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![]() RATMを表現するにあたって「オルタナ」「ミクスチャー・ロック」「ヘヴィー・ロック」などの意味不明かつ不明瞭なジャンル分け用語が用いられるのは今に始まったことではない。当然ながら、今回の脱退劇について書かれた各メディアの文章においても、このような単語が乱用されまくっている。試しにロッキング・オン誌やクロスビート誌を開いてみると一目瞭然だ。しかし、ジャンル分け自体、全くもって無意味なことだ。そうすると、そんな下らない言葉をキーワードにして本件の議論をすることに一体何の意味があるのか。 確かにザックの件は悔しく悲しくたまらない。しかし、今さら彼らのことを嘆いてもどうしようもない。ザックから真相が語られるまでは、それを推測しても大したことなんか言える訳ないのに。 ザック脱退前のRATMの置き土産となった本アルバム、聴き所は沢山ある。カヴァー曲を彼らなりに解釈された収録曲を大きく分けると (1) 原曲に忠実なアレンジで演奏された曲、 (2) 原曲を元ネタとしてRATMなりに進化させた曲、の2種に大別されるが、それぞれに強烈な味が出ているのが恐ろしい程だ。 まずは前者。"Down On The Street"や来日公演でも披露された"Kick Out The Jams"などがこれらに入る。後者では冒頭の「Right now, it's time to kick out the jams, motherfucker!」という語りまで原曲を再現していて、ある意味笑える。コピーバンドじゃないっちゅうの。それなのに、何故彼らが演るだけでオリジナルに曲に聞こえてしまうのだろうか。楽器人3人のグルーヴ…より強固な、バンドとしてのグルーヴ…が更に高まっているためなのか。シンプルなフレーズが多いことも関係しているだろうが、各自のプレイ云々というよりその一体感で打ちのめされるのだ。 で、後者。これが強烈なのだ。鳥肌が立つ…なんていう古典的な表現では言葉が足りない。とにかく体中に衝撃波が走ることは間違いない。 例えば"Street Fighting Man"…原曲は言うまでもなくThe Rolling Stonesだ。自分の記憶が正しければ、元々この曲は1960年代の学生運動をモチーフに作られたはずだ。そのためか、自分がこれまで原曲を聴くときのイメージは「街中でナイフをチラつかせながらケンカする青年達」だった。しかし。本アルバムのRATM版は全く異質のものだ。イメージするのは警察と戦いを挑む非白人。トム・モレロ(Tom Morello)のぶっ飛びギターはサイレンや機関銃の音だ。ベースは車のエンジン音、ドラムは空を飛ぶヘリコプター。ザックが叫ぶ歌詞の舞台もロンドンからロサンゼルスに移され、更に現実感が増している。 本アルバムの主役は何といってもザックだ。"Pistol Grip Pump"、"Renegades of Funk"、"How I Could Just Kill A Man"などでラップの切れ味はこの上なく鋭敏だ。本アルバムを聴いて気がつく自分も遅いが、そのリズムといったら、他の追従を全く許さないもので、ラップする言葉一つ一つの重み、迫力、そしてシャープさはただただ脱帽だ。デヴューアルバムから時系列で聴いていくと、ザックが日々進化を遂げていることが実感出来る。 日本盤ではボーナストラックとして"How I Could Just Kill A Man"のライブ版が収録されており、元ネタである Cypress Hill のメンバー達が参加している。通常ならば「おっ何て豪華な」と言いたいところだが、正直なところこれがあまりカッコ良くない。というか、ザックのラップはCypress Hill を余裕で超越しているのだ。言葉を発しそれを切るタイミングが絶妙で、鋭いナイフのような切れ味が痛いくらいに感じられるのだ。運のいいことに彼らの公式サイトから本アルバムの歌なしヴァージョンがダウンロード出来る(Guerilla Downloads, http://www.ratm.com/new2/guerilla/index.html )が、是非ともこれを元にカラオケして頂きたい。絶対誰も近づくことすら出来ないだろうが…。ザックの偉大さをひしひしと実感することになろう。 ビデオ・DVD"Battle Of Mexico City"をもってこの4人のRATMはいよいよ終焉を遂げるだろう。しかし、果たして各音楽雑誌はどういう論調を繰り広げるのだろうか。まあ、どうでもいいが。いや、本当はどうでもよくないが。せめて我々が出来ることは、残されたモノを堪能してザックとRATMの今後を期待していくことなのだろう。 (reviewed by しげやん)
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Last updated: 1/22/01 |