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妖精の守護者  第38話

 

 

 

 

 

「フッ・・・人間は思ったより頑丈だな・・・。そうだろヤマサキ?」

 

だが、骸は何も答えない。

ただの肉塊と化したヤマサキを冷たく見下ろすアキト。

しばらくそうしていたが、やがてゆっくりとブラックサレナのコックピットに戻る。

そしてすぐに、そのカノン砲で研究所内を破壊していくアキト。

最後にヤマサキの死体に照準を合わせる。

ドン!

床ごと消え去るヤマサキ。

すでに崩れ始めている研究所。

アキトのブラックサレナが次第に光り出す。

 

「・・・後は・・・北辰だけだ」

 

アキトが呟いた次の瞬間、ブラックサレナは消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精の守護者

第38話「決戦」

BY ささばり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙空間、戦艦ユーチャリス。

プライベートルームにアキトと3人の妖精達がいる。

本来はアキトが戻り次第、火星に向かい戦線に参加する予定だったユーチャリス。

だが、アキトは戻ってくるなりシャワーを浴び、シャワールームを出ると倒れるように眠ってしまったのだ。

そのためユーチャリスは、未だ宇宙空間を漂っている。

 

「アキトさん・・・」

 

泥のように眠るアキトに膝枕をしているルリが、ポツリと呟く。

そのルリの横で、団扇でゆっくりとアキトのことを扇いでいるルリカ。

そして、何故かアキトに寄り添うようにして一緒に眠っているラピス。

 

「お父さん・・・よほど疲れていたんですね」

 

「そうですね・・・」

 

そう言ってルリは、愛おしそうにアキトの髪をなでる。

とても美しい、白い髪。

だが、ルリは知っていた。

先程までその雪のように白い髪が、返り血で赤く染まっていたことを。

ルリの表情がほんのわずかだけだが曇るのを見て口を開くルリカ。

 

「ルリさん」

 

「何ですか?」

 

「後、1人ですね」

 

ルリカのその言葉に、驚いたような表情を見せるルリ。

だが、すぐに気を取り直していつものような優しい表情に戻る。

 

「・・・知っていたのですか?」

 

「はい。伊達にお父さんと繋がっているわけじゃありませんから」

 

そういって微笑むルリカ。

その笑顔を見つめるルリ。

 

「それに、さっきお父さんの声が聞こえました。『後は、北辰だけだ』って・・・」

 

「そう・・・ですか」

 

そういって再びアキトに視線を戻すルリ。

ルリカも黙ってアキトを見つめる。

ころん。

ラピスが寝返りをうつ。

 

「ルリカ・・・ラピスに何かかけてあげてください」

 

ルリのその言葉に、備え付けの棚からタオルケットを取り出すとラピスにかけるルリカ。

ラピスは幸せそうにアキトの横に転がっている。

そのだらしない寝姿ですら、愛らしく感じてしまう。

そんな、不思議な妖精。

 

「・・・この子も気付いているのですか?」

 

ルリの問いかけに、ゆっくりと頷く。

 

「ラピスは、私以上にお父さんの心を感じ取っています。お父さんが隠そうとしていることも、ラピスは以前から知っていたようですし・・・」

 

「隠そうとしていること?」

 

「・・・人殺しを、楽しんでいることです・・・」

 

ルリを睨み付けるように言うルリカ。

そして、その視線を正面から受け止めるルリ。

 

「驚かないんですね、ルリさん」

 

そう言ったルリカに、優しい微笑みを返すルリ。

その微笑みはまるで、全てを悟りきった聖女のようだった。

そんなルリを、羨ましく思うルリカ。

ルリは動揺する様子もなく、ただ優しい微笑みを浮かべている。

最愛の人の狂気を知ってなお・・・。

ルリカはもし自分がルリの立場だったら、こんなに落ち着いていられるだろうかと思う。

 

(・・・きっと、私には無理・・・)

 

ほんの少しだけルリカは悔しく思った。

 

「う〜ん」

 

ころん。

再び、ラピスが寝返りをうつ。

そんな彼女を見て、ルリカがゆっくりと口を開く。

 

「・・・ラピスが・・・ラピスがお父さんの前であんなに明るいのは、自分と居ることによってお父さんに楽しんで欲しいからなんです」

 

ルリは、黙って聞いている。

優しい微笑みを浮かべたまま、ルリカを見つめている。

ルリカは、言葉を続ける。

 

「人を殺すことより楽しいことがある。自分と居ることによって、復讐や人を殺すことなど忘れて欲しい。そう思っているんです」

 

「ラピスが・・・そんなことを・・・」

 

「もっとも、根が子供っぽいって事もあるでしょうし、お父さんと一緒にいて一番楽しいのはラピスでしょうから・・・」

 

「ふふっ、そうですね」

 

そうして2人で微笑むルリとルリカ。

ラピスが聞いたら頬を膨らませて怒りそうなことを平気で言っている2人。

ころん。

三度寝返りをうつラピス。

 

「・・・う〜ん・・・パパァ・・・」

 

ぎゅっ。

アキトにしがみつくラピス。

そんなラピスを見て、クスッと笑うルリ。

ルリカは、何となく羨ましそうにラピスを見ている。

それに気付くルリ。

 

「2人とも、本当にアキトさんが大好きなんですね」

 

ルリが、ルリカを見つめながら言う。

 

「え?」

 

「・・・いいんですよ。あなたも寝てください。ちゃんと起こしてあげますから」

 

そういって、にっこり笑うルリ。

誰よりも尊敬する姉の笑顔に、思わず見とれてしまうルリカ。

 

「さあ、ここにどうぞ」

 

ニコニコしながらアキトの横にクッションを置き、ぽんぽんとクッションを叩くルリ。

ルリの笑顔に逆らいがたいものを感じ、大人しく横になりクッションに頭をのせるルリカ。

 

「お休みなさい、ルリカ」

 

優しい、聞いているととても安心するルリの声。

ゆっくりと、目を閉じるルリカ。

 

「おやすみなさい・・・ルリさん・・・」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラピス、ルリカ・・・」

 

ルリは、アキトの左右から抱き付くようにして眠っている2人の少女を見る。

この2人が、アキトの命を支えていると言っても過言ではない。

 

「アキトさん・・・」

 

自分の膝の上で寝息を立てている青年を見つめる。

青年の髪は雪のように白く、照明の光をうけて神々しく輝いている。

 

「後・・・1人ですね・・・」

 

そういって、愛おしそうにアキトの髪を指で梳くルリ。

 

「そうしたら・・・本当の意味で、私達の元に返ってきてくれるんですよね・・・」

 

アキトを見つめるルリの瞳には、悲しみの色がある。

アキトが狂気の世界から抜け出せない事を、ルリはルリカに言われるまでもなく知っていた。

いかに復讐とはいえ、人を殺めることを楽しんでいるアキト。

本来ならルリが止めるべき事だった。

だが、アキトの不興をかうことを恐れたルリには、アキトを止めることは出来なかった。

 

「アキトさん・・・。もうすぐ復讐も終わりますね」

 

スッと、アキトの頬に手を動かすルリ。

アキトは目を覚まさない。

よほど疲れているのだろうか。

 

「そうしたら・・・もう、人を殺める必要もなくなりますね・・・。あなたも狂気に身を委ねなくてすみますね」

 

そう言うルリ。

だが、実はアキトの心を蝕んでいる狂気は、ルリが想像しているような甘いものではなかった。

晩年アキトは、自らの狂気と壮絶な戦いをすることになる。

血を見たいという欲求。

人を殺したいという衝動。

人をいたぶる事、殺す事にこの上ない喜びを感じるアキトが、蠱惑的とも言えるその衝動に耐えることは不可能に近かった。

だが、その狂気の世界からアキトを助け出してくれたのは、ルリやルリカ、ラピスといったアキトの妖精達だった。

 

「・・・みんな・・・幸せそうですね・・・」

 

テンカワ・アキト。

そしてその娘、ルリカとラピス。

幸せそうに身を寄せ合って眠っている。

 

「・・・ルリカ・・・ラピス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アキトさん・・・」

 

ルリは微笑みながら、泣いていた。

彼女はこの時、何故涙を流したか自分でも良く解らなかった。

だが、1つだけ言えることがあった。

それは今、家族4人でこうしているこの時間がとても大切だと言うこと。

ルリカが、ラピスが、そしてアキトが、幸せそうに眠っている。

そして、ルリがそんな3人を幸せな気持ちで見つめている。

そんな、掛け替えのない時間。

 

「ずっと・・・ずっとこうして居たいですね・・・」

 

それはルリの切実な願い。

だが、そんな願いが叶うはずがない。

終わりは必ず来る。

それでもルリは、少しでもこの幸せな時間が続くことを祈らずにはいられなかった。

 

「ねえ・・・アキトさん。ルリカも、ラピスも・・・。ずっと一緒に居ましょう?・・・・・・何があっても4人で・・・ずっと・・・ずっと一緒に・・・」

 

涙が一粒、アキトの頬に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火星極冠遺跡。

ここで火星の後継者と連合宇宙軍の戦いが繰り広げられていた。

 

「グラビティーブラスト・チャージ!」

 

「了解、チャージ完了!」

 

「よ〜し、撃て〜!!」

 

ユリカの声に合わせて走る火線。

次の瞬間、数隻の敵艦が爆発を起こす。

 

「再チャージ急いでね」

 

「了解」

 

「エステバリス隊はどう?」

 

「今のところ五分五分ですね・・・これは!!」

 

「どうしたの?」

 

「敵艦隊側面にボース粒子の増大反応・・・質量、戦艦クラスです!!」

 

すぐにウィンドウが映し出す映像を見るユリカ。

光の中からゆっくりと染み出してくる戦艦。

その戦艦が、いきなりグラビティーブラストを放ち、敵艦隊に大きく穴を穿つ。

単体ボソンジャンプしてきた戦艦に驚いているユリカ。

 

「識別信号確認・・・連合宇宙軍所属戦艦『ユーチャリス』。艦長は・・・テンカワアキト大佐!!」

 

「ア・・・アキト!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歴史上、それほど劇的な光景はなかった。

その場にいた全ての人間達が、その光景に目を奪われ、そして戦いを忘れた。

一瞬空間が歪み、そこから光が漏れてくる。

次の瞬間、グラビティーブラストが敵側面に撃ち込まれる。

前方に戦力を向けていた敵に多連装のグラビティーブラストを撃ち込んだのだ。

大規模な爆発が起こり火星の後継者の艦隊が乱れる。

そこに、すぐさま地球連合宇宙軍の砲撃が集中する。

 

『何だ・・・一体何が起こった!!』

 

そう言った通信が飛び交っている。

ゆっくりと、本当にゆっくりとジャンプアウトしてくるユーチャリス。

アキトの髪と同じ、雪のように白い船体は戦場に映える。

側面に描かれた『UE.SPACY』の文字。

ユーチャリスのブリッジ。

艦長席から右手でオモイカネにアクセスしているアキト。

その顔が淡く輝いている。

その前、一段下がったところでオモイカネにアクセスしているルリ達。

 

「センサー翼展開」

 

アキトの言葉によりユーチャリスのセンサーが広がっていく。

このセンサーこそユーチャリス最大の武器。

敵システムへの強制進入。

さらにマシンチャイルド3人による大規模なクラッキング。

それにより火星の後継者達の兵器を全て使用不能にしようというのだ。

 

「ルリちゃん、ルリカ、ラピス・・・クラッキング用意」

 

アキトの言葉を聞いて、妖精たちの顔の光が増していく。

オモイカネウィンドウに『FAIRY MODE』と表示される。

ルリ達の周りにウィンドウが集まり1つの空間を作る。

俗にウィンドウボールと呼ばれている。

 

「フィードバック、レベル10まで移行」

 

静かに言うルリ。

 

「クラッキング、準備できたよ」

 

そう言ってアキトの方を見るラピス。

ルリもルリカもそれに習う。

沈黙が流れる。

 

「3人とも・・・今のうちに言っておくよ・・・ありがとう」

 

アキトの顔に笑顔はない。

真摯な眼差しが、ルリ達を見つめている。

 

「・・・私はアキトさんのためなら何でもします」

 

「パパの為にした・・・当然のこと」

 

「お父さんの為でもあり、それが自分の為でもあります。これでお父さんの気が済むなら・・・」

 

そう言って3人とも笑顔を浮かべる。

その笑顔を見てアキトも笑顔を浮かべる。

優しい笑顔。

温かい笑顔。

そして・・・3人の妖精達を虜にする笑顔。

 

「ありがとう・・・」

 

その声に微かに赤くなる3人。

そしてゆっくりと笑顔を消していくアキト。

その顔を見て真面目な顔をして集中する3人。

 

「クラッキング・・・開始」

 

静かな声でアキトが宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何だ・・・どうした!!」

 

火星の後継者側のコンピューターがいきなり『お休み』という表示をして機能を停止してしまう。

何が起こったのかわからない兵士達。

 

「何をしている!持ち場を離れるな!!」

 

『離れたのではない、機械が勝手に!!』

 

そう言って味方との交信が切れてしまう。

次々にシステムダウンしていく火星の後継者側。

 

「何が起こっているんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコBのブリッジも騒然としていた。

いきなり出現した純白の戦艦と、その圧倒的な戦闘力に。

ユーチャリスが出現したとき、一瞬連合宇宙軍は攻撃を忘れた。

ナデシコBも、同じだった。

 

「何をしているの!!敵は混乱しているわよ!!」

 

ムネタケ・サダアキの声がブリッジに響く。

その一言で、ナデシコBのブリッジの動きが活性化する。

ナデシコBが攻撃を再開すると、他の艦も攻撃を再開する。

 

「ふう・・・提督、助かりました」

 

「謝る必要はないわ。誰しもミスはある。生きてさえいれば、それは取り返せるものよ?」

 

サダアキの言葉を、しっかり心に刻みつけるユリカ。

余談だが、ムネタケ・サダアキは若い頃から苦労していた。

彼が連合宇宙軍に入ったのは、ひとえに父の影響からだと言っても良い。

彼は、父を尊敬していたのだ。

だが、彼の父は天才だった。

天才を模倣することは出来ない。

サダアキは、父とは違い天才ではなかったのだ。

『連合宇宙軍の至宝』とまでいわれる天才作戦家、ムネタケ・ヨシサダ。

その息子が天才ではないと知って、周囲の人間は落胆し、当然サダアキを蔑む目で見る者達が多かった。

だが、周囲の人間達は後に自分の考えが甘かったことに気付いた。

何故ならサダアキは、天才ではなく秀才であったからだ。

彼は周囲の軽蔑の目を感じながら、ひたすら努力したのである。

彼は体が丈夫ではなかったので、格闘術はそれ程のびなかった。

だが、作戦家としてはその才能を引き出すことに成功した。

彼はあらゆる兵法書をよみ、過去の戦史を調べ、それらを何度もシミュレートし、レポートを書き、そしてそれをもとにさらにシミュレートする。

努力に努力をかさね、彼は誰からも認められる男になった。

ムネタケ・ヨシサダの息子ではなく、ムネタケ・サダアキと言う1人の男として。

そして、彼は少将まで上がった。

 

「ユーチャリスから通信です!」

 

ハーリーが叫び、同時にウィンドウが映る。

それを見るユリカ。

そこに映っていたのはアキト。

顔を淡く光らせ、その髪は銀色に輝いている。

光をたたえながらユリカを見つめる金色の瞳。

美しい。

しばし見惚れているユリカ。

 

「ご苦労様、テンカワアキト。・・・なるほど、パパ・・・ゴホン、参謀総長が自分の下に欲しがるだけのことはあるわね」

 

『ムネタケ少将・・・。これで良いんだろ?』

 

「そうね・・・、ご苦労様。でも、あんな風に出てくるとは思わなかったわ・・・」

 

そう言って、ニヤリと笑うサダアキ。

 

『で、この後どうする』

 

「打ち合わせ通りにね。それに・・・あなたにはあなたの戦いがあるでしょ?もうすぐ、奴らは来るはずよ」

 

そのサダアキの言葉に、少しだけ驚いた顔をするアキト。

 

『さすがムネタケ・サダアキ。全てお見通しか・・・』

 

その言葉に、「当然よ」とでも言うように笑うサダアキ。

ニヤリと口元を歪めるアキト。

ややあって、再び口を開くアキト。

 

『ユリカ・・・』

 

アキトの呼びかけにハッとなるユリカ。

顔を真っ赤にしてアキトに答える。

 

「はっ・・・アキト・・・アハ、アハハハハ!」

 

『全く・・・まあいい。現在、敵火星の後継者のシステムは我が艦ユーチャリスが掌握した。これにより敵は戦闘不能となっている。貴官から降伏勧告を行って欲しい。ナデシコ艦長、ミスマルユリカの名はそれなりに有名だからな』

 

「えっ?でもアキトの方がもっと有名でしょ?」

 

『ユリカ・・・。俺にはすることがある。だから・・・君に頼みたい』

 

そういって、ユリカを見据えるアキト。

その真摯な眼差しに、ユリカも受けざるを得ない。

 

「了解しました・・・でもアキト・・・」

 

『それじゃあ』

 

ユリカの問いかけに答えず通信をカットするアキト。

しばらく唖然としていたが、次第に涙ぐんでくるユリカ。

 

「うう・・・酷いよアキト・・・やっぱりユリカとは遊びだったの?」

 

そう言ってしくしく泣くユリカ。

皆がそのセリフにぎょっとする。

特にハーリーなどは今にもユーチャリスにナデシコBをぶつけそうな勢いである。

ちなみに、ユリカの言っていることが事実かどうかは、永遠の謎である。

 

「艦長・・・降伏勧告しないんですか」

 

「はっ!忘れてた!ちゃんとやってアキトに捨てられない様にしなくちゃ!!回線オープン!」

 

そう言うと『完了』とオモイカネウィンドウが表示される。

するとメインウィンドウに火星の後継者の首脳部の面々が映る。

その中央で腕を組んでいるのは草壁春樹。

その周囲の人間達はディスプレイのユリカを睨み付けている。

 

「あ〜、あ〜・・・火星の後継者の皆さん。私は連合宇宙軍中佐、ナデシコB艦長ミスマルユリカです。直ちに降伏しなさい。それと、元木連中将草壁春樹、あなたを逮捕しちゃいます。おとなしく投降してくださ〜い!」

 

『だまれ!この女狐め!!』

 

「あっ!ひっど〜い・・・ユリカこんなに美人なのに!!プンプン!!」

 

そうしておよそ緊張感のない言い争いをしているユリカと敵首脳部。

その間ずっと目を閉じて何かを考えている草壁。

 

「さあさあ、降伏しちゃってください!」

 

そこでゆっくり目を開ける草壁。

 

『部下の安全は・・・保証してもらいたい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーチャリスのブリッジ。

 

「・・・ボース粒子の増大反応が7つ・・・。アキトさん、来ましたよ・・・」

 

オモイカネの警告を見ているルリが言う。

その言葉を聞いて、ゆっくりと頷くアキト。

 

「・・・やっと・・・この時が来た・・・」

 

そう言って、ゆっくりと目を瞑るアキト。

 

「現時点をもって艦長の全権限をルリに移行。繰艦システムをラピスに移行」

 

すぐにオモイカネが命令を実行する。

 

『了解』

 

オモイカネとのリンクを解除したアキトの顔から光が消えていく。

そこで、目を開けるアキト。

そして目の前に表示されるウィンドウを確認すると、ゆっくりと艦長席から立ち上がる。

コツ、コツ。

艦長席より数歩離れ、少し広い場所に行く。

そこで目を瞑ると、ゆっくりとアキトが光り出す。

 

「アキトさん!・・・私、信じています・・・」

 

涙ぐみながらアキトに声をかけるルリ。

 

「お父さん、きっと帰ってきてくださいね」

 

こちらは完全に涙をこぼしているルリカ。

 

「パパァ・・・」

 

ラピスも涙をこぼしている。

そんな3人に笑顔を向けるアキト。

とても爽やかな笑顔。

 

「大丈夫だよ。俺は負けないから」

 

そう言うとそっと胸のロザリオを触るアキト。

少女の温かい想いを感じる。

 

(・・・さあ、行くよ・・・)

 

「・・・ジャンプ・・・」

 

そう言ってアキトはブラックサレナのコックピットのジャンプした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀の大地にゆっくりと降り立つアキトのブラックサレナ。

その前に立っているのは夜天光。

そして6機の六連。

 

『フフフ・・・やはり出てきたか、テンカワアキト』

 

「・・・ああ・・・」

 

アキトは非常に落ち着いて表情で、モニターに映る北辰を見据えている。

 

『ジャンプによる奇襲・・・それが出来なかった時点で我らの負けは決まっていたのかも知れんな』

 

「・・・」

 

『汝の存在・・・それが我らの敗北を決定づけた。まさか戦艦ごとボソンジャンプしてくるとは思わなんだぞ』

 

何も答えず黙って聞いているアキト。

 

『我らのA級ジャンパー誘拐計画をことごとく邪魔してくれた・・・汝さえ居なければ我らの研究はさらに進み・・・勝利は我らの手にあっただろう』

 

それを聞いて、アキトのブラックサレナがソードを抜く。

その刀身が、危険な光りをたたえている。

まるでアキトの心が乗り移ったかのような、そんな危険な光り。

 

『フッフッフッ・・・危険だ。今の汝からは今まで以上の闇を感じるぞ』

 

「・・・俺は、闇を支配した・・・貴様を殺すためにな!!」

 

刹那、一気に夜天光に殺到するブラックサレナ。

夜天光は、動かない。

ギン!!

ブラックサレナのソードと夜天光の錫杖が交差する。

 

「今のを受け止めるか。やるな、北辰」

 

『・・・ずいぶん速くなったな。誉めてやろう、テンカワアキト』

 

北辰がそう言ったとき、ブラックサレナが後方へ下がる。

刹那、先程までブラックサレナのいた空間を薙ぐ、六連の錫杖。

ドンドン!

ブラックサレナの左腕のカノン砲が火を噴く。

だが、それを右へ、左へと巧みにかわす六連。

そして、ブラックサレナを追撃する夜天光と六連。

さらに後方に下がると、まるで慣性を無視するかのように急に地面に対して垂直に飛び立つブラックサレナ。

その後を追うように、同じように宙に舞う夜天光に六連。

ドンドンドンドン!

いきなり反転してカノン砲を撃つブラックサレナ。

一瞬のことで避けきれなかった六連が一機、その砲撃をうけて爆発する。

だがそんな事には見向きもせずに接近する夜天光。

ドゴン!

夜天光の拳がブラックサレナのフィールドを打つ。

 

『フフフ・・・やりおるわ!さすがはテンカワアキト!!』

 

北辰が嬉しそうに笑う。

続けざまに拳と錫杖を繰り出す夜天光。

だが、巧みにそれをかわしていくブラックサレナ。

 

『逃げているばかりか?テンカワアキト』

 

アキトをあざ笑う北辰。

そして同時に、後方に引く夜天光。

刹那、ブラックサレナのソードが夜天光をかすめる。

 

『惜しい・・・フフフ』

 

「チィ、さすがに速い!!」

 

その隙に一気に夜天光から離れるブラックサレナ。

 

『隙あり!』

 

背後から近付いてきた六連が錫杖を振り下ろす。

振り向きざまに右腕のソードを一閃させるブラックサレナ。

キーン!

そんな澄んだ音が、あたりに響きわたる。

ブラックサレナのソードが、六連の錫杖を切り飛ばしている。

 

「今更・・・雑魚が出てくるな!!」

 

左腕のカノン砲を六連に突き付ける。

ドン!

至近距離からの一撃に避ける暇もなく吹き飛ぶ六連。

コックピットを撃ち抜かれ爆発四散する。

 

『フフフ・・・大した気迫だ!』

 

北辰はそう言うと錫杖をブラックサレナに向けて投擲する。

回避するが間に合わない。

アキトの反射神経に、ブラックサレナがついていかないのだ。

ドン!

ブラックサレナの肩口に突き刺さる。

強い衝撃が操縦席を襲う。

 

「クッ!」

 

いかにアキトといえども、六連を相手にしながら夜天光と戦うのはかなり厳しい。

すでに六連も残り4機。

だがそれでも5対1、かなり分が悪い。

生身での格闘とは違い、機体の性能も関係してくる機動兵器戦。

アキトと北辰達の戦闘能力は、機体の性能を考えるとそれほど開きがない。

 

『どうしたテンカワアキト・・・ここで朽ち果てるのか』

 

北辰はアキトを挑発する。

歯を食いしばるアキト。

憎悪に、その顔が醜く歪む。

その時。

 

『だめだよ、お兄ちゃん』

 

声が聞こえた。

ハッとして、無意識のうちに胸のロザリオを触るアキト。

少女はアキトと共にいる。

常に、アキトを護っている。

 

「・・・焦る必要はない。・・・そうだねアヤカちゃん」

 

アキトは冷静になる。

ただでさえ不利な状況で、その上怒りに身を任せては勝機を失うことになる。

 

「ここで死ぬのはお前らだけだ」

 

そう言ってカノン砲を撃つ。

無数の光弾が、六連に殺到する。

だが、それを巧みにかわしていく六連。

六連のパイロット達もエース級の腕を持っている。

簡単に倒せる相手ではない。

六連達からミサイルが発射される。

ドンドン!

一瞬にして状況を判断して、カノン砲で撃ち落とすブラックサレナ。

ミサイルが誘爆して光が溢れる。

その爆風にあおられて、一瞬体勢が崩れるブラックサレナ。

 

「クッ!」

 

『終わりだ・・・テンカワアキト!!』

 

一瞬の隙をついて夜天光がブラックサレナに肉薄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕はナデシコBオペレーター、マキビハリです・・・あなたは・・・誰ですか?」

 

つい好奇心で聞いてしまったマキビ・ハリ。

火星全域のシステムを掌握すると言うことは、ものすごいことである。

たとえ宇宙軍最強と言われるナデシコBであっても不可能なことである。

それを可能にしている戦艦、そしてクラッキングを実行しているであろうオペレーターに興味がわいたのだ。

するとウィンドウが開き美しい女性が映し出される。

ストレートにおろした瑠璃色の髪が微かに輝いている。

その金色の瞳がハーリーを見つめる。

 

『私は地球連合宇宙軍大尉、ホシノルリです。初めまして』

 

そう言って頭を下げるルリ。

ルリにしばし見とれているハーリー。

 

「わあ、ルリちゃん久しぶりだね!」

 

ユリカが笑顔を作りルリに手を振る。

 

『はい、お久しぶりですユリカさん。お元気そうで何よりです』

 

そう言ってユリカに笑顔を向けるルリ。

その顔にまた見とれるハーリー。

 

「うん!それよりルリちゃん・・・いきなりジャンプしてくるとは思わなかったな」

 

『はい・・・アキトさんが誰にも報せるなと言ってましたので』

 

そのルリの言葉にピクリとするハーリー。

 

「でもルリちゃん・・・アキトこのままじゃ負けちゃうよ・・・リョーコさん達は今持ち場を離れられないし・・・敵はいっぱい居るんだよ?またあの時みたいになったら」

 

かつてのアキトの敗北を目の当たりにしたことがあるユリカ。

敵は同じ。

再び負けることも考えられるので心配になってしまう。

だが、そんなユリカにニッコリと微笑むルリ。

またしても見とれるハーリー。

 

『大丈夫ですよ、ユリカさん』

 

「え?」

 

『大丈夫です、あの人は負けませんよ。それにあの時とは違う・・・あの人はもう、1人じゃありません』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜天光の攻撃を何とかかわすブラックサレナ。

 

『あれを避けたか・・・やりおるわ』

 

そう言って一気に加速してブラックサレナと距離を取る夜天光。

すぐさま後を追っていくブラックサレナ。

ぐんぐん加速する2機の機動兵器。

すぐに後を追おうとするがどんどん離されていく六連達。

そこに。

六連の行く手を阻むようにジャンプアウトしてくる2機の機動兵器。

白と黒のアルストロメリア。

九十九と元一朗の駆る新型機動兵器。

 

「ここから先は行かせんよ・・・北辰の犬め」

 

そう言ってニヤリとする元一朗。

 

『邪魔だ!月臣元一朗!!』

 

元一朗のアルストロメリアの頭上を越えて、ブラックサレナを追おうとする六連。

だがそれを許さない白いアルストロメリア。

白鳥九十九。

そのクローから繰り出される一撃により、機体を貫かれる六連。

アルストロメリアが離れると同時に爆発する。

 

「アキトの邪魔はさせない・・・。お前達の相手は私達がしよう」

 

そう言う九十九。

それに合わせてゆっくりと構える2機のアルストロメリア。

 

『クッ・・・クソ、まだ数ではこちらの方が上だ。行くぞ!』

 

アルストロメリア対六連の戦いが始まる。

あの時の戦いとは違う。

アキトは、1人ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大したものだな・・・』

 

ブラックサレナのカノン砲をかわしながら言う北辰。

北辰は巧みに夜天光を操る。

 

「・・・お前のその余裕の表情、今俺が切り刻んでやる・・・」

 

うっすらと顔が緑に光るアキト。

一気に接近するブラックサレナ。

ブラックサレナの機動力が、限界まで引き出される。

右腕のソードで夜天光を斬りつける。

それを辛うじてかわしながら拳を繰り出す夜天光。

ドゴン!

再びブラックサレナのフィールドを打つ夜天光。

一瞬光りが弾ける。

そのまま双方の機動兵器が睨み合うように密着する。

 

『どうした、汝の力はその程度か?』

 

「無駄だ。挑発には乗らない」

 

静かに言うアキト。

それと同時に夜天光をはじき飛ばすブラックサレナ。

 

『・・・なるほど、大した機体だ!』

 

夜天光は地面に激突しそうになるが、何とか体勢を立て直し距離を取る。

刹那、夜天光にブラックサレナの放つカノン砲が襲いかかる。

ドンドンドン!!

急加速をしてその砲撃を何とかかわす夜天光。

 

『クッ・・・上か!!』

 

咄嗟に小太刀を抜き放つ夜天光。

ギン!

真上から襲いかかって来たブラックサレナに何とか反応して、不気味な光りを放つそのソードを小太刀で受け止めた。

受け止めた衝撃で夜天光の脚部が地面につく。

そして、その足下が一瞬沈む。

 

「どうした北辰?1人じゃこの程度なのか?」

 

『図に乗るな!家畜風情が!!』

 

ブラックサレナに向けて拳を繰り出す夜天光。

それを急上昇しかわすブラックサレナ。

すぐさまその後を追うように上昇する夜天光。

 

『逃げるつもりか、テンカワアキト!』

 

その一瞬、北辰は冷静さを失った。

当然、夜天光の動きにも隙が生じ、そしてそれを見逃すアキトではない。

今まで夜天光に背を向けていたブラックサレナが、急に反転して夜天光に向けて突進する。

その余りのスピードにかわすことが出来ない夜天光。

ザン!

瞬時に夜天光の腕を、握られた小太刀ごと切り飛ばすブラックサレナ。

 

『速い!!』

 

ブラックサレナに蹴りを入れて離れようとする。

その蹴り足を再びソードで斬るブラックサレナ。

切断された夜天光の脚部が宙を舞う。

 

『クッ・・・これ程とは!!』

 

急いで距離を取る夜天光を、すぐさまブラックサレナが追う。

 

「諦めろ北辰・・・俺からは逃げられん」

 

『おのれ・・・おのれ!』

 

そう言ってジャンプシステムを作動させる北辰。

ゆっくりと光り出し、動きが止まる夜天光。

だがそれを見逃すアキトではない。

 

「ボソンジャンプは諸刃の剣だ。・・・こんな時に使うとはな」

 

ソードを構え、夜天光にぶつかるような勢いで接近していくブラックサレナ。

 

「終わりだ・・・北辰!」

 

『跳躍!!』

 

ブラックサレナのソードが夜天光のボディーを貫く。

それと同時にボソンジャンプする夜天光。

そしてそれに巻き込まれたブラックサレナ。

淡い光を残して消える2機。

辺りに静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

今回のお話はいかがでしたでしょうか。

火星の後継者は呆気ないほど簡単に負けてしまいました。

どうしようか考えましたが、一応劇場版と同じような流れにしました。

そして、アキトと北辰の戦いも始まりました。

邪魔者も居ましたが、それらは九十九と元一朗が引き受けてくれました。

今のアキトは1人ではなく、助けてくれる友がいます。

アキトはアキトを護ってくれる多くの存在のためにも、この戦いに勝たねばなりません。

この、最後の戦いに。

感想等お待ちしておりますので、よろしければお送りください。

それでは、次回をお楽しみに。

 



艦長からのあれこれ

はい、艦長です。

どぁー!!
一番良いところで切られたぁー!!(笑)

この苦しみ、みなさんならわかるはず(笑)

さあ、ここからは終幕へ向けて一直線!



とっとと続きが見たけりゃささばりさんにメールを出すんだ!


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