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妖精の守護者  第4話


 

 

 

 

 

(すまないラピス。お前を巻き込んでしまって)

 

表には出さないアキトの感情がそこにあった。

 

(良いの、アキトは私の全て。アキトのいない世界では私は生きていけない)

 

(すまん、ラピス)

 

アキトの体が光り出した。

ジャンプフィールドが形成される。

アキトが呟く。

 

「・・・ジャンプ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


妖精の守護者

第4話「黒百合」

BY ささばり


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、テンカワ君。災難だったね」

 

そう言ったのはアカツキ・ナガレ。

ネルガルの会長。

ここはネルガル本社ビル会長室。

ここには今2人の男がいる。

1人はスーツを着た長髪の男。

アカツキ・ナガレ。

もう1人は黒いバイザーを着けている。

テンカワ・アキト。

彼が木連の襲撃を逃れるためにボソンジャンプしてからすでに半年が経っていた。

 

「ああ、まさかシェルターが破壊されるとは思わなかった。これで火星は木連の手に落ちたな」

 

「君だけでも無事で良かった。もう3年前の様な事はご免だからね」

 

3年前。

火星のネルガル研究所で大爆発があった。

幾人もの死傷者を出した大事故。

しかしその事故には裏があった。

アカツキナガレの父、前ネルガル会長が仕組んだ事だった。

爆発のどさくさにまぎれて邪魔者を、特に自分の言いなりにならない研究者達を暗殺しようとしたのだ。

その中にはテンカワアキトの両親も含まれていた。

それを知ったアカツキは独断でシークレットサービスを向かわせ何とか救出しようとするが謎の男達に阻まれ失敗した。

そして気が付いてみると親友だったアキトまでも拉致されていたのだ。

アカツキはその後その事件で地位を追われた父に代わり会長になりずっとアキトの行方を探していたのだ。

そしてアキトが拉致されてからかなりして、薄桃色の髪をした少女と共にいるアキトを発見。

ただ、アキトは昔とは変わり果てた姿になっていたが。

 

「それで、奴らは居たかい?」

 

「いや、やはり情報が漏れていたのか・・・責任者の姿はすでに無かった」

 

アキトの顔が緑色に光る。

 

「まああわてないことだ。奴らは実体がない・・・だがいずれは」

 

「わかっている。いずれは俺の手で引きずり出してやる」

 

「火星での調査も終わりか・・・」

 

「ああ」

 

「しかし、素手で無人兵器を倒せるのはテンカワ君くらいしか居ないね」

 

「だが小さな女の子1人助けられない・・・」

 

そう言ってアカツキに背を向けて部屋から出ていこうとする。

 

「女の子?」

 

そうたずねるアカツキ。

足を止め顔だけ後ろに向けてアキトが言う。

 

「ああ、確かアイちゃんとか言ったな。もっともあの状態じゃ助かりっこ無いがな」

 

そう言ったアキトの顔に緑の奔流が見える。

そして部屋を出ていく。

それを見て怒りがこみ上げてくるアカツキ。

 

(テンカワ君・・・。火星の後継者、必ずあぶり出してやる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アキト君、何時戻ってたの」

 

部屋を出たアキトに声をかける女性がいた。

エリナ・キンジョウ・ウォン。

ネルガル会長秘書を務めている。

 

「たった今。火星が木連の手に落ちた」

 

「ホントなの!」

 

「ああ」

 

アキトの答えに何か考え込むエリナ。

その横を何も言わずに抜けていこうとするアキト。

そんなアキトにあわてて声をかける。

 

「あ、アキト君!」

 

「なんだ」

 

立ち止まるアキト。

だが振り向かない。

 

「あ、あの・・・・今夜・・・」

 

普段の彼女とは比べ物にならないほど弱々しい声。

それを聞いて口元をニィと歪めるアキト。

振り向かないのでその顔はエリナには見えない。

 

「部屋にいる」

 

そう一言言うと立ち去っていく。

残されたエリナは一瞬嬉しそうな顔をするがすぐに悲しそうな顔をする。

 

「・・・どうして私じゃだめなの・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガ!

自室の壁を思い切り殴るアキト。

痛みは感じない。

顔には緑の奔流が浮かぶ。

 

「俺は何をやってるんだ。エリナをもてあそんでいるだけじゃないか」

 

アキトは現在ネルガルシークレットサービスに所属している。

潜入調査、暗殺、護衛、何でもこなす。

それらの事をしている内にアキトは異性をたらしこむ事を覚えた。

その延長上で自分に接近してきたエリナを逆にくいものにしたのだ。

エリナ自身はすでに当初の目的を忘れている。

すでにアキトに完全に惚れていた。

逃げられないほどに・・・。

最初の内はアカツキも止めていた。

だが今は変わってしまったアキトを悲しそうな目で見ているだけだった。

 

「ラピス・・・大丈夫かな」

 

現在ラピスはネルガルが半年後の完成を目指している戦艦のオペレーションシステムの研究のためアキトの側にはいなかった。

アキトはしばらくしじっとしていると思い出したようにデスクの戸棚を開けてビスケットの様な物と錠剤を取り出す。

アキトの食事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半年後。

ネルガル重工開発の機動戦艦ナデシコ。

地球で連合軍といざこざはあったが何とか宇宙に出ることが出来た。

もっともすでにパイロット1名が死んでいるが。

 

「ルリルリ、何見てるの」

 

ここはブリッジ。

そう言ったのはハルカ・ミナト。

このナデシコの操舵士をしている。

その彼女が話しかけたのは少女。

ナデシコメインオペレーター。

ホシノ・ルリ、16歳。

 

「あ、ミナトさん」

 

そう言うと再びオモイカネのウィンドウに目を戻す。

オモイカネ。

ナデシコに搭載されているAI搭載メインコンピュータ。

ナデシコの全てはこのAIに管理されている。

 

「どれどれ。あら、ルリルリも隅に置けないわね。これカレシ?」

 

ルリの後ろからウィンドウを覗いたミナトはそう言う。

ウィンドウに映っているのは1人の青年の写真。

あたたかな笑顔をこちらに向けている。

 

「ち、違います。そんなのじゃ・・・」

 

初めは真っ赤になっていたがだんだん声が小さくなっていくルリ。

 

「・・・だって、アキトさんは私の気持ち知りません」

 

「ふ〜んアキト君って言うんだ。駄目よルリルリ、自分の気持ちは素直に伝えないと」

 

何の考えなしにそう言うミナト。

だがそれを聞いたルリの瞳から涙が溢れる。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫?どうしたのルリルリ」

 

いきなり泣き出したルリを見て困惑するミナト。

 

「・・・伝えたくても・・・伝えられないんです」

 

それを聞いたミナトはルリをそっと抱きしめる。

その胸の中で嗚咽を漏らすルリ。

 

「話してみて、ルリルリ。そうすればきっと楽になるから、ね」

 

腕の中で頷くルリ。

ミナトはさすがにここではまずいと思い自分の部屋に連れていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なでしこ?」

 

「そう、ナデシコだ」

 

ネルガル重工会長室。

ここにアキトとアカツキがいる。

 

「そのナデシコになぜ俺が乗る」

 

「実はプロスペクター君から連絡があって、エステバリスのパイロットが死んでしまったらしいんだ。もう1人も負傷していて困っているらしい」

 

「それで・・・俺にパイロットをやれと言うことか」

 

「そうだよ。今のお給料にパイロットの給料も出すからお金がたくさん出るよ」

 

それを聞いたアキトが何か考える。

そして口を開く。

 

「ラピスは?」

 

「もちろん君と一緒に行ってもらう。居なくては困るだろ」

 

そしてまた考え出すアキト。

しばらくして口を開く。

 

「・・・良いだろう。だが何を企んでいる、アカツキ」

 

そんなセリフを聞いてニヤリとするアカツキ。

 

「実は君にはエステバリスの追加装甲のテストもやってもらいたい」

 

「追加装甲・・・ブラックサレナか・・・」

 

「おいおい、誰に聞いたんだ。まだ極秘のはずだぞ」

 

驚くアカツキ。

だがそんな事はお構いなしにさらっと言うアキト。

もっともその答えはアカツキの想像していた物だったが。

 

「エリナに聞いた」

 

「はー、その通りだよ。可変型追加装甲エステバリスカスタム、開発コードネーム『ブラックサレナ』その先行試作機。とりあえず君専用だね」

 

アキトにブラックサレナの資料を渡す。

 

「俺専用?」

 

「そ、今まで色々なパイロットに頼んだけど誰1人として性能の半分も引き出せない。宝の持ち腐れだね。でもテンカワ君の腕なら十分乗りこなせるはずだ」

 

資料を読んでいるアキト。

 

「少しでかいな。だが圧倒的な性能だ・・・少し慣らさないとな」

 

「そうしてくれ。でかいがその分性能は良い。装備も充実しているしな。それにこれはまだ未定だが、ボソンジャンプのシステムも積もうと思っている」

 

「なるほど、俺専用か・・・。わかった、ナデシコに乗ろう」

 

そう言うと部屋を出ていくアキト。

それを見てほっと一息つくアカツキ。

イスにもたれたまま天井を眺めて1人呟く。

 

「何時までもルリ君から逃げている訳には行かないだろ。・・・テンカワ君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ、ブリッジ。

 

「なんでだよ!俺らだけじゃ不満なのかよ!」

 

そう言ってプロスペクターにくってかかる。

スバル・リョーコ。

エステバリスのパイロット。

 

「いえいえ、単純にパイロットが3人だけでは少なすぎるのですよ。山田さんはまだ怪我が治ってませんし。まあ当然の補充と言ったところですよ」

 

そんなプロスペクターの言葉に納得できないリョーコ。

それを慰めるパイロット仲間のマキ・イズミとアマノ・ヒカル。

この3人が現在ナデシコの擁するパイロット3人娘である。

後2人居たのだが1人は戦死。

もう1人、ヤマダ・ジロウも地球より離脱する際に負傷している。

 

「それで、その人は何時合流するんですか?」

 

そう聞いたのはミスマル・ユリカ。

機動戦艦ナデシコ艦長。

わずか20歳で戦艦の艦長に収まっている逸材。

噂ではどこぞの戦術シュミレーションで無敵だったらしい。

その言葉を聞いて眼鏡をクイと上げるプロスペクター。

なぜか電卓を叩いている。

 

「そうですね、もうすぐだと思います」

 

「よーし、それじゃそいつが来るまでにさっさとサツキミドリに行って残ったエステでも回収してくるか。俺らだけでも十分やれるって言うことを証明してやるよ」

 

そう言うリョーコ。

 

「それで、後何機くらいのエステバリスが残っているんだ?」

 

そう言ったのは巨躯の男。

ゴート・ホーリー。

 

「さあな、でも3機くらいは有るんじゃねーか?」

 

そう言うとさっさと出ていくリョーコ。

他の2人も後に続く。

それを見ていたプロスペクターが呟く。

 

「やれやれ、仕方ありませんな」

 

今回は調停のプロとしての見せ場はなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きれい・・・ねえアキト?」

 

星の海を見ながら言うラピスラズリ。

ここはブラックサレナのコックピット。

高機動形態でナデシコに向かっている。

 

「なんだい?」

 

そう答えるのはテンカワアキト。

 

「ナデシコってどんな所?」

 

「わからない、でもラピスは何も心配しなくて良いよ。きっとみんな良くしてくれるよ」

 

日頃は感情を出さないアキトもラピスにだけは違うようだ。

 

「うん・・・。あれ?何だろあれ」

 

何かに気付いたラピスの言葉にレーダーを確認するアキト。

 

「ナデシコ、戦闘?・・・ラピス、ちょっとキツイぞ」

 

「うん、大丈夫だから・・・行って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デビルエステバリスだー!」

 

アマノ・ヒカルの悲鳴に近い声。

 

「くそー、こいつら遊んでやがる!」

 

敵に乗っ取られたエステバリスの不意打ちを何とかかわすスバル・リョーコ。

 

「遊ぶ、あそぶ・・・チ!」

 

敵の攻撃が激しくお得意の寒いギャグを言う暇がないマキ・イズミ。

完全に包囲されている3人。

ステーション・サツキミドリ2号の残骸まで来たのは良いが残っていたエステバリスは全て敵に乗っ取られていた。

その数5機。

しばらくリョーコたちを囲んでいた敵エステのうち4機がその場から離れていく。

 

「な、あいつらナデシコに!」

 

気付いたリョーコ達が何とか追おうとするが残りの1機に行く手を阻まれる。

 

「やばい!ナデシコ、おい聞こえるか。逃げろ、すぐ逃げてくれ!」

 

リョーコの叫びは敵エステのバルカン砲の音にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵エステバリス4機、急速接近中」

 

ホシノルリの報告。

 

「フィールドは?」

 

「間に合いません」

 

淡々と言うルリ。

だが皆はこれがいかに危険な事かわかっていた。

接近する敵機動兵器。

張れないバリア。

もはや身を守る術はない。

 

「グラビティーブラストは?」

 

かなり苦しい艦長、ミスマルユリカ。

 

「サツキミドリ2号も沈めてしまいますがよろしいですか」

 

そこにはまだリョーコ達がいる。

万事休す。

 

「か、回避行動急い「本艦後方よりグラビティーブラスト」」

 

ユリカの指示とルリの報告が重なる。

次の瞬間ナデシコの右側を射線が走る。

その光が1機の敵エステバリスを貫く。

爆発四散する。

 

「後方より高速接近中の物体キャッチ。全長約10m、幅約15m。戦闘機のようです」

 

ルリの報告。

それを聞いて緊張を解くプロスペクター。

 

「やれやれ、間に合ったようですね」

 

「もう一発来ます」

 

またも一撃で四散する敵エステ。

 

「あれ、グラビティーブラスト?」

 

通信士のメグミ・レイナードが聞く。

 

「はい、非常に小型ですが間違いなくグラビティーブラストです」

 

そう言っている内に敵エステとナデシコの間に割り込む戦闘機。

すぐに変形する。

漆黒の機動兵器。

ある種禍々しさまで感じる。

 

「へ、変形した?」

 

誰かの呟き。

宇宙に溶け込むような漆黒。

そのうち敵エステバリスの残り2機が謎の機動兵器に襲いかかる。

闇が消える。

その動きを捉えられたのはレーダーのみ。

 

『遅い』

 

そう声が聞こえた。

感情のこもっていない暗い声。

 

「え・・・」

 

ルリはその声を聞いて唖然とする。

 

(ううん・・・そんなはず無い)

 

そう言うとすぐにモニタに目を移す。

そこには漆黒の機動兵器、その両腕からの射撃によって撃ち落とされる敵エステバリスの姿があった。

 

「す、すごい・・・」

 

メグミの呟き。

 

「さすがだな」

 

ゴートはそう言っている。

それを聞いて頷いているプロスペクター。

 

「ルリちゃん、識別出る?」

 

そう言うユリカの質問にすぐさまオモイカネにアクセスするルリ。

 

「識別出ます。・・・ネルガル重工製可変型追加装甲エステバリスカスタム、先行試作機『ブラックサレナ』。パイロットは・・・え?」

 

その文字を見て固まるルリ。

モニターに、正確にはパイロットの欄に目を奪われている。

そこに載っている写真。

昔から変わらない少しぼさぼさの髪。

黒いバイザーをかけている。

そして名前の欄。

 

『テンカワ・アキト』

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

<あとがき>

こんにちは、ささばりです。

第四話、最後まで読んでくれてありがとうございます。

ついにルリが出てきました。

年齢的には劇場版ルリです。

ルリはある程度感情豊かに書こうと思います。

さて、次回はアキトとルリの再会のシーンです。

がんばって書きますので・・・。

それではまた第五話で。

 




艦長兼司令からの発艦指令(?)

・・・・ささばりさんから4話が届けられた。

早い、早すぎるよ!(笑)

いやー。良いペースで投稿してもらってます。

マジで見習わねば(爆)

でも、私はマイペースだからにぃ。

あんまり急かされるとヘソ曲げるし(笑)

ま、そんなことはどうでもよろし。

次回はいよいよ再会です。


次も楽しみ♪

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