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妖精の守護者  第20話

 

 

 

 

 

『ボース粒子の増大反応』

 

ブリッジ前方、虫型兵器とナデシコの間に光が溢れる。

次の瞬間、その光から出た一条の火線が敵を薙ぎ払う。

その一撃で、ブリッジを襲おうとしていた虫型兵器数十機が一気に破壊されたのだ。

 

「グ、グラビティーブラスト・・・」

 

ユリカが呆然と呟く。

ルリも目の前の光景から目が離せないでいた。

光の中から現れるモノに。

 

「・・・あ・・・ああ・・・」

 

そこにある光景に、次第に涙が溢れてくるルリ。

涙で滲んでよく見えないが、ルリにはわかった。

ずっと求めていたものがそこにある。

ずっと逢いたかった、最愛の人がそこにいる。

光の中から現れたのは闇。

ナデシコに乗っている者なら知らぬ者は居ない。

圧倒的な戦闘力を持つ、漆黒の機動兵器。

それは神の与えた奇跡。

闇を纏いし守護天使の降臨に、ルリは涙していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の守護者

第20話「表と裏」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合ったか?」

 

ナデシコを庇うように飛んでいるブラックサレナ。

すでに通常形態に戻っている。

ナデシコのあちらこちらから煙が上がっている事を確認するアキト。

特に、ディストーションブレードの損害が酷い。

だが、どうやらブリッジは無傷なようだ。

 

「オモイカネ・・・ルリは・・・」

 

『無事』

 

アキトの言葉の途中に答えを返すオモイカネ。

その表示を見て安心したように微笑むアキト。

通信回線をクローズする。

 

「よくもこうウジャウジャと集まったものだ・・・雑魚どもが・・・」

 

カノン砲を構えているブラックサレナ。

それに対するように虫型兵器が集まってくる。

そして、少し離れたところに人型兵器。

それらをゆっくりと見回すアキト。

最後に、人型兵器を見据える。

口元に笑みが浮かぶ。

いや、笑みと言うには余りにも禍々しい。

 

「よくも人の留守中に好き勝手してくれたな」

 

そう言ってククッと笑うアキト。

右手のIFSが輝きを増す。

次の瞬間、ブラックサレナのバーニアが火を噴いた。

虫型兵器の群に突っ込むブラックサレナ。

バルカン砲でしきりに攻撃を行う虫型兵器。

だが、ブラックサレナのフィールドはそんな攻撃は物ともしない。

 

「効かないよ・・・そんな物じゃ」

 

一瞬にして虫型兵器の群を突破するブラックサレナ。

そのまま虫型兵器には目もくれず、人型兵器に向かい突進する。

頭部の口に当たる部分からビームを放つ敵人型兵器。

だが、ブラックサレナは避けようともしない。

ビームは、ブラックサレナのディストーションフィールドに弾かれてしまう。

 

「クククッ・・・その程度か」

 

腕を突き出す敵人型兵器。

次の瞬間、その腕が飛び出す。

ロケットパンチ。

だが、それを見てもブラックサレナは止まらない。

右腕のカノン砲をソードに持ち替える。

ジャキン!

何事もなかったようにそのパンチを切り払う。

 

「見かけ倒しか・・・なら、消えろ」

 

アキトがそう言った瞬間、ブラックサレナは今まで以上のスピードで敵に接近する。

人型兵器は動くことさえ出来ない。

刹那、ブラックサレナのソードが一閃する。

胴体を真っ二つにされ、敵人型兵器が爆発する。

その爆発もおさまらないうちから、残った虫型兵器達にその猛威をふるうブラックサレナ。

的確な射撃で次々と敵を落としていく。

その力は、圧倒的だった。

結局エステバリス隊が戻ってくるまでに全てを片付けてしまった。

 

「・・・終わりか・・・」

 

一息つくと回線をオープンにするアキト。

するとどうだろう。

ブラックサレナのコックピットに無数に開かれたウィンドウ。

皆口々に何かをいっている。

通信回線をクローズしていたので気付かなかったのだ。

だがそれは無視するアキト。

 

「ナデシコ、着艦許可・・・」

 

言いかけたアキトの前に『OK』と言うオモイカネウィンドウが表示される。

そのウィンドウを見て苦笑いしながら着艦体勢に入るアキト。

 

「了解、これより着艦する。車庫入れはお前に任せるぞ」

 

『OK』『可決』『承認』『了承』『早く』等々様々なウィンドウが表示される。

 

「わかったからそう急かすなよ、オモイカネ」

 

ゆっくりと口元に笑みを浮かべるアキト。

先程とは違う、優しい感じの笑顔。

 

「戻ってきた・・・ここに」

 

胸のロザリオを握りながらそっと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラックサレナが格納庫に入ってくる。

それを見守っているナデシコクルー。

漆黒の機体。

圧倒的な力を持つが故にアキト以外に乗りこなせる者がいない。

破壊をもたらす闇。

ブラックサレナ。

その美しさに目を奪われつつもすぐさま固定作業に入る整備班。

 

「オー、なんだなんだ。また凄くなってるぞ!」

 

そう言ってあちこち触ったり眺めたりしているウリバタケ・セイヤ。

確かに以前のものとは少し変わっているようだ。

だが彼ら整備班以外は皆ブラックサレナのコックピットが開くのを待っている。

それを駆るテンカワアキトを。

ブシュ!

そういってハッチが開いた。

 

「アキトさん・・・」

 

コックピットを見上げながら呆然と呟くルリ。

ゆっくりと顔を出したアキト。

皆その姿に驚く。

髪が真っ白なのだ。

そんなアキトに唖然とするルリ。

アキトがゆっくりと下を見る。

そして、ルリの姿を認めると・・・。

ふわっ。

アキトがコックピットから飛び降りた。

白い髪がなびく。

黒衣が広がる。

舞い降りる暗黒の王子。

誰しもその光景に目を奪われる。

ルリの前、数メートルの位置に着地するアキト。

ゆっくりと顔を上げるアキト。

その金色の瞳が、じっとルリを見つめる。

 

「ア、アキトさん・・・その髪・・・それにその瞳・・・」

 

何とか言葉を絞り出すルリ。

彼女はそれだけ言うのが精一杯だった。

アキトの外見は、余りにも変わりすぎていた。

だが、特に気にする風でもなく口を開くアキト。

 

「ああ・・・なんか真っ白になっちゃってね。それに目も金色だし・・・まあ、これでも結構気に入ってるんだよ」

 

そう言って優しい眼差しをルリに向ける。

 

「あ・・・」

 

その視線に言葉を無くすルリ。

そこにあったのは優しさ。

数ヶ月前の彼とは明らかに違う。

あの頃の氷のような雰囲気はすでにない。

 

「・・・アキトさん・・・」

 

次第に涙が浮かんでくるルリ。

そんなルリを見つめるアキトの視線は優しさに満ちていた。

ゆっくりとアキトに近付いていくルリ。

そして、アキトの数歩前まで来て止まる。

足が震えて、動かない。

 

「・・・」

 

何も言えずにアキトを見つめるルリ。

その瞳からは今にも涙がこぼれそうだ。

そんなルリに、アキトが言葉を紡ぐ。

 

「・・・ただいま、ルリちゃん・・・」

 

そして、ゆっくりと笑顔を浮かべた。

 

「!!!!!!!!」

 

ルリの瞳から、ついに涙がこぼれ落ちた。

昔と同じ口調。

昔と同じ笑顔。

懐かしい響き。

心地良い響き。

ずっと求めていた言葉。

アキトは「ルリちゃん」と言った。

ルリにはわかった。

アキトが昔の優しかったアキトに戻ったのだと。

次から次へと涙がこぼれ落ちる。

ルリの見たかった笑顔。

一番大好きな笑顔。

誰よりも大好きなアキト。

その彼が今、ルリの目の前にいる。

 

(・・・アキトさん・・・アキトさんだ・・・アキトさんだ!!)

 

次の瞬間、ルリはアキトの胸に飛び込んでいた。

それを優しく受け止めるとそっと抱きしめるアキト。

 

「お帰りなさい!!・・・・・・アキトさん・・・アキトさん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それがどういう事だかわかっているの?あなたの身体はそこまでボロボロになっているって事なのよ!」

 

そう言ったのはイネス・フレサンジュ。

アキトが帰還した翌日。

医務室。

ここにはテンカワ・アキト、イネス・フレサンジュ、アカツキ・ナガレがいる。

アキトの身体のことを訊いたイネス。

それに淡々と答えたアキト。

表情1つ変えずに自分の身体のことを話す。

良くなったのは視力だけで、それすらもラピスとのリンクがなければ再び失明する。

現代医学中最高の技術があるネルガルの病院ですら、アキトを見放したのだ。

それがどれだけ危険なことか、イネスにはわかった。

だが、アキトはまるで他人事のように淡々と言う。

 

「わかっているつもりだ。だからこそ俺は俺の出来ることをする。何時死ぬかわからない、治し方もわからない・・・なら、いちいち気にする必要はない」

 

その顔はあくまでも無表情。

 

「そうは言っても・・・ルリちゃんは知っているの?」

 

イネスの言葉で、初めてアキトの表情が揺らぐ。

 

「・・・彼女には黙っていてほしい」

 

まっすぐにイネスを見つめるアキト。

ドキッとする。

彼の金色の瞳。

心の中まで見通されているかのような。

そんな瞳。

 

「い、何時までも隠しておけると思うの?」

 

「そのうち俺から話す」

 

そう言ったアキトの瞳がイネスを見つめる。

 

「わ、わかったわ」

 

イネスがそう言うと微笑むアキト。

 

「ありがとう」

 

ドキッ!

胸を押さえるイネス。

 

(昔からそうだったけれど、彼の笑顔は心臓に悪いわね)

 

そう思いながら何とか冷静さを取り戻す。

 

「ところでアキト君。あなた、その目どうしたの」

 

さっきから気になっていたことを口にするイネス。

 

「そうだよテンカワ君、一体どういう事なんだい?」

 

そう言ったのはアカツキ。

そんなアカツキに目を向けるアキト。

 

「・・・古代火星文明・・・」

 

「「な!」」

 

アキトの言葉にイネスとアカツキが声を上げる。

 

「ある人達が治してくれた。今はそれ以上は言えない」

 

そう言うと2人に背を向けるアキト。

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

そう言って部屋を出ていくアキト

アキトが出ていった後、部屋に残されたイネスとアカツキ。

 

「実際見るまでは信じられなかったが、まるで別人のようだね」

 

「いいえ、元々あれがアキト君なのよ。あの微笑み、優しさ。あれがホントのアキト君・・・」

 

なぜかうっとりしながら言うイネス。

 

「そうだね・・・確かに昔のテンカワ君だ。でも・・・何が彼を変えのかな?」

 

「さあ。ただ言えることは、アキト君はナデシコを降りてから何らかの経験をしたという事ね。復讐というアキト君の生き方を変えてしまうほどに・・・そしてアキト君は昔の自分を取り戻した・・・でも・・・」

 

そこでいったん言葉を切るイネス。

次第にその瞳に涙が浮かんでくる。

 

「・・・でも・・・このままじゃアキト君は・・・」

 

最後の方は言葉にならない。

その瞳から涙がこぼれ落ちる。

そんなイネスにアカツキは言葉を掛けることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医務室を出たアキトは廊下を歩いている。

エリナはきっと良くなると言っていた。

だが、それは彼女の優しさからきた嘘。

自分の身体のことは知っていた。

だがどこかで納得してはいなかった。

それが今、第三者に言われてハッキリとわかった。

明日死んでもおかしくない。

もしかしたら明日は生き延びるのかも知れない。

だが恐らく、それほど長くは生きられないだろう。

いつまで生きられるかもわからないほど自分の身体は壊れている。

だからアキトは決めていた。

明日死ぬかも知れないのなら、それなら今日を精一杯生きようと。

悔いだけは、残さないように・・・。

 

「こんなに清々しい気分になるとはな・・・不思議なものだ」

 

そう呟きながら歩いていると、正面からルリが歩いてくる。

アキトに気付き駆け寄って来る。

笑顔で・・・。

 

「アキトさん!」

 

「どうした、ルリちゃん」

 

そう言って微笑むアキト。

その笑顔に少し赤くなるルリ。

が、すぐに真剣な顔をする。

 

「あ、あの・・・身体の方はもう・・・」

 

「ああ、もう大丈夫だよ。そうでなきゃ退院できないしね」

 

にこやかに言うアキトにルリは安心した。

 

「よかった・・・よかった・・・」

 

そう言いながらぽろぽろと涙をこぼすルリ。

そんなルリの頭を撫でるアキト。

 

「心配かけてごめんね。もう大丈夫だからさ」

 

そう言ってルリの涙を拭う。

そんな行為に頬を赤く染めるルリ。

 

「・・・はい・・・」

 

そう言って笑顔を浮かべる。

 

「あのアキトさん・・・お昼ご飯は・・・」

 

遠慮がちに訊くルリ。

その質問でも笑顔を絶やさないアキト。

 

「・・・一度部屋に戻ってから行くよ・・・一緒に食べる?」

 

「は、はい!」

 

「じゃあ先に行っててくれないか?」

 

「はい、わかりました!」

 

そこで別れるルリとアキト。

ルリはスキップでもしそうなほど上機嫌で廊下を歩いていく。

曲がり角で一度振り向くとアキトに手を振る。

アキトが手を振り返すのを見て、嬉しそうに角を曲がっていった。

手を振った姿勢のままじっとしているアキト。

その顔から笑顔が消えていく。

ドン!

振っていた右腕を壁に叩きつける。

その異常なまでの威力に壁が大きくへこむ。

 

「・・・ごめん、ルリちゃん・・・」

 

そう言ってアキトは部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワ・・・。

アキトが食堂へ入ると一瞬辺りが騒然となる。

みんながアキトの方を見る。

雪のような白い髪。

漆黒の戦闘服。

サングラス。

 

「アキトさん、ここです!」

 

そう言ってルリが元気に手を振っている。

そちらをチラリと見ると、ゆっくりと歩いていくアキト。

テーブルにはルリとミナトがいる。

自然にルリの隣に座るとサングラスを外すアキト。

 

「お待たせルリちゃん・・・それに、久しぶりだなミナト」

 

そう言って笑顔を見せるアキト。

一瞬ドキッとするミナト。

ルリの手前、何とか顔に出さずにすんだようだが。

 

「そ、そうね・・・アハハ・・・」

 

そう言ってルリの方を見るミナト。

ルリの視線が痛い。

背筋を冷たいものが流れる。

しばらくミナトの様子を面白そうに見ていたアキトが口を開く。

 

「ルリちゃんは何を食べるんだ?」

 

「え・・・わ、私はみそラーメンを」

 

何故か恥ずかしそうに言うルリ。

それにうんうんと頷いているアキト。

 

「ミナトは?」

 

「私はチャーハンかな?ホウメイさんのチャーハン美味しいもの」

 

「ふむふむ・・・なるほど」

 

そう言って何かを考えるアキト。

そこに声がかかる。

 

「やっと戻ってきたようだね、テンカワ」

 

そちらを見るとホウメイがおたまを持って立っていた。

そのホウメイに笑顔を向けるアキト。

 

「ああ、久しぶり。元気そうでなによりだ」

 

アキトの笑顔に安心するホウメイ。

 

「・・・良い笑顔、するようになったじゃないか・・・」

 

「そうか?」

 

「そうだよ・・・変わったね。・・・でも良い事じゃないか」

 

笑顔でアキトを見るホウメイ。

 

「そうか、ありがとう」

 

それに答えるアキトもまた笑顔。

何となく良い雰囲気に見える2人。

内心穏やかじゃないルリ。

アキトを見る視線が何となく怖い。

だが、その事に気付きながらも特に気にしないアキト。

 

「それじゃあテンカワの快気祝いに今日はあたしのおごりだよ」

 

そう言ったホウメイに注文を伝えるアキト。

ちなみにアキトは火星丼。

その時厨房から女の子の声が聞こえてくる。

厨房の中でぴょんぴょん跳ねている女の子。

 

「ホウメイさ〜ん、早く戻ってきてくださ〜い」

 

その言葉に厨房に戻っていくホウメイ。

その奥に5人の女性達が働いているのがわかる。

そちらを見るアキト。

ホウメイガールズと呼ばれているナデシコ食堂のシェフ達。

男性クルー達に人気がある。

そのうちの1人がアキトの方を見る。

アキトと視線が合うと顔を赤くして目を逸らす。

それを見てニヤリと笑うアキト。

 

「あの、アキトさん?」

 

横に座っているルリが少し険しい顔でアキトを見ている。

ホウメイの時とは比べ物にならないほどのルリの眼光。

何故か内心ヒヤリとするアキト。

 

「どうした、ルリちゃん?」

 

「何処を見てるんですか?」

 

怒っている。

そう感じとれる声色。

だが、アキトはルリより一枚も二枚も上手だ。

 

「いや、俺も昔はああしていたのかなと思ってさ」

 

あえて昔を懐かしむようなことをいうアキト。

まんまと騙されるルリ。

 

「・・・アキトさん・・・」

 

「止めよう、せっかく戻ってきたんだし」

 

そう言ってルリに笑顔を向けるアキト。

その笑顔にルリも笑顔で答える。

 

「・・・はい・・・」

 

そんな2人を眩しそうに見ているミナト。

彼女は嬉しかったのだ。

ルリが明るくなってくれた。

その事が嬉しかった。

 

(アキト君か・・・良かったねルリルリ・・・でも、ちょっと惜しいわね)

 

そう思いながら改めてアキトを見るミナト。

真っ白な髪。

雪のように白い・・・美しい髪。

金色の瞳。

見つめられたら目を逸らせそうにない・・・美しい瞳。

精悍な顔付き。

凄惨な過去と、それを乗り越えてきた強さ。

そして、優しさ。

何となく赤くなるミナト。

その視線に気付き、微かに口元に笑みを浮かべるアキト。

ポーッとアキトを見つめるミナト。

 

「ミナト」

 

「な、なあにアキト君!」

 

「俺に惚れたか?」

 

そう言ってニヤリと笑うアキト。

一瞬赤くなるが、ハッとしてルリの方に視線を向けるミナト。

そこには・・・。

まるで親の敵でも見るようにミナトを睨むルリがいた。

 

「あ、あはははは・・・そ、そんな事あるわけないじゃない。や、や〜ね〜アキト君」

 

ミナトは恐怖に顔を引きつらせながらそう弁解していた。

その時、彼女の寿命は確実に縮まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事が終わった後、格納庫に行くアキト。

そこにはウリバタケ・セイヤ率いる整備班が居る。

格納庫内をゆっくりと歩いて見て回るアキト。

 

「よう、アキト!」

 

アキトの姿を認めたウリバタケがそう声を掛ける。

足を止めてウリバタケを見るアキト。

 

「セイヤか、相変わらずだな」

 

アキトは整備班とはある程度の関係を作り上げていた。

何と言って自らの乗る機体を整備しているのだ。

自然と話すことも多くなり、整備班長のウリバタケとはある程度仲が良かった。

もっとも、所詮仕事上の付き合いではあるが・・・。

 

「ああ、しかし相変わらず良い腕してるな。1人の整備士としてもお前の愛機を整備できることを誇りに思うぜ」

 

「そうか・・・」

 

そう言って自らの愛機、ブラックサレナを見上げるアキト。

その横にはリョーコの愛機、赤いエステバリス・カスタムがある。

 

「しかも以前の物より性能も格段に上がっている。あれこそまさに漢のロマンだ」

 

そう言ったウリバタケの表情が何となく危ない。

 

「ロマン・・・かどうかは知らんが確かにいい性能だ」

 

「いい性能って・・・それだけで片付けられるのがお前の凄いところだよ。普通のパイロットじゃあまともに操縦することすら出来ないぜ」

 

頻りに感心しているウリバタケ。

 

「誉めても何もでないぞ?」

 

穏やかな顔をしてウリバタケを見るアキト。

そんなアキトにやや面食らうウリバタケ。

 

「・・・変わったな、お前・・・」

 

「・・・らしいな・・・」

 

フッと笑うとまるで人ごとのように言うアキト

それを見て同じように笑うウリバタケ。

 

「それはそうとナデシコはどうだ?」

 

「ん・・・ああ。お前さんが来てくれたおかげで何とか助かったよ。ディストーションブレードは片方が全壊だが、その他はそれ程酷い損害じゃあない」

 

「そうか、それは良かった」

 

そう言ってお互い黙る。

しばしの沈黙。

辺りに整備班の声と機械音だけが響く。

しばらくしてウリバタケが口を開く。

 

「それよりアキト・・・やはりお前の言ったとおり、エステバリス隊が倒した方は人が乗っていた可能性が高い」

 

その言葉にも表情を変えないアキト。

穏やかな顔をしている。

 

「・・・中を見たか?」

 

「ああ・・・操縦席のような物。そして何故かゲキガンガーグッズがあった」

 

ウリバタケの「ゲキガンガー」という言葉に一瞬顔をしかめるアキト。

だが、ウリバタケはそんなアキトに気付かなかった。

 

「・・・パイロットは?」

 

「いや、いなかった。恐らくは艦内に・・・」

 

そこまで聞いて、ゆっくりと笑顔を浮かべるアキト。

 

「フッ、面白くなってきた」

 

「お前が倒した方は無人だったのか?」

 

アキトの笑顔に訝しく思いながらも、別のことを訊くウリバタケ。

 

「さあ?」

 

「まあ、今となってはわからんか・・・・しかし、何処に潜んでいるのか。いや、それよりも、そもそも俺達は何と戦ってるんだ?」

 

「・・・さあな・・・」

 

そう言ってアキトは再び歩き出す。

ウリバタケをおいて、格納庫を出ていく。

1人廊下を歩くアキト。

 

「・・・一応ゴートとミスターに話を付けておくか・・・」

 

無人の廊下を歩くアキト。

 

「そうだ、オモイカネ」

 

アキトがそう言った瞬間、アキトのコミュニケが作動してオモイカネウィンドウが開く。

 

『何か?』

 

「ルリちゃんの周囲だけでいい。不審者のチェックをしておけ。何かあってからじゃ遅いからな」

 

歩きながらそう言うアキト。

それに了解の意を表すオモイカネ。

そのウィンドウを見てさらに言葉を続けるアキト。

 

「ルリちゃんの周囲だけでいいぞ・・・他の所は探すなよ・・・」

 

『しかし・・・』

 

目の前でそう表示されたウィンドウを、左手で払うアキト。

 

「命令だ」

 

冷たい声。

その声色は、紛れもなく以前のアキトのものだった。

常に闇を纏っていたあの頃の・・・。

 

『・・・了解・・・』

 

ご丁寧に点まで表示されているオモイカネウィンドウ。

それを確認してウィンドウを消すアキト。

 

「さて・・・狩りの時間だ・・・」

 

知らず知らずのうちに呟いているアキト。

その口元が醜く歪む。

この時アキトは気付いていなかった。

自分が微かに興奮していた事に。

これから始まる狩りに心躍らせていたことに。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

今回はいかがでしたでしょうか。

みなさま、本当にお待たせしました。

ついにルリと再会しました。

・・・しかしアキトにはまだ問題が山積みです。

彼がこれからどうなるか・・・がんばって書きますので。

それと、感想等お待ちしておりますので、よろしくお願いします。

それでは次回をお楽しみに。

 



艦長からのあれこれ

はい、艦長です。

帰ってきましたねえ。
変わっていない、人を惹きつける魅力。
変わったココロ。
その中で、変わらないココロの闇。

うーん・・・ええなぁ(笑)

さて、今回のアキトが言ったセリフの中で、私が大好きな小説シリーズ(御大ニ非ズ)、その最新作の題名があって、ちょっとニヤリとしました。
たぶんささばりさんはそんなコト意識してないでしょうが(笑)
さあ!その小説の著者名と題名がわかった人には抽選でP−31特製オリジナルグッズを・・・・あげません(爆)
そんなもの作る予定ありません(笑)


さあ、またもやモテモテになっている(そうしむけている?)アキトが見たければささばりさんにメールを出すんだ!


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