- February 2001 -


Bomb You Live The Zoobombs


Bomb You Live 2000年4月26日にカナダのトロントにあるライブハウス「エル・モカンボ」で収録されたズボンズのライヴアルバムがちょっと前に発表された。「ああ、ズボンズの北米ツアーのライヴ盤ね。」という一言で終わった人は、はっきり言って頭と体が鈍くて固い。よってちょっとその凝りを解してもらうために、このサイトのライヴレポートやディスクレビューなんかではもうウザイぐらいに登場する機会に恵まれている「ローリング・ストーンズ」という名前を(・・・その割に本当のストーンズレポートは2本しか書いてないが。)、ここでもまた使わせてもらう。

「Love You Live」という大名盤ライヴアルバムの発表は24年前の1977年のこと。「Jumpin' Jack Flash」「Honky Tonk Women」といった誰もが知る大ヒットナンバーのパンクバージョンが聞けるこの2枚組ライヴアルバムの目玉は、いまだに「名演」として語り継がれているレコード2枚目のA面=「エル・モカンボ」・サイドでのブルースチューンだ。すでに全世界のアリーナ級の会場をことごとくソールドアウトにし、派手なパフォーマンスと私生活が常に話題となっていた当時のローリング・ストーンズが、たった250人の観客の前で「真面目に」演奏したマディー・ウォータース、ボ・ディドリーらのブルースカバーは、録音技術それ自体のクオリティの高さも相まって、会場の大きさに比例して大味な演奏になりがちなローリング・ストーンズというバンドの本質を見事なまでに捕らえていた。腕を振り上げないキースが、チョコマカ動かないロニーが、ジョギングしないミックが、それぞれ演奏に集中し、メンバーが紡ぎだす音の上にさらなる自分の音を重ねていく、そのニュアンスが細かいところまで伝わってくるのだ。以降ローリング・ストーンズの繊細な演奏を聞くためには、やはり小さいライヴハウスでのアコースティックギグを含んだライヴアルバム「Stripped」(95年)の発表まで待たなければならなかったのだが。

・・・・・と危ない。このままでは単なるストーンズ談義に終わってしまう。 ズボンズを聞いたことのある人達の間ではよく知られているように、ズボンズのVo&Gのドン・マツオは、自称「日本一ストーンズを分かっている男」なのだ。壊れかけのストーンズによる悪名高い「Dirty Work」を最高傑作として挙げ、自身のアルバムタイトルには「Let It Bomb」と付け、なおかつ「Till The Next Good-Bye」「That's How Strong My Love Is」という激渋ストーンズカバーを収録し、ライヴではストーンズ最速ナンバー「Rip This Joint」を演ってしまうドン・マツオ。ここら辺りは、バンド名を「Rolling Stone」というブルースの曲名から取り、50曲も100曲も準備した自分達のマテリアルそっちのけでブルースカバーに興じ、持ち歌が腐るほどあるのにライヴでブルースを演奏してしまうといった、まるでブルース馬鹿な当のストーンズ達と全然変わらない。

しかし! ズボンズを知らないあなたは、「ストーンズ」と聞いて、某ブラック・クロウズをヘロイン漬けにしたような、ルーズでアーシーでなんちゃらかんちゃらなロックバンドもどきを想像してないかい? そりゃ単なるストーンズ「ファン」が大きな勘違いのもと、大真面目に作ってしまったツインギターバンドのことじゃないかい? (・・・誤解のないように言っておくと、ブラック・クロウズは、音楽のみならず、見た目や、バンドの将来的ビジョンまでもがルーズでアーシーなバンドとはその本質が全く違う。) 自分が、そしてドン・マツオが、日本一ストーンズを「分かっている」男と言ったその本質は、一見するとこの長老バンドと最も縁遠いように見えるダンスミュージックとしてのストーンズ&笑いの対象としてのストーンズを、ともにを見切って形にしているところにあるのだ。「最近はロック、ロックって言葉ばっかりで、肝心のロールはどうしたんだぁ? はぁ?」と、50代半ばで豹柄のコートを着てステージに上がるキース・リチャーズがタバコを燻らせながらこう言うこと自体がすでに笑いであるように、あくまでも聞く人を音楽で転がし、笑いで笑い転がすためのロックンロールを無意識のうちに追い求めているのがローリング・ストーンズであり、「Love You Live」のブルースサイドであり、それを明らかな意識下のうちに追い求めているのがズボンズであり、そしてこの「Bomb You Live」であるのだ。

ブルース馬鹿=ストーンズがプレイしたエル・モカンボの同じ舞台に、ストーンズ馬鹿=ズボンズが立ったわけだが、もちろんこれはドン・マツオたっての願いだったに違いない。内ジャケに写っている宣伝ポスターを見ると「A Special Live Recording Engagement」とあることから、彼らは最初からライヴアルバムを出すつもりでこのギグに臨んだに違いない。もちろんこのふざけたアルバムタイトルも最初から彼らの頭にあったんだろうな・・・・。

しかしこのアルバムタイトルが妙を得ていて、「Love You Live」のブルースサイドが、バンド間、そして250人のオーディエンス間の親密な重なり合い(=Love)によって名盤たらしめたのとは対称的に、「Bomb You Live」は、頭っからバンド間、そして250人のオーディエンス間に炸裂する爆弾(=Bomb)によって、アルバム自体を好盤たらしめている。

まあズボンズはいっつもそんな感じなんだと思うけど、さすがにその爆弾を落とす場所が場所なのか、気負いすぎたドン・マツオの声は、1曲目の「Don't Diddley」の出だしでいきなり裏返っている。バンドの演奏も若干硬いかなあ、なんていう印象も素人ながら思ってしまうほど、弾はたくさん撃つんだけど中々当たらない状態が2〜3曲ほど続く。カナダののんびりピースフルなオーディエンスが呆気に取られている様子も目に浮かぶようだが、ちょっと力を抜いた横揺れナンバー「Jumbo」辺りでふと我に返ったかのようにグルーヴィーな演奏を聴かせ始めるズボンズ。

圧巻は「Mo'Funky」で、この曲の、というかこのライヴ盤のハイライトは、「わん・もあ・たーいむ!」と言いながら少なくとも10回は叫ばれた「あー・ゆー・れでぃー?!!!!!!」「いぇーーー!!」の掛け合い部分にある。これは、戸惑い気味だったオーディエンスを確実にズボンズの手中に収めた瞬間であり、挙がる歓声がまるでストーンズの「Love You Live」収録のものとそっくりなので笑っておかなければならないところでもある。


一時期、「ストーンズっぽいノリが・・・」と雑誌のレビューに書かれてあることがアルバム購入の目安になっていたことがあったのだが、その中で自分が本当に好きになったバンドは、ジョンスペとオアシスとズボンズだけだった。これらのバンドに共通する2つのことをまたて繰り返すして書く必要もないだろうが、それを敢えて意識的にやっているこのバンドの「Bomb」が、「Love」の裏返しであることをここで繰り返す必要もないだろう。





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Last updated: 2/12/01