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妖精の守護者  第7話


 

 

 

 

 

「クッ・・・たまに・・・感じると思えば・・・こんな痛みか・・・クソ!」

 

そう言ってなんとか自分のデスクに這っていくとそこから注射器を取り出す。

トリガーを引き中の薬物を一気に注射する。

頭を押さえ苦痛に耐えるアキト。

徐々に薬が効いてくる。

デスクに掴まりながら何とか立ち上がる。

アキトの脳裏にあの男の顔が浮かぶ。

嘲笑うかの様な笑み。

赤き瞳。

 

「・・・まだだ、まだ終われない・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


妖精の守護者

第7話「火星の生存者」

BY ささばり


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした、こんな所で」

 

「え?」

 

そう言ってメグミ・レイナードは振り向いた。

ここは展望室。

辺りには美しい景色が映し出されている。

メグミは膝を抱えるようにして1人で座っていた。

その背後から声がかかった。

テンカワ・アキト。

黒いバイザーを着けているのでその表情は読みとれない。

 

「どうした、悩み事か?」

 

「え?」

 

アキトの口からそんな言葉が出るとは思わなかったので驚くメグミ。

普段アキトとはほとんど話したことがない。

氷のような雰囲気。

それがメグミは嫌いだった。

だが今のアキトにその雰囲気がない。

そのせいもあってゆっくりと口を開くメグミ。

 

「みんな何も感じないのかなって、少し前まで普通に交信してたのに。それが・・・」

 

黙って聞いているアキト。

 

「テンカワさんはどうなんですか?何とも思わないんですか、人がたくさん死んだんですよ」

 

何かを訴えかけるメグミ。

 

「別に・・・戦争で人が死ぬのは当たり前だ」

 

「そ、そんな!」

 

「・・・お前が乗っている艦は何だ?」

 

その質問の意味が分からないメグミ。

 

「・・・お前は戦艦に乗っているんだぞ。戦艦なんて物は戦ってこそその存在価値がある物なんだ。それが嫌ならこの艦を降りるべきだな。居ても辛いだけだぞ」

 

そんなアキトの言葉に激昂するメグミ。

 

「そんな・・・それじゃみんな戦いが好きでこの艦に乗っているって言うんですか!」

 

「そうは言っていない。ただ戦いが好きだという事と戦えるということは別の事だと言っているんだ」

 

「え?」

 

「艦長は今葬式に追われている。なぜかわかるか?・・・それが今の艦長に出来る唯一のこと、死者への手向けだからだ。今ルリが何をしているかわかるか?木星蜥蜴からしつこいほどの威嚇射撃が来ているがこの艦のフィールドなら損害を受けるようなことはない。それなのに気を抜かずにいる。なぜだかわかるか?」

 

「・・・」

 

何も答えないメグミにさらに言葉を続けるアキト。

 

「・・・そうする事で皆を護ることが出来るから。そうしなければ何時このナデシコがサツキミドリの様になるかわからない。だからルリはルリに出来ることをする。皆自分に出来ることをしている、何かを護るために・・・。直接相手を傷つけることだけがが戦いではない。何かを護るためにも戦うことは必要だ」

 

黙ってアキトを見つめているメグミ。

今までの冷たい印象のアキトとは違う。

 

(アキトさんはそんな人じゃありません!)

 

アキトの悪口を言っていた職員達にルリがそう言ったのを聞いていたメグミ。

その時はルリがなぜそんなことを言うのかわからなかった。

だが今ならわかる。

冷たいような言葉に隠された優しさ。

それがアキトの本質なのかもしれない。

 

「・・・メグミ・レイナード・・・」

 

今まで聞いたことのないアキトの優しい声。

そんなアキトを見つめるメグミ。

 

「・・・君はこんな所で何をしているんだい・・・」

 

その言葉を聞いて勢い良く立ち上がるメグミ。

 

「ありがとうございます!」

 

「気にするな」

 

「・・・」

 

じっとアキトを見つめるメグミ。

 

「何だ?」

 

「あ、あの、アキトさんって呼んでも良いですか?」

 

「・・・フ、好きにしろ・・・」

 

そう言って少し笑ったアキトの顔がなぜか魅力的に見えたメグミ。

何となく赤くなるメグミ。

その時。

ドーン!

物凄い衝撃に揺れるナデシコ。

あまりにも激しい揺れに倒れそうになるメグミを抱き留めるアキト。

すぐに警報が鳴る。

揺れがおさまるとメグミを放すアキト。

顔を真っ赤にしているメグミ。

 

「・・・さあ、行くんだ・・・自分に出来ることを・・・」

 

「はい!」

 

そう言って部屋を出ていくメグミ。

1人残されたアキト。

自嘲気味に笑う。

 

「・・・自分に出来ること・・・か・・・」

 

そんな呟きを残し部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アキトさん、今どこですか。直ちに発進してください』

 

そう言ってアキトの目の前に開くウィンドウ。

そこに映し出されたホシノ・ルリの顔。

 

「今ブラックサレナに乗り込むところだ・・・状況は?」

 

『あ、はい。現在敵戦艦と交戦中、エステバリス隊はバッタ・ジョロたちと交戦中です。あ、後今回から山田さんがエステバリス隊に復帰しています』

 

「・・・わかった・・・すぐに出る・・・」

 

そう言って無理矢理通信を切るアキト。

コックピットに乗り込む。

 

「無人兵器か・・・木連にいた頃が懐かしいな」

 

そう言っているとまた通信ウィンドウが開き今度はメグミが現れる。

 

「・・・どうした・・・」

 

『あ、あの、がんばってくださいね』

 

「・・・ああ・・・テンカワアキト、ブラックサレナ出るぞ!」

 

そう言ってナデシコを発進する。

死神。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソー、バリアが邪魔で近寄れねー」

 

エステバリス隊は敵戦艦のフィールドが強力で攻撃することが出来なかった。

 

「おれにまかせろ!ガイ、スーパーナッパー!!!」

 

そう言って攻撃するダイゴウジ・ガイ。

本名ヤマダジロウ。

だがフィールドではじき飛ばされる。

そうしている内に周囲を敵無人兵器に囲まれてしまうエステバリス隊。

 

「やばい、かこまれた!」

 

エステバリス隊リーダー、スバル・リョーコが気付く。

だがすでに退路はない。

 

「どうする・・・」

 

リョウコがそう言った時。

 

『・・・迂闊だぞ、スバルリョーコ・・・』

 

そんな声が聞こえたと思うといきなり爆発する敵機。

 

「な、なんだ!どうしたんだー!」

 

いきなりの事で驚くガイ。

 

「嫌な奴がきたぜ」

 

そう毒を吐くリョーコ。

あっという間にリョーコ達を取り囲んでいた敵機が撃ち落とされていく。

そしてその場に到着するブラックサレナ。

両腕にカノン砲を装備している。

 

「今頃何しに来やがった、テンカワ」

 

そう言ってアキトに噛み付くリョーコ。

そんなリョーコを無視して言う。

 

「お前らはバッタどもを片付けていればいい。あの戦艦は俺が引き受ける」

 

そう言うとすぐに動き出すブラックサレナ。

戦艦との間に出てくる多数の無人兵器。

それを的確な射撃によって撃ち落としていくブラックサレナ。

すぐに戦艦に肉薄する。

 

「バカ、そいつのフィールドは・・・」

 

誰かの警告。

だがそんな事にはお構いなしのアキト。

ブラックサレナの右腕が後ろに隠れる。

次に現れたときその腕には剣のような物が握られていた。

 

「・・・終わりだ・・・」

 

そう言って正面から戦艦につっこむ。

先程ガイのエステバリスをはじき返したフィールドをいとも容易く貫く。

そのまま敵戦艦を斬りつける。

さらに離れ際に左腕のカノン砲で艦橋を撃ち抜く。

爆発する敵戦艦。

 

「・・・ス、スゲー・・・でも・・・」

 

何とか言葉を絞り出すリョーコ。

他の面々は言葉もない。

まさに圧倒的。

 

「・・・さてと、残りも片付けるか・・・」

 

再び動き出す。

死神が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スゲーじゃねえか、テンカワ」

 

エステバリスを降りた後アキトに話しかけるリョーコ。

コーヒーの入ったカップを差し出しながら。

それを黙って受け取るアキト。

 

「その・・・今まで悪かったな。よく考えればお前は命の恩人なのにな」

 

横を向いて照れくさそうに言うリョーコ。

 

「・・・気にしていない・・・」

 

そう言うアキト。

 

「そ、そうか。悪いな」

 

そう言って黙る。

無言でコーヒーを飲むアキト。

そんなアキトをチラチラと見るリョーコ。

何かを決心したかの様にアキトに話しかける。

 

「・・・なあテンカワ・・・」

 

「・・・何だ?・・・」

 

「俺には・・・お前の戦い方、死にたがっているようにしか見えない。・・・気のせいか?」

 

同じパイロットとして何か感じたのだろう。

リョーコがアキトに心配そうな目を向ける。

アキトは飲み終わったカップを握りつぶすとそのままくずかごに放る。

そのまま立ち去ろうとする。

 

「お、おいテンカワ・・・」

 

足を止めるアキト。

だが振り向かない。

 

「俺はまだ死ぬわけには行かない」

 

そう言って立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリッジ。

メインクルーが集合している。

 

「はい、ネルガルの研究所ならシェルター並の作りですからね。生存者がいるとしたらそこしかないと思います」

 

「それじゃあ調査隊を編成しよう」

 

そうして誰がネルガル研究所に行くか決めている。

 

「悪いが俺ははずしてくれ」

 

「テンカワお前何勝手なこと言ってんだ。研究所で助けを求める人達、それを助ける俺達。くー、これで燃えなきゃ男じゃねえ!」

 

そう言ったのはダイゴウジ・ガイ。

本名ヤマダ・ジロウ。

 

「くだらないな、ヤマダ」

 

そう言ったのはアキト。

心なしか棘がある口調。

 

「俺はガイだ!それにお前は正義を信じねえとでも言うのか!!この熱い魂の叫びを!!」

 

だがそんなガイに言ったアキトの言葉は冷たかった。

皆背筋が凍る。

 

「・・・正義?知らないな・・・」

 

「アキトさん?」

 

アキトの言葉に何かを感じ取ったルリ。

黙ってガイを睨んでいるラピス。

 

「それでアキトはどうするの?」

 

そう聞いたのは艦長のミスマル・ユリカ。

事有る毎にアキトにちょっかいを出そうとしてルリとラピスに阻まれている。

 

「ユートピアコロニーに行く」

 

静かに言うアキト。

その言葉にはっとするルリ。

ユートピアコロニー。

ルリがアキトやその両親と住んでいたところ。

そのはずれに研究所跡がある。

忌まわしい研究所。

 

「わかりました。良いですよ」

 

そう言ったのはプロスペクター。

アキトの事情を知っている数少ない人物。

 

「ただし何かあったときはすぐに戻ってきてくださいね」

 

「ああ、連絡してくれればな」

 

そう言ってブリッジから出ていくアキト。

 

「オモイカネ、後お願い!」

 

そう言って急いでアキトの後を追うルリとラピス。

その様子を唖然としてみていたクルー達。

止める暇もなかった。

 

「やれやれ、ルリさんにも困ったものですね」

 

そんなプロスペクターの呟きが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究所跡。

ブラックサレナから降りた3人。

アキト、ルリ、ラピス。

 

「ここは変わってませんね。あの時のまま」

 

そう言うルリ。

 

「ここがアキトとルリの故郷?」

 

ルリを見ながらたずねるラピス。

 

「うん、私はともかくアキトさんにとってはね」

 

「ふーん、アキト・・・アキト、どうしたの?」

 

アキトの顔には緑の奔流が浮かんでいた。

 

「アキトさん、どうしたんですか?」

 

(テンカワアキト)

 

「アキト、どうしたの?」

 

(汝らに我らの研究のモルモットになってもらう)

 

「どうしたんですか、アキトさん!」

 

(汝らの運命すでに我が手にあり)

 

「駄目、アキト!あいつの事を考えちゃ駄目!駄目だよアキト!」

 

そう言ってアキトの右腕にしがみつき必死にアキトに呼びかけるラピス。

ルリもアキトの左腕にしがみつく。

が、すぐに放してしまう。

 

「冷たい・・・な、何?」

 

だがその事を考える暇もなくラピスと共にアキトに呼びかける。

 

「アキトさん、どうしたんですか!お願い、しっかりして!」

 

(我が名は北辰)

 

「・・・・ろす・・・」

 

「「え」」

 

アキトの声が聞こえてハッとするルリとラピス。

その冷たい声に。

 

「・・・殺す・・・」

 

そんなアキトの言葉に必死に呼びかけるラピス。

 

「駄目アキト!負けちゃ駄目だよ!」

 

そう言ってラピスがアキトに抱きついたとき3人の足下が崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チィ!」

 

瞬時に覚醒したアキトは両側にいるルリとラピスの襟首を掴むとそのまま穴の外に放り投げる。

そしてすぐに下を見るアキト。

バイザーの暗視機能が働く。

床までの距離はおよそ6メートル。

ストン。

難なく降り立つ。

そして正面に立っている人影に視線を向ける。

隙は見せない。

アキトにとっては一瞬でもあれば殺せる距離。

油断もしない。

そんなアキトに対してその人影が言葉を発した。

女性の声。

 

「ようこそ・・・火星へ」

 

 

 

 

 


つづく


 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

少しだけ優しさを見せるアキト。

彼を蝕んでいるトラウマ。

そして火星で出会う女性。

この出会いがアキトにどう影響を与えるのか。

頑張って書きますので・・・。

それでは次回をお楽しみに。

 



艦長兼司令からのあれこれ(笑)

えーと、艦長です。

今回の第一印象は・・・・「アキトは実はおっさんなのでは?」でした(爆)
彼ぐらいの年齢であーゆーセリフは普通出てきませんよ(笑)

ま、それなりの過去があるからね。

順調にメグミも落としてるし(爆)

・・・・正直に言わせてもらっていいですか?(笑)

私、メグミ好きじゃないんです。
なんでだろ?
なんとなく、としか答えようがないんですが(笑)

次回も期待してまふ。


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