妖精の守護者  第8話


 

 

 

 

 

「チィ!」

 

瞬時に覚醒したアキトは両側にいるルリとラピスの襟首を掴むとそのまま穴の外に放り投げる。

そしてすぐに下を見るアキト。

バイザーの暗視機能が働く。

床までの距離はおよそ6メートル。

ストン。

難なく降り立つ。

そして正面に立っている人影に視線を向ける。

隙は見せない。

アキトにとっては一瞬でもあれば殺せる距離。

油断もしない。

そんなアキトに対してその人影が言葉を発した。

女性の声。

 

「ようこそ・・・火星へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


妖精の守護者

第8話「火星からの脱出」

BY ささばり


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歓迎すべきかせざるべきか。まあ何はともあれコーヒーくらい出すわよ」

 

そう言ったのは謎の人物。

目深にかぶったフード付きマント。

バイザー。

その顔はまったく見えない。

女性の声。

 

「コーヒーはいらん、顔を見せろ」

 

そう言ったのはテンカワ・アキト。

微かに口元を歪めている。

 

「・・・さもなくば、殺す」

 

淡々と語るアキト。

だがその全身からは殺気がみなぎっている。

 

「ほ、本気のようね・・・」

 

やや怯えながらフード付きのマントを脱ごうとする女。

その時天井の穴から声がかかった。

 

「アキトさーん、無事ですかー?」

 

「アキトー、平気ー?」

 

ホシノ・ルリにラピス・ラズリ。

アキトが返事をする前に謎の人物が声を出す。

 

「アキト・・・あなた、テンカワアキト君?」

 

「・・・」

 

何も答えないアキト。

そんなアキトの目の前でマントのフードをはずしその目を覆っていたバイザーをはずす。

 

「私よ、アキト君。忘れたの?」

 

その顔を見て珍しくアキトがうろたえる。

 

「・・・イネス・フレサンジュ・・・生きていたのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここには火星のあちらこちらから逃げてきた人達が隠れているの」

 

そう言ったのはイネス。

ここはアキトが落ちた場所。

アキトはルリ達にブラックサレナに戻っているように言うとイネスに案内されてここに来た。

 

「ところでアキト君。こんな所に何しに来たの?」

 

「俺は戦艦ナデシコに乗ってここに来た。イネスさん、あなたも来るといい」

 

「そうね」

 

そう言うとアキトのことをじっと見つめるイネス。

 

「・・・なんだ?」

 

「アキト君、あなた本当にテンカワアキト?」

 

「どういう意味だ」

 

「私の知っているアキト君とは全然違うわよ、あなた」

 

「俺はテンカワアキトだ。だがあなたの知っているテンカワアキトはすでに死んだ」

 

「どういうこと?」

 

イネスがそう言ったとき地面が揺れる。

アキトのコミュニケが開く。

そこにはルリの顔が映っていた。

その横から割り込むようにラピスも顔を出す。

 

「アキトさん、ナデシコが来てます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこの艦では木星蜥蜴には勝てんと?」

 

そう言ったのは提督、フクベ・ジン。

ここはナデシコのブリッジ。

アキトの連れてきたイネスは、ナデシコでは木星蜥蜴には勝てないからこの艦に乗る気はないと言った。

 

「そうよ、ナデシコの基本設計をしたのはこの私。だからわかる、この艦では木星蜥蜴には勝てない」

 

「しかしレディ、現に我々はここまで勝利してきた」

 

そう言ったのはゴート・ホーリー。

だがそんな言葉など歯牙にもかけないイネス。

 

「あなた達は一体どれだけ木星蜥蜴の事を知っているの?そんな何も知らない人達の動かしている艦に乗るつもりはない。私も死にたくはないからね」

 

「大丈夫、俺達は正義だ!正義が必ず勝つことは間違いない!!」

 

そう言ったのはダイゴウジ・ガイ。

本名ヤマダ・ジロウ。

その発言に呆れるイネス。

 

「あなた・・・正気?」

 

「オウ!」

 

思いっきり胸を張って答えるガイ。

だが。

 

「正義などで戦争に勝てたら苦労しない」

 

そう言ったのはアキト。

 

「何だとテンカワ!」

 

アキトにくってかかる。

 

「アキト、アキトならわかるよね。ナデシコなら木星蜥蜴に負けないって」

 

ガイがアキトにくってかかるのを遮るように艦長ミスマル・ユリカがいう。

 

「・・・」

 

「アキトはこのナデシコの誇るエースパイロットだし。だからアキトならわかるよね」

 

ユリカの言葉を聞いて皆がアキトに注目する。

ユリカの問いには答えないアキト。

そんなアキトの方を向くイネス。

 

「アキト君、あなたならわかるはずよ。こんな艦だけでは木星蜥蜴には勝てない。特に大気圏内では。そうでしょ・・・テンカワアキト博士」

 

「「「「ええー!」」」」

 

イネスの言葉を聞いて叫び声を上げる面々。

皆アキトが博士号を持っていると言うことは知らなかったようだ。

だがそんなことは無視してアキトが口を開く。

その言葉はユリカの望んでいた言葉ではなかった。

 

「俺もイネスさんに同意見だ。お前らは木星蜥蜴について知らなすぎる」

 

「そんな、アキト・・・」

 

その時警報が鳴りだした。

すぐにルリが報告する。

 

「前方から大型戦艦5、その他多数。なおも増大中」

 

「さてどうする、ナデシコ」

 

そのイネスの言葉に反応するようにユリカが指示を出す。

 

「グラビティーブラスト・フルパワー」

 

『グラビティーブラスト・フルパワー』

 

ハルカ・ミナトが復唱する。

 

「グラビティーブラスト発射」

 

ユリカのその言葉と同時に放たれるグラビティーブラスト。

一直線に敵艦隊に向かう重力波砲。

爆発が起こり敵戦艦達を包む。

 

「やった!」

 

誰かの声。

皆信じて疑わなかった。

今の一撃で勝負がついたと。

やはり木星蜥蜴など敵ではないと。

だが・・・。

 

「いや、まだだ」

 

そう言うアキト。

その言葉の通り、爆炎の中から姿を現す敵戦艦。

皆言葉を失う。

 

「敵もディストーションフィールドを持っているのよ、お互い一撃必殺とはいかないわ」

 

「クッ、なら効くまで撃つだけです」

 

「無理だ、こんな大気中で何度も撃つには時間がかかりすぎる」

 

そう言ってユリカを見ているアキト。

 

「さすがね、アキト君。さあどうするの」

 

「敵、本艦の上方に回り込みつつあります。重力波感知」

 

ルリの報告。

その報告にすぐにユリカが反応する。

 

「ディストーションフィールド全開」

 

「待ちなさい、この下には何人もの人達がいるのよ。あなたはそれを殺すつもり」

 

イネスが言うとユリカはまた別の指示を出す。

 

「上昇しつつフィールド全開」

 

「ごめーん。一度着陸しちゃうと少し時間がかかるのよ」

 

そう報告するミナト。

 

「さあどうする。下にいる人間達を潰してフィールドを張るか、それともこのまま木星蜥蜴にやられるか」

 

イネスの言葉に何も言えなくなるユリカ。

アキトがフクベの方を向いて言う。

 

「提督、ユリカにこの決断は無理だ。すぐにフィールドを張るように命令を」

 

「でもアキトさん、この下にはたくさんの人が・・・」

 

そんなルリの言葉を遮るアキト。

 

「かまわん、見ず知らずの人間のために死んでやる義理はない」

 

「テンカワ、テメーには正義はないのか!助けを求めている人達を犠牲にするっていうのか!」

 

そう言ってアキトの胸ぐらを掴もうとするガイ。

だがその腕をつかみ瞬時に極めるアキト。

 

「ならお前はその正義とやらでこの艦の人間を皆殺しにするつもりか」

 

そんなアキトの言葉に誰も反論できなくなる。

その時ユリカの声が聞こえた。

 

「・・・フィールド全開・・・」

 

瞬時に実行される命令。

潰れる地面。

そこにいた何十人という人達と共に。

皆その映像を見ている。

誰も目が離せない。

すぐに襲ってくる衝撃波。

 

「この砲撃、たとえどんな艦があったとしても火星は木星蜥蜴には勝てなかった」

 

「ああ・・・たとえフィールドを張らなかったとしても、下の人間達は助からなかっただろう」

 

イネスとアキトはその光景を見ながら呟くように言った。

光の雨が地上に降り注ぐその様。

誰しも目を奪われた。

この死の光景に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「開いてるわよ、入って」

 

イネスがそう言うとドアがスライドして男が入ってくる。

テンカワアキト。

 

「久しぶりですね、イネスさん。」

 

そう言うアキトの顔は何となく穏やかに見えた。

 

「そうね、アキト君。でもあなたずいぶん変わったのね。昔とは・・・」

 

2人の距離が近付く。

アキトにしては珍しいほど他人に気を許している。

 

「それで、頼み事って何?」

 

イネスの言葉に顔を引き締めるアキト。

 

「俺の体を調べて欲しい。俺が・・・後どれくらい生きられるのか」

 

「どういうこと?」

 

「とにかく調べて欲しい。皆には内緒で」

 

「・・・どうやらあなたが変わってしまったのと関係有るようね。いいわ、ただし報酬がいるわ」

 

「俺の体か?」

 

さらっと言うアキトに半ば呆れるイネス。

 

「あなたホントにアキト君?昔の君はそんなこと言わなかったわよ」

 

「昔は昔、今は今だ。それより報酬は?」

 

「ラーメンよ。テンカワラーメンが食べたいわ。なんせあそこに隠れていてろくな食事もしてなかったから」

 

イネスは実はテンカワラーメンの常連客だった。

そして子供の頃のアキトに勉強を教えた家庭教師でもある。

正確には一緒に勉強したと言うべきか。

 

「・・・」

 

アキトは何も答えなかった。

イネスはその沈黙を了解と取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでもまだラーメンを作って欲しいか?」

 

そう言ったアキト。

その言葉に感情はない。

 

「・・・ごめんなさい」

 

何とか声を絞り出すイネス。

 

「で、結果はどうだ」

 

「ごめんなさい、もう少し待って欲しいの。色々検討してみないと」

 

「わかった、それじゃ」

 

そう言って出ていくアキト。

後に残ったのはイネスのみ。

 

「もっと設備のあるところじゃないと・・・でも、どうしてこんな・・・」

 

その瞳から涙がこぼれ落ちる。

あまりにも酷い状況。

いつまで生きられるか。

正直今の状態では何時死んでもおかしくない。

それほど酷い状態だった。

そのまましばらく顔を伏せていたイネス。

そして何かを決意したように検査の書類をまとめると部屋を出ていく。

 

「かならず、必ず元に戻してあげる。アキト君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキトがブリッジに入った時ユリカの声が聞こえてきた。

 

「やめてください提督、私にはまだ提督が必要なんです!!」

 

『ここは私に任せて行くんだ。他に手がない以上これが最善なのだよ。若い君たちは生きねばならん』

 

それに答えている提督の声が聞こえる。

アキトはそのままルリの後ろまで行き声をかける。

 

「どうしたんだ、ルリ。この状況は」

 

「あ、アキトさん。それがフクベ提督が護衛艦クロッカスに1人で。そしてチューリップに入って敵から逃げろと」

 

「クロッカス?」

 

「あ、アキトさんは途中からナデシコに乗ったから知らないんですね。地球でチューリップに吸い込まれた宇宙連合軍所属の護衛艦です」

 

「それが火星にね・・・」

 

「はい・・・あ、右舷より敵艦隊接近」

 

『早くしろナデシコ。チューリップに入るんだ』

 

「でもチューリップに入ったら私たちもクロッカスみたいに・・・」

 

そう言った通信士メグミ・レイナード。

その言葉に応えたのはアキト。

 

「いや、何とかなるかも知れないな」

 

「え?」

 

「この艦には強力なディストーションフィールドがある。そこらの艦とは違う」

 

アキトの言葉を聞いてユリカが決断を下す。

 

「進路、チューリップへ。ディストーションフィールドの強度に気を付けて」

 

しばらくしてチューリップの中に吸い込まれていくナデシコ。

それを見届けるとチューリップの前で反転して敵艦に砲撃を開始するクロッカス。

 

「提督ー!」

 

必死に呼びかけるユリカにモニターの中のフクベが笑いかける。

 

『君に教えることなど私には何もない。私はすでに必要ない人間だ。後は若い君たちが生き残ればいい・・ザザ・・君たち・・ザザ・・生きてここか・・ザザ・・さらばだ』

 

ナデシコがチューリップの中に完全に入る。

チューリップが完全に閉じる。

そして通信は切れた。

 

「さて、どうなる事やら」

 

そう言ってブリッジを出ていくアキト。

誰もが彼と同意見だった。

これからどうなるのか。

それは神のみぞ知ることだった。

 

 

 

 

 


つづく


 

 

 

 

 

<あとがき>

どうも、ささばりです。

第8話お届けいたしました。

いかがでしたでしょうか。

この話ではユリカがどうも頼りないです。

そのうち活躍できるのかな?

まあ何はともあれ第9話をお楽しみに。

感想などもくださると嬉しいです。

それでは。

 



艦長兼司令からのあれこれ(笑)

えーと、艦長です。

わーい、イネスさんだぁー(爆)

まずい、艦長が年増好みだと思われてしまう(自爆)

それはさておき。

フクベ提督、なかなか”ありがちな”退場の仕方だと思ったのですが・・・・

TV本編では、性格270度変わっちゃったしね(笑)

ナデシコ”らしい”といえばその通りなんですが。

うちもそろそろここら辺だから、ネタ被らないように気を付けないと(笑)

さあ、ハイペースなささばりさんにメールを!

メールはここよん♪


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