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妖精の守護者  第24話

 

 

 

 

 

「え、あ、あの。今日は・・・その、それじゃあアキトさんお休みなさい!」

 

そう言って逃げるように部屋から出て行くルリ。

そんな彼女の余りの素早さにしばし唖然とするアキト。

だがすぐにクスッと笑う。

 

「ごめんねルリちゃん、先日のお返しだよ」

 

そう言って頬の引っ掻き傷を撫でる。

そしてシャワーを浴びるためにバスルームに消えていった。

一方ルリは・・・。

結局一晩中ドキドキしていて眠れなかったらしい。

次の日眠そうに目を擦っているルリがあちらこちらで目撃されたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の守護者

第24話「お姫様と王子様」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お迎えに上がりました、姫」

 

そう言ってルリに恭しく頭を下げる男。

ピースランドからの使者。

白鳥九十九と別れた後地球に戻ってきたナデシコ。

そこで永世中立国ピースランドからの使者を迎え入れた。

使者はルリに対して姫と言ったのだ。

 

「「姫ー!」」

 

いきなりの事に驚きながらルリを見るプロスとユリカ。

だが、肝心のルリはその使者に言葉を返すことが出来なかった。

何故ならアキトがルリの髪の先を指に絡めて遊んでいるからだ。

どうしたら良いのかわからず、されるがままになっているルリ。

頬を赤らめている。

 

「とりあえずここでは何ですので・・・こちらに」

 

そう言って使者を応接室に案内するプロス。

その後に続くルリとアキト、そしてユリカ。

アキトは何が面白いのか、上機嫌でルリの髪をいじっている。

このときルリは気付いていなかった。

ピースランドで、大変な陰謀が待ちかまえていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピースランド。

国全体が一大レジャーランドとなっている国。

一年を通してたくさんの観光客で賑わっている。

その昔、そこの国王は長い間子宝に恵まれなかったそうだ。

そして、体外受精という手段によって子をなそうとした。

だが病院側はなぜかはわからないが、多くの受精卵を紛失するという失態を犯したのだ。

真相は分かっていない。

だだ、その中の1つルリだったことは間違いない。

国王は長年自分の子供の行方を探していたらしいのだ。

そして、ついにナデシコに乗っているルリが、自分の子供だとつきとめたのだ。

国王に会って欲しいと涙ながらに訴える使者。

ルリもその涙に負けてとりあえず会うことだけは了承した。

そこで、それまでひたすらルリの髪をいじっていたアキトが初めて口を挟む。

 

「俺も行く」

 

ただ一言。

その言葉に、使者はつまらない物を見るかの様にアキトを一瞥した。

が、やがてそれを許可した。

所は変わり、格納庫。

 

「何かあったらラピスとルリカに頼め。俺からは言っておいた・・・それじゃあ頼むぞ」

 

ブラックサレナに乗る前にプロスに言うアキト。

その言葉に頷いているプロス。

不思議そうな顔をしているユリカ。

そのうちにルリを乗せたブラックサレナが発進した。

それを見送るプロスとユリカ。

 

「ねえプロスさん、アキトの『頼むぞ』ってなんの事?」

 

頭の上に『?』が付いているユリカ。

そんな彼女の方を向くプロスペクター。

その視線は、いつもより鋭い。

 

「今になってやってきたピースランド・・・怪しいと思いませんか?それにピースランドにあるピース銀行もかなり危険な状態らしいですし。噂では中立国という隠れ蓑に、かなりの軍事力を隠し持っているとも言われています。さらにはそれが不穏な動きを見せている。そんな今、ルリさんに何の用なのか、テンカワさんが心配なさるのも無理ありません。だからこそ彼自身が付いていくんですよ・・・そして我々もできる限り注意しておく」

 

そう言ってクイッと眼鏡をあげるプロス。

 

「そっか、さすがアキト。それじゃあラピスちゃんとルリカちゃんって言うのは?」

 

「あの子達もルリさんの様にナデシコを動かせるのですよ。ルリさんの居ないとき何かあったらあの子達にオペレーターを頼むことになります」

 

「へー、あんなにちっちゃいのに凄いんですね」

 

感心しているユリカ。

 

「さあユリカさん、これから忙しくなりますよ」

 

そう言って歩き出すプロス。

すでに彼はピースランドについてかなりの情報を得ていた。

それだけでもかなり危険なのだ。

 

(テンカワさん、ルリさん・・・ご無事で)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピースランド、王城。

かなり時代錯誤な城がでかでかと建っている。

その城の謁見の間にルリと共に通されたアキト。

長く敷かれた絨毯。

その両脇を固める衛兵。

かなりの数である。

そんななか、殺気も感じるアキト。

目を瞑る。

 

(狙撃手・・・おかしな真似をしたらいつでも殺せるか・・・やはり何かあるな)

 

「アキトさん」

 

ルリに声をかけられて目を開けるアキト。

かなり広い部屋だ。

横にはドレスを着たルリがいる。

アキトは用意された漆黒のタキシードを着て、サングラスをしている。

 

「ああ、ルリちゃんよく似合ってる。可愛いよ」

 

そう言ってサングラスを外すと、にっこり笑うアキト。

その顔を見て真っ赤になるルリ。

 

「あ、あの。アキトさんも格好良いです」

 

「フッ、ありがとうルリちゃん」

 

そして再びサングラスをかけると、正面を見る。

その時正面の玉座に座っている男が立ち上がった。

 

「おー、ルリと申したな。我が娘よ、よくぞ生きていてくれた」

 

そう言ってルリに駆け寄るとその手を握りしめ涙を流すむさ苦しい男。

 

「貴方が・・・父?」

 

そう言ったルリを引っ張っていく国王。

その後を黙ってついていくアキト。

 

「さあ、これがお前の母だ。そしてこっちがお前の弟たち」

 

母親はまあまともである。

年の割には若く、そして美しいと言える。

内心アキトのつけた点数は76点。

失礼ながらかなりの高得点である。

だが問題は弟。

同じ顔が6つ並んでいる。

不気味である。

さすがのアキトもその光景に呆れている。

ルリに頻りに話しかける国王。

弟たちもルリに話しかけている。

6人が同じ事を、同じ声で、しかも同時に。

その時、ルリがポソッと呟いた。

それを聞き取ったのはアキトだけ。

 

「・・・ここじゃない・・・」

 

その声はどこか寂しそうだった。

だが今は黙っているアキト。

その言葉を聞いた以上、今すぐルリを連れて帰っても良いのだが・・・。

相手の出方がわからない。

自分一人ではないので迂闊には動かないアキト。

 

「おおルリ、ずっとここにいても良いんだぞ。それにお前にふさわしい結婚相手も決めてある」

 

国王のその言葉に、一瞬表情が動くアキト。

だが、サングラスをしているので誰もその事には気付かなかった。

 

(・・・結婚ねぇ・・・ルリちゃんをどこかに売るつもりか・・・)

 

ピースランドの財政難を乗り切るために、どこかの資産家、ないし他国の王子などに嫁がせる。

よくある話だが、実際は身売りと同じである。

アキトはこの時、国王の思惑を驚くほど正確に見抜いていた。

 

「とりあえず観光でもしてきて今日はゆっくり休むが良い。話はまた明日だ」

 

ルリの手を握りながら言う国王。

 

「・・・わかりました」

 

そう言って謁見の間から出て行こうとするルリ。

その後に黙ってついていくアキト。

 

「ああ、テンカワ殿には少しお話が」

 

国王がアキトに声をかける。

振り返るアキト。

 

「なにか?」

 

アキトはそう言ったが国王はルリを気にして話そうとはしない。

それに気付きルリは先に謁見の間を出て行く。

それを確認し、国王は口を開く。

その口調は、人を支配することに・・・いや、見下すことに慣れている者の口調だった。

 

「単刀直入に言おう。今後一切ルリに近付くな」

 

そう言ってアキトを睨み付ける国王。

国王の言葉に面白そうに笑うアキト。

 

「なぜだ?」

 

言葉を返すアキト。

 

「貴様に話す必要はない。もし約束するなら好きなだけ金をやろう」

 

その言葉を聞いてククッと笑うアキト。

 

「面白い。まるっきり悪役のセリフだな」

 

そう言って国王を馬鹿にしてからアキトは言い放った。

 

「あいつは俺のものだ」

 

かなり傲慢な言いぐさだが、そのセリフをルリが聞いていたらどんなに喜んだことか。

顔色を変えた国王をおいて、さっさと謁見の間を出て行くアキト。

その後ろ姿が消えた後、国王が人を呼ぶ。

 

「・・・」

 

国王が小声で何か言うと、その男はすぐにそこを出て行った。

そして国王は口元を歪める。

 

「フフフ、全てが私のシナリオ通りに進んでおる。フフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずい」

 

いきなりそう言うルリ。

その言葉にピクッとするシェフ。

 

「ああ・・・まずい」

 

味は感じないのにそう言うアキト。

明らかにルリに合わせている。

 

「何だと嬢ちゃん!」

 

怒っているシェフを無視してルリが言葉を続ける。

 

「香辛料の使いすぎ、質も最悪。名前が売れたと言うだけでこんな酷い物を出すなんてシェフの腕も知れてますね」

 

そんなルリのセリフに周りの客も料理を食べなくなる。

アキトは何時にもまして毒舌なルリに少しだけ驚いていた。

だがルリの言葉にシェフの怒りは頂点に達していた。

 

「俺様の料理にケチつけやがって!このガキ!」

 

そう言ってルリの胸ぐらを掴もうとする。

だがその手をアキトに捕まれる。

ギリギリ。

アキトの右腕が、シェフの腕を握りしめる。

悲鳴を上げるシェフ。

店の雰囲気が変わる。

何故か肌寒さを感じる。

アキトの発している殺気が辺りを覆い尽くす。

 

「ルリちゃんに手を出すな・・・殺すよ?」

 

そう言って腕を離すと壮絶な笑みを浮かべる。

ルリからは見えない。

だからこそその笑みをする。

ルリには見せられない。

シェフは腕を押さえながら、壊れたロボットのようにカクカクと頷いている。

 

「さ、行こうルリちゃん。お詫びにお金はいらないって」

 

勝手なことを言ってルリの肩に手をまわし、さっさと店を出ていくアキト。

皆唖然としていた。

それはあまりにも素早い動きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし・・・あの味はやばかったな」

 

「はい、この世の物とは思えません」

 

噴水に2人並んで腰掛けている。

もう日は落ちていて、月が出ている。

辺りには妙に密着しているカップルの姿もチラホラと見える。

 

「・・・アキトさん・・・」

 

「なんだ」

 

「やはり・・・ここは私の居場所ではありません」

 

そう言って空を見上げるルリ。

その瞳は何を思うのか・・・。

 

「いいのか?」

 

サングラスを外してルリの横顔を見つめるアキト。

その視線を感じたのかルリもアキトを見つめる。

心なしか、その瞳が潤んでいる。

 

「はい、私にとってアキトさんに逢う前の事など価値のない物です」

 

少し寂しそうなルリの口調。

彼女は感じてしまったのだ。

血の繋がる実の親との、埋めることの出来ない深い溝を。

 

「・・・」

 

ルリの言葉を黙って聞いているアキト。

 

「それよりもナデシコでみんな・・・そして何よりアキトさんとずっと一緒にいたいです」

 

そう言ってアキトの肩に頭を乗せるルリ。

まるで疲れた心を休めるかのように・・・。

そんなルリにアキトが声をかける。

 

「・・・大丈夫・・・ずっと一緒に居るから・・・」

 

ズキッ!

アキトの心が痛む。

 

(俺は・・・どうしてルリちゃんを悲しませることばかり・・・)

 

内心毒づいているアキト。

この嘘がいずれルリを傷付けることを、誰よりも理解しているはずなのに・・・。

 

「本当ですか・・・」

 

アキトを見つめるルリ。

だがアキトは彼女に視線を合わせることが出来ない。

 

「・・・ああ・・・」

 

そう言ってから、まるで誤魔化すかのようにルリの肩を抱くアキト。

そんな行為に、ルリは真っ赤になってしまう。

彼女は幸せだった。

何故なら人は、騙されているという事に気付くまでは幸せなのだから・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城に戻ったアキトとルリは夕食を食べ、しばらく2人で話している。

ルリは風呂にも入りさすがに眠そうにあくびをする。

ルリに寝ることをすすめるアキト。

同じ部屋に泊まるわけには行かず、別々の部屋に泊まることになった。

ルリを部屋の前まで送ると、アキトは自分に用意された部屋の前まで来た。

 

「そろそろ潮時か・・・」

 

そう言いながら中に入る。

無駄に広い部屋。

微かな月明かりが部屋の中を照らす。

何が面白いのか、口元に笑みを浮かべるアキト。

 

「・・・出てこいよ・・・」

 

静かに言うアキト。

すると部屋の柱の影などから兵士が出てくる。

自動小銃を構えてアキトを包囲する。

 

「で、俺に何の用だ?」

 

辺りを見回すでもなく言うアキト。

それに、1人の兵士が答える。

 

「国王様よりの命令だ。お前には死んでもらう」

 

「・・・ほう、何故?・・・」

 

「ははは、馬鹿な奴だな。いまさら国王様があんな小娘を王家にむかいいれるとでも思ったか?あの子は売られたんだよ。そうすればその金でこの国は立ち直る。たかが小娘でも姫ともなれば大金で売れるらしいな。今頃あのお方もあの小娘でお楽しみなんじゃないか?もしかしたら国王様も参加するのかも知れないな」

 

そう言って笑い出す兵士達。

その数、10人。

だがアキトにとっては大した数ではない。

だから全く怯まないアキト。

 

(スコープ無し、たったの10人・・・舐められたものだな)

 

段々可笑しくなってくるアキト。

獲物が、自ら狩られにやって来た。

こんなに滑稽なことはない。

 

「フフ、お前ら最高だよ。ホントにこっちの想像通りに動いてくれる」

 

そう言ってアキトの顔つきが変わる。

雰囲気も変わる。

 

「な、なんだ。どうなって・・・」

 

ゴキ!

言葉の途中でいきなり首をへし折られる兵士。

他の兵士達も余りのスピードの何が起きているのかわからない。

 

「フフフ、1つ」

 

闇にアキトの声だけが響く。

姿の見えない敵に冷静な判断が出来ない兵士達。

彼らのこなしてきた過酷な訓練すらも、無駄に思えてくる。

 

「ど、どこだ!奴は何処に行った!」

 

辺りを見回しながら叫ぶ兵士。

だが、死神は彼の背後にいた。

ゴキ!

首を折られ、ゆっくり倒れていく兵士の腰からコンバットナイフを抜き取るアキト。

 

「2つ・・・弱いな」

 

「う、撃・・・」

 

言いきる前に首を切り裂かれる兵士。

血しぶきを上げながら倒れる。

ドシャ!

自らの作った血の海に沈む兵士。

部屋に充満する血の臭い。

それが、さらに兵士達を精神的に追い詰めていく。

 

「ど、どこだ!」

 

辺りを見回す。

仲間の兵士がいるのが辛うじてわかる。

明かりのついていない部屋。

タキシードを着ているアキトは完全に闇に溶け込む。

 

「お、おい!何人やられた!」

 

そう言って辺りを見回す兵士。

次の瞬間、その口がふさがれる。

耳元で囁く声。

それは、逃れられない死神の誘惑。

 

「お前で四人目だ・・・クックックッ」

 

とても可笑しそうなアキトの笑い声。

ドン!

首筋にナイフを突き立てる。

一瞬兵士の身体が跳ねるのを面白そうに見ているアキト。

その金色の瞳に宿るのは、狂気。

兵士の首からゆっくりとナイフを引き抜くアキト。

 

「さて・・・遊びは終わりにしようか」

 

アキトの握っているナイフからは、兵士の血が滴り落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ルリは、窮地に立たされていた。

 

「何ですか、あなた達」

 

そう言って男を睨み付けるルリ。

ベッドから降りたルリの前に小太りの男が立っている。

その横には国王。

 

「ほほほ、なかなか威勢の良い娘だな。高い金出して買っただけの事はある。これなら楽しめそうだ」

 

「お気に召しましたかな?」

 

「ほほほ、気に入ったよ。援助の件任せておきなさい」

 

そう言ってニヤニヤしてルリを見ている2人。

 

「どういうことですか!」

 

そう言ったルリを見てニヤリとする国王。

 

「お前は売られたのだよ、このお方に。せいぜい親孝行しておくれ」

 

その言葉に小太りの男が一歩進み出る。

後ずさるルリ。

 

「近付かないで!」

 

「ほほほ、大人しくては面白くないからね」

 

「お前はこのお方のモノになるのだ。今頃あのテンカワという男もあの世に行っている。ナデシコの方も我らの私設軍隊の奇襲にあって沈んでいる頃だろう」

 

国王のその言葉を聞いてルリが口を開く。

 

「あなた馬鹿?中立国が私設軍隊でナデシコを攻撃するなんて、どうなると思っているんですか?それに、ナデシコに勝てるとでも思っているんですか」

 

ムッとするルリの言葉に応えたのは小太りの男。

 

「ほほほ、オペレーターの乗っていないナデシコなど、鉄クズ同然。それに・・・沈めてしまえばどうとでもなるしね」

 

また一歩近付く小太りの男。

窓際まで後退するルリ。

コミュニケを作動させてアキトに助けを求める。

 

「アキトさん!アキトさん!」

 

だが聞こえてくるのは雑音だけ。

 

「ふふ、すでに死んでいるのではないか」

 

国王が嘲笑うかのように言う。

それに激怒するルリ。

 

「そんな事無い!アキトさんは必ず助けに来てくれます!それにナデシコだって!」

 

「ほほほ、無駄だよ。そんな事言ってないで私に任せなさい。すぐに気持ち良くしてあげるよ」

 

小太りの男の言葉を聞いて窓際から部屋の隅に逃げるルリ。

そんなルリをニヤニヤしながら見ている2人。

ゆっくりと近付いていく小太りの男。

 

「さあお嬢ちゃん。怖くないからね」

 

そう言ってルリに手を伸ばす。

咄嗟にしゃがみ込むルリ。

その時・・・。

ガシャーン!

窓ガラスを破って何者かが飛び込んできた。

月明かりにそのシルエットが浮かび上がる。

闇を纏いし王子。

テンカワ・アキト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び散る窓ガラスと共に飛び込んでくるアキト。

その右手には、黒光りするハンドガンが握られていた。

その銃口が、ルリを襲おうとしている小太りの男に向く。

躊躇せずにトリガーを引き絞るアキト。

ドン!

問答無用で頭を吹き飛ばされる小太りの男。

そのまま吹き飛び暗闇に消える。

ルリには幸いだった。

しゃがみ込んでいたのでそのシーンを見ずに済んだ。

 

「ヒイ!」

 

悲鳴を上げて尻餅をつく国王。

失禁している。

国王には目もくれずにルリのもとに行き、抱きかかえると窓から出てバルコニーから身を躍らせるアキト。

 

「アキトさん!」

 

両腕で力一杯アキトに抱き付くルリ。

そんな彼女に優しく声をかけるアキト。

 

「お待たせ、お姫様」

 

ルリを抱えたままブラックサレナのコックピットに飛び込むアキト。

アキトは部屋を出た後ブラックサレナを確保し、ボソンジャンプでルリのいる部屋の前まで行ったのだ。

 

「さて、ナデシコを呼ぶかな」

 

そう呟くアキト。

アキトに文字通りお姫様抱っこされているルリ。

その腕の中で真っ赤になっている。

 

「でも、コミュニケが・・・たぶんジャミングがしてあります」

 

「俺に任せて」

 

そう言って目を瞑るアキト。

そんなアキトの顔を不思議そうに見るルリ。

 

(・・・ラピス・・・ラピス・・・ラピス!)

 

(アキト!)

 

アキトの頭の中にラピスの声が聞こえてくる。

とても嬉しそうな声。

 

(そっちはどうだ?)

 

(片づいた・・・今すぐアキトに逢いに行くから!)

 

元気一杯なラピスの声に内心微笑むアキト。

 

(わかった)

 

そして目を開ける。

 

「行くぞ。ナデシコもこちらに向かっているようだ」

 

そしてブラックサレナは宙高く舞い上がった。

それと同時に敵の機動兵器部隊が出撃し、行く手を阻む。

ルリが同乗しているため、全力でブラックサレナを操ることが出来ないアキト。

たが、それでも充分だった。

敵は、アキトと戦うには余りにも弱すぎた。

ブラックサレナのカノン砲で次々敵を撃ち落としていく。

15機ほど落としたときレーダーがナデシコを捉える。

 

『アキトさん、無事だったんですね』

 

画面一杯に広がるメグミの顔。

それを見てアキトが微笑む。

 

「ああ、そちらも大丈夫だったようだな」

 

『はい、多少の抵抗はありましたが特に被害もなかったです。ラピスちゃん達のおかげです』

 

何故か少し頬を赤くしながら答えるメグミ。

恐らくはアキトの腕の中にいるルリを見て、怪しい妄想をしているのだろう。

 

「よし、じゃあハッチを開けてくれ」

 

『はい』

 

そして通信を切るアキト。

ナデシコはすぐそこにいた。

着艦体制に入るアキト。

ふと腕の中のルリを見る。

アキトに助けられて安心したのか、可愛らしい寝息を立てている。

 

「・・・可愛い寝顔だな・・・」

 

そう言ってルリの髪を梳くアキト。

安心しきった寝顔。

シャンプーの香りのする髪。

 

「・・・俺の大切な・・・ルリ・・・」

 

一瞬何かを迷うアキト。

胸のロザリオを握る。

 

「・・・俺はいつまで君の側にいれるんだろう。こんな壊れた身体で・・・」

 

寂しそうに呟くアキト。

彼の心が痛む。

 

「・・・ううん・・・」

 

そう言ってアキトの腕の中でモソモソ動くルリ。

だが起きる気配はない。

 

「ルリちゃん・・・俺だけのお姫様・・・」

 

そう言ってルリのおでこにキスをするアキト。

ルリは起きない。

アキトは言葉を続ける。

彼の想いを伝えるかのように。

 

「・・・どんな事があっても君を護るよ・・・この命が続く限り・・・」

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回はいかがでしたでしょうか。

ピースランド国王には悪者になっていただきました。

ルリに嘘をつくアキト。

嘘をついて本当に傷付くのはアキトなのに・・・。

嘘だと気付くまではルリも幸せでしょう。

本当の幸せとは言えませんが・・・。

感想などお待ちしてますので、よろしくお願いします。

それでは、次回をお楽しみに。

 



艦長からのあれこれ

はい、艦長です。

むう、シリアスだ。
どこかに絶対”オチ”を入れてしまう私とはえらい違いだ(笑)

優しい嘘、厳しい真実。
現実が過酷だからこそ、人は嘘をつく。
そうしないと耐えられないから。


さあ、ささばりさんにメールを出すんだ!


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