。

そして男は一流の暗殺者。

その男が潜んでいることにアキトは気付いていたのだ。

 

「あれが・・・テンカワアキト。あやつ・・・化け物か?」

 

アキトに見られた。

その瞬間、男は言い知れぬ恐怖を感じた。

思い出しただけでも震えが来る。

体を預けている木からゆっくりと離れる男。

 

「隊長に報告せねば・・・テンカワアキト、未だ健在と・・・」

 

そう言って男は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日。

病院の廊下をアキトが歩いている。

ラピスの用意した可愛らしいウサギがプリントされたパジャマを着ている。

それに黒いバイザー。

白髪。

異様な出で立ちである。

看護婦の何人かがアキトに声をかける。

だが誰にも返事を返さない。

ゆっくりと歩いていく。

 

「ねえ、お兄ちゃん」

 

そんなアキトの横から声がかかる。

ふと足を止めてそちらを見るアキト。

声をかけられて足を止めるなど、今のアキトでは非常に珍しい事だ。

1人の少女がいる。

年の頃は10歳くらいか。

きれいな黒髪の少女が、アキトを見上げている。

十字架のついたペンダント、ロザリオをしている。

大人用なのか、鎖が長すぎて十字架が少女のおなかの辺りで光っている。

 

「・・・」

 

黙って少女を見つめるアキト。

何を考えているのかわからない。

アキトを見つめる少女。

ニッコリと微笑むと口を開く。

 

「ねえ、そのパジャマ可愛いね」

 

「・・・」

 

「アヤカも欲しいな」

 

その言葉を聞いてビクッとするアキト。

だがその他は変化がない。

何も言わないアキト。

じっと少女を見つめる。

 

「お兄ちゃんもここに入院してるの?」

 

しばらく考えてコクンと頷くアキト。

 

「そうなんだ・・・えへへ、アヤカもずっと入院してるんだよ」

 

「・・・」

 

「ねえお兄ちゃん、アヤカと遊んで」

 

少女・・・アヤカが上目遣いにアキトを見る。

これまた考えるアキト。

コクン。

ゆっくりと頷く。

 

「ほんと、やったあ!それじゃあ早く行こうよ」

 

そう言ってアキトの手を取ると引っ張っていくアヤカ。

少女に引っ張られていく青年。

それはとても微笑ましい光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロビーに置いてあるテレビでアニメを見ているアヤカ。

その顔は非常に真面目である。

その横に座り同じようにアニメを見ている青年。

バイザーに隠れていてその表情は見えない。

2人並んでイスに座り、テレビを見ている。

魔法のプリンセス、ナチュラルライチというアニメである。

現在地球で男女問わず子供達に大人気のアニメである。

最近始まった「モックーン編」がこれまた大ヒット。

視聴率もうなぎ登りだそうだ。

最後に次回予告を見てテレビを消すアヤカ。

 

「ふ〜、ねえお兄ちゃん。次どうなるのかな・・・」

 

アニメのこれからの展開について熱く語るアヤカ。

そんなアヤカを見つめるアキト。

黙って聞いている。

その顔に感情はない。

 

「・・・面白くなかった?」

 

泣きそうな顔をしながら聞くアヤカ。

その言葉にしばらくしてから首を横に振るアキト。

 

「良かった!」

 

そう言ってニッコリ微笑むアヤカ。

まるで天使のような、そんな笑顔。

アキトにそのアニメのあらすじを説明しだすアヤカ。

それにいちいち頷いているアキト。

暫くして一息つくアヤカ。

どうやら一区切りついたようだ。

 

「お兄ちゃん、何か質問は?」

 

アヤカの問いかけに首を横に振るアキト。

 

「アヤカ!」

 

そんな時、アヤカを呼ぶ声が聞こえた。

声の方を見るアヤカ。

視線の先に廊下を歩いてくる女性がいる。

年齢は30代前半だろうか。

なかなかの美人である。

 

「あ、ママ!」

 

そう言ってイスから立ち上がると、近付いてくる女性に少女が手を振る。

一緒に立ち上がり、そちらを見つめるアキト。

女性が来る。

 

「駄目じゃない、勝手に病室出たら」

 

「う・・・ごめんなさい」

 

「あら、この方は?」

 

そう少女の母親が聞くとアヤカはニッコリ笑った。

本当に魅力的な微笑みである。

とても無邪気な。

 

「いまね〜、お友達になったの。ね〜、お兄ちゃん」

 

アキトはそう言った少女を見る。

そしてアヤカの頭に手を乗せると撫でる。

なでなで。

少し恥ずかしそうだが気持ちよさそうに目を細めるアヤカ。

 

「まあ、それはそれは。娘がご迷惑をおかけしたようで」

 

「アヤカ迷惑なんてかけてないもん!」

 

少し拗ねたような仕草がとても可愛らしい。

そんな少女を見つめているアキト。

無表情な顔。

その時。

 

「アキト、見つけた!」

 

アキトの背後から声がかかる。

薄桃色の髪の少女が立っている。

ラピス・ラズリ。

 

「アキト、勝手に出ていっちゃ駄目」

 

そう言ってアキトのパジャマの裾をギュッと掴む。

 

「あの」

 

女性が声をかけてきた。

少ししてからそちらを見るアキト。

 

「私、アヤカの母のミズハラ・ユミです。よろしければお名前を教えていただけないでしょうか?」

 

「・・・」

 

アキトは黙ってユミを見つめている。

ラピスも一緒になってユミを見つめる。

 

「あ、あの」

 

何も言わないアキトを訝しく思うユミ。

 

「アキト、しゃべれないの」

 

そう言ったのはラピス。

 

「「え?」」

 

さすが親子。

見事にハモっている。

 

「アキト・・・もう何ヶ月も喋ってないの」

 

悲しそうな顔をして言うラピス。

 

「そんな・・・」

 

あまりの事に言葉を失うユミ。

 

「お兄ちゃん・・・可哀想」

 

今にも泣きそうなアヤカ。

すると興味をなくしたかのように2人から視線を外すアキト。

その脇をふらっと抜けて歩き去っていく。

ペコリと可愛らしくお辞儀をすると、急いでアキトの後を追うラピス。

そんな2人を呆然と見ていたユミが、アヤカに声をかける。

 

「さ、アヤカ。病室に戻りましょう」

 

「お兄ちゃん、どうしたのかな?病気かな?」

 

「・・・わからないわ。でもまた今度遊んでもらいましょう」

 

そう言ってユミはアヤカの手を握り歩き出した。

ユミに手を引かれながら後ろを振り返るアヤカ。

だがアキトの姿はすでにない。

 

「お兄ちゃん・・・」

 

そう言って少し寂しそうな顔をする少女。

そのまま自分の病室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人の青年がいる。

闇を纏い、復讐に生き、そして身も心も壊れてしまった青年。

テンカワ・アキト。

そんな彼が1人の少女と出会った。

きれいな黒髪をした、とても愛らしい少女。

その少女との出会いが、アキトの運命を変える事になる。

少女の名はアヤカ。

それは偶然か、それとも・・・。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

いつもありがとうございます。

ささばりです。

アキトは入院中です。

前回までは暗かったので、今回は明るめです。

アキトはこの後どうなるのか・・・。

感想等、是非お願いします。

それでは、続きをお楽しみに。

 



艦長兼司令からのあれこれ

はい、艦長です。

今回はちょっとほのぼのでしょうか。

怪しい人も顔出してますが(笑)

それにしても・・・・エリナさん、後がコワイよ?(爆)

それに看護婦さん達も(笑)

さあ、無意識のうちに女性を陥とすアキトが見たければここにメールを出すんだ!(笑)


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