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妖精の守護者  第2話


 

 

 

 

 

「テンカワアキト、火星生まれ。NO.02、地球圏ネルガル研究所によって遺伝子操作されている研究用モルモット。2人とも被験者として拉致されて来た様です」

 

「火星・・・地球・・・。それで、2人は今どこに?」

 

九十九の質問に兵が答える。

だがその顔は苦渋に満ちている。

 

「2人は衰弱が酷く、今が軍病院に収容されています」

 

「なぜそんな顔をする」

 

そんな兵を見て元一朗が聞く。

 

「男の方・・・自分は、あんなにぼろぼろにされた人間を見たことがありません」

 

それを聞いた九十九と元一朗は顔を見合わす。

男は軍人だ。

人の死ですら見慣れているであろう。

それがこれほど辛そうな顔をするとは。

2人はそれほどの非道をする組織を逃がしたことを悔いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テンカワアキトの意識が回復したと白鳥九十九の元に連絡が来たのは、それから3日後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


妖精の守護者

第2話「復讐人」

BY ささばり


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、何なのよアンタ達!」

 

ここは裏路地。

そう言ったのは1人の少女。

中学生位だろうか、活発そうな印象の少女。

頭のカチューシャがトレードマークのようだ。

その少女を取り巻くようにいる4人の男達。

イヤらしい笑いを浮かべながら少女を見ている。

 

「ジロジロ」

 

「ヘッヘッ、恨むなら兄貴を恨むんだな」

 

「お兄ちゃん?」

 

「そうだぜ、お前の兄貴がこの前俺らのナンパの邪魔しやがったからな。お礼に妹のお前に楽しませてもらおうかと思ってな」

 

少女ににじり寄りながら言うならず者達。

だが全く怯えた様子も見せない少女。

 

「ふん、あんた達の好き勝手にはさせないんだから」

 

そう言って構える少女。

何か格闘技でもやっているのだろうか。

 

「お嬢ちゃん、おいたすると怪我するよ」

 

そう言った男の鳩尾に掌底を入れようとする少女。

ガシ!

それをいとも簡単に防ぐ男。

少女の腕を掴む。

そのまま少女を自分の方に引き寄せる。

なんとか離れようともがくが少女の力ではどうすることも出来ない。

 

「残念だったな。まあそう暴れるなよ、みんなで優しくしてやるからよ」

 

「何よ、放しなさいよ!」

 

「威勢のいいお嬢ちゃんだな・・・へへ」

 

そう言って少女に顔を近づける男。

 

(や、やだ。助けてお兄ちゃん!)

 

少女が「もう駄目!」と思ったその時。

 

「そこまでにしておくんだな」

 

声が聞こえた。

少女は自分が助かったことを悟ってほっと息を付く。

なぜなら少女はその声の主を知っていたからだ。

少しぼさぼさの髪。

目元を覆う黒いバイザー。

そして黒いロングコート。

 

「こんな所で何をしている、ユキナ。・・・いい趣味とは言えんな」

 

黒いコートの男は低い声で言った。

全く感情のこもっていない声。

ユキナと呼ばれた少女は自分を捕まえている男を見る。

 

「だ、誰がこんな奴と。いいからさっさとこいつらをやっつけなさい。ちょっと、聞いてるのアキト!」

 

顔を真っ赤にしてユキナが怒鳴る。

そんなやりとりを聞いていたならず者達が吠える。

 

「てめえ、女の前だからって調子に乗ってんじゃねえ!痛い目見たくなかったら引っ込んでな。なんせ俺らは木連式柔を極めてるからな」

 

しばらくそのセリフを聞いていたコートの男、アキトは口元をニィと歪めると呟いた。

 

「・・・雑魚が・・・」

 

「こ、このやろー!」

 

アキトのセリフで頭に血が上った1人のならず者。

アキトに襲いかかる。

その男の拳を顔を少しずらしただけでかわすアキト。

ドガァ!

同時に掌底を男の顔面にたたき込んだ。

わずか一撃で男を戦闘不能にする。

そのまま男の顔をつかみ力を込める。

メキメキ!

 

「貴様らに極められるほど、木連式柔は甘くない」

 

そう言って手を離すアキト。

ドサ!

男が倒れ込む。

それを見ていたならず者のうち2人が逃げ出していく。

全く見向きもしないアキト。

残ったのはユキナを捕まえている男だけ。

アキトが近付いていく。

 

「て、てめえ。これ以上近付いてみろ。この女ズタズタにしてやる!」

 

そう言いながらナイフを取り出しユキナに向ける。

だがその瞬間男は吹き飛んでいた。

一瞬にして間合いを詰めたアキトがユキナに突きつけられていたナイフをはじき左腕による一撃を加えたのだ。

後ろの壁に叩き付けられて、そのまま気を失う。

何が起こったのか全くわからず呆然とするユキナ。

 

「我が柔に敵なし」

 

アキトの呟きが戦いの終わりを告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2年前。

ここは木連軍第2病院。

2人の男が廊下を歩いている。

すれ違う者達が皆頭を下げる。

優人部隊。

木連軍のエリートである。

その制服を着ている男が2人。

白鳥九十九に月臣元一朗。

 

「それで、そのテンカワアキトという奴の容態は?実験の後遺症とかはどうなのだ?」

 

たずねる九十九。

 

「わからん。俺も意識が戻ったことしか聞いていないからな」

 

そう言っていると目的の病室に着く。

そこに待っていたかの様に中から医師が現れた。

 

「どうぞ、お入りください」

 

そこにはベットに横たわり天井をじっと見上げている1人の青年が居た。

左腕が肘の少し上くらいからなく、片目を隠すように顔に包帯が巻かれている。

 

「尋問は?」

 

その姿に言葉を失っている九十九の代わりに元一朗が聞いた。

 

「無理です」

 

そう言ってじっと黙る医師。

未だに天井を向いているテンカワアキト。

さすがにおかしく思い九十九が聞く。

 

「なぜ彼はこちらを見ない。気が付いているのだろ?」

 

その問いに医師はカルテを取り出すとアキトの症状についての説明するを始める。

 

「あの研究所にあったデータによるとクランケはテンカワアキト。18歳。火星生まれの火星育ち。両親と義理の妹がいたようです」

 

「義理?」

 

元一朗がたずねる。

 

「はい、生まれたときから遺伝子操作を施した・・・そうそう、このクランケと一緒に運ばれてきた少女と同じですね。とにかく研究用モルモットのような生活を強いられていた少女を同じ研究所にいたクランケの両親が引き取ったようです」

 

「それで義理か・・・。それで、容態はどうなのだ?」

 

「はい。・・・はっきり言って生きているのが不思議なくらいです。まず彼の頭部から異常な量のナノマシンが検出されています。これにより脳神経が圧迫され様々な障害が引き起こされています」

 

「たとえば?」

 

九十九は怒りを抑えながら聞いた。

 

「全身麻痺、今の彼は指一本動かすことが出来ません。視覚ですが左の眼球は完全に潰れています。正確にはなにか鋭い物で突かれたようです。残っている右目も機能していません。今の状態では光すら感じていないでしょう。そして聴覚も・・・耳元で銃でも撃てば聞こえるかもしれませんが、これもほとんど機能していません。とりあえず脳内のナノマシンの除去を行いますので、少しはマシになると思いますが」

 

「治るのか?」

 

そんな九十九の問いに医師はきっぱりと言い切った。

 

「無理です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・白鳥さん」

 

そう言ったのはアキト。

暗く沈んだ声。

アキトが意識を取り戻してから1週間がたっていた。

病室に入ってきたのは白鳥九十九と月臣元一朗。

 

「やあ、体調はどうだい」

 

そこにはテンカワアキト。

視覚を補助する黒いバイザーを付けている。

アキトの容態はかなり良くなった。

歳も近いせいか生まれは違うがすぐ仲良くなった3人。

その脇に立っている薄桃色の髪をした少女。

 

「やあ、ラピスちゃんもこんにちは」

 

そう呼ばれた少女はぎこちなく笑う。

NO.02。

そう呼ばれていた少女。

研究所でアキトと出会い一緒に救出される。

いまはテンカワアキトの命綱となっている。

一通り挨拶を終えるとアキトの横にいすを持ってきて座る。

 

「何度もすまないね。今日は君のことを話して欲しいんだ」

 

そう切り出す九十九。

その横でじっとアキトを見ている元一朗。

しばらくの沈黙の後アキトが口を開く。

 

「・・・テンカワアキト、18歳。工学博士・・・」

 

「なに!その若さでか?それとも地球圏ではそうなのか?」

 

驚いたようにたずねる元一朗。

 

「・・・いえ・・・」

 

「普段は何をしていたんだ、仕事とか。軍人ではないだろう」

 

「ラーメン屋です。元々コックだったんですがラーメンを作りたくて」

 

それを聞いた九十九が顔をほころばせていう。

 

「君はコックだったのか。そう言えば今日から食事をとってもいいと言っていたぞ」

 

その言葉に今日初めての笑顔を見せるアキト。

 

「ホントっすか」

 

横にいるラピスも何だか嬉しそうだ。

 

(なんと爽やかな笑顔をする男だ)

 

アキトの笑顔を見てそう思わずにはいられない九十九と元一朗。

ガチャ!

病室のドアが開き食事を持った看護婦が入った来た。

そしてアキトの前に食事を置く。

 

「続きは食事が終わったからにしよう」

 

そう提案する九十九。

その間にラピスの前にも置かれる食事。

その時そこにいただれもがアキトの異変に気付かなかった。

その顔から笑顔が消えていたことに。

おいしそうに食べるラピス。

ガシャン!

病室の壁に叩き付けられる食事のトレー。

すぐ後に病室内に絶叫が響いた。

 

「どうしたんだ、テンカワ君!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「味覚と臭覚が完全に駄目?なぜだ、感覚の問題はラピスで何とかなったのではないのか!」

 

医師の襟首をつかみ壁に押しつける九十九。

物凄い形相で睨み付ける。

 

「落ち着け、九十九」

 

そう言いながら九十九の腕を引き剥がす元一朗。

そしてほっとしている医師に視線を向ける。

その視線は全く笑っていない。

 

「確かに当初全身麻痺はナノマシン除去作業によって治ると思われていたのですが、神経の損傷があまりにも酷く1人で立ち上がることも出来ませんでした。その後触覚消失も明らかになりましたが、これを解決するためにラピスとナノマシンにより結合。それにより触覚・視覚・聴覚がわずかながら回復。しかし視力は、裸眼では光すら感じない。その事もバイザーを装着する事で何とか解決できましたが。しかしまさか味覚と臭覚が完全になくなっているとは・・・」

 

「何とかならんのか!」

 

そう言う元一朗に申し訳なさそうな顔をする医師。

 

「無理ですね。今の彼はラピスがいなければ1人で起き上がることもできない。ましてや失った味覚や臭覚を治すなど・・・。我々の科学技術は昔とは比べ物にならないほど発達しています。・・・だからこそ不可能なこともわかってしまいます」

 

「・・・不可能」

 

その声に驚いて振り返る九十九と元一朗。

そこにはラピスによって支えられて立っているアキトがいた。

 

「テンカワ君・・・」

 

しばらく俯いていたアキトが顔を上げた。

その顔を見てゾッとする九十九。

これが先程あれだけ爽やかな笑顔を浮かべていた青年なのだろうか。

その顔は醜くゆがんでいた。

憎悪。

そして吐き出すような声。

 

「・・・殺してやる・・・北辰・・・」

 

ラピスがそんなアキトを悲しそうな目で見上げていた。

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

みなさんこんにちは、ささばりです。

私の作品を読んでいただきありがとうございます。

私は劇場版をビデオで見るまで見たことが無く実際見たときはかなりショックでした。

この作品はそのショックで書いてしまったものです。

同じ頃に艦長さんの作品を読んで、自分も書こうと思ったりもしましたが・・・。

とりあえずこの作品がネットに載った初めての小説です。

なのでまだまだ未熟ですがよろしくお願いします。

それと艦長さん。

ネット知識に疎い私のせいでご迷惑をおかけした事申し訳なく思います。

ですが出来ればこれからもお願いします。

それでは・・・。



艦長兼司令から。

ささばりさんから早くも第2話が届きました。
私と違って筆が早くて羨ましいです(笑・・・えない)

さぁーて、ヤバイですねぇ。
アキトのネジが1本飛びましたね。
不気味なオーラが読んでるだけで伝わってきます(笑)
次はどうなるのかな♪

まってますよぉ。

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