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妖精の守護者  第15話

 

 

 

 

 

1人の青年がいる。

闇を纏い、復讐に生き、そして身も心も壊れてしまった青年。

テンカワ・アキト。

そんな彼が1人の少女と出会った。

きれいな黒髪をした、とても愛らしい少女。

その少女との出会いが、アキトの運命を変える事になる。

少女の名はアヤカ。

それは偶然か、それとも・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の守護者

第15話「笑顔」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ございません。お召し物はクリーニングして返しますから」

 

「あ〜、舐めた事言ってんじゃね〜よ」

 

そう言って女性に絡む男達。

女性は自分の後ろに少女を庇いながら必死に頭を下げている。

少女の身に着けているロザリオが、日の光を浴びてキラキラと輝いている。

 

「アヤカ悪くないもん!そっちがぶつかってきたんだもん!」

 

「アヤカ!」

 

女性・・・ミズハラ・ユミが娘のアヤカを窘める。

 

「奥さ〜ん、お嬢ちゃんの躾がなってないようだね」

 

そう言って別の男が迫ってくる。

男のスーツにベッタリとアイスクリームが付いている。

周りにいる人達は遠巻きに見ているだけ。

誰も2人を助けようとはしない。

誰しも巻き込まれたくはないらしい。

 

「とりあえずクリーニング代と慰謝料で1000万。すぐに用意してもらおうか」

 

「そ、そんな!」

 

「もっとも、用意できないんだったら奥さんに頑張ってもらうしかないよな。なあみんな?」

 

「へへへ、そうだなぁ」

 

「お、俺はガキの方を・・・」

 

「おいおい、壊すなよ」

 

そう言って男達は声を上げて笑い出す。

その会話に顔面蒼白になるユミ。

後ずさる。

その時。

 

「お兄ちゃん、来ちゃだめ!」

 

いきなりアヤカが叫び声を上げる。

アヤカの視線の先の人垣が割れる。

そこに立っていた1人の青年。

ひよこのプリントされたパジャマ。

黒いバイザー。

真っ白の髪。

ハッキリ言って怪しい・・・。

 

「お兄ちゃん、来ちゃだめだよ!」

 

必死になって叫ぶアヤカ。

だがそんなアヤカの努力もむなしく、アキトはゆっくりと近付いてくる。

そのままアヤカの前まで行くと、手に持っていた物を差し出す。

ナチュラルライチ・スナック、キャラクターカード付き。

 

「てめえ、ふざけんなよ!」

 

アキトに対して怒鳴りつける男。

だがアキトは完全に無視している。

アキトはさらにパジャマのポケットから飴をいくつか取り出すとアヤカに差し出す。

 

「てめえ、こっち向け!この白髪野郎が!!」

 

そう言って男がアキトの手を払う。

地面に落ちる飴。

地面に落ちた飴を呆然と眺めているアキト。

ゆっくりと男の方を向く。

 

「なめやがって!」

 

そう言って男はナイフを取り出すとアキトの顔を突きつける。

日の光を受けて不気味に光るナイフ。

その光にビクッとなるアキト。

 

「へへへ、ビビってやんの」

 

そう言ってアキトの頬をペタペタとナイフで叩く。

 

「やめて!」

 

アヤカが悲鳴を上げる。

アキトは先程からナイフから目が離せないでいた。

呼吸が荒くなってくる。

 

(クックックッ、楽しむが良い。自らの眼に小刀が押し込まれる瞬間を)

 

次第に冷や汗を浮かべるアキト。

そして、ナイフがアキトの目の前に来た。

 

(さあ、汝はどんな風に鳴いてくれるのかな?)

 

ドン!

宙を舞う男。

5mほと離れたところに落ち、痙攣している。

皆何が起こったのかわからない。

右腕を振りきった体勢のアキト。

腕の一振りで大の男を5m近くも吹き飛ばした。

 

「お、お兄ちゃん?」

 

アヤカが声をかける。

だが当然返事はない。

ゆっくりと残った男達に向き直る。

 

「て、てめ・・・」

 

ドグォ!

一瞬にして間合いを詰めたアキトの掌底が、男の腹部に突き刺さる。

そのまま数m吹き飛ばされて、血を吐きながら地面をのたうち回る。

そして・・・。

アヤカ達に背を向けているアキトがゆっくりと笑った。

残った男は背筋が凍った。

目の前の獲物を狩る事に快楽を感じている。

そんな壮絶な笑みを浮かべるアキト。

足が震えている男。

逃げようにも身体が動かない。

ゆっくりと近付いてくるアキト。

 

「く、くるな・・・」

 

男の目の前にアキトが迫る。

 

「や、やめろ・・・」

 

男がその場に尻餅を付く。

震えながら失禁している。

アキトが顔を下に向ける。

ニヤリ。

 

「ヒィ!」

 

ドガ!

男の顔面に蹴りを入れるアキト。

顔から血を吹き出して数メートル吹き飛ぶ男。

さらにゆっくりと近付いていくアキト。

 

「グガッ・・・あ・・・ああ・・・」

 

顔を押さえながら呻く男。

だがその声を聞きながら笑っているアキト。

ゆっくりと足を男の顔に乗せる。

ギリギリ!

どんどん力を強めていく。

 

「・・・あ・・・ああ・・・あが!」

 

メキメキ!

まるで踏みつぶすかのように力を込めていくアキト。

その顔に浮かぶ恍惚とした表情。

その時。

 

「やめなさい、アキト君!また昔に戻るつもり!?」

 

凛とした女性の声。

見事にスーツを着こなしている美しい女性。

エリナ・キンジョウ・ウォンがそこに立っていた。

 

「アヤカちゃんの前なのよ、アキト君!」

 

アヤカと言う言葉を聞いたときビクッとなるアキト。

エリナの声にゆっくりと振り返る。

その顔はいつものように無表情だった。

 

「お兄ちゃん、怪我してない?」

 

そう言ってアキトに駆け寄ってくるアヤカ。

そのセリフにコクリと頷くアキト。

 

「全く、余り心配かけないでよね」

 

そう言うエリナの横をすり抜けて歩いていくアキト。

先程の男達はすでに黒服の男達に連れ去られていた。

 

「あ、待ってよお兄ちゃん!」

 

そう言ってアキトの後を追うアヤカ。

後にはエリナとユミが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキトがアヤカと出会ってから、すでに1ヶ月が経っていた。

温かい日差しの中、庭のベンチに座っているアキト。

その膝の上に陣取っているアヤカ。

アキトはアヤカの身体に手を回して軽く抱いている。

アヤカは気持ちよさそうにアキトの胸に背中を預けている。

ほのぼのと見える光景。

 

「ねえお兄ちゃん」

 

そう言ってアキトに声をかけるアヤカ。

アキトは何も言わずに黙ってアヤカの頭を見ている。

 

「この前の事・・・」

 

その言葉にビクッとなるアキト。

アヤカを抱きしめている腕に力が入る。

 

「お兄ちゃん・・・苦しいよ」

 

その声に腕をゆるめるアキト。

 

「お兄ちゃん・・・何を怖がってるの?」

 

ビクッ。

一瞬震えるアキト。

アヤカはアキトの膝の上に座りながら正面を見ている。

他の患者達が散歩をしている。

アヤカの位置からアキトは見えない。

だがわかってしまう。

 

「今も怖い?」

 

微かに震えているアキト。

自分の身体にまわっている手をそっと握るアヤカ。

 

「怖くないよ・・・お兄ちゃん」

 

次第にアキトの身体の震えがおさまってくる。

 

「アヤカが護ってあげるから・・・お兄ちゃんに怖い思いなんかさせないから」

 

そう言ってぎゅっとアキトの手を握る。

すると・・・微かにアキトの手がアヤカの手を握り返した。

 

「アヤカがずっと護ってあげるから・・・ずっと側に居てあげるから」

 

そう言ってそっと目を瞑るアヤカ。

もうアキトの震えはおさまっていた。

そのまましばらく時が流れる。

アキトの傷ついた心を癒す・・・そんな優しい時間。

しばらくして目を開けるアヤカ。

 

「もう・・・怖くないよね」

 

こくん。

微かに頷くアキト。

アヤカの位置からは見えなかったが、彼女にはアキトが頷いたのがわかった。

 

「そうだ、お兄ちゃん!あのね・・・!!」

 

急に何かを言おうとしたアヤカだが、いきなり言葉を切る。

 

「うっ・・・うう・・・」

 

そう言って右手でパジャマの胸の辺りを押さえる。

その顔は苦痛に歪んでいる。

その様をボーっと見ているアキト。

右手で自分の胸を押さえ、左手でアキトの腕を握りしめるアヤカ。

アヤカの額に冷や汗が浮かぶ。

 

「な・・・何でもないの・・・すぐに良くなるから・・・心配しないでお兄ちゃん」

 

息も絶え絶えに言うアヤカ。

黙ってそれを聞いているアキト。

 

「い・・・いつもの事だから・・・大丈夫だから・・・」

 

アキトに心配をかけないように健気に言う少女。

アヤカの言う通り、彼女の呼吸は少しずつ落ち着いてきた。

 

「ごめんねお兄ちゃん・・・痛かったでしょ」

 

すまなそうに謝り、アキトの腕をさするアヤカ。

だがアキトがそんなことを気にするはずがない。

 

「最近よくなるの・・・急に胸が苦しくなって・・・でも平気だよ・・・」

 

いつもよりかなり顔色が悪いアヤカ。

少しの間ポーッと何かを考えている。

するといきなり両腕でアヤカを抱え上げると、病院の入り口に向けて歩き出した。

 

「お、お兄ちゃん・・・アヤカ恥ずかしいよ!」

 

少し赤くなりながら言うアヤカだが、アキトは取り合わずに黙々と歩く。

 

「アヤカ平気だよ!元気だから大丈夫だよ!」

 

そう言ってジタバタするが、アキトは取り合わない。

 

「・・・お兄ちゃん・・・」

 

アキトは黙々と歩いていく。

はじめはもがいていたアヤカだが、ついには諦めたのかアキトに身をゆだねる。

アキトの温かさを感じる。

安心できる温もり。

アヤカにとって最も安心できる場所、アキトの腕の中にいる。

 

「・・・ありがとう・・・お兄ちゃん・・・」

 

そう言ってゆっくりと目を瞑るアヤカ。

疲れたのか、すぐに寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

「お兄ちゃん、これ読む?」

 

先日の事を感じさせないほど元気いっぱいのアヤカ。

そう言ってアキトに雑誌を差し出す。

うるるん。

少女漫画雑誌である。

ここはアヤカの病室。

彼女と知り合って以来、ほぼ毎日アヤカの病室に遊びに来ているアキト。

最初の頃はアヤカに連れてこられていたが、最近は自分から訪れるようになっていた。

この日も昼過ぎからアヤカの病室を訪れていた。

うるるんを受け取るとじっと表紙を眺めるアキト。

鮮やかな表紙が目を引く少女漫画。

そしてアヤカの方を見る。

 

「面白いよ!」

 

そう言ってニッコリ笑うアヤカ。

それを見て再び少女漫画に目を落とすと、ゆっくりと本を開く。

黙ってそれを読み始めるアキト。

その間にアヤカは小学校の教科書を取り出して勉強をする。

いつもの事だった。

 

「う〜ん」

 

アヤカが何か悩んでいるようだ。

黙々と漫画を読み進んでいくアキト。

 

「あれ〜?」

 

小首をかしげながら教科書とにらめっこしているアヤカ。

かなりのハイペースで読み進んでいくアキト。

 

「?????」

 

・・・。

ひたすら読み進んでいくアキト。

 

「・・・・・・」

 

10分ほど時間が経過する。

アキトが読み終わったうるるんをベッドの横の棚に置く。

そしてアヤカをじっと見つめる。

 

「・・・あ、お兄ちゃん。読み終わった?」

 

コクンと頷くアキト。

 

「面白かったでしょ?」

 

少し考えてから頷くアキト。

 

「えへへ、やっぱりね〜」

 

こくこくと頷くアキト。

すると今度は上目遣いにアキトを見るアヤカ。

少し目が潤んでいる。

 

「・・・ねえお兄ちゃん、マンガ読み終わったんならアヤカに勉強教えて?」

 

「・・・」

 

「お願いお兄ちゃん」

 

こく。

アキトが頷いたのを見たアヤカは途端に笑顔になる。

 

「やった〜!ありがとうお兄ちゃん」

 

アヤカの笑顔。

天使のような笑顔。

その笑顔を見てアキトは何を思うのか。

それは誰にもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日。

アヤカの病室に行くと母親のユミしか居なかった。

 

「あら、アキトさん。いらっしゃい」

 

そう言ったユミを無視して、いつものようにイスに座る。

そしてその後じっとユミを見つめている。

 

「ごめんなさいね、今アヤカは検査に行っているんです。もうすぐ戻ってくると思うので・・・」

 

その言葉を聞いているのかいないのか、ポーッとしているアキト。

しばらく沈黙が流れる。

 

「あ・・・あの、少しお話ししてもよろしいでしょうか?」

 

そう言ったユミにアキトは黙っている。

 

「私、嬉しいんです。最近アヤカがとても楽しそうに話すんです。あなたやラピスちゃんの事を」

 

黙って聞いているアキト。

 

「あの子・・・この前先生に後半月も生きられないって。その話をあの子に聞かれてしまって、昔の友達とも会わなくなって全然笑わなくなって・・・でも、あの日あなたに会ってからは、とても楽しそうに1日にあったことを話してくれるんです」

 

黙っているアキト。

 

「あなたと知り合ってから1ヶ月以上経ちます。担当の先生も驚いていました・・・奇跡だって」

 

ユミの瞳から涙がこぼれる。

 

「だから・・・お願いがあるんです。・・・一度で良いから、あの子に笑いかけてあげてくれませんか」

 

泣きながらアキトに訴えかけるユミ。

 

「あなたのことウォンさんから聞きました。辛い事があったことも知っています。勝手なことを言ってるってわかってます。でも、でも一度でも良いですからあの子に・・・」

 

聞いているのかわからないアキト。

ただまっすぐユミを見つめている。

その時、病室に看護婦が駆け込んできた。

 

「アヤカちゃんが、アヤカちゃんの容態が急変して。急いで来てください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、どうなんですか?」

 

ユミがたずねる。

アヤカの容態を。

 

「手は尽くしましたが・・・もう我々に出来ることはありません・・・後は静かに看取ってあげてください」

 

その声を聞いて泣き崩れるユミ。

 

「そんな、どうして・・・どうしてあの子が。あの子はまだ9歳なのに・・・どうして・・・どうして!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼んでる」

 

ベッドの上で呟くアキト。

 

「え?」

 

その横でイスに座り書類の整理をしていたエリナは驚く。

聞き間違えかと思った。

 

「アキト、しゃべった!」

 

ラピスも驚いている。

 

「呼んでる」

 

そう言ってベッドから降りると裸足でペタペタ歩いていく。

しばらく唖然としていたエリナとラピスが、急いでアキトの後を追う。

 

「待ちなさいアキト君!」

 

そう言ってアキトの腕を掴むエリナ。

だが物凄い力でそのまま引きずられていく。

諦めてアキトの腕を放す。

 

「何処に行くの、アキト?」

 

ラピスがたずねる。

アキトは無視して階段を下りる。

 

「バイザーしてないんでしょ・・・どうして道がわかるの?」

 

アキトの顔を見ながらエリナが呟く。

バイザーを外したアキトの視力は無いに等しい。

それなのにまるで見えているかのように歩いていく。

そしてそのうちに病室の前で止まる。

 

『ミズハラ・アヤカ』

 

そう書いてある。

ノックもせずに入る。

 

「誰・・・アキトさん?」

 

そう言ったのはユミ。

 

「ミズハラさん、ごめんなさい。アキト君がいきなり・・・」

 

そう言うエリナ。

アキトはその間にアヤカの傍らまで移動している。

その時アヤカが目を開けた。

 

「お兄ちゃん・・・」

 

弱々しいアヤカの声。

 

「アヤカ、気がついたの!」

 

「うん、ママ・・・心配かけちゃってごめんね」

 

そう言うとアキトに顔を向けるアヤカ。

 

「お兄ちゃん、やっぱり来てくれたんだね」

 

そう言ったアヤカをじっと見ているアキト。

手を伸ばして乱れた前髪を整えてやる。

 

「お兄ちゃんのことずっと呼んでいたんだよ」

 

黙ってアヤカを見つめているアキト。

 

「あのね、お兄ちゃん・・・これ」

 

そう言ってアヤカは自分の首にかかっていたロザリオを外し、アキトに手渡す。

それをじっと見つめるアキト。

 

「お兄ちゃんに持っていて欲しいの。パパに貰ったものなんだけど、アヤカはもう駄目だから。だからお兄ちゃんに持っていて欲しいの」

 

そう言ってニコリと笑うアヤカ。

とても魅力的な笑顔。

まるで天使のような。

そんな微笑み。

あと十年もすればとても魅力的な女性になるだろう。

だが彼女に残された時間はもうない。

こくん。

頷くとロザリオを首にかけるアキト。

少女には大きすぎたそれも、アキトには丁度良いようだ。

ハアハア。

苦しそうに呼吸をするアヤカ。

何も出来ずにアヤカの手を握っているユミ。

 

「ラピスお姉ちゃんもエリナお姉ちゃんも、ありがとね」

 

そう言ってラピスとエリナにに目を向けるアヤカ。

そしてまたアキトを見る。

そのままそっと目を閉じる。

 

「・・・ねえお兄ちゃん」

 

苦しそうに言うアヤカ。

相変わらず黙って聞いているアキト。

その胸に光るのはアヤカのロザリオ。

 

「・・・どうしていつも泣いてるの?」

 

ビクッとするアキト。

 

「・・・どうしていつも悲しそうな顔をしてるの?」

 

アヤカをじっと見つめるアキト。

アヤカも目を開きアキトを見つめる。

 

「・・・アヤカ、お兄ちゃんに笑って欲しいな・・・」

 

無表情のアキト。

そんなアキトにさらに言葉を続けるアヤカ。

 

「辛かったんだよね・・・」

 

「・・・」

 

「悲しかったんだよね・・・」

 

「・・・」

 

「アヤカが護ってあげるって言ったのに・・・ずっと側に居てあげるって言ったのに・・・」

 

健気に言う。

そんなアヤカをじっと見つめるアキト。

ユミもラピスもエリナも黙って聞いている。

彼女には今しかないのだから。

 

「ごめんねお兄ちゃん・・・アヤカ約束守れないよ・・・」

 

「・・・」

 

「アヤカはお兄ちゃんの側にいれないから・・・だからお兄ちゃん・・・逃げちゃ駄目だよ」

 

「・・・逃げ・・・る?」

 

アヤカの言葉にアキトが呟く。

アヤカもユミも初めて聞くアキトの声。

 

「・・・アヤカ、お兄ちゃんのこと護ってあげられないから。だけどお兄ちゃんならきっと大丈夫だよ。・・・お兄ちゃんならきっと前に進めるから。アヤカ、ずっとお兄ちゃんのこと見てたから知ってるもん」

 

そう言ってにっこり微笑むと、じっとアキトを見つめる。

黙ってアヤカを見ている。

そして顔を赤らめる。

 

「アヤカね、お兄ちゃんのこと大好きだよ」

 

愛の告白。

あまりにも幼すぎる。

少女の告白。

恋愛にあこがれる。

そんな幼い少女。

まっすぐな想い。

そんな少女を見つめるアキト。

ゆっくりと。

アキトが動いた。

少女の耳元に顔を寄せる。

 

「・・・」

 

何か言ったようだがユミ達には聞こえなかった。

だがアヤカはその言葉を聞いてニコッと微笑む。

 

「・・・ありがと・・・お兄ちゃん」

 

苦しそうに、しかししっかり言うアヤカ。

そんなアヤカにアキトが。

笑った。

かつてルリを虜にしたあの微笑み。

見る者全てを魅了する微笑み。

 

「・・・やっぱり、お兄ちゃんは笑った方が格好いいよ・・・」

 

そう言ってアヤカもにっこり笑う。

微かに赤くなっている。

だが、次第に呼吸が荒くなっていた。

ゆっくりと天井を見つめるアヤカ。

 

「ママ」

 

やけにハッキリしたアヤカの声。

 

「何、アヤカ?」

 

アヤカの手を握りながらユミが聞く。

涙に濡れている。

 

「アヤカ、パパに会えるかな」

 

アヤカの父親は彼女が6歳の時に他界している。

ユミが言葉を絞り出す。

必死にアヤカの手を握りながら。

 

「大丈夫・・・アヤカは良い子だったもの。必ずパパに会えるわ・・・」

 

ユミにはもうアヤカの顔が見えなかった。

涙で何も見えない。

だから手を握る。

徐々に力の無くなっていくアヤカの手を必死に。

少しでもこの世につなぎ止めるために

そっと目を閉じるアヤカ。

口を開く。

 

「パパに会える・・・楽しみだなあ・・・」

 

笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中。

霊安室。

アヤカの亡骸の前に佇むアキト。

その胸に輝くロザリオ。

 

「・・・ア・・・ヤ・・・カ・・・」

 

アキトの周囲が輝きだす。

アキトの右目から涙がこぼれる。

 

「・・・アヤカ・・・」

 

アキトの左目から光がもれる。

辺りを眩しいほどの光が包む。

次の瞬間アキトの姿が消えていた。

どこに行ったのか・・・それを知る者は誰も居ない。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

今回はいかがでしたでしょうか。

少女との出会いがアキトの心を癒していきます。

しかし別れは訪れる。

少女の死を境にアキトがどう変わるのか。

次回をお楽しみに。

感想もお待ちしています。

それでは。

 



艦長兼司令からのあれこれ

はい、艦長です。

ちょっと今回は悲しいですねぇ。

「星の数ほど人がいて、星の数ほど出会いがあり・・・・そして、別れ」

かの劇場版におけるオープニングのセリフですが、なんとなくピッタリのような気がして引用しました。

私の意見(?)ですが・・・人の死は悲しむべき事ではあります。

ですが、人間は生まれ落ちたときから死に一歩踏み出しているわけです。

そう考えれば気も楽かも(笑)

ここでもう一つ引用。

「この世に客として来たと思え」

遅すぎた名将、伊達政宗の語録です。

この世にはお呼ばれして来ているのだ。十分に生きたら、お暇をさせて貰いなさい・・・・となります。

死を常日頃から考える必要はないですが、それほど重苦しく考える必要もまた無いかと。

人間の一生、星の瞬きに比べればホンの僅かなモノなんですから。

なんか話が堅くなったな(笑)

さあ、ささばりさんにメールを出すんだ!


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