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妖精の守護者  第22話

 

 

 

 

 

某所。

3人の人影が密会している。

1人が残り2人を見ながら確認する。

 

「ホントに良いのね、あなた達」

 

その言葉に二つの人影が頷く。

 

「わかったわ・・・会長には言ってあるから」

 

ぺこり。

可愛らしくお辞儀をする。

 

「とにかく作戦実行は明日・・・今日はもう寝ましょう」

 

アキトの知らぬ所で陰謀は密かに動き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の守護者

第22話「アキト争奪戦」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・」

 

不意に目が覚めるアキト。

ゆっくりと上体を起こす。

アキトは夜目が効くので、すぐに周りの状況が見て取れる。

明らかに自分の部屋ではない。

自分の部屋には備え付けの家具以外ない。

だが、この部屋は違った。

明らかに女性の部屋。

 

「ん・・・ここは何処?」

 

ボケにも聞こえるアキトの声に、ベッドの横にいるものが動く。

 

「う〜ん」

 

そう言ってアキトにすり寄ってくる女性。

 

「・・・誰?・・・」

 

寝ぼけた頭で考えるアキト。

ちなみに今の時間は朝5時半。

アキトはいざとなれば瞬時に覚醒出来るよう訓練を受けている。

だが、今は危険を感じていないのか寝ぼけたままである。

 

「九十九と別れてから・・・その後部屋に戻って少し寝て・・・目が覚めて・・・」

 

アキトに密着するように寝ている女性。

そこでやっとその女性のことを思いだした。

 

「ああ・・・サユリか・・・」

 

彼女の名はテラサキ・サユリ。

背も高く、ホウメイガールズの中では一番大人びている女性。

そんな彼女をアキトはわずか数日で落としてしまったのだ。

サユリ自身はアキトと恋人同士だと思っているだろう。

だが、アキト自身にそんな感情は全くない。

以前エリナを弄んでいた時の様な胸の痛みも、今のアキトは感じない。

アキトは、大切な何かを無くしてしまったのかも知れない。

 

「・・・しかし何だ?嫌な予感がする・・・」

 

何となく嫌な予感がしてならないアキト。

何が・・・と言うわけではない。

本当に何となくなのだ。

アキトの第六感が警告を発しているのだ。

 

「敵が・・・近付いてきているのか?」

 

その時、サユリが目を覚ます。

 

「・・・アキトさん・・・どうしたんですか?」

 

そんな彼女をチラリと見るアキト。

恥ずかしそうにしながらもアキトにくっついてくる。

再びベッドに潜り込むアキト。

そんなアキトにさらにすり寄ってくるサユリ。

 

「アキトさん・・・」

 

「・・・どうした、サユリ?」

 

「何か、怖い顔していましたよ?心配事ですか?」

 

「・・・お前には関係ない・・・」

 

そう言ったアキトの口調は冷たい。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

あわててアキトに謝るサユリ。

アキトに嫌われたくなかったのだ。

 

「・・・いや、いいんだ・・・起きるにはまだ早い、もう少し寝ていろ・・・」

 

そう言って黙って天井を眺めているアキト。

しばらくアキトの顔を眺めていたが、再び夢の世界に落ちていくサユリ。

じっと天井を眺めているアキト。

ゆっくりと右腕を顔の前に持っていく。

手を握ったり開いたりしているアキト。

 

「・・・何となく・・・おかしいな・・・」

 

違和感を感じる。

どういう風におかしいのか、と言うことまではわからない。

だが、違和感だけは感じる。

 

「・・・いつまでもつか・・・」

 

ゆっくりと右手を握ったり開いたりする。

しばらくすると先程感じた違和感が無くなっていた。

何故なのか全くわからない。

ぼんやりと考えるアキト。

 

「・・・何か・・・あるのか?・・・」

 

そう言ってからゆっくりと右腕をおろすアキト。

しばらくして、彼も夢の世界に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジ。

辺りにはメインクルーがそろっている。

新クルーは3人。

1人は大人の女性。

他2人は少女。

そのうち1人は皆も知っている、ラピス・ラズリ。

だがルリは、もう1人の少女を見て呆然としている。

幼い頃の自分がそこにいる。

 

「アキト君はいないの?」

 

そう言ったのは新クルーの女性だった。

凛とした表情がとても美しい女性。

ナデシコの制服を着ているが、その姿すら気品に満ちあふれている。

エリナ・キンジョウ・ウォン。

その言葉から何かを感じ取るルリ。

ピクリと耳が動く。

 

「アキトはまだ寝てるみたい。今日アキトは非番だし」

 

そう言ったのはユリカ。

ユリカはこの後すぐに新クルーの歓迎会を開くつもりだった。

だが、エリナの一言がそんな計画を台無しにする。

 

「そうね。いつも朝起こすのに苦労するもの」

 

ピキ!

一瞬ブリッジの空気が固まる。

ユリカが、メグミが、エリナを睨み付ける。

だが、極めつけはルリだった。

すぐ横にいたミナトでさえ、ルリから一歩離れる。

ブリッジの温度が数度下がったような気がする。

ルリを中心に渦巻いている空気。

殺気。

いや、それに近いものがある。

ルリがエリナを睨み付ける。

強烈な眼光。

だが、エリナは余裕なのか、口元に笑みを浮かべてルリを見ている。

 

「あなた・・・アキトさんの何ですか?」

 

ルリのその言葉は呪いの言葉。

内容ではない・・・声色が全てを物語っている。

 

「あら、あなたルリちゃんね。初めまして」

 

余裕の笑みを浮かべながらそう言うエリナ。

 

「・・・」

 

黙ってエリナを睨み付けるルリ。

フフフッと笑うエリナ。

 

「アキト君から良く聞いているわよ。義妹・・・なんですって?」

 

あえて『義妹』という部分を強調するエリナ。

エリナの狙い通り、その言葉はルリの心に突き刺さる。

 

「・・・義妹・・・」

 

エリナの言葉に呆然と呟くルリ。

そこにさらに言葉を続けるエリナ。

 

「私、アキト君と親しくお付き合いさせていただいてるの」

 

「!!!!!!」

 

ショックを受けるルリ。

フフッと笑いながら身体の前で腕を組むエリナ。

胸が強調されて、嫌でもそのスタイルの良さがわかる。

その事にさらにショックを受けるルリ。

ガックリとうなだれてしまう。

 

「ちょっとあなた!」

 

茫然自失のルリを庇うように立つのはミナト。

確かにスタイルではエリナに引けを取らない。

 

「どうしてルリルリに意地悪するのよ!」

 

「ごめんなさい、あんまり可愛いんで少しからかっただけよ?それに・・・嘘は一言も言ってないわよ」

 

あくまで余裕のエリナ。

ミナトもその事については何も言えない。

たとえアキトがルリ以外の女性と付き合っていても、それを責めることは出来ない。

エリナがさらに何かをいおうとしたとき、その服の裾をつんつんと引っ張る者があった。

ホシノ・ルリカ。

 

「エリナさん・・・少し意地悪しすぎです」

 

何とかショックから立ち直り、ルリカの方を見るルリ。

似ている・・・などというレベルではない。

明らかに昔の自分と同じ。

 

「あなた・・・誰ですか?」

 

ルリが、さすがに睨みはしないものの、冷たい目でルリカを見る。

その視線にエリナの背後に隠れてしまうルリカ。

それを見て、エリナが口を開く。

 

「あなた・・・この子に意地悪するとアキト君が怒るわよ?」

 

ルリに意地悪している自分のことは棚に上げて、ぬけぬけというエリナ。

 

「どうしてですか?」

 

「あら、そんなこと決まってるじゃない。アキト君がすっごく大切にしてる娘ですもの」

 

その言葉に恥ずかしそうに頬を赤く染めるルリカ。

 

「・・・どうして私の姿をしているんですか?」

 

「え?」

 

「昔の私の姿をしてアキトさんに近付いて・・・何が目的ですか?」

 

何か勘違いをしているルリ。

その言葉にしょんぼりなってしまうルリカ。

次第に涙が浮かんでくる。

それを庇ったのはラピス。

ルリカを庇うように立ち両手を広げる。

 

「止めてルリ!ルリカは何も悪い事してない。ただ・・・ただアキトと居たいだけ!」

 

その必死の物言いに、ルリも何かを感じ取る。

堪えていた涙がポロポロとこぼれてくるルリカ。

そんな彼女を見て、自分の発言を後悔するルリ。

 

「・・・どういうこと?・・・あなたは何か知っているんですか?」

 

そう言ってエリナを再び睨み付けるルリ。

それに答えようとしたとき、ドアがスライドして1人の男が入ってきた。

運に見放された男。

テンカワ・アキト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前。

一度自分の部屋に戻って二度寝してしまったアキト。

シャワーを浴びた後、着替えて部屋を出る。

 

「ふう、よく寝たな・・・新クルーの出迎えには遅刻だが、まあいいか」

 

何となく昔のようにお気楽な部分が出てきたアキト。

アキトは今ブリッジに向かう通路を歩いている。

ひとまず昼食を食べに食堂へ向かう。

カウンター席に座るアキト。

注文はチキンライス。

まだわずかに昼食前なので、比較的空いている。

 

「新しいクルーの歓迎会は行かなくて良いのかい?」

 

カウンターの中に立ち、ジャガイモを剥きながらアキトに話しかけるホウメイ。

 

「ん、ああ。行くつもりだったんだが、二度寝したら寝坊した」

 

「あはは、寝坊かい。アンタらしいというか何というか・・・」

 

そう言って面白そうに笑うホウメイ。

アキトも苦笑いしている。

 

「おいおい、そんなに笑わなくても良いだろ」

 

その時横から水が差し出される。

 

「あ・・・あの・・・お水です」

 

そちらを見ると、サユリが顔を赤くしながら立っている。

 

「ああ、ありがとう」

 

そう言ってにっこり笑うアキト。

その笑顔に顔を真っ赤にして、逃げるように厨房の中に駆け込むサユリ。

 

「アンタ・・・あの娘となんかあったのかい?」

 

「・・・いや、別に特別なことはないぞ?・・・」

 

そうホウメイの問いに答えるアキト。

確かに、アキト自身は特別だとは思っていない。

慣れというのは恐ろしいものである。

 

「まあ、プライベートの事だから何も言わないよ」

 

「その方が良い」

 

そう言って黙々とチキンライスを食べるアキト。

ホウメイも黙々とジャガイモを剥く。

やがて食べ終わると、ゆっくりと立ち上がるアキト。

 

「さて・・・そろそろ行くかな?」

 

「そうしなよ」

 

そう言って食器を下げるホウメイ。

 

「それじゃあ、ごちそうさま。美味しかったよ」

 

そう言ってホウメイガールズの方を向く。

 

「じゃあ、がんばって」

 

そう言ってサユリや、他のホウメイガールズに必殺の笑顔を振りまく。

その笑顔に一瞬手が止まるホウメイガールズの面々。

 

「ほらほら、ぼけっとしてないで!」

 

そうホウメイに言われてやっと我を取り戻すホウメイガールズ。

それを見てニヤリと笑うとアキトは食堂から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジに向かっているアキト。

ふと、悪寒を感じて立ち止まる。

辺りの気配を探る。

殺気はおろか人の気配すら感じない。

やがて再び歩き出すアキト。

だが、不安は消えない。

 

(何だ・・・何がある・・・周囲に人は居ない・・・嫌な・・・予感がする・・・)

 

そうしているうちにブリッジのドアの前まで来た。

 

「何だ・・・この向こう・・・」

 

ドアの奥、ブリッジの危険な空気を何となく察するアキト。

左腕の服の袖にはナイフが隠してある。

懐に手を入れ銃があることを確認する。

ゆっくりとブリッジに入るアキト。

すると、いきなりなにかが飛びついてきた。

小さな、女の子。

 

「アキトー!」

 

「お父さん!」

 

そう言ってアキトに抱き付く少女達。

アキトの腰の辺りにしがみついているのはラピスとルリカ。

そしてアキトの正面にはエリナ、そしてそのエリナと睨み合っているルリがいる。

 

「ラピス、ルリカ・・・って、あれ?どうしてお前達がこんな所に?」

 

そう訊いたものの、2人ともアキトに抱き付いているだけで何も言わない。

仕方なくエリナの方に目をやるアキト。

 

「エリナ、これはどういう事なんだ?」

 

そう言ったとき、エリナを睨んでいたルリがアキトの方を向く。

ギン!

恐ろしいほどの眼光。

 

(・・・何か・・・やばいな・・・)

 

一瞬そう思ったが、再び自分に抱き付いている2人の少女に目をやるアキト。

そこで、アキトはルリカの目に涙が浮かんでいることに気付いた。

次の瞬間、ブリッジ内の空気が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキトの雰囲気が変わる。

ゆっくりとルリカを抱きしめると辺りの人間達を見据えていく。

その眼光は、皆が死を覚悟するほど強烈なもの。

顔が、微かに緑色に光る。

ゆっくりと懐から銃を抜くアキト。

 

「誰だ・・・ルリカを泣かしたのは・・・貴様か?」

 

何故か真っ先にダイゴウジ・ガイに銃を向けるアキト。

ちなみに、この不幸な男の本名はヤマダ・ジロウ。

震えながら首を横に振るガイ。

さすがの彼も、アキトが本気だと言うことはわかったようだ。

 

「じゃあ誰だ・・・ルリカを泣かしたのは・・・」

 

その問いに答える者は居ない。

いや、誰も言葉を発することが出来ない。

立っているのがやっとなのだ。

何とかアカツキが声を出す。

 

「テ、テンカワ君。そんな物しまったらどうだい?」

 

彼の勇気は称賛すべきものだろう。

だが、今回ばかりは相手が悪い。

アカツキを睨むアキト。

その金色の瞳は、魂を砕くかの如く光を宿していた。

 

「・・・俺の可愛いルリカを泣かした奴がいる・・・そいつにはそれ相応の償いをしてもらう・・・」

 

(駄目だ・・・目が完全にイッてる)

 

以前アキトが闇を纏っていた頃。

ネルガル本社の通路の曲がり角で、たまたまぶつかったラピスを叩いた職員がいた。

その時アキトはたまたま会長室に用でラピスの側にいなかったのだが・・・。

当然ラピスは泣いてしまった。

その職員は、以前付き合っていた女性をアキトに寝取られていた。

その腹いせもかねて、ラピスを叩いたのだ。

かなり強く。

ただ、彼は知らなかった。

アキトとラピスが繋がっていることに。

その数分後から、その職員の姿を見たものは誰もいない。

後日、アカツキにその事を訊かれたアキトはこう言っている。

 

『犯した罪は償わなくてはならない』

 

そう言った時のアキトを思い出したアカツキ。

身体が震えてくる。

アカツキから目をそらし、ゆっくりとエリナの方を向くアキト。

 

「エリナ、お前なら知っているだろ」

 

「ええ・・・それはここにいるホシノ・ルリよ」

 

その言葉を聞いてルリを睨むアキト。

それでもガイを見たときよりは優しい視線。

あくまでガイの時に比べたらだが・・・。

 

「ルリちゃん・・・たとえ君でも事情によっては許さないよ?」

 

幾分優しい言い方だが、それでも得も言われぬ迫力がある。

アキトがさらに言葉を続けようとしたとき。

 

「お父さん、ルリさんは悪くないです・・・だからそんな物しまってください」

 

アキトを見上げながら言うルリカ。

 

「・・・」

 

黙ってルリカを見るアキト。

 

「お願いです、お父さん。そんなに怖い顔しないでください」

 

「・・・わかった・・・」

 

そう言って銃をしまうと笑顔を浮かべるアキト。

とても先程の殺気を発していた男と同一人物だとは思えない。

ホッとするクルー達。

 

「・・・さっき・・・すごく怖かったです・・・」

 

そう言って少し震えているルリカ。

そんな彼女にすまなそうな顔をするアキト。

 

「ごめんな、ルリカ」

 

そう言ってルリカを安心させるために両手で抱きしめるアキト。

真っ赤になってアキトに身を任せているルリカ。

それを見て、完全に頭に来たルリ。

昔の自分そっくりの少女を抱きしめるアキト。

ただでさえエリナのことで腹が立っているのに、そんなものを見せられたら冷静でいられる訳がない。

アキトの方にズンズン近付いていくルリ。

 

「アキトさん!そう言う事だったんですか、ホントにロリコンだったんですね!」

 

「は?」

 

ルリが何のことを言っているのかわからない。

心なしかクルーの視線も冷たいのを感じるアキト。

 

「ロリコン・・・誰が?」

 

ポケッとしているアキト。

ルリカを指さしながらルリが怒鳴る。

 

「この子は何なんですか!・・・いくら何でも昔の私そっくりなんて!」

 

その言葉にぽんと手を叩くアキト。

 

「ああ、その事」

 

1人納得しているアキト。

だが、その行為にますます腹が立つルリ。

 

「何1人で納得しているんですか、アキトさん!言いたいことがあるのなら今だけ聞きますから言ってください!」

 

「い、今だけ?」

 

物凄い剣幕でまくし立てるルリ。

それも当然だろう。

もし自分の好きな人が、自分は放って置いてそばに昔の自分そっくりの女の子を置いていたら。

怒りたくもなるだろう。

 

「アキトさん・・・最低です」

 

「アキト君、もうルリルリに近付かないで」

 

メグミとミナトにまでそんな事を言われるアキト。

 

「アキト・・・ホントにロリコンだったんだ。だから私のこと構ってくれないんだ」

 

呆然と呟くユリカ。

そしてブリッジ要員みんなでアキトをスケープゴートにする。

余談だが特にがんばっているのはアオイ・ジュン。

 

「おいおい」

 

呆れるアキト。

ロリコンロリコン言われて何となく腹が立つ。

そして、ついにアキトの顔から感情が消えた。

ルリカとラピスから離れ、数歩進み出る。

殺気がみなぎる。

まるで部屋の温度が下がったようだ。

寒気を感じる。

 

「いい加減にしろ、お前ら」

 

低く抑えた声に皆黙り込む。

 

「ア、アキトさん?」

 

余りの殺気に震えながら聞くルリ。

ゴク・・・。

誰かが唾を飲み込むのがわかる。

その時。

 

「・・・くく・・・」

 

アキトの口から笑いが漏れる。

一瞬にして霧散する殺気。

あまりのことに呆然とするクルー。

 

「はは、冗談だよ。何ビビッているんだい、みんな?」

 

そう言って、お返しとばかりににっこり笑うアキト。

その笑顔が魅力的すぎるので、逆に始末が悪い。

ハッキリ言って冗談になっていない。

それほど強烈な殺気だった。

やはり・・・アキトはどこかおかしい。

 

「アキトさん!」

 

ルリが涙を浮かべながら怒鳴る。

アキトが昔に逆戻りしたと思ったのだ。

だがアキトは笑顔に戻っている。

 

「アキトさん・・・冗談でもあんな事しないでください」

 

そう言ってポロポロ涙をこぼすルリ。

そんなルリを見てほんの少しだけ自分の行動を悔やむアキト。

ほんの少しだけだが・・・。

アキトはルリをそっと抱きしめる。

 

「ごめん、ルリちゃん・・・もうしないから」

 

「いいです・・・でももう嫌なんです。アキトさんが変わってしまうのは」

 

アキトの背中に手を回すルリ。

 

「ルリちゃん・・・」

 

その時アキトの腕の中にいたルリがいきなり顔を上げる。

その目が・・・。

 

(ヤバイ!)

 

内心のアキトの叫び。

もちろん顔には出さない。

ルリの両腕が締まる。

罠にはまったアキト。

 

「でも・・・それとこの件は別です」

 

「な、なに?」

 

冷や汗が流れるアキト。

 

「あの子の事と、それにあのエリナさんって人との事もです」

 

ルリがそう言った時アキトの後ろから近付いて来たラピスとルリカがアキトにしがみつく。

 

「ずるい・・・ルリばっか」

 

「そうです。ずるいです」

 

そんなセリフがまたもや事態を泥沼化させる。

ルリはゆっくりとアキトを離すとルリカに向き直る。

 

「何か用ですか?」

 

ルリの危険な視線を受けながらも何とか口を開くルリカ。

 

「あなた、本当に誰ですか?」

 

「私はルリカです。先日までお父さんと一緒に住んでました」

 

「さっきも言ってましたね。どうしてアキトさんがお父さんなんですか?それに・・・一緒に住んでいたってどういう事ですか?」

 

ポッ!

ルリのセリフに、恥ずかしそうに頬を赤く染めるルリカ。

ピキッ!

再びブリッジの空気が凍り付く。

そしてそのすぐ後に、騒然となるブリッジ。

様々な憶測が飛び交う。

そんな時、エリナがアキトの後ろに立つ。

まず右腕に、ラピスが笑顔でしがみつく。

ぴくっ!

次に、左からアキトの腰に抱き付くルリカ。

頬が赤く染まっていてとても可愛らしい。

ぴくぴく!

ルリの表情が険しくなる。

そしてトドメとばかりに後ろからアキトの首に手を回すエリナ。

挑発的な笑みを浮かべてルリを見る。

そしてエリナ、ラピス、ルリカの3人が声を揃えて言う。

 

「アキト君はあなただけのものじゃないのよ」

 

「アキトはルリだけのものじゃない」

 

「お父さんはルリさんだけのものじゃありません」

 

ブチ!

何かが・・・キレた。

顔から血の気の引いていくアキト。

珍しく、狼狽している。

恐る恐るルリに目を向けると・・・。

 

「説明・・・してもらえるんですよね。ア・キ・ト・さん」

 

顔は笑っているが、目がマジだ。

アキトは目を瞑り胸のロザリオに触れる。

 

(アヤカちゃん、もう駄目だ・・・俺は逃げたいよ)

 

アキトには少女が苦笑いしているように思えた。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

エリナ、ルリカ、ラピスの3人衆がナデシコに来ました。

ルリとエリナは早くも衝突しています。

アキトもいろいろ大変ですが、まあ主人公はこんなものでしょう。

感想等、是非ともください・・・お願いします。

返事は必ず書きますので・・・。

それでは、また次回でお会いしましょう。

 



艦長からのあれこれ

はい、艦長です。

天罰てきめ〜ん!(笑)
いやあ、女性の敵にささやかな一撃、といったところですか(爆)

アキト君、女性をおろそかに(そういう意識はないんだろーが)扱うと、あとで酷い目に遭うよ?
・・・今でも十分報いは受けてるか(笑)

なんと言いますか、微笑ましい陰謀でした(笑)


さあ、ささばりさんにメールを出すんだ!


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