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妖精の守護者  第28話

 

 

 

 

 

「それよりごめんなさい、なんだかあたしが無理矢理付き合わせてしまったみたいで」

 

そう言って頭を下げるユキナ。

そんな彼女に笑顔で答えるイツキ。

 

「いいえ、ユキナさん。私は白鳥少佐直属のパイロットです。少佐の妹さんをお守りするのは当然の事です」

 

「ありがとう、イツキさん」

 

そう言って通信を切るユキナ。

敵艦ナデシコまではまだ距離がある。

それまで一眠りできるだろう。

ゆっくりと目をつぶるユキナ。

 

「ナデシコ・・・地球人・・・お兄ちゃんは渡さないんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の守護者

第28話「襲撃」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー、これがナデシコかぁ・・・なんか雰囲気違う・・・」

 

ユリカやジュンなどに連れられて廊下を歩いているユキナ。

やや緊張していて、それを無理矢理ほぐすかのように軽口を叩く。

どんなに強がっていてもまだ中学生の少女。

そして、その横で辺りに油断なく気を配っているイツキ。

 

「そんなに警戒しないでください。少しは我々を信用して貰いたいものですなあ」

 

そう言ってクイッと眼鏡を上げるプロス。

 

「信用・・・したいのですが。ただ私たちが過去、地球からされたことを考えますと」

 

油断なくプロスに視線を向ける。

 

「ふむ・・・そうですな」

 

眼鏡の奥の目をスウッと細めるプロス。

だが、そこにいきなりユリカの大声が響く。

 

「イツキさんもそんなに緊張しないで!みんなでお友達になろうよ!!」

 

そう言ったユリカはニコニコしている。

そんな彼女をビックリしてみているイツキ。

いきなりの大声に驚いたようだ。

 

「ユリカ、遊びじゃないんだぞ」

 

ジュンがユリカを窘める。

だが、そんな言葉をユリカが聞くはずもない。

鼻歌を歌うユリカに注目してみるイツキ。

どう見てもこの艦は戦艦のように見えない。

雰囲気が脳天気すぎる。

それに、艦長以下乗組員の身のこなしが素人過ぎるとイツキは思う。

訓練を受けた軍人のようには見えないのだ。

ただ1人、プロスペクターという男を除いては。

だからこそイツキは何か罠があるかもと思い、油断なく辺りに気をつけているのだ。

しばらく歩いただろうか。

ふいにイツキが口を開く。

 

「そう言えば・・・あの黒い機動兵器のパイロットは居られますか?」

 

「黒い機動兵器・・・ブラックサレナのこと?」

 

そう言うユリカに肯くイツキ。

 

「ブラックサレナ・・・と言うのですか。我々木連の間であれほど恐れられている敵はいません」

 

そう言って身震いするイツキ。

映像で見たブラックサレナの戦闘力。

その桁外れの能力に彼女は恐怖していた。

 

「そんなに?」

 

ブラックサレナが強いとは思っているユリカ。

だが、もともと鈍い彼女はアキトの戦闘力に恐怖を感じていない。

だからイツキに「恐れられている」と聞いてもピンとこない。

 

「はい、戦闘でまずあの黒い兵器がいるかどうか確認する艦もあるくらいです。通称『黒い王子』。単に『死神』と呼ぶ人もいます」

 

「黒い王子・・・」

 

そう言いながらなぜか赤くなるユリカ。

そんなユリカを不思議そうに見るイツキ。

 

「あの・・・」

 

「ああ!な、なんでもないのよ。アキトはユリカの王子様・・・なんて考えてないから・・・あは、あははは」

 

ごまかし笑いをしているユリカ。

そんなユリカを見てため息をつくジュン。

 

「あははは・・・あ、ところでユキナちゃん。白鳥さんの妹って事はアキトのこと知ってる?」

 

その言葉に緊張している表情を少し和らげるユキナ。

 

「うん、知ってる。早く逢いたいな・・・アキト・・・」

 

そう言って遠い目をするユキナに何となく腹が立つユリカ。

プウッと膨れている。

中学生に嫉妬しているユリカを見て、呆れてものも言えないジュン。

 

「白鳥少佐からテンカワさんの事はよく聞いておりました。わずか2年で木連式柔の免許皆伝にまでなった天才と・・・」

 

ユキナの言葉に続き、イツキがなぜか切なそうにため息を付きながら言う。

 

「木連式柔?」

 

ジュンが質問する。

それに答えるのはユキナ。

 

「木連に伝わる武道。木連式柔、そのほかにも木連式抜刀術などがあるの。アキトは木連式柔の免許皆伝になったの。免許皆伝になれる人は木連でも数えるほどしか居ないのに・・・」

 

そう言って何かを思い出すユキナ。

その顔がだらしなく緩む。

 

「えへ、えへへへ」

 

思い出し笑いをしているユキナにちょっと引きつつも、質問するユリカ。

 

「え〜と・・・じゃあ抜刀術って方は?」

 

その言葉に途端に不機嫌になるユキナ。

ユリカは何か気に障ることを言ったのかと思ったが、そうではなかった。

 

「・・・老師が認めてくれなかったんだって。アキトの心の闇を見抜いたってお兄ちゃんは言ってたけど・・・あの人はきっと見る目ないのよ!だってアキトの心を見抜けるんなら!!」

 

そう言って言葉を切ると、寂しそうな顔をするユキナ。

 

「・・・見抜けるんならそんな事言わないはずだもん・・・」

 

ユキナは、アキトを悪く言う人が嫌いだった。

彼の心の奥にある本当の優しさを知らないくせにと・・・。

その話を聞きながらブリッジに入っていくユリカたち。

 

「えっと・・・じゃあエステでも強いアキトは・・・生身でももっと強いって言うこと?」

 

ユリカはアキトの生身での戦闘を見たことはない。

あくまでブラックサレナでの強さのみを知っている。

そんなユリカの疑問に肯くプロス。

その時。

 

「あら艦長、その子誰?」

 

ブリッジの下の方にヒカルたちといたミナトが声をかける。

 

「あ、ミナトさん。この子白鳥さんの妹らしいですよ」

 

ユリカがそう言ったとき、一体どこに隠し持っていたのかいきなりユキナが銃を抜いた。

 

「ハルカミナト、覚悟〜!」

 

「え、ええ〜!」

 

いきなりの事で何がなんだかわからないミナト。

が、いつの間にかユキナの隣に立っていたプロスが銃を取り上げる。

 

「おいたはいけませんよ、白鳥さん」

 

不敵に笑うプロスペクター。

 

「ちょっと、返しなさいよ。このヒゲ眼鏡!」

 

そう言ってプロスから銃を取り返そうとするユキナ。

だがイツキに羽交い締めにされてしまう。

 

「ユキナさん、落ち着いてください。何があったんですか!」

 

イツキに羽交い締めにされてさすがに大人しくなるユキナ。

だが、その口は黙らない。

 

「この女が、お兄ちゃんをたぶらかしたの!ユキナのお兄ちゃんの心を奪ったのよ!」

 

そう言ってミナトを睨み付けるユキナ。

 

「え、え・・・わたし?」

 

辺りを見回してから、自分のことを指差すミナト。

イツキの戒めを解くと階段を下りてミナトに詰め寄るユキナ。

 

「そうよ!お兄ちゃんたぶらかしてスパイでもするつもりだったんでしょ!」

 

最初は驚いたが、今は平静さを取り戻しているミナト。

フフッと笑う。

 

「あら、そんなことしないわよ」

 

「うそよ!」

 

そう言ってミナトに掴みかかるユキナ。

 

「ちょ、ちょっと・・・え?」

 

その時ミナトはある事に気付いた。

とっさに動けたのはまさに幸運だったと言えるだろう。

いや、ミナトにとっては不運だったのかもしれない。

ユキナの背後から微かに光がこぼれる。

 

「ブリッジ内にボース粒子の増大反応!」

 

「危ない!」

 

ルリの報告と同時にユキナに覆い被さるミナト。

刹那、今までユキナの立っていた空間を薙ぐ一条の光。

飛び散る鮮血。

ブリッジ内に溢れる光り。

何者かがジャンプアウトしてきたのだ。

その数、3つ。

 

「いっ・・・いやー!」

 

ユキナの悲鳴がブリッジに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前。

テンカワ・アキトの私室。

ゆっくりと体を起こすアキト。

隣には幸せそうに眠っているエリナがいる。

 

「ふっ・・・可愛い寝顔だ・・・」

 

そう言ってベッドから立ち上がりシャワールームに行くアキト。

頭から冷水のシャワーを浴びる。

 

「・・・」

 

壁に手をつきながらシャワーを浴びるアキト。

最近頭痛を感じないアキト。

いや、感じることすらできない。

たまに身体が動かなくなる。

段々その間隔が短くなっていくような気がしている。

壁から右腕を離し、握ったり開いたりしている。

今は、ちゃんと動く。

 

「・・・時間がない・・・このままじゃいずれ・・・」

 

シャワーからあがると軽く体を拭き着替えるアキト。

いつもの漆黒の戦闘服。

銃一丁とナイフ一本を装備する。

サングラスをかけ、自らの表情を隠す。

最後にロザリオを首からかける。

そして、そのロザリオを軽く握り目を瞑る。

黙って何かを考えているアキト。

そして、しばらくして微笑む。

 

「さて、行こうか・・・」

 

そう言ってベッドの方に目を向ける。

まだエリナは寝ている。

 

「・・・良い夢でも見ているのか・・・」

 

そこでため息を付く。

 

「夢・・・か」

 

アキトにとっては、夢など見たくないものだった。

何故なら彼は悪夢しか見ないからだ。

しばらくエリナの寝顔を見てから、しっかりとした足取りで部屋を出ていく。

アキトが向かっているのはブリッジ。

木連からの和平の使者が、アキトに会いたいと言っているらしい。

別に会ってやる義理はないが、寝ていてもつまらないのでアキトは会いに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと廊下を歩くアキト。

その正面からルリカが歩いてくる。

アキトの姿を見つけると小走りに駆けてくる。

 

「おはよう、ルリカ」

 

そう言って笑顔で少女を迎えるアキト。

 

「おはようって・・・もうお昼ですよ、お父さん」

 

呆れながら言うルリカに苦笑いするアキト。

確かに、もうすぐ昼御飯の時間である。

 

「よし、じゃあ食堂に行くかい?」

 

そう言ってニッコリ笑うアキト。

 

「・・・はい」

 

少し赤くなりながら答えるルリカ。

そのままゆっくり歩き出すアキトの手を握るルリカ。

 

「ラピスは?」

 

「イネスさんの所です。ナノマシンの定期検診だそうです」

 

しばらく歩いていく。

ルリカとのお喋りを楽しむアキト。

その時・・・。

ピクッ!

何かを感じ足を止めるアキト。

そんなアキトを不思議そうに見ているルリカ。

アキトは何かを探るかのように目を瞑っている。

 

「まずいな・・・」

 

そう言って目を開けるアキト。

 

「え?」

 

アキトの呟きが理解できないルリカ。

 

「どうしたんですか?」

 

アキトを見上げるルリカ。

そんなルリカに微笑みながら声をかけるアキト。

 

「ルリカ・・・悪いけど俺は用を思いだしたから・・・1人で食堂に行ってくれ」

 

アキトがそういうと泣きそうな顔をするルリカ。

そんな彼女に申し訳なさそうに言うアキト。

 

「ゴメンな・・・夕食は一緒に食べよう・・・ね?」

 

アキトの言葉にすぐに笑顔になるルリカ。

 

「・・・はい、きっとですよ・・・」

 

そういってルリカは素直に食堂に向かう。

そして角を曲がったのを確認すると、再びブリッジへと足を向けるアキト。

その間にオモイカネを呼び出すアキト。

状況確認する。

急がねばならない、そんな状況。

そしてそこに映る少女を見るアキト。

白鳥ユキナを。

自然と口元に笑みが浮かんでくる。

しばらく歩いただろうか。

通路自体かなり広くなっている場所で、アキトは不意に足を止めた。

オモイカネウィンドウを消し、1人佇む。

するとアキトを囲むようにして、4つの人影がジャンプアウトしてくる。

皆、編み笠を被っている。

 

「北辰の手のものか」

 

ゆっくりと口を開くアキト。

 

「「「「いかにも」」」」

 

「で、俺に何のようだ」

 

「「「「死んで貰う」」」」

 

「出来るかな?」

 

そう言ってニヤリと笑うアキト。

刀の柄を握りながら、ゆっくりとアキトとの間合いを詰めていく男たち。

それに対し、軽く腰を落として構えるアキト。

暗殺者たちは誰1人として、アキトの取った構えを見たことがなかった。

木連式抜刀術ではない。

 

「「「「滅」」」」

 

暗殺者たちがアキトに殺到する。

次の瞬間。

切り裂かれたアキトのサングラスが宙を舞う。

ほんのわずかに体を反らしただけで敵の斬撃をかわしたアキト。

アキトの心が微かに弾む。

さらに殺到する男達の攻撃を簡単にかわすアキト。

 

「ふふ・・・どうした?」

 

嘲笑うアキト。

彼は心地よい高揚感に包まれていた。

だが、今は遊んでいる時ではない。

ユキナが危ないのだ。

 

「・・・行くか・・・」

 

そっと呟くアキト。

ゆっくりと、心の中に闇が広がっていく。

師の言葉が頭に浮かぶ。

 

(闇を、支配せよ)

 

そして、その男は獣になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グフッ!」

 

アキトのサングラスを切り飛ばした男が、アキトの掌底を受けて吹き飛ぶ。

即座に間合いを詰めるアキト。

 

「・・・フッ・・・」

 

アキトの口元に笑みが浮かぶ。

刹那、抜き払ったナイフが一閃し、男の喉元を切り裂く。

血が噴き出すより早く身を翻し、返り血を浴びないアキト。

他の男達はその動きをハッキリ見る事すら出来なかった。

アキトの動き、それは人を超えていた。

何が起こったのかわからず一瞬我を忘れる編み笠の男達。

それが、彼らの命取りとなる。

 

「・・・弱いな・・・」

 

その声に、やっと我を取り戻す男達。

だが・・・。

 

「おのれ!」

 

不幸な男はそう言うのがやっとだった。

彼は一瞬アキトの手元が光るのを見た。

そして、それが彼の見た最後の光景だった。

次の瞬間男の眉間には、アキトの投擲したナイフが刺さっていた。

だが、誰も・・・仲間ですらその男には構わない。

他人に構うほどの精神的余裕が、彼らにはすでになかった。

なぜならアキトはナイフを投げた直後、別の編み笠の男に向かっていたからだ。

残り2人。

 

「あまり時間がない・・・消えろ」

 

そう言って強烈な突きを繰り出すアキト。

それを辛うじてかわす男。

アキトの突きで、編み笠が飛ぶ。

 

「おのれ、テンカワ・アキト!!」

 

別の男がアキトの横から斬りかかる。

アキトはそちらを見ない。

だが、まるでその斬撃が見えていたかの様に、流れるような動きでかわすアキト。

 

「・・・遅い・・・」

 

声は男の右から聞こえてきた。

だが、死の衝撃は男の背後から襲いかかった。

ドン!

一瞬にして男の背後に回り込んだアキトが、両掌で敵の背中を打ったのだ。

その衝撃で吹き飛び、床に倒れる男。

そして男は、その口から大量に血を吐き絶命した。

アキトの強烈な一撃は、簡単に男の命を奪い取っていた。

それは、まさしく死神の業だった。

ゆっくりと両腕を戻し、最後に残った獲物を見るアキト。

そして・・・。

 

「クックックッ・・・お前で最後だな・・・」

 

ニヤリ。

いやらしく口元を歪めるアキト。

それを見た残りの男は、正気を保てなかった。

 

「ヒッ・・・ヒイ!!!!!!!」

 

一瞬にして骸と化した仲間。

目の前にいる圧倒的な力を持った死神。

そして、その顔に浮かぶ快楽の笑顔。

それを目の当たりして正気を保てる方がおかしい。

ゆっくりと男に近付いて行きながら、銃を取り出すアキト。

その時一瞬、足を止め顔をしかめるアキト。

 

「クッ・・・クソ・・・」

 

銃を握る右腕が微かに痙攣している。

だが、男は気付かなかった。

 

「ヒャ・・・ヒャハ・・・ヒャハハハハハハハハ!!」

 

失禁しながら笑っている男。

すでに、精神はこの世から旅立った様だった。

アキトが足を止めたのは一瞬で、再び男に歩み寄る。

そして、男に銃を向ける。

その情景は、異常としか言いようがなかった。

銃を向けられている男が、狂ったかの様に笑っている。

黙って男を見ている白髪の青年の顔にもまた笑顔。

 

「ヒィッヒッヒッ・・・ヒヒ・・・ヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

 

もはや壊れた男をニヤニヤしながら見ているアキト。

辺りには男の笑いが木霊している。

そして・・・。

ズドン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジに血の華が咲く。

ユキナを庇ったミナトの流す血で辺りには血の臭いが充満していた。

瞬時に換気が施される。

この時、ユキナの悲鳴を聞いてとっさに動いたのはイツキだった。

ユリカたちと共に艦長席の側にいた彼女は、そこから飛び降りると一気にユキナたちの元まで行き、ジャンプアウトしてきた人影に向けて突きを放つ。

それを後方まで飛んでかわす敵。

 

「くっ・・・何者ですか!名を名乗りなさい!」

 

そう言ったイツキの後ろでユキナが悲鳴を上げている。

ユキナに覆い被さりながら倒れているミナト。

背中を肩の辺りから切り裂かれている。

流れる鮮血。

 

「誰か・・・誰かこの人を助けてよ!」

 

泣きながら叫ぶユキナ。

 

「ミナトさん!」

 

ルリも悲鳴に近い叫びをあげる。

すぐさま駆け寄るプロスが傷を見る。

 

「ねえ、大丈夫なの?」

 

ポロポロと涙をこぼしながら言うユキナに、眼鏡をあげながらプロスが言う。

 

「・・・今のところは、ただ出血が酷いので早く手当をした方がいいですな」

 

プロスの顔は真剣そのもの。

それだけでもミナトの傷の深さがうかがえる。

 

「そんなぁ!」

 

そう言ったユキナを無視してメグミを見るプロス。

 

「メグミさん、応急手当をしますので手伝ってください!」

 

「は、はい!!」

 

プロスの緊迫した声に急いでミナトに駆け寄るメグミ。

そしてプロスは意識を編み笠の男達に向ける。

数は3つ。

かなり分が悪い。

敵は恐らくかなりの使い手。

それに引き替えナデシコクルーは接近戦闘の素人。

プロスの頭がいつも以上に回転する。

この状態をいかに乗り切るかを考えるために。

その時。

 

「ふふふ、女、余計な真似を。まあ良い」

 

そう言っていやらしく笑う編み笠の男。

 

「何者です!!」

 

再び問うイツキ。

それにゆっくりと答える男。

 

「我らは火星の後継者の影・・・人にして人の道を外れたる外道・・・」

 

そう言った男をルリが睨み付けている。

その視線に気付き、視線をルリに向ける男。

 

「今回の用は汝にではない・・・」

 

そう言ってユキナの方に目を向ける男。

その口が紡ぎ出す言葉は、少女に対する死刑の宣告だった。

 

「我が名は北辰。白鳥ユキナ、汝の命を頂きに来た」

 

その言葉を聞き、油断なく構えるイツキ。

その構えを見てあざ笑う北辰。

 

「その程度の腕で我に刃向かうか」

 

ユキナを逃がす隙など全くない。

なら、イツキにはユキナをこの場で護ることしかできない。

 

「くっ・・・皆さんユキナさんをお願いします!それに、早く手当てを!」

 

北辰からのプレッシャーに何とか耐えながら言うイツキ。

 

「気丈なこと・・・だが足が震えておるわ」

 

そう言うと、北辰の後ろに立っている男達が笑い出す。

この時ブリッジにいた誰もが動けなかった。

たとえ戦闘の素人であっても、敵の強さはわかったのだろう。

あのガイですら、一言も発することが出来なかった。

笑いが消え、ほんの10秒ほど沈黙が流れる。

そして、動く。

 

「烈風!」

 

「おう!」

 

北辰の声と共に、彼の後ろに控えていた男がイツキに襲いかかる。

 

「は、速い!!」

 

初撃を辛うじてかわすイツキ。

だが、完全に体勢が崩れる。

それを見逃す烈風ではない。

 

「弱い!」

 

次々と攻撃を繰り出す烈風。

何とかかわしていくが、ついには男の掌底を受けて壁に叩きつけられるイツキ。

 

「クゥ・・・」

 

辛うじて倒れるのを堪えるイツキ。

だが、それを見てゆっくりと刀を抜く烈風。

 

「死ねぇ!」

 

恐るべき速さでイツキに迫る烈風。

立っているのがやっとのイツキはただそれを見ているだけ。

彼女に訪れるのは死。

それを回避する術は、今の彼女にはない。

 

(殺られる!)

 

イツキが死を覚悟したその時。

一陣の風が吹いた。

バキ!

横から飛び出した男の一撃を顔面に受けて吹き飛ぶ烈風。

そのまま壁際まで吹き飛ばされ、動かなくなる。

ナデシコクルーたちは何が起こったのかわからなかった。

イツキを庇うように立つ男。

その男の名は・・・プロスペクター。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

ユキナがナデシコに来ました。

まだアキトとは逢っていませんが・・・。

北辰も懲りずにまた出てきました。

そして、プロスさんを使う時が来ました。

個人的に好きなキャラなので次回活躍させます。

さて、今回のお話はどうでしたか?

感想等お待ちしていますので是非くださいませ。

それでは、次回をお楽しみに。

 



艦長からのあれこれ

はい、艦長です。

ここで質問。
あなたは何のためらいもなく人を殺せますか?

イエスと答えた人は病院へ行きましょう(笑)

つまり、日常的な感覚で言えばアキトも病気です。
それも重症。
さて、そんなアキトの心を誰が優しく癒してあげるんでしょう?

ささばりさんにメールを出すんだ!(爆)


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