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妖精の守護者  第25話

 

 

 

 

 

「・・・俺の大切な・・・ルリ・・・」

 

一瞬何かを迷うアキト。

胸のロザリオを握る。

 

「・・・俺はいつまで君の側にいれるんだろう。こんな壊れた身体で・・・」

 

寂しそうに呟くアキト。

彼の心が痛む。

 

「・・・ううん・・・」

 

そう言ってアキトの腕の中でモソモソ動くルリ。

だが起きる気配はない。

 

「ルリちゃん・・・俺だけのお姫様・・・」

 

そう言ってルリのおでこにキスをするアキト。

ルリは起きない。

アキトは言葉を続ける。

彼の想いを伝えるかのように。

 

「・・・どんな事があっても君を護るよ・・・この命が続く限り・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の守護者

第25話「罪と罰」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最悪だ」

 

いきなり呟くアキト。

ここはアキトの個室。

目を覚ました時から全く身体が動かない。

 

「フフ、結構怖いもんだな。こういうのは・・・」

 

このまま目を閉じたら死んでしまう。

そんな恐怖にとらわれるアキト。

 

「まあ、今日でよかったのかもな」

 

昨日の夜はルリカがお泊まりに来ていた。

一晩中アキトに抱き付いて離れなかったルリカを思い出すアキト。

 

「こんなの・・・あの娘には見せられないからな・・・」

 

どこか辛そうに呟くアキト。

オモイカネに頼んで、艦内の様子を見せてもらう。

なにやら慌ただしい。

 

「一番星・・・なんだ?」

 

なにやらコンテストが開催される様だ。

だが今の状態ではどうする事もできない。

時間が流れるのをただ待つのみ。

 

「・・・寝るか・・・」

 

そう言ってもう一度寝るために瞳を閉じる。

 

「目を・・・覚ませるんだろうか?」

 

そう言ってアキトはゆっくりと夢の世界に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けたたましく鳴る警報。

その音に目を覚ますアキト。

 

「警報・・・敵か?」

 

そう言って体を起こそうとする。

だが。

 

「ク、まだ駄目なのか・・・どうして」

 

どうすることも出来ずにベッドの上に転がっている。

その時ウィンドウが開きルリの顔が現れる。

こちらからの画像は切ってある。

だからこちらの状況はわからないはずだ。

 

『アキトさん、敵襲です。直ちにブラックサレナに乗って出撃してください』

 

だがアキトは動けない。

身体の感覚がない。

 

「ごめん、ルリちゃん。体調が悪いみたいだ」

 

そんなアキトの声にルリが心配そうに声をかける。

 

『え!・・・大丈夫ですか?』

 

「ああ、だが少しだけ休ませてもらうよ」

 

そう言って勝手に通信を切るアキト。

そしてすぐ別のところに通信する。

相手が通信に出る。

イネス・フレサンジュ。

 

『どうしたの、アキト君』

 

「すまん、すぐに来てくれ・・・皆には内緒で・・・」

 

『どうしたって言うの?』

 

「・・・身体が動かない・・・」

 

そう言ったアキトに、目に見えるほど顔色を変えるイネス。

 

『!!!・・・すぐに行くわ!』

 

そう言って通信が切れる。

そこでホッと息を吐く。

目を瞑る。

アキトを見守っている少女の心配そうな顔が浮かぶ。

 

「大丈夫だよアヤカちゃん・・・俺はまだ死なないよ」

 

沈黙が部屋を包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん、どうしたのかな?」

 

1人廊下を歩いているルリカ。

今日はまだ一度もアキトに会っていない。

毎朝アキトの顔を見ないと一日が始まった気がしないルリカ。

アキトの部屋にお泊まりしたときは良いが、それ以外の日は何となく寂しい。

 

「お父さんの部屋に・・・ずっと居たいな・・・」

 

ポッ!

自分で言って赤くなるルリカ。

彼女は今、アキトの部屋に向かっている。

 

「あれ・・・イネスさん?」

 

正面からイネスが走ってくる。

そして1つの部屋に飛び込んでいく。

そこは・・・。

 

「お父さんの部屋に・・・何でイネスさんが」

 

何となく嫉妬してしまうルリカ。

アキトにもプライベートはあるはずなのに・・・。

それがわかっているはずなのに、穏やかではいられない。

5分ほどアキトの部屋の前を行ったり来たりするルリカ。

何かを決心したのかゆっくりとドアに耳を近づける。

中の様子を窺うが、声が漏れるはずが無い。

プシュ!

ドアがスライドして中からイネスが出てくる。

 

「ルリカちゃん・・・何してるの?」

 

「・・・お父さんに会いに来たんです・・・イネスさんこそお父さんに何のようですか?」

 

何となく、目が怖いルリカ。

最近ルリと一緒に生活しているので、外見以外もルリに似てきているようだ。

 

「ちょっとね・・・ほら、そんな所にいないで入ってきなさい」

 

そういってルリカを招き入れるイネス。

頷き中に入るルリカ。

そこで見た物は・・・。

ベッドに寝ているアキトだった。

 

「お父さん!」

 

そう言ってベッドに駆け寄るルリカ。

ゆっくりとルリカの方を向き微笑むアキト。

 

「どうしたんだ、ルリカ」

 

だが全くベッドから起きる気配がない。

 

「お父さん、具合が悪いのですか」

 

心配のあまり涙を浮かべているルリカ。

 

「大丈夫だよ」

 

そう言ってルリカに笑顔を浮かべるアキト。

だが、それはいつもの魅力的な笑顔ではなかった。

 

「大丈夫に見えません!どういう事ですかイネスさん!」

 

イネスを睨むルリカ。

イネスが何かした・・・とでも思ったのだろうか。

 

「・・・わからないわ。ただ、このまま立ち上がれない事も・・・」

 

そう言って顔を背けるイネス。

その言葉を聞いてイネスに詰め寄るルリカ。

 

「どう言う事ですか・・・お父さんが立ち上がれないっていうのは!」

 

ルリカの言葉に意外そうな顔をするイネス。

 

「あなた、知らないの?」

 

「何がですか?」

 

そう言うルリカを見るイネス。

が、すぐに納得した様にアキトの方を向く。

 

「呆れた・・・あなたルリカちゃんに何も言ってないの?」

 

その言葉にルリカがピクッとする。

 

「言ってないって・・・何なんですかお父さん!」

 

そう言ってアキトの方を見るルリか。

だが、肝心のアキトは幸せそうな顔をして・・・。

 

「・・・すぴょぴょぴょ・・・」

 

寝ている。

 

「狸寝入りしないでください!」

 

その声にパッと目を開けるアキト。

 

「お父さん」

 

少し泣きそうな顔をしているルリカ。

隠し事をされていたことか悲しいのだろう。

胸が痛くなるアキト。

 

「お父さん・・・お願いです・・・」

 

「わかった・・・」

 

ルリカの哀願についに折れるアキト。

ゆっくりと、自分のことを語り出した。

アキトは自分で言いながら苦笑いをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントに良かったの?」

 

アキトの寝ているベッドにゆっくりと腰をかけるイネス。

その手でアキトの真っ白な髪を優しく撫でる。

 

「・・・また嘘を付いてしまったな」

 

悲しそうに言うアキト。

 

「あの子・・・あなたの言う事を全く疑わないのね・・・昔交通事故にあった時の後遺症・・・ずいぶん怪しい言い訳なのにね」

 

アキトはまた嘘をついたのだ。

昔あった交通事故で身体が上手く動かないことがあると。

普通なら多少は疑ったりするものである。

だがルリカは、疑うどころか、完全に信じてしまったのだ。

大好きなアキトが嘘をついているなどとは考えつかなかったのだろうか。

もっとも、大好きなアキトの笑顔と共に言われたら、疑う余裕すらないだろうが・・・。

 

「あなた・・・良いお父さんね。そして悪いお父さん・・・」

 

「俺の罪・・・それは多くの人を殺した事じゃない。あの子達を騙していることだ」

 

そう言って自嘲気味に笑うアキト。

イネスにはその笑顔が痛々しく見える。

 

「救いがたい、大馬鹿者だ・・・」

 

そう吐き捨てるアキト。

そんなアキトを慰めるように、彼の頭を撫でるイネス。

アキトも目を閉じて、しばしこの優しい時間を楽しむ。

 

「とりあえずあなたの事は風邪って事にしておくわ。お見舞いは私が追い払って上げる」

 

そう言って笑顔を浮かべるイネス。

ルリカには、皆に知られたくないから風邪ということにして置いてくれと。

そして、本当のことは誰にも、ルリ達にも言っては駄目だと言い聞かせておいた。

彼女なら、きっと誰にも言わないだろう。

 

「ありがとう、イネスさん」

 

アキトはそう笑顔で答えた。

それを見て、イネスはベッドから立ち上がると部屋を出て行く。

後ろでアキトの部屋のドアが閉まる。

 

「・・・」

 

しばらく黙ってその場で立ち止まっているイネス。

その顔に浮かんでいたのは哀れみ。

そのままドアに寄りかかると天井を見上げて呟く。

 

「罪・・・ね。でもアキト君・・・あなたはどうやってその罪を償うつもりなの?」

 

イネスは、アキトがその答えを知っているとは到底思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インド洋。

ナデシコのおよそ100キロ先で戦闘がされている。

今回は後方支援なので直接戦闘はしていないナデシコ。

 

「な〜んか暇・・・アキトはお休みだし・・・」

 

艦長ミスマルユリカが言う。

確かに暇である。

皆ゲームをやったり雑誌を読んだりしている。

 

「暇で良かったじゃないの。アキト君が風邪で休んでる今エステバリス隊の戦力は半減。敵なんて来て欲しくないわね」

 

エリナはそう言うと溜息をつく。

アキトを追っかけて来たは良いがどうもナデシコのノリについていけないようだ。

しかもこのナデシコに乗ってからまだ数回しかアキトに抱いてもらってない。

アキトが自分1人で満足するとは思っていないエリナ。

それでも寂しいし、悔しい。

 

「風邪・・・早く治らないかな?」

 

ルリカと対戦ゲームをやっているラピスが言った。

ちなみにラピスが右、ルリカが左を使っている。

 

「うん・・・早く元気になって欲しいです」

 

寂しそうに呟くルリカ。

結局アキトは風邪と言う事で処理された。

見舞いに行こうとするクルーもいたがイネスの完璧なブロックの前に退散していった。

これは余談だが、この時想像以上の数の女性クルーがアキトの部屋に来たのでルリ達は何となく落ち着かなかったという。

アキトが風邪を引いてから、ナデシコ艦内は何となく沈んでいた。

皆がわかっているのだ。

今やアキトはこのナデシコに必要な、大切な存在だという事を。

 

「後部格納庫でボース粒子反応異常増大中」

 

いきなりルリが報告する。

次の瞬間。

ドーン!

衝撃に倒れるクルー達。

 

「なに?」

 

そう言って辺りを見回すミナト。

 

「前線から入電。ジャンプアウトしてきた敵大型戦艦が本艦に向けて急速接近中だそうです」

 

そのメグミの声に、ルリの声が重なる。

 

「今度はYユニット先端にボース粒子反応増大」

 

ドーン!

再び衝撃が艦を揺らす。

 

「被害状況は?」

 

ユリカの声にルリは淡々と答える。

 

「後部格納庫、Yユニット第3ブロック全壊。ただ爆発の割に被害が小さいようです」

 

その時ウリバタケの顔がウィンドウに表示される。

 

『ふ、ディストーションブロックが無けりゃあ今頃大変な事になっていたぜ』

 

そう言って威張っているウリバタケ。

だが誰も相手にしない。

ユリカが少し考えてから、命令を下す。

 

「宇宙に逃げます。相転移エンジンフルパワー」

 

「戦わないの?」

 

ミナトが復唱せずにユリカに聞く。

ユリカは当然のごとく言う。

 

「はい!敵の攻撃方法がわからない以上、戦っても勝てません」

 

「本艦ブリッジ直下にボース粒子の反応増大」

 

「急速上昇!一気に宇宙に出ます」

 

急加速で上昇していくナデシコ。

一瞬遅れて、かつてナデシコのあった場所で爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハッ、敵の艦長め臆したか!いきなり逃げ出すとは」

 

そう言って勝ち誇っている男、高杉三郎太。

腕章に「副官」と書いてある。

だが三郎太を諫めるように言う男が居た。

腕章に「艦長」と書いてある。

秋山源八郎。

 

「いや・・・違うな。三郎太、もし本気でそう思っているのなら・・・お前は奴に負けるぞ」

 

鋭い視線を三郎太に向ける源八郎。

 

「な、艦長!なぜですか、相手はいきなり逃げ出すような奴ですよ!」

 

源八郎の言葉に三郎太は納得がいかなかった。

自分が急に逃げ出すような臆病者に負けると言われたのだ。

誇り高い木連の軍人としては我慢ならないことだろう。

だが、源八郎は静かに三郎太を諫める。

 

「逃げる?奴らは様子を見ているだけだ。我らの跳躍砲をたったの2回喰らっただけで。その判断の速さはさすがだな。あれが・・・あのナデシコか」

 

「では奴らは何か策が?」

 

そこで腕組みする源八郎。

何かを考え込む。

 

「・・・わからん。だがあれはナデシコだ、一筋縄ではいかん。そして奴が出てくると厄介だ」

 

そう言う源八郎。

その言葉にハッとなる三郎太。

 

「奴とは・・・まさか!」

 

「月面で月臣少佐のダイマジンを倒したあの黒い奴・・・」

 

「黒い王子・・・死神ですか?」

 

「ああ」

 

「厄介な・・・艦長、デンジンの整備を急がせます」

 

そう言ってブリッジを出て行く三郎太。

目を瞑り考え込む源八郎。

 

「・・・ナデシコ・・・黒い奴・・・か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が出よう」

 

ブリッジに入ってきたアキトがいきなり言う。

その声にハッとするナデシコクルー。

 

「お父さん!」

 

そう言ってアキトに駆け寄るルリカ。

 

「大丈夫なんですか!」

 

「ああ、もう平気だ。心配かけたねルリカ」

 

そう言ってルリカの頭を撫でる。

 

「・・・ホントです・・・」

 

少し頬を赤く染めるルリカ。

拗ねたような表情が可愛らしい。

 

「ごめん。みんなもすまなかった」

 

そう言って笑うアキト。

その笑顔にアカツキとガイが親指を立てて答える。

 

「それでアキト、一体どうするつもりなの」

 

そう聞くユリカの方にゆっくりと向き直るアキト。

自然とその後ろにルリカとラピスが立つ。

ラピスが右、ルリカが左である。

 

「エステバリス隊での接近戦。これしかない」

 

「でもそんな事したら途中であのボソン砲にやられちゃうよ」

 

アキトらしくない意見だと思っているユリカ。

だが、ボソンジャンプについて一番知っているのはアキトである。

 

「大丈夫だ。ボソンジャンプは諸刃の剣。ボース粒子が発生してから物体が出現するまでにどうしてもブランクが出来る。動いている機動兵器相手に使える兵器じゃない」

 

その事を聞いて先程のことを思い出すナデシコクルー。

ナデシコですらボソン砲を避けた。

その程度の兵器がエステバリスに当たるはずが無い。

だが、それでもほんの少し不安なクルー達。

 

「本当に大丈夫なのかい?もっと作戦を・・・」

 

アカツキが皆の気持ちを代弁して訊く。

 

「小細工は必要ない」

 

「そうは言うけどね、テンカワ君。僕たちは君程強くないよ?」

 

そう言っておどけてみせるアカツキ。

だがそんなアカツキに笑うアキト。

 

「ふ、お前らならやれるさ。皆悪くない腕だ」

 

「へ、そこまで言われちゃしょうがね〜な」

 

そう言って皆の顔を見回すリョーコ。

ヒカル、イズミ、ガイ、アカツキはそれに頷く。

 

「でもアキトはどうするの?アキトもみんなと一緒に行くの?」

 

「俺は俺で考えがある」

 

そう言ってにっこり笑うアキト。

そこにあるのは自信。

その笑顔に皆が勇気づけられる。

アキトの笑顔1つで皆の士気が上がる。

 

「それじゃあ作戦実行は30分後。直ちに持ち場についてください」

 

ユリカの号令でみな持ち場に着く。

ルリカとラピスはルリの補佐。

そしてアキトはブラックサレナに向かう。

体は動くようになった。

原因はわからない。

だが身体が動く以上戦う。

それが自分に出来ることだから。

胸のロザリオが光る。

アキトの顔に知らず知らずの内に爽やかな笑みが浮かぶ。

 

「さあ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、そう来たか・・・やるな!」

 

いきなりの事で何が何だかわからない高杉三郎太。

モニターを見る秋山源八郎。

そこには時空歪曲場に取り付いている敵機の姿が映し出される。

 

「まさかいきなり接近戦とは・・・深読みしすぎた・・・さすがナデシコだ」

 

だが、源八郎とて並の男ではない。

 

「跳躍砲準備だ、敵戦艦の動きは止まっているぞ!」

 

あわてることなく指示を出す源八郎。

ナデシコは機動兵器にエネルギーを供給する関係上、一定距離以上エステバリス隊から離れることが出来なかった。

源八郎は、この状況下でも冷静にそれを見抜いたのだ。

 

「時空歪曲場、まだ保ちます!」

 

オペレーターの1人の報告を聞くと三郎太が源八郎の横に来る。

 

「艦長」

 

「何だ、三郎太?」

 

「敵機動兵器の数は5機、その中に黒い奴はいないそうです」

 

その言葉に腕を組んで何かを考える源八郎。

 

「ふむ、どこかに隠れているのか?・・・それとも・・・」

 

「じ、時空歪曲場内に異変!」

 

「何!」

 

「何者かが跳躍してきます!」

 

源八郎もさすがに驚いた。

すぐさま部屋を出てデンジンに向かう三郎太。

 

「こ、これは・・・黒い王子だ!!・・・死神が来た!!」

 

取り乱す部下。

だが、それを叱咤する源八郎は冷静だった。

 

「落ち着け!直ちに虫型兵器を出すのだ!」

 

「間に合いません!」

 

その報告と同時に光をまき散らしながら跳躍してくる黒い機体。

ブラックサレナ、高機動形態。

 

「馬鹿な・・・地球側も生体跳躍を・・・そんな報告はどこからも受けておらんぞ・・・」

 

呆然と呟く源八郎。

 

「敵機動兵器に重力波反応!これは・・・重力波砲です!」

 

「回避ー!」

 

「直撃来ます!」

 

ドーン!

物凄い衝撃によろける源八郎。

 

「跳躍砲全壊!使用不可能です」

 

その報告を聞き愕然となる源八郎。

たったの一撃。

その一撃で跳躍砲が使えなくなったのだ。

 

「黒い奴・・・これ程とは・・・」

 

「副長がデンジンで出撃しました」

 

その報告と同時に三郎太の顔がモニターに映し出される。

何故か学生服を来ている。

 

『艦長、黒い奴は私が止めて見せます!』

 

そう言って敵と艦の間に割り込む。

他の敵には虫型戦闘機が向かっている。

源八郎は三郎太に賭けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。木連はホントにゲキガンガーが好きだな」

 

そう言いながらブラックサレナを通常形態に戻すアキト。

すでに敵のディストーションフィールドは破っている。

敵艦から出撃した無人兵器とエステバリス隊が、激しい戦いを繰り広げている。

アキトは正面から来る敵ゲキガンタイプから目を離さない。

だがチョロチョロと出てくる無人兵器もカノン砲で撃ち落としていく。

それだけの余裕が、彼にはあった。

ブラックサレナの正面で敵ゲキガンタイプが停止する。

 

『お前の相手は俺だ!』

 

そう言って通信が入る。

 

「まったく・・・邪魔だ」

 

そう言って左腕で通信ウィンドウを払うアキト。

ブラックサレナのバーニアが火を噴く。

通常ならパイロットが耐えられないほどの急加速をする。

コックピットの中、アキトの顔が微かに歪む。

ブラックサレナの腕にはソードが握られている。

 

『な、速・・・』

 

「お前が遅いんだ」

 

まさに一瞬。

敵ゲキガンタイプの胴体を斜めに切り裂くブラックサレナ。

しばらくして爆発する。

 

「・・・逃げたか。ふむ、さすが優人部隊といったところか」

 

どうやら勝敗は決したようだ。

敵戦艦が撤退していく。

その様を眺めているアキト。

そしてブラックサレナの周りにエステバリス隊が集まって来る。

 

「良い引き際だ。・・・よほど優秀な指揮官がのって・・・!!!!」

 

急に言葉を切るアキト。

右腕が、痙攣している。

動かそうとするが動かない。

 

「クソッ!・・・いい加減にしろ!!」

 

そう言いながら力を込めると、今度は簡単に動く。

先程動かなかったのが嘘かの様に・・・。

右腕を握ったり開いたりしているアキト。

ホッと一息つく。

そして、自嘲気味な笑みと共に言葉を吐き出す。

寂しそうな声で。

 

「・・・罪を犯した、それ故の罰か・・・」

 

そんなアキトの呟きは誰にも聞こえなかった。

そしてそのころナデシコでは敵指揮官の通信文をもらったユリカが暴れていた。

その暴れっぷりはまさに快男児だったという。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

今回はいかがでしたでしょうか。

嘘つきアキトもいろいろ大変です。

特に身体の問題は深刻なようですし。

どうなる事やら・・・。

感想等お待ちしています。

是非ともくださいませ。

それでは、次回をお楽しみに。

 



艦長からのあれこれ

はい、艦長です。

体の自由が利かないって大変だよね。
私は五体満足だけど、たまに風邪ひいて体がだるくなると気分までだるくなります。

・・・関係ないか(笑)


さあ、アキトのこれからが読みたかったらささばりさんにメールを出すんだ!


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