- November 1998 (2) -


Gear Blues thee michelle gun elephant

Gear Blues 絶対に今、絶対に今、この日この瞬間に聴かなければならないアルバムがこの「ギヤ・ブルーズ」である。ちょっと様子を見てから・・・なんてことを考えながら半年後に聴いても全然意味がない作品だ。まさにこのディスクレビューの裏タイトルそのままに、「今すぐ手に入れろ!」

といいつつも私はミッシェル・ガン・エレファントを知ったのはごく最近のことである。もちろん彼らがメジャーデビューした96年から昨年(97年)までは日本の音楽に触れるのが物理的に不可能だったということもあるけれども、彼らを知ったのはフジロックの1ヶ月前ぐらいのこと。もちろん単なるフジロックのための予習のつもりでレンタルCDを3枚借りただけ。しかしそれ以来のたった4ヶ月少々の間だけれど、間違いなく最もヘビーローテーションしたディスクはミッシェル・ガンの3枚だったし、幸運にもこの間に2回彼らのショーを観ることができた。

そのギグの1つ、9月のイベントMTV Tokyo Cool Campに出演したとき、すでにこの新作「ギヤ・ブルース」から「G.W.D」「Give The Gallon」「Free Devil Jam」「Satanic Boom Boom Head」の4曲が演奏されている(ちなみに後日MTVではこの 4曲のみが放送からカットされた)。そしてそのCool Campの2日後から実質的なレコーディングがスタートし、それから2ヶ月半後の11月25日、ニューアルバムの発売開始を迎えたのであった。

自分自身の短くない音楽人生の中でも、邦楽の新盤を発売日に購入したというのはほとんど記憶にない。好きな日本人アーティストは何人かいるけれど、いずれもレンタル、あるいは遅れて新譜を購入、もしくは中古CDを安く買ってその音を聴いてきただけだ。よってミッシェル・ガンのこのアルバムを発売日に購入するということは、それ自身かなりの意味を持つことだと思っている。

がしかし、この新しいミッシェルの音を長いこと待望していたとか、これから彼らの追っかけをやるとか、そういった意味でこのアルバムを手にしたのではない。むしろその意味は、「この日、この時に、ミッシェル・ガンのアルバムを聴かないでどうする!」といった脅迫めいた感情から発された行動である。なにせ今年98年のミッシェル・ガン・エレファントは、この90年代に於いて間違いなく最高、最悪、最大級の衝撃を日本のロック界にもたらした。こういう言い方はあんまり好きではないのだが、ミッシェル・ガンの進撃はまぎれもなく音楽界の「事件」であった。例えば今年の3月、筆者が在住し、なおかつほとんど日本の有名アーティストはライヴしに来ない福島で、なんと100人も入れば酸欠になってしまうライヴハウスで彼らはギグを行った。これは間違いなく福島県の長い歴史の中でも最大の事件であったろう。そしてそのわずか4ヶ月後のあのフジロックで、ベックやプロディジーを遙かに凌ぐ圧倒的な熱狂を真夏のベイサイドにもたらした。あの4回も中断させられたあの狂騒は、まぎれもなく98年最大の事件として後世に渡り伝説として語り継がれることになるだろう。そしてちょうど同じ頃に発売になったシングル「G.W.D」と「Out Blues」は、シンプルなロックンロールナンバーとしては異例とも言えるスピードでナショナルチャートを駆け上がった。そして年明けの横浜アリーナオールスタンディングギグのチケットを発売後数分で売り切った。もちろんミッシェルぐらい、もしくはそれ以上の人気とセールスを持っている日本のバンド、アーティストはたくさんいる。がしかしそれでもこんな破竹の勢いで、単なるフォーピースの3コードロックンロールバンドが、勢い込んでメジャーシーンになぐり込みをかけたケースがあっただろうか? それもここまでほとんど映像メディアでの露出もなしで・・・・。

そんな90年代の音楽的「事件」に乗り遅れてはいけない、それがこのアルバムを買った、そしてみんなにも「今」聴いてほしい理由である。もうニルヴァーナ登場の「事件」やセックス・ピストルズの「事件」ははるか昔に終わった。今新たに彼らのアルバムを手にした人達はその「事件」をリアルタイムで体験できなかったことを悔やむばかりだし、反対にその渦中にいた人間達は堂々と胸を張ってその「事件」とともに生きたことを誇りにすることができる。ミッシェル・ガンだって、ピストルズのようにあっけなく解散してしまうかもしれないし、もしくはカート・コバーンのようにメンバーが死んでしまうかもしれない。いやまたそれとは全く逆に、今後ともロック界の頂点に君臨し続けるなんてこともあるかもしれない。が仮にそうなったとしても、現在の勢いを「事件」としてリアルタイムで経験できるのは「今」だけだ。もしミッシェル・ガンが今より一段上、すなわち海外での成功を今後おさめるようなことがあるとしても、今のミッシェルを肌で感じておいて損はあるまい。そしてそんな期待と喜びとをともに分かつためにも、何度も言うが、今、今、今、このアルバムを聴かなければならないのである。

そしてやや蛇足かもしれないが、一応このニューアルバム「ギヤ・ブルーズ」の印象にも軽く触れておきたい。まず1曲目の「West Cabalet Drive」がすさまじい。この自信にあふれたイントロのベースラインとギターのダブルチョーキング攻撃だけでも呆気にとられるのに、なんと言ってもボーカル、チバの、恐ろしいまでに潰れた、身体の底から湧き出るようなシャウトでもうお話にならない。たぶん今までの4枚のフルアルバムの中でも最高にイカれたオープニングナンバーであろう。2曲目の「Smokin' Billie」も、なんであんたらそこまでやるかなあ、といった感想を持たざるを得ないテンションの高さだ。「Dog Way」や「Boiled Oil」でのギター、チバの7thコードでのカッティングは相変わらずシャープだし、「Killer Beach」や「Danny Go」はミッシェル流パワーポップといった感じでちょっとホッとさせるし、「Ash」の日本的メロディーは懐かしさと新しさとを不思議に同居させていたりして、本当に聴きどころと踊りどころとがなりどころの多い作品に仕上がっている。何はともあれあの「G.W.D」が、目立ちもせず、かつ違和感も感じさせず、完全に単なるアルバム内の1曲として機能しているところがこの作品のレベルの高さを物語っている。

とにかくこういうアーティストが「流行」になるのは大歓迎だ。紅白歌合戦向けの腐った音楽をグサグサ踏みつけて行くその姿を捕らえるにはまずこの一枚「ギヤ・ブルーズ」。なんか今、それってとてつもなく楽しい。


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Last updated: 11/26/98