U.傾聴の効用

(1) 人間同士の最も深い交わりを持つことができる。


アメリカの詩人エミリー・ディキンソン(1830-1886) の詩;

If I can stop one heart from breaking,
I shall not live in vain;
If I can ease one life the aching,
Or cool one pain,
Or help one fainting robin
Unto his nest again,
I shall not live in vain.



(私訳)
もし、ひとりの人を絶望から救うことが出来たら
わたしの人生は無駄ではない;
もし、ひとりの人の心のうずきを癒し
その痛みを和らげることが出来たら
風に吹き落とされた一羽のコマドリを
もう一度その巣に返すことができたら
わたしの人生は無駄ではない

 

 私たちが、悩みを打ち明けられ、その心の深みを、その心の秘密を明かしてもらえるとしたら、そこに、人間として、最も深い交わりが生まれる。そのような交わりの中から、癒しが、慰めが生まれたとしたら、これ以上の喜びはない。そんな人がひとりでもいたら、私たちの人生は、無駄ではないという詩です。
 語ることによって、人を変えることは至難の業ですが、傾聴することによって人が変わることはしばしばです。

 

(2) 人の心が浄化される。

自分の心の中にある混沌とした暗闇の部分を傾聴してもらうことによって、心が浄化されるという働きがある。

【例1】お父さんと釣りに行く約束をしたのに、朝になって、その約束を反故にされ怒っている子どもDと母親との会話

子D ; 「もう!めだかを殺してやる!」
母  ; 「めだかを殺しちゃうの?」
子D ; 「うん。めだかを釣ってぶっ殺してやる!」
母  ; 「Dちゃん、怒っているの?」
子D ; 「・・・金魚にしようかな・・・よし!金魚を殺してやる!」
母  ; 「金魚を殺したいくらい怒っているのね。」
子D ; 「よーし。ぼく金魚を殺してやる。お母さん。ほんとに殺しちゃっていい?」
母  ; 「・・・そうね。お母さんは、金魚がかわいそうだと思うけど・・・」
子D ; 「・・・だって、お父さん、ひどいんだよ。昨日釣りに連れて行ってやると約束したのに、今朝になったら、今日はお彼岸だから、生きものを殺すのは良くないって、釣りはやめだって・・・。だからぼくは、金魚を殺してやるんだ。」
母  ; 「そうだったの。Dちゃん、とてもがっかりしたのね。あんなに楽しみにしていたんだものね。」
子D ; 「・・・ぼく、釣りに行かなくったっていいや。いつだって、お父さんはそうなんだから・・・。ゲームでもしよう。」

D君は、お父さんに、釣りに行く約束を反故にされ、怒っていました。怒りのやり場に困って、めだかを殺すだの金魚を殺すと息巻いています。でも、お母さんが、彼の言葉に傾聴し、その言葉の行間にある怒りの感情を聞き取ったとき、D君の怒りは、不思議なように消えていきました。人は、その心に渦巻く感情を聞き取ってもらえたとき、不思議な心の浄化を経験します。

 

(3) ビジネスチャンスが生まれる。

 セールスマンは、話し方が上手でないと、商品を売ることが出来ないと私たちは考えます。しかし、本当は、聞き方が上手でないと、商品を売ることが出来ないのです。話が上手で、商品を買わされたとします。でも、それが、本当によいものであれば、問題はありませんが、いろいろ、問題が生じたとき、もう、あのセールスマンからは、買いたくないと思うでしょう。

 しかし、聞き方の上手なセールスマンは、あいてがどのような必要を持っているかをよく聞き、それにあった商品を紹介するので、満足度は高く、また、あの人に頼みたいと頼られることになります。

 株式会社FのE氏は、会社のトップセールスマンです。しかし、入社した当時は、口べたで、内気ですから、3ヶ月もしたら辞めるだろうと、まわりの人たちは言っていたそうです。彼曰く、「調子の良いときは、会話の中から、次々によい話が舞い込んでくるが、調子の悪いときは、会話の中に表現されたお客様のニーズを聞き逃している。」

 傾聴することが、販売促進にもなるのです。