妖精の守護者 第5話
「す、すごい・・・」
メグミの呟き。
「さすがだな」
ゴートはそう言っている。
それを聞いて頷いているプロスペクター。
「ルリちゃん、識別出る?」
そう言うユリカの質問にすぐさまオモイカネにアクセスするルリ。
「識別出ます。・・・ネルガル重工製可変型追加装甲エステバリスカスタム、先行試作機『ブラックサレナ』。パイロットは・・・え?」
その文字を見て固まるルリ。
モニターに、正確にはパイロットの欄に目を奪われている。
そこに載っている写真。
昔から変わらない少しぼさぼさの髪。
黒いバイザーをかけている。
そして名前の欄。
『テンカワ・アキト』
妖精の守護者
第5話「悲しき再会」
BY ささばり
少し前。
ブラックサレナ。
遠くに映る爆発の光を見ているテンカワ・アキト。
「あれは、サツキミドリの残骸か?・・・なぜ爆発している」
そう言いながらレーダーを見る。
目的の艦、ナデシコはサツキミドリから少し離れたところにいる。
「とにかく急ぐか・・・平気か、ラピス」
そう言うと隣にいる薄桃色の髪の少女を見る。
そのアキトの声にわずかに微笑みながら答えを返す少女。
ラピス・ラズリ。
「うん、大丈夫」
それを聞いて少しスピードを上げるアキト。
すでにエステバリスなどでは追いつかないほどのスピードが出ていた。
その時レーダーがサツキミドリから出てくる4つの機影を捉えた。
「・・・なぜ迎撃が出ない・・・それに、フィールドも無展開とは。・・・エネルギーは、まだ有るな。まだだいぶ距離はあるがあれを使うか」
そう言うとアキトは敵の内1番先頭の奴に照準を合わせる。
右手のIFSが輝きを増す。
ドン!
前方の闇に向けて走る火線。
沈黙。
次の瞬間爆発が起こる。
ブラックサレナの特殊装備。
グラビティーブラスト・ライフル。
高機動形態の時のみ使用可能な武器である。
現在地球の兵器でグラビティーブラストを搭載しているのは、機動戦艦ナデシコとこのブラックサレナだけである。
続けざまにもう一発。
一撃で敵機を破壊する。
そのままナデシコを追い抜いて敵機とナデシコの間に割り込むと変形する。
通常形態に戻る。
敵エステバリスが接近してくるがアキトにはその動きは止まって見える。
「遅い」
次の瞬間その2機の間をすり抜け反転する。
すかさずブラックサレナの両腕に持っているカノン砲で敵を撃つ。
ドドンドドン!
狙い通りに背中を向けている敵に命中する。
すぐに爆発四散する敵エステバリス。
「ラピス、ごめんな。もう終わったから」
「ううん、平気」
「・・・そうか」
その時いきなり通信ウィンドウが開いた。
そこから聞こえたのは懐かしい声。
ブラックサレナのコックピット一杯に広がる顔。
少し成長しているが懐かしい面影を残す顔。
もっとも逢いたくて、もっとも逢いたくない少女。
ホシノ・ルリ。
『アキトさん!』
「アキトさん、アキトさんなんでしょ!」
急に大声を上げ始めたルリに皆何事かと思う。
だがルリはそんな事お構い無しにブラックサレナのパイロットに呼びかける。
ずっと逢いたかった人がいる。
逢いたくても逢えなかった人が今そこにいる。
そんなルリの事情を知っているミナトは少し不安を感じていた。
なぜ生きているのなら連絡をしなかったのかと。
「アキトさん、ねえアキトさん。ルリです。返事してください。ねえ!」
必死に呼びかけるルリ。
だが帰ってきた返事はルリの期待している物とは違っていた。
まったく感情のこもってない声。
『・・・ナデシコ。着艦許可を求む』
「・・・アキトさん?」
(アキトさん、私のこと忘れてしまったの?)
ルリはアキトがなぜ自分に返事を返してくれないのかまったく理解できなかった。
そんなときルリの後方から叫び声が上がった。
「あー、アキト、アキトだ。ねえアキトアキトアキトー」
そう言ったのはミスマルユリカ。
「ねえアキト。私ユリカだよ、ミスマルユリカ。覚えてるよね!」
だがまたも無視するアキト。
感情のこもってない声でたずねる。
『ナデシコ、着艦許可を求む』
それを聞いてユリカが勘違いをする。
もっともこの辺は性格だから仕方ないが。
「そっか、アキトは今すぐユリカに会いたいんだね。わかった、着艦オッケーよ」
『了解、着艦する』
そう言うと一方的に通信を切るアキト。
「では、私は迎えに行って来ますか」
そう言ってブリッジから出ていこうとするプロスペクター。
「「あ、私も」」
そう言って一緒に行こうとするルリとユリカ。
だがそれを押しと止めるプロス。
「いえいえ、おふたり共まだ警戒体制中ですから持ち場を離れない方がよろしいかと」
そう言うと1人で出ていくプロス。
「・・・アキトさん・・・」
後に残されたルリはもはやアキトのことしか考えられなかった。
もし木星蜥蜴が今ナデシコを攻撃していれば容易に撃沈できたであろう。
「オー、何だ何だこの機体は」
ナデシコに着艦したブラックサレナに早速わらわらと寄ってくる整備班。
そんな彼らを半ば呆れながら見ているアキト。
「整備責任者は?」
そう言うと眼鏡をかけた痩身の男が寄って来た。
「オウ、俺だ。俺はウリバタケ・セイヤ。よろしくな」
アキトはそう言って手を差し出すウリバタケを無視して一枚のディスクを彼に放る。
「ブラックサレナ、・・・そいつの仕様書だ」
そう言うと横にいる薄桃色の髪の少女を引き連れて立ち去っていく。
「なんでい、無愛想な奴だな」
格納庫からブリッジに向かうために廊下に出るアキトとラピス。
そこで1人の男に出くわす。
調停のプロ、プロスペクター。
「お久しぶりです、テンカワさん」
その挨拶と同時にアキトの手がプロスに伸びる。
そのままプロスの襟首をつかむと壁に押しつける。
ドン!
「グッ」
苦しそうに呻くプロス。
そのままプロスの体を片手で持ち上げていくアキト。
アキトの顔には緑の奔流が浮かぶ。
「どういう事だミスター。なぜここにルリがいる?」
そのまま締め上げていく。
「アキト、やめて。プロスが死んじゃう」
アキトに後ろから抱きつきながら言うラピス。
その声でハッとなるとすぐにプロスを解放するアキト。
しばらく咳をしていたが立ち上がると服装の乱れを直す。
「やれやれですな。まさか知らなかったとは、会長にも困ったものです」
「・・・アカツキの奴。何か隠しているとは思ったが・・・ルリ」
「ところでテンカワさん、お給料ですがこんな感じで」
そう言っていきなり電卓を叩くプロス。
そしてアキトに電卓を見せる。
当初の予定より幾分多い。
「迷惑料ですよ。こんな事で降りられたらたまりませんからね」
そう言って不敵に笑う。
そんなプロスを見て少しだけ穏やかな顔をするアキト。
「ミスターには敵わないな。・・・それでいい」
「それではテンカワさん、ブリッジの方に参りましょう」
「ああ・・・わかった」
そう言ってプロスの後に付いていくアキト。
その服の裾を掴んでテクテクと歩いていくラピス。
アキトの横顔を心配そうに見つめている。
(アキト、・・・私は要らなくなっちゃうの?)
「よろしいですか、テンカワさん」
ブリッジに通じるドアの前。
「・・・ああ」
プロスの問いかけに答えるアキト。
ぎゅっとアキトの服の裾を握るラピス。
「では・・・」
そう言って中に入るプロス。
それに続くアキトとラピス。
「みなさん、今日からエステバリスのパイロットをしてもらうテンカワアキトさんとその被保護者のラピスラズリさんです。仲良くしてください」
軽く会釈するアキト。
その後ろに隠れるラピス。
「アキト〜!」
そう言って何かが飛びついてくる。
とっさにラピスを庇いながら避けるアキト。
ドテ!
何かが転ぶ音。
「何で避けるのアキト〜」
地面に打ちつけてしまった鼻を押さえているユリカ。
「誰だ、お前は?」
素っ気ないアキト。
「え〜、忘れちゃったの?火星でお隣だったユリカだよ、ミスマルユリカ」
何となく思いだしたアキト。
だが露骨に無視する。
「・・・アキトさん」
そんなとき、アキトの後ろから声がかかった。
今まで何度も聞きたいと思った声。
すぐに振り返るアキト。
「・・・ルリ」
俯いているルリ。
そんなルリの背中を押すハルカミナト。
一歩進んだルリは俯いたまま。
「・・・生きていたんですね」
絞り出すようなルリの声。
「ああ」
感情のこもってないアキトの声。
「何で・・・教えてくれなかったんですか?」
「・・・」
「どうしてですか?」
「・・・」
急に顔を上げるルリ。
その瞳からぽろぽろ涙を流して。
「どうして、・・・どうして!せめて生きているって連絡だけでも良いじゃないですか!どうして・・・私のこともう嫌いになっちゃったんですか。教えてくださいアキトさん!」
「・・・」
「それにそれカッコ付けてます!はずして私の目を見てください。アキトさん!」
「・・・断る」
そんなアキトの答えにまた俯いてしまうルリ。
パン!
その時ルリの後ろにいた女性がアキトの頬を叩いた。
ハルカミナト。
ルリからアキトのことを聞いている数少ない存在。
「アンタね、いい加減にしなさいよ!ルリルリがあなたのことどんなに心配してたかわかんないの!謝りなさい、アキト君!そんなの取って素顔でただいまって言ってあげなさい!」
物凄い剣幕でまくし立てるミナト。
だがそんなミナトとアキトの前に割り込むように入ってくるラピス。
両手を広げてアキトを庇う。
「やめて、アキトをいじめないで。アキトのこと何も知らないくせに!」
普段からは考えられないほど興奮しているラピス。
そんなラピスの頭にポンと手を乗せるアキト。
優しく撫でる。
「良いんだ、ありがとうラピス」
そう言ってからルリの方を向くアキト。
「・・・ルリ・・・」
アキトの呼びかけにゆっくり顔を上げるルリ。
じっとアキトの顔を見つめる。
そんなルリを見てゆっくりと黒いバイザーをはずす。
ラピスはそんなアキトを見ていることしかできなかった。
誰もが息を呑んだ。
アキトの顔を見ていた誰もが。
「そ、そんな・・・」
辛うじて声を出すルリ。
ミナトは言葉もない。
青い左目。
真っ青な宝石のような物が埋め込まれている。
そして瞳孔の開ききった右目。
すこし白く濁っている。
ルリの方を見ていない。
「アキトさん・・・まさか」
「・・・奴らに頭の中をいじられてね。これが無いと何も見えないんだよ」
そう言ったアキトは昔のような穏やかな口調になっていた。
「・・・奴らって?・・・、まさかあの時の」
それには何も答えないアキト。
「ミスター、俺の部屋は?」
バイザーを着けながらプロスに問いかけるアキト。
「ご案内します」
そう言って歩き出すプロス。
ルリに背中を向けて歩き出すアキト。
「ま、待ってください!昔みたいに笑ってください、ルリちゃんって呼んでください。昔みたいに私にラーメンを作ってください!」
ルリが泣き叫ぶ。
その言葉にピクリとするアキト。
「お願い、アキトさん!テンカワラーメン、また作ってください!」
その言葉に振り返らずに答えるアキト。
低く冷たい声。
今までルリが聞いたことのない声。
「君の知っているテンカワアキトは死んだ」
そう言ってそのままブリッジを出ていく。
「アキトさん!」
急いで後を追おうとするルリ。
そんなルリの前に立ちはだかるラピス。
「これ以上アキトを傷つけないで」
「どいて!」
「嫌、あなたはアキトを傷つける。アキトはいつもあなたのことを考えてた。でもあなたのことを考えるたびにアキトの心は傷付いていく。もうこれ以上アキトに近付かないで」
必死に言うラピス。
「あなた、アキトさんの何?」
「私はアキト目、アキトの耳、アキト手、アキトの足、アキトの・・・アキトの・・・。アキトは私の全て。私の全てはアキトの物・・・」
そう言ってしばらく向かい合っている。
そのうち思い出したようにアキトの後を追うために身を翻すラピス。
ラピスが居なくなるとその場に崩れ落ちるルリ。
「うう・・・アキトさん・・・」
ミナトはそんなルリを抱きしめる事しかできなかった。
つづく
<あとがき>
こんにちは、ささばりです。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
ついにルリとアキトが再会しました。
ただアキトは変わっていました。
今後この2人はどうなるんでしょうか。
がんばって書かないと・・・。
それでは続きをお楽しみに。
艦長兼司令からの発艦指令(?)
・・・・ヤバイ。
マジでヤバイ。
早い、早すぎるよ!(笑)
なんか前回も同じ様なこと言った気がしますが(笑)
さて、いよいよ面白くなってきましたな。
この先どーなるんでしょう?
さあ、次を待つのが楽しみだ♪
あ、それと。
ささばりさんは今回の投稿で航空中佐に昇進してもらいます(笑)
艦艇の貸与をして、作品群はそちらに移しますので・・・・希望艦名等をお知らせ下さいな。
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