![]()
|
![]() 自己紹介コーナーの中でも触れているように、自分が生まれて初めて買ったLPレコードがこのマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」だった。聖子、明菜、キョンキョンなどのテープトレードが盛んだった田舎の中学1年のクラスに、かなり背伸びして大枚はたいた「ライク・ア・ヴァージン」のLPジャケットを持ち込んだ筆者。ナウなアメリカンブロンドガールの巨乳が乙女心をくすぐったのか、ちょっとだけ女の子の人気者になりかけたのも束の間、マドンナは処女が好きなのかぁ、なんで? と思って英和辞典の「like」を調べてみたら、この英単語には「〜のように」という意味があることを知った13の夏・・・・・。「マドンナかシンディ・ローパーか?」といった議論が、「オアシスかブラーか?」という論争以上に盛り上がっていたことも、今の小僧は知るまい。 しかし後にも先にも「新譜のLPレコード」を買ったのはこれっきりであり、なおかつその後マドンナがお茶の間にも深く浸透するアーティストになると、もうすでにアルバムすら買う必要がなくなり、新譜を誰かしらが持っていてそれを借りてダビングすれば済むようになった。モノを所有することに価値を見出せず、アルバムはその音を聞ければいいというタイプの自分は、「トゥルー・ブルー」も「ライク・ア・プレイヤー」も、そうやって聴いてきた。 しかしこの度マドンナのアルバムを購入するきっかけとなったのは、ひとえに都会暮らし(・・・ってことにしておいてくれ。)による安い輸入盤CDがいとも簡単に手に入るようになったことによる。なにせ15年前に買ったマドンナが2,800円で、こないだ買ったマドンナが1,690円である。当時出始めたばかりのCDが3,500円だったことも併せて考えてみると、この15年になんでこんなにアルバムは安くなったのか、逆に言えば昔はなんであんなにレコードは高かったのか、今となってみれば不思議でしょうがない。しかしアルバムが安くなったからといって洋楽を聞く人が増えたかといえばそうでもなくて、高かろうが安かろうが聞きたいものはどうにかして聞く、それこそダブルカセットデッキを駆使したダビングのダビングのダビングのダビングにより、終いにはステレオ音が度重なる音の劣化によってモノラル化してまでも聞きたいものは聞くのである。なにせダビングのダビングで人の間に流通しまくったマドンナのライク・ア・ヴァージンは、終いには「俺、マドンナのダビングテープ持ってるよ。おまえコピーしてほしい?」「それ、俺のレコードから誰かがダビングしたやつをダビングしたやつじゃない?」という会話がなされるほどダビングの輪拡大の対象となったのだ。親にバレないよう、夜中にこっそり起き出して11PMやトゥナイトといった濡れ番組をヘッドフォンしながら茶の間で見ていたそんな苦労も、さらにそのヘッドフォンが片耳だけに装着され、空いた方の耳は親が不意に起き出してくるのを事前に察知するために使われていたという、我々世代の男子なら経験する本能的な欲求を満たすための当然の苦労をも知らないだけでなく、アルバム1枚が1,690円で買えてしまう上に、お手持ちのミニディスクがCD並みの高音質を実現してくれる世の中に育った今のキッズには、このカセットテープの複数ダビングによるモノラル化現象を原体験として捕らえる由もなかろう。(いや、あえてやる必要もないけど。) そんな風に長い月日を経てお手軽になったマドンナは、15年前の自分にもたらしたほどの衝撃と異物感と高悦感をもたらすことはないが、現代の音楽=ミュージックに最大の目配せを払ったこのパッケージ商品は、同じ1,690円の価格で同じ「New Disc」棚に並ぶ作品の中で最もツボに入る内容を提供してくれている。最近のマドンナを振り返ってみると、出産を経て発表された「レイ・オブ・ライト('98)」辺りからそんな時代への目配せがより巧みになってきており、テクノロック系からリズム&ブルーズ系まで、万人に耳障りにならない程度に時代の音を取り込みながら、最終的に「マドンナ!」としか言いようがないポップスを作れるようになっている。リンプ・ビズキットのフレッド・ダースト同様、レーベルの重役(マドンナはデフトーンズ、ミューズ、プロディジー等が所属するマーヴェリックレーベルの社長)も兼任していることから、時代への目配せがより巧みになっているのかもしれない。しかしだから過去の作品が古臭く聴こえるかというとそうではなくて、どのアルバムを聴いても未だにかっこいいなあと思えてしまうのだから、マドンナって単純にすごい業を持った人である。 今、13の時に買ったアルバムを聴いてみても、「なつかしい〜」と声を震わせて涙しちゃうことは決してなく、「早くライヴで聴かせろ!」という現役感を強くマドンナに求めてしまう自分がいる。リンプの「マイ・ジェネレーション」でロックに初めて目覚めたキッズが、15年後に自分と同じことを言っているかどうか、それはこれからのリンプ自身とこれからのその子次第だ。嘲笑の対象となることの多い、一般的にロック不毛の80年代という時代に登場した人達のひとり=マドンナは、他よりも抜きん出たタフさと生命力を持つアーティストであるが故にが、この90年代から現代までを様々に変化しながら生き延びることができた。80年代に登場し今だもってナンバーワンヒットを提供しつづけるミュージシャンは、マドンナとU2を以って他には例がない。マジでここまで奇跡的にとんでもないマドンナは、今最も生で観たいアーティストのひとりであり、一番最初に買ったアルバムがG.I.オレンジとかリマールとかハワード・ジョーンズとかじゃなくて良かったよ、と強く思う、今日この頃なのである。 | Back to Menu | ![]()
Last updated: 10/22/00 |