- March 1999 -


Wired Jeff Beck

Wired Notes

Original Release Date: 1976
Producers: George Martin & Jan Hammer

Track Listing

1. Led Boots 2. Come Dancing 3. Goodbye Pork Pie Hat 4. Head For Backstage Pass 5. Blue Wind 6. Sophie 7. Play With Me 8. Love Is Green

Review 1  - いつでもどうぞ -

(text by ケータ)

出会いってやっぱりあるんだよな。
男女の関係とか。出会いってやっぱりあるんだよネ。
出会いは偶然。必然なら運命。
Jeff Beck の『Wired』と僕は出会った。運命? まさか。

大人っぽくて、どこかポップで、それでいてちょっとヘビー。
楽しげな音が交錯し合う。爽やかな青い風。緑の愛。
そして、一人の女に出会った気にさせる、そんなアルバム。
女を奏でると同時に、その女と自分との空間にある雰囲気までも生み出しているような。
しかも、女との距離はリスナーにまかせるといった感じで、さらに好感触。

シンセサイザーがとても効果的で、ギターとのからみが絶妙。


四六時中、どんな時間帯にも聴ける、名盤。
夜、車でドライブしながら、となりに女を乗せながら聴くなんてきっと最高だろう。
朝日をみながら聴くのもよいだろう。
昼時に空を眺めながら聴くのもイイだろう。
しかし、いずれにも共通しているのは、そこには常に女の存在があるということ。

『Wired』に出会うことで、まさにその出会うということを連想させられた。 女と出会う。男にとってこれほど幸せな瞬間はない。

このアルバムで僕の一番好きなナンバーは「Sophie」。
女の名前みたいじゃない?



Review 2  - ちょっと遠い目 -
(text by Shigeyan)

自分がジェフ・ベックを知ったのは高校生半ば頃,"People Get Ready" が出た直後だったと思う.ちょうどその当時は,軽井沢のスキー場でカルロス・サンタナ,スティーヴ・ルカサーを加えた3大ギタリストが競演する野外コンサート,というまるで Fuji Rock Festival の原形とも言うべきコンサートが告示された頃であった.まだジェフ・ベックの音楽を全く知らないウブな高校生は,スティーヴ・ルカサー見たさにそのコンサートへ行くことを一瞬は考えた.しかし,悲しいことに,財政力という点ではゼロといってもよい高校生にとって軽井沢までの交通費+コンサート代は相当な負担であった.仕方なく涙をのみ行くことを断念,後日行われたラジオでのエア・チェックに全身を傾けた.

さて,コンサートは終わり,ラジオで当日の模様が再現され始め,ゴックンとツバを飲みながら缶ビール片手に耳をラジオに傾けた.エフェクターばっかりかかって軽井沢の風に飛ばされまくりの情けないルカサーのギターの音,官能的なのはいいがちょっと暑苦しいサンタナの音とは対象的に,それまで聴き慣れていた「ギター」という楽器の観念をぶち壊すような全く異質の,まるで笑いながら泣いているかのように表現豊かな野獣のようなギターに耳をとられてしまった.そう,言うまでもなくジェフ・ベックのストラトキャスターの音であった.

それからは簡単である.そのコンサートでやっていた印象的なイントロを持つ曲が "Blue Wind"と知り,その曲の元ヴァージョンが収録されているレコード "Wired" まで到達するまでにそう時間はかからなかった.

さて,"Wired" に針を落としてみた.すると... 今はすっかりオシャレ系プロデューサーとして君臨しているが当時はまだ初々しかったであろう Narada Michael Walden がいきなりドコドコ・バコバコと壮絶なドラムを叩き,Jan Hammer や Max Middleton という鍵盤のバケモノ二人衆が登場し,Wilbur Bascomb というきっと指がこん棒くらいに太いであろうベーシストがバキバキと演奏するなか,ジェフ・ベックがぶちぎれたギターを弾きまくっているではないか.

このアルバムのハイライトは色々とある.しかし,オープニング曲の "Led Boots" のぶっ飛びさ加減に異論を唱える人はあまりいないだろう.そのくらいスゴい曲である.ギターが叫びまくり吠えまくり,あまりのカッコ良さに聴く者はもう笑うしかない.もしジェフ・ベックを経験したことがない者がいたら,まずはこの1曲であろう.で,もしこれで打ちのめされたのならば,このアルバムの "Come Dancing" で腰を揺らし,"Goodbye Pork Pie Hat" で涙を流し,"Blue Wind" で蒼い風に飛ばされ,"Love Is Green" で遠い目をしてほしい.

最後に昔話.お嬢様ばかりいる某女子大のフレンチ・ポップスのコンサートのバックバンドの演奏なんていうものをやっていたときの出来事である.フレンチ・ポップスという音楽内容,キレイに着飾ったお嬢様たちの晴れ舞台を見るべくお父様,お母様がお集まりになり上品な音楽が繰り広げられていた.しかし,コンサートの中盤,バンドの紹介タイムで1曲だけインストを演らせてもらえることになり,"Led Boots" を演奏した.気がついたら会場のボリュームは5倍(推定)にレベルアップ.... かくしてお嬢様たちは今まで体験したことがないような大爆音に涙し,まるでイライザのような怖い視線でバックバンドの面々を睨んだのであった.ジェフ・ベックが間接的ながらお嬢様たちを泣かせた貴重な瞬間であった.



Review 3  - 晴れ時々雷雨 -
(text by Kats)

福島県のローカルテレビ局、「福島テレビ」で夕方6時50分過ぎにいつも放送されるお天気コーナー。 そこでは、自分が小学校の頃まで、ジェフ・ベックの「ワイアード」がBGMとして使われていた。 「今日の最高、最低気温」のコーナーと、「明日の天気」のコーナーとではまた違う曲だったし、日替わり、週変わりで、選曲も異なっていたと記憶している。 まあいづれにせよジェフ・ベックの「ワイアード」から選ばれていたことには間違いない。

だから、この「ワイアード」をレンタルレコードで初めて聴いたときには驚いた。 なにせ収録曲のほとんどをすでに知っていたのだから。 1曲目の「Led Boots」を聴いた瞬間に思い出したのは、「アメダスの画像」、そして「Blue Wind」を聴いたときに頭に浮かんだのが、福島県の地図と「晴れ時々曇り」のマークであった。

不自然な笑顔を振りまきながら、局の新人女子アナウンサーが日替わりの当番制で伝える翌日の空模様。 雨、雪、雷、台風、洪水、高波、雪崩、などと春夏秋冬、日々刻々と変わる天気。 でもそんなこととはお構いなしに、1年365日、何も変わることなくテレビのスピーカーから流れ続けるジェフ・ベックのギター音。 よく考えてみれば恐ろしいまでにシュールな光景。 そしてその女子アナ達の顔やその時の天気予報が一体どんなだったかは全然思い出せないであろう。 結果としてあのお天気コーナーから残ったものは、BGMとしてお茶の間に流れたジェフ・ベックの「ワイアード」だけなのだ。 今、その女子アナが街を歩っていても誰も気が付かないかもしれないが、「ワイアード」を聴けば、おじいさんもおばあさんも福島テレビの「天気予報」を思い出すに違いない。 

ジェフ・ベックは女子アナに勝った。 そして田んぼで稲刈りをしている腰の曲がったおばあさんでもジェフ・ベックを知っている。 「ワイアード」は、福島県人すべてにとってのマスターピース=名盤なのだ。 この時ジェフ・ベックは、まったくの匿名でありながら、ギターによってすべての垣根を飛び越え、世界で初めて、福島県人のアイドルとなり得たのである。 だからジェフ・ベックは、えらい。  



Review 4  - スピード、スリル、アタック!! -
(text by Yutaka)

ジェフ・ベックのギター・プレイを表現した当時(といっても私が高校生の頃)のフレーズである。あの頃はグレコからジェフ・ベック・モデルというホワイト・ボディにブラックのピックガード、ピックアップ・セレクターが3つに分かれているという実にCoolなストラトキャスター・モデルが楽器屋を彩っていたっけ。

さてジェフ・ベックといえば古の「3大ギタリスト」の1人である。あの頃のロック・ミュージックの華はギタリストで、とにかくギターが主流だった。しかしいくらギターが主流だからといってもギター・インストものがバカ売れするのはさすがに難しく、以前よりは取り上げられるようになったという程度であったと思う。そんなギター・ミュージックの気運の高まる中、ベック初のギター・インストゥルメンタル・アルバム「Blow By Blow」は100万枚以上のセールスを記録し、次作「Wired」も見事全米チャート・インする のだから驚異的である。(その後ギター・インストものでチャート・インさせたのはジョー・サトリアーニだけだそうだ)

さてさてその「Wired」である。個人的にはベックのアルバムで一番のフェイバリットだし、聴いた回数も当然多かった。このアルバムを聴けばなぜベックが「スピード、スリル、アタック!!」と呼ばれていたかがわかるだろう。簡単に曲目ごとの解説&感想を。

1. Led Boots

もう裏なんだか表なんだかわからん状態のナーラダ・マイケル・ウォルデンのドラム(今はプロデューサー業で有名?)でスタートする、このアルバムの「顔」的ナンバー。この曲を聴くためだけでも購入の価値はあると思うよ。もう砕け散ってしまいそうなサウンドをギリギリの手前で音楽にまとめている奇跡の演奏だと思う。ヤン・ハマーのまるでギターのようなシンセも聴きもの。余談だがジェフのtribute盤で現デフ・レパードのギタリスト、ビビアン・キャンベルがこの曲を好演している。

2. Come Dancing

いかにもストラト的な音のシンプルなカッティング&ギター・シンセ的音色のリードが印象的なナンバー。ボリューム奏法(その名の通りボリュームをコントロールしてフワフワした浮遊感を出す奏法)も実に効果的。

3. Goodbye Pork Pie Hat

スローナンバー。ここでもボリューム奏法、絶妙なチョーキングがため息もの。この手のナンバーでもジェフは素晴らしい表現力を見せつけてくれる。

4. Head For Backstage Pass

ギターによるコール&レスポンス的プレイを聴かせてくれるファンキー・ナンバー。これはレス・ポールとストラトによる演奏なのかな?前半のドラム&ベースによるソロも実にファンキー!

5. Blue Wind

このアルバムの第二の顔とも呼べるナンバー、邦題は「蒼き風」。緊張感のあるイントロから始まり、ここではシンセ&ギターによるコール&レスポンスを聴かせてくれる。これもちょこちょこコピーしたっけなぁ。ジャズでもロックでもなく独自のジャンルを披露されたように感じて感動したっけ。

6. Sophie

スローかな?と思わせて一転リズミカルな展開をみせるナンバー。ここでもヤン・ハマーとのツイン・リードが印象的。しかしヤンって重度のギター・コンプレックスなのかいな?とにかくギターっぽい演奏を聴かせてくれる。ベックもお得意の「3連リックス」を弾きまくっている。

7. Play With Me

ここではジェフのフレーズをコピーしてみました!というヤン・ハマーの演奏が印象的。また、ここではまるで散歩でも楽しんでいるかのような軽やかなベックのギターもいい。

8. Love Is Green

最後のナンバーはアコースティック・ギターでスタート。ベックのアコギも実にいい雰囲気をかもし抱いていて、途中から入る中世ヨーロッパ的なイメージを抱かせるエレクトリック・ギターも効果バツグン。アルバムを締めくくるにはもってこいのナンバーだ。

ざっとではあるが、「Wired」はこんな弾けたアルバムである。あなたもジェフ・ベックの「スピード、スリル、アタック!!」な世界をどうか堪能してみて欲しい。



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Short Biography of Jeff Beck

1944年、イギリス生まれのジェフ・ベックは、64年にエリック・クラプトンの後任リードギタリストとしてヤードバーズに参加。 バンド躍進に貢献するが、66年に脱退し(・・・後任はレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ。このクラプトン、ベック、ペイジ、ヤードバーズ歴代ギタリスト3人を、「世界3大ギタリスト」などとも呼ぶ(笑)。)、翌年にロッド・スチュワート、ロン・ウッド、ニッキー・ホプキンスらと共に、「ジェフ・ベック・グループ」を結成して2枚のアルバムを発表。 71年にはコージー・パウエルらを引き連れて第2期ジェフ・ベック・グループとして活動するが、これも2枚のアルバムを残しただけで解散。 73年には世界最強のトリオとも言われた、ベック、ボガード&アピスを組み精力的に活動するも、これも1枚のアルバムを残しただけで消滅。 75年からソロ活動にはいると、スタイリー・クラーク、ヤン・ハマーらとタッグを組み、ギターインストゥルメンタルの傑作「ブロウ・バイ・ブロウ」「ワイアード」「ライヴ・ワイアー」などを次々と世に送り出すことに成功。 85年にはナイル・ロジャース、プロデュースの元にコンテンポラリーなアルバム「フラッシュ」を発表しており、最新作はこれまたコンテンポラリーな味付けが随所にみられる「フー・エルス!」。


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Last updated: 3/20/99