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妖精の守護者  第6話


 

 

 

 

 

「どいて!」

 

「嫌、あなたはアキトを傷つける。アキトはいつもあなたのことを考えてた。でもあなたのことを考えるたびにアキトの心は傷付いていく。もうこれ以上アキトに近付かないで」

 

必死に言うラピス。

 

「あなた、アキトさんの何?」

 

「私はアキト目、アキトの耳、アキト手、アキトの足、アキトの・・・アキトの・・・。アキトは私の全て。私の全てはアキトの物・・・」

 

そう言ってしばらく向かい合っている。

そのうち思い出したようにアキトの後を追うために身を翻すラピス。

ラピスが居なくなるとその場に崩れ落ちるルリ。

 

「うう・・・アキトさん・・・」

 

ミナトはそんなルリを抱きしめる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


妖精の守護者

第6話「家族」

BY ささばり


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ここは何処だ、何でこんな事に。どうして・・・)

 

「どうした、テンカワアキト。早くジャンプして逃げなければ喰われてしまうぞ」

 

半球状の部屋の中。

ガラス窓の外から白衣を着たたくさんの人間達が覗いている。

その中にいる人物を。

テンカワアキト。

 

「よ、寄るな・・・来るなよ・・・シッ、シッ」

 

アキトの正面には猛獣。

虎。

その口からよだれを垂らしながら近寄ってくる。

 

「テンカワ君、早くしないと本当に喰われちゃうよ」

 

白衣を着た内の1人が言う。

 

「そんなの出来るわけないじゃないか!それより出してくれ、頼むよ!」

 

懇願するアキトをあざ笑う白衣の面々。

そうしている内にも少しずつ近付いてくる猛獣。

 

「よ、よせ・・・やめろ。・・・や」

 

その瞬間飛びかかる虎。

とっさに左腕を出すアキト。

グシャ!

 

「ウワアアアァァァァ!」

 

アキトの左腕に噛み付いた虎はそのままアキトを振り回す。

その腕を引きちぎるかの様に。

ゴリゴリ!

牙が骨をかみ砕く。

吹き出している血。

赤い。

 

(どうして、どうして俺が・・・)

 

ブチブチ!

引きちぎられる筋肉や血管。

次の瞬間腕を噛みちぎられ振り飛ばされるアキトが居た。

ドン!

床に叩き付けられる。

息が詰まる。

左腕の感覚がない。

何とか顔を上げるアキト。

虎。

アキトの左腕をくわえた虎がゆっくりと近付いてくる。

 

(・・・よせ・・・)

 

ゆっくりと。

 

(・・・くるな・・・)

 

近付いてくる。

 

(・・・どうして・・・)

 

虎。

 

(・・・助けて・・・)

 

そして。

奴が飛びかかってきた。

 

「ウワアアアァァァー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバ!

勢い良く起き上がるアキト。

真っ暗な部屋。

汗でびしょ濡れになった体。

バイザーの位置を直す。

 

「大丈夫?アキトまた魘されてた」

 

ラピス・ラズリ。

アキトの横、ベットの上に座って心配そうにアキトを見ている。

 

「ねえ、大丈夫?また怖い夢を見たの?」

 

「ここは・・・そうか、ナデシコか・・・くそ、毎晩毎晩!」

 

「ねえアキト、大丈夫?」

 

心配そうにアキトを見ているラピス。

そんなラピスに優しく声をかけるアキト。

 

「心配かけたね、もう大丈夫」

 

そう言って立ち上がるアキト。

下着以外何も身につけていない。

鍛え抜かれた肉体。

大小様々な傷跡のある肉体。

特に左腕。

義手。

生活には全く支障はないが。

そのままシャワールームに行くとシャワーを浴びる。

実際アキトが救出されてから魘されなかった夜など数えるほどしかなかった。

必ずあのおぞましい実験の数々がよみがえってくる。

憎い奴らの顔が。

左腕を押さえて壁に寄りかかるアキト。

痛みは感じないはず。

度重なる過酷な実験の後遺症で痛覚が駄目になっているから。

なのに、感じる。

 

「傷が・・・傷が疼くんだよ。・・・北辰!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとどれくらいかかりそうなの?」

 

そう言ったのはナデシコ艦長、ミスマル・ユリカ。

機動戦艦ナデシコはここ数日停滞を余儀なくされていた。

原因はサツキミドリから避難してきたアマノ・ヒカルが乗っていた救命ポッド。

それがディストーションブレードを直撃し修理に思いの外手間取ってしまっていたのだ。

 

「ウリバタケさんの話ではあと2日はかかるそうです」

 

そう言ったのはオペレーターのホシノ・ルリ。

 

「ねえルリちゃん。アキトの噂聞いた?」

 

そう言うユリカ。

 

「私はあんな噂信じません。アキトさんが、その・・・ロリコン・・・だなんて」

 

そう答えたルリは少し恥ずかしそうだった。

そう、今この艦ではアキトに関するとんでもない噂が流れていた。

 

”テンカワアキトはロリコン”

 

ブリッジでのラピスの言動やアキトとラピスが同じ部屋に住んでいて、さらには血の繋がりも無いというのならそんなうわさが立っても不思議ではない。

さらにはラピスと一緒に寝ているという噂まである。

実際のところ事実ではあるが。

肝心のアキトはそんな噂全く気にしてないようだ。

 

「良いの、アキトは私が正常に戻してあげるんだから。あんな子供より私の方がいいに決まってるんだから」

 

そう言って息巻いているユリカ。

そんなユリカを見ながら別のことを心配しているルリ。

 

(アキトさん、一体何があったの?)

 

アキトがナデシコに来てから、ルリとアキトは何度も会っている。

だが必要最低限のことしか言わない。

まるでルリを避けているかのように。

そしてルリがもっとも気になっていること。

とても美味しいと評判のナデシコ食堂。

その噂はアキトの耳にも入っているはずなのだ。

それなのに1度も来てないらしい。

料理好きで自らもコックのアキトが食べに来ないのはおかしい。

 

(アキトさん、どうして食堂で食べないのかな?部屋で自炊してるのかな?)

 

それに一度もアキトの笑顔を見ていない。

ルリの好きだった笑顔を。

 

(どうして笑ってくれないの?どうしてルリちゃんって呼んでくれないの?どうして私を避けるの?)

 

考えていても何も浮かばないルリ。

思い切って聞いてみる。

友達に。

 

「ねえオモイカネ、アキトさんに何があったの」

 

それに答えるのはAIオモイカネ。

 

「テンカワアキトがこの艦に乗ってからその質問が48回。答えは同じです」

 

そう表示されるディスプレイ。

 

「それでも良い、お願い」

 

そして映し出された情報。

今まで何度も見てきた情報。

そのまま下にスクロールさせていく。

そこでピタリと止まる。

 

(どうして今まで気付かなかったんだろう、・・・私、バカ?)

 

アキトはラピスの保護者だけではなくルリの保護者にもなっていたのだ。

アキトの両親が死んで生き残った息子が成人している。

そのままルリの保護者と言うことで登録されていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるな!一緒に住むだと!」

 

珍しく感情をあらわにするアキト。

その顔に緑の奔流が浮かぶ。

それを見て驚くルリ。

 

「!!・・・アキトさん、それ・・・」

 

「クッ」

 

そういってルリに背を向けてしまうアキト。

見せたくなかった。

ルリには、今のこんな姿を見られたくなかった。

 

「気が高ぶると浮かぶんだ、マンガだろ」

 

沈んだようなアキトの声。

そんなアキトに言葉を失うルリ。

 

(どうして・・・誰がアキトさんをこんなに・・・)

 

「とにかく駄目だ。同居なんて」

 

そう言うアキト。

それを聞いてプロスペクターが動く。

調停のプロ。

アキトですら彼には一目置いている。

 

「しかしテンカワさん、あなたはルリさんの保護者になっているわけですし。家族が1つの部屋に住んではいけないという規則はありませんよ」

 

「しかし、ミスター・・・」

 

「それともテンカワさんはルリさんを捨てるのですか・・・ルリさんの養父母のように。彼女にまた悲しい思いをさせるのですか?」

 

その言葉にピクリとするルリ。

ルリは俯いてしまった。

そんなルリに目を向けるアキト。

 

(ルリ・・・俺は・・・)

 

ゆっくりと息を吐くアキト。

 

「・・・わかった・・・勝手にしろ・・・」

 

そう言うとその場から逃げるように立ち去っていく。

その言葉を聞いて明るい顔をするルリ。

 

「ありがとう、プロスさん!」

 

そう言うと急いでアキトの後を追う。

そんなルリの後ろ姿を見ているプロス。

顔が少しゆるむ。

 

「良かったですね・・・ルリさん」

 

そう言うとアキトやルリが出ていったドアとは逆の方に歩き出す。

そして呟く。

 

「・・・でも・・・辛いですよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってください、アキトさん」

 

アキトの後を追って小走りに駆けていくとその横に並ぶルリ。

 

「あの・・・怒ってますか?」

 

少し心配そうに聞くルリ。

 

「・・・別に・・・」

 

感情のこもってないアキトの声。

 

「あの、これからすぐに引っ越しても良いですか?」

 

「・・・好きにしろ・・・」

 

そんなアキトの返事に少しムッとするルリ。

だが何も言えない。

そのまま黙って付いて行く。

しばらくしているとアキトの部屋に着いた。

 

「・・・入れ・・・」

 

そう言うとさっさと入っていってしまうアキト。

その後を追うルリ。

 

「お帰り、アキト」

 

そう言っていきなりアキトに抱きつくラピス。

そのラピスの頭を撫でているアキト。

唖然としているルリ。

そんなルリを見つけてアキトとの間に割り込むラピス。

物凄い目でルリを睨んでいる。

 

「やめるんだ、ラピス」

 

そう言ったアキトに不思議そうな顔をするラピス。

 

「どうして?」

 

「今日からここに住むんだよ、今日からルリも・・・家族なんだよ」

 

一瞬躊躇ってから家族という言葉を口にしたアキト。

 

「家族?」

 

何か考えるラピス。

 

「そう、家族だ。わかるなラピス、ルリも今日から家族なんだぞ」

 

「ルリ・・・家族?私の・・・家族?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「・・・うん、わかった」

 

そう言ったラピスの頭を撫でるとルリに声をかける。

 

「そこの棚にスペアのキーが入っている。後部屋はそっちの個室が空いてるからそこを好きに使え」

 

「は、はい。それじゃあアキトさん、私は荷物を取ってきますから」

 

そう言って部屋を出ようとするルリ。

 

「まてルリ、ラピスを連れてってくれ。俺は用があるから少し出かけるから」

 

そう言ってラピスをルリの方に押すアキト。

ラピスは少し戸惑っている。

ラピスは今までアキトの中の記憶を何度と無く見てきたのだ。

だから知っている。

そこにあった暖かさを。

家族という名の暖かさ。

それが心地良い物だということを知っているから。

だが相手はルリ。

アキトを傷つける。

アキトを傷つける存在が暖かい存在。

どうしたら良いかわからない。

そんなラピスに笑いかけるルリ。

 

「じゃあ、行きましょう。・・・ラピス」

 

そう言ったルリの顔をじっと見つめる。

自分と同じ金色の瞳。

そこにある温かさを感じる。

 

「・・・うん、ルリ」

 

そう言ってルリと手をつなぐと2人は出ていった。

後に残ったのは闇を纏った男。

復讐人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・家族だと・・・この俺が家族なんて言葉を使うのか・・・」

 

暗闇のなかテンカワアキトは1人呟く。

 

「・・・ルリ・・・」

 

ずっと逢いたかった少女。

 

「俺はこの状況を歓迎している?ルリと一緒にいたいと思っている?」

 

自己嫌悪。

 

「・・・ルリまで、巻き込むつもりか?・・・」

 

苦悩。

 

「だが、復讐が終わるまでは・・・やめる訳にはいかない」

 

そう言って部屋を出ていこうとする。

その時。

キイイイィィィィィィン!

突然頭が割れるように痛くなる。

顔に物凄い量の緑の奔流が浮かぶ。

頭を押さえるアキト。

 

「グッ・・・グアァァァー」

 

部屋に誰も居なくて幸いだった。

定期的に襲ってくる頭痛。

ラピスには最近はおさまってきたと嘘を付いていた。

実際はその間隔は頻繁になり、苦痛も増してきた。

 

「クッ・・・たまに・・・感じると思えば・・・こんな痛みか・・・クソ!」

 

そう言ってなんとか自分のデスクに這っていくとそこから注射器を取り出す。

トリガーを引き中の薬物を一気に注射する。

頭を押さえ苦痛に耐えるアキト。

徐々に薬が効いてくる。

デスクに掴まりながら何とか立ち上がる。

アキトの脳裏にあの男の顔が浮かぶ。

嘲笑うかの様な笑み。

赤き瞳。

 

「・・・まだだ、まだ終われない・・・」

 

 

 

 

 


つづく


 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

今回も最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。

復讐に生きると決めたアキト。

しかし彼の心は揺れ動いています。

本当にこれで良いのかと・・・。

そんな部分を少し書いてみました。

次はどんな展開になるのか。

では第7話をお楽しみに。

 




艦長兼司令からの発艦指令(?)

さて、ささばりさんに艦が貸与されました。

その名も「木馬」
相転移動力空母です(爆)

察しのイイヒトはその通り。
わかんない人は某赤い彗星さんに聞いてみましょう(笑)

ささばりさん、これからもよろしく。

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