- August 2000 (2) -


勝訴ストリップ 椎名林檎

勝訴ストリップ Notes

Original Release Date: March 2000

Track Listing

1. 虚言症 2. 浴室 3. 弁解ドビュッシー 4. ギブス 5. 闇に降る雨 6. アイデンティティ 7. 罪と罰 8. ストイシズム 9. 月に負け犬 10. サカナ 11. 病床パブリック 12. 本能 13. 依存症

Review  - 焦燥ストリップ -


変化したのは何も周りの景色だけではない。  周りの人間も変わった。 まず、自分の中学時代の音楽的師匠でもあり、さらに小さい頃にたくさん遊んでもらったその帰り際には必ず泣きながらお別れした仙台の従兄弟が離婚した。これで自分の従兄弟の半分近くがバツイチとなったわけだが、いや、その離婚したという事実よりもむしろ、離婚していたという事実を俺は2年以上も知らなかったという事実に絶句した。 そして友達の何人かは結婚し、子供が産まれ、幸せな家庭を築いているものもいれば、離婚してひとりで子供を育てているものもいるし、自分の実家に二世代住宅を建設中のものもいれば、犯罪者となり牢屋で冷や飯を食っているものもいる。

近しい人がくっつき離れ新しい命を誕生させている現状を嫌が上でも認識させられ、次はお前の番だ、と半ば脅迫された後、無印良品的にのっぺりと無機質になっていく街を1年ぶりとなるハンドルさばきに自分で慄きながらダラダラと走っていると、さすがの自分もやや感傷的になってくる。 生まれてから20年以上過ごしてきたこの地、でなおかつ自転車や自家用車がなきゃ何もできないこの田舎町で、数少ないけど濃い思い出が残っている「モノ」が短い間にどんどん無くなっていく。誰にでもひとつやふたつはある話だが、れいくさん風に言えば、そこでお姉ちゃんを助手席に乗せてどっかに、ってこともあったし、また別のお姉ちゃんとそこで遊んだこともあったわけだし、そんなお姉ちゃんと結婚とかいうのも考えたことが全くなかったわけでもないわけだし、というかそんな淡い思い出よりも、すぐに頭の中から消し去りたいネガティブな思い出などが、それらの「モノ」にはたくさんあった。  

そんなことをぼんやり考えながら走る車中には、妹のMDコレクションの中に揃っていた椎名林檎の歌が、なぜかよく似合っていた。 というかかなりものすごく似合っていた。 ものすごくハメられた。 林檎の歌を初めて集中して聴くことができた。 勇気付けられるわけでも、悲しい気持ちになるわけでも、ノリノリでダンスしたい気持ちになるわけでもないのに、自分は椎名林檎の2枚のアルバムばかりを車中でリピートしていた。 帰りがけに「勝訴ストリップ」のコードブックまでも買ってしまった。 まさか俺が椎名林檎をアコギで弾き語るとは思っていなかったし、俺の声ではかなりキツい歌い方でもあるのに、っちゅうか俺の歌は下手なのに。 というかそもそも俺は男なのに。

川崎という街が都会に当たるのかそうでないかは別として、単純に都心までの距離・時間とということを考えてみると一応の「都会暮らし」っぽいことを経験している現在の自分が、その都会生活ではなく、逆に実家周辺を取り巻く人と物の環境変化の速さに驚くという皮肉な状況に遭遇した。 この経験と椎名林檎にハマった事実とをうまく結びつけてこの文章を書けたら最高なのに、実は両者にうまい接点を見出せないから、うまい物書きみたいな気の利いたオチを付けられない。 でも川崎に帰ってきて、改めて椎名林檎を聞いてみても、ちっともピンと来ないのはどういうわけなんだろう。 自分はほんとに椎名林檎が好きなんだろうか?



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Short Biography of Shena Ringo

1978年生まれ。福岡でのバンド活動や、イギリスでの生活を経て、98年5月にシングル「幸福論」でデビュー。マキシシングル「歌舞伎町の女王」「ここでキスして。」を発表する頃には、そのオルタナティブテイスト溢れるギターサウンドと日本人離れしたメロディセンスとを武器に、邦楽ファンのみならず洋楽ファンからも注目を集めるようになっていた。99年2月に初フルアルバムとなる「無罪モラトリアム」を発表。この頃からボチボチとライヴステージにその姿を見せるようになる。2000年1月にはマキシシングル「ギブス」「罪と罰」を同時リリースし、邦楽ヒットチャートを席捲する。常に驚きを提供するビジュアルイメージもさることながら、洋邦ロックファン、J-POPファン、カラオケファン、全てを巻き込んで突き進んでいくカリスマティックな女性アーティストは、これまで例を見ない。


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Last updated: 8/15/00